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[息を吐きカップを置こうとしたその時、何気なく窓越しに外の景色を見て。
一瞬瞳に映った光景に我が目を疑った。
見間違いではないか、と、思わず周囲の表情を伺う]
(今の……ビルから人が……?)
[がた、と音を立て立ち上がった娘を、他の者はどのような視線で見たか。
しかし娘は彼女らのことなど、ほとんど視界に収めぬまま]
あ、ありがとなユーディットさ!
じゃあ、また後でな!
[慌てたように食堂を出、ビルの階段を駆け下りて行く。
肩にはしっかりと鉄槌を担いで。
向かうは、今し方人が飛び降りたと思われる方向]
[モニタールームに向かえば一瞬でその場の様子を見られる事は、残念ながら娘の思考回路にはなかった]
――中央エリア・屋外へ――
チッ…
[戦闘に入って初めてこぼした声は、舌打ち]
(半端な攻撃は意味が無いか)
(なら!)
[ワイヤーに込めた力を急に抜き、再び一気に肉薄する]
[構え直す暇は与えない、しかしこちらも先ほど回収したナイフを抜く暇がない]
[狙うは超至近の肉弾戦]
(剣は左手でいなす、右手で、素肌の部分を掴めば…!)
[『世話になった』と言っても、それは文字通りの結果論。
自分を捕え、好き勝手に実験と改造を施していた組織の研究施設を崩壊させ、自由を得るに至った切欠が、『漆黒』の工作員の活動だった、という程度のものではあるが]
……ん、ま、基礎は抑えた。
後は、と……。
[小さな声で呟きつつ、個室に用意されていたシリアルバーを一口齧る]
俺向きのフィールドを、見つけとくのがベスト、かね。
[呟いて、もう一口。半分まで食べたところで、残りはポケットに押し込み]
んじゃ、ま。
散歩にでも行きますか。
[何気ない口調で言いつつ、窓を開け。
そこからふわり、下へと飛び降りた]
─ →中央エリア・屋外─
―中央ビル4階食堂―
ありがとうございます。
[美味しいと言われれば嬉しそうに微笑んだ。
店で出すものには到底及ばないのだが、ここではそれでいいのだろう。喫茶室の要員として来たわけではないのだから。
あの青年が無言のまま去るのは視線で追いかけたが、その場で後を追うことはしなかった]
あら…。
[オクタヴィアを見送ってそうしないうちに、ロミの声が上がった。視線を追いかけ、宙を降りてゆく人影に少し驚いた顔にはなったが、ロミのそれとは理由が違う]
まさか、こんな最初から出てこられるとは。
噂というのも本当にアテにはならないものですね。
勝ち残れば手が届くとか、そんな話を聞いてたのに。
[ローザやエルザはどんな反応をしていただろうか。
慌てず残された食器を片付けてから、食堂を後にした]
[不意に崩される均衡。
真紅の刃は、微かに揺らめく]
……ほう。
[一気に距離を詰めてくる様子に、上がるのは感心したような声]
飛び込んで、勝負をかける、という所か……!
[楽しげな様子は崩さぬまま。
飛び込んでくる所へ向けて、真紅の刃を振り下ろした]
─中央エリア・屋外─
……ん?
[外に飛び出し、最初に感じたのは、違和感]
なんだ……誰か、早々とやりあってんのか?
[感じたのは、微かな血の気配。
右の瞳が、探るようにきょと、と動いた]
……見物、行くか。
[ごく呑気な口調で呟くと、ばさり、と片翼を広げ。
気配を感じる方へと移動してゆく]
[振り下ろされる紅刃、しかしほんの刹那の差で、]
(間に合った!)
[思考するより早く、相手の右手首に左手の甲をあてて剣を逸らす]
[同時にその右手が相手の首に食い込む。突進の勢いのまま押し倒すようにして押さえつける]
[キン、と青白い燐光が輝度を増し、その右手から、生物を芯から焦がす電激が迸る]
――中央エリア・ビル街――
はあっ、と……。
こっちで、合ってた、だか……?
[遠目に見た人影を探し求め、林立するビルの谷間を駆ける。
その足取りは、鉄槌を担いでいるにも関わらず、少女の身軽さを失ってはいなかった。
しかし、所詮は生身の体。息も切れれば疲れもする]
…………?
あの、音は……。
[やがて聞こえてきたのは、自然が決して発する事のない、不規則に交錯する金属の音。
少しだけ足を止め、そして意を決したように戦いの見える場所まで近付いていく]
[果たしてその歩みは、決着の瞬間に間に合うか――]
[剣の振れは隙を生じさせたか。
真紅の刃は青の死神を捕える事無く、逸らされ]
……むっ……。
[首にかかる手に、呻くような声が上がる。
崩れる態勢。しかし、笑みは絶える様子はない。
それはそれで、異様な様と見えるか。
青白く煌めく燐光の導く電撃。
その衝撃に、黒衣に包まれた身体は痙攣し。
空白を経て、力が抜けた]
─中央エリア・ビル屋上─
……おっと、これはまた。
[舞い降りた先、眼下に広がる光景。
口をつくのは、こんな一言]
『総帥』閣下と、『青の死神』、ね。
……ウォーミングアップにしちゃ、スケールでかいんでないかい?
