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食べるのが、お仕事ですか?
お腹が空いたのなら、ごはんを食べるのは、当たり前のことです。
お仕事だとしたら、不思議だって思います。
当たり前ではなくて、しなくちゃいけないって、ことなのかしら。
でも、人狼は、人で、狼なんですよね。
とっても、不思議。
どうして、半分ずつなのかしら。
人なら、人を食べてしまわなくたって、きっと、いいのに。
アナさんは、神様のことをよくご存知なのですね。
神様もお喜びになっておられます。
[牧師は笑顔の仮面を作って、頷きます]
おや、旅人さんが、どうかされたのですか?
こころの欠片とは、いったい何でしょう。
どこにあるのでしょうか。
[牧師は不思議そうにパジャマ姿の少女を見ます]
牧師さまは、牧師さまなのに、知らないの?
〔アナがメルセデスとおはなししていると、フリーが服の袖を引く。〕
ああ、そうね、フリー。
早く行かなくっちゃ。
牧師さま、失礼します。
ルイさん、からだをなくしてしまったの。
木こりさんが、切ってしまったから。
〔そういうと、ぱたぱた、駆けていこうとする。
その途中で、ちょうど、こちらへと来るひとを見た。〕
こんにちは、ドロテアお姉さん!
[老婆はドミニクに話しかけます。]
アルベリヒはホラントと同じように喰われた、ように思えるね。
もし、アナが獣だったら、人間に化けなおしたとしても、羊たちが寄るとは思えないよ。
きれいな色、確かにそんな言い方だったね。あたしにはそれが人間だ、という意味に聞こえたんだ。アナには何か特別な力があるんじゃないかね?
[いつからこんなに詮索好きになったのだろう、と溜息をつきながら、アルベリヒを運ぶ手伝いをするのでした。]
人の時には、人のお仕事
狼の時には、獣のお仕事
ヴァイスと一緒で、食べて眠るのが、お仕事。
きっと、そんなものなのでしょう。
きっと、そんなものなのでしょう。
[牧師は歌うように、二回言ったのでした。
羊に促されるように、ぱたぱたと駆けていく少女を見送ります]
[ほんの一瞬、きょとり、としたのはルイの事が聞こえたからでしょうか。
切ってしまった、という言葉に、嫌な予感が当たった事がわかりました。]
……あ、はい。
こんにちわ、アナちゃん。
[それでも、呼びかけられたなら、どうにか笑って挨拶を返します。]
ドミニクさんが、ルイさんを?
[少女が去り際に告げた言葉に、牧師は驚いた様子でした。
すでに少女は駆けて行く途中だったので
その知らせに牧師の口元が
微かに上がったことに、気付く人はいなかったでしょう]
……アルベリヒは、ホラントと同じだ。
アナは、ちと変わっちまった。
[ホラントの欠片も集めた男は、ゼルマへと同意します。
けれどアナについてはそう言っただけでした。
怪我した右腕に代わりゼルマの手伝いを受け、シーツの包みを肩にかけて呟きます。]
ゼルマさん。
ホラントは人狼が二人って言った。
旅人さんをやった後、アルベリヒが食われたんなら…
村ん中に、人狼はいる。
――牧場――
[牧場につくと、なんだかみんながざわざわとしています。
そういえば、村の人はこうも言っていました。
アルベリヒが食べられてしまったと]
おうい、牧師どの。
そっちの仕事が済んだらでいいから、ちと手伝っておくれ。
アルベリヒの他にも、祈って欲しい相手がいるんじゃよ。
……ドロテアお姉さん。
お元気、ないですか?
あっ、
今日のお花は、黒い色なんですね。
暗くて、深くて、ちょっと、こわい色。
〔そう言いながら、アナは、炎の揺れるランタンをかざして見せる。〕
ルイさんの色とは、まるで、反対。
[少女と別れると、
牧師は牧場へと続く道を歩いていきます]
美味しい羊は、良い羊。
不味い羊は、悪い羊。
食べてみるまで、わからない。
[向かう先、道標は赤い点々。
蹄の跡は、散った桜の花びらのよう。
ちょうど遠くから、牧師を呼ぶ声が聞こえます。
牧師は、ご隠居に向かって手を振りました]
ルイさんの、色?
[かざされるランタンに、一つ、瞬きます。
けれど、何となく言いたい事がわかるのは、自分も色を見るからでしょうか。]
……そうね、本当に綺麗ないろ。
昨日のお花はね、アルベリヒさんのいろだったの。
そして、今日のお花は……牧師様の、いろ、なの。
[小さな声は、少しだけ震えていたかも知れません。]
[牧場にざわめく人の声
微かに漂う、果実の香り]
こんにちは、ベリエスさん。
……どうかなさったのですか?
[牧師の仕事は、祈ること。
死者の旅路を、照らすこと。
与えられた仕事があれば、それを行います]
牧師さまの色はその色なの?
見えないのは、そのせいなのかしら。
〔ぱちくり、今度はアナがまたたく番。
じいっとじいっと、花の色を見つめている。〕
森から採ったみたいな色。
闇を切り取ったみたいな色。
光を押し潰してしまう色?
〔最後の一言は尋ねるようにして、ドロテアを見上げた。
めぇ、
フリーの鳴き声は、ドロテアみたいに、ちょっぴり震えていた。〕
[おじいさんは、牧師に手を振り返して言いました]
旅人どのが、のう。冷たくなっとるのが見つかったんじゃあ。
ありゃあ、人狼の仕業ではないとは思うが……。
[おじいさんはまだ、ルイを手に掛けた人を知りません。
うすうす感づいてはいたのですが]
[ドミニクの答えには人の死に立ち会ってきた重みが感じられました。ゼルマがそう思っただけかもしれません。]
ええ、そうね。本当にそんなものが居るならまだ残っているはずよ。ルイさんがそうだとしてもまだ一人というか、一頭?
アナはそんなに変わってないと思うわ。変わったことは言うようになったけど、目が、変わってない。
それとね、羊たちが懐いているの。ヴァイスも怖がらない。むしろ今のあなたの方が血の匂いがして引き気味なくらい。アナとドミニク、あなたの二人は人間だ思うの。
[こんな他の人を疑うようなことを話して良いのだろうか、と思いました。そしてまた、本当のところ人か獣か分からないドミニクにこのような話をしてよいものかもとても躊躇われました。
でも老婆は長年そうして生き抜いてもきたのです。]
……ルイさんが、冷たくですか。
[牧師の口調には、あまり驚きの色がありません。
先