[呟きは、どこか呆れたような響きを帯びるものの。
常磐緑に宿る光は、険しさと好奇心を半々に湛えたもの]
[電撃を止めると同時に痙攣が収まり、総帥の身体から力が抜けた]
…はぁぁぁぁー…
[荒い息を一つつき、右手を解く]
[電撃は総帥の脳を破壊し尽くしたはずだ。今はまだだが、やがて彼の鼻と耳からどろり、と血が流れ出すだろう]
[仮面を外し、総帥の左手に刺さったままのナイフを抜き取りながら、立ち上がる]
[ナイフを抜き身のまま提げて、踵を返し、歩き出した]
(もうこんな場所に用は無い、さっさと脱出に移らねば…しかしその前にあいつに…)
[倒れた黒衣は、しばし、そのまま動く事はなく。
ヒトであるならば、或いは、死神の予測通りとなったのだろうが]
……ふ。
話には、聞いていたが。
中々の、威力だな。
常人ならば……否、並の『新種』ならば即死……と言った所か。
[不意に上がる、声。
一拍の間を置いて、ゆらり。
黒が翻った]
[全く唐突に背後に巨大な気配が現れた。同時に跳び退りながら振り返る]
[そして、声と共に立ち上がる姿]
…化物め。
[ギリリ、と奥歯を噛み締めながら]
[提げていたナイフを右手に持ち替え、構える]
─中央ビル一階・モニタールーム─
……あら、あら。
[煌めきの刹那の決着。声には僅かに驚きの色]
本当に、楽しまれたようで。
[敬愛する相手が崩折れるのを見ても焦る様子は無い。その間にもモニターの中で『総帥』は起き上がる]
あの方に土をつけるなんて、力はお持ちのようですわね。
その力は認めますけれど……。
[モニターの前で腕を組む]
───お仕置きは必要かしら?
[鶸色が細められ、鋭い光を宿した]
[鶸色はモニターの中の青を見詰める。しばらくそうした後に、ふ、と視線を別へと移した]
……けれど、それは追々ですわね。
まずは自分の役目を果たしませんと。
稚拙な方法かも知れませんけれど、やってみる価値はありますわよね。
準備が間に合えば良いのですけれど。
写しやすい方はどなたかしらね?
[クス、と言う笑みを浮かべながら、鶸色は再びモニターへと向けられる。ちらほらと、ビルの外に人影が映っていた]
――中央エリア・屋外――
[そして少女は、眼前に広がる光景に、再び足を止めることとなる。
そこにあったのは――青白い光を纏う青年と、痙攣し崩れ落ちる男の姿]
なっ……人、殺し……?
[困惑した表情で後退る。
この場が命懸けの戦いの場である事など、とうに知っていたはずなのに――まだ『その時』ではないと、心構えをしていなかった]
え……というか、この人……!?
[まさか。そんなはずがない。
彼が予測通りの人物であるなら、こんな所で死ぬはずが]
っ!
[そして、予測は当たった。彼は、死んではいなかったのだ。
ゆらり、と立ち上がる姿を茫然と見詰めていて。
一瞬、身を隠すという判断を忘れていた]
―隔離エリア―
[外へ行くよりも先にこちらへと。移動がどのようにできるのかの確認も兼ねて装置を起動した]
これはまた、随分と広そうな…。
短時間で見て回れるような場所じゃない。
[足元から小石を拾うと短槍に変え上に突き上げる。
振ってきた蛍光色の蛇の眉間から腹へと深く刺さった]
自然の洞窟のようですが。
サバイバル生活をしながら、更に戦えということですよね。
[通信に確実に声が乗るよう手元を口に近づけて。
問いかけるというよりは確認をした]
─西部・廃墟─
[ぴちゃぴちゃと響く水音。
彼女に押し倒されているのは、彼女をここまで連れて来た組織の男。
その胸元は肌蹴て、ぬらぬらと濡れていた。
紅潮したその肌に舌を這わせつつ、彼女の目が見据えるのは離れたビルの屋上。]
……あーら、残念でしたぁ♪
しかし、あれが『総帥』ですかぁ。
ふふふ、何て得体も底も知れない波動。怖い怖い。
[化物、という言葉に、深紫の瞳がほんの僅か、細められるものの。
口元には、変わらぬ笑みが浮かんだまま]
……ふ、血の気の多い事だな。
しかし、本番前に消耗を重ねるのは愚策ではないのかな?
気が済むまでやり合いたい、というなら、構いはせぬが。
次は、私もコレを抑えられるとは限らぬぞ?
[楽しげな口調で言いつつ、す、と手を翳す。
路面に転がっていた真紅の刃が、ふわり、とその手に納まった]
何分、これも『飢えて』いるのでな。
魂魄の保障は、出来かねる。
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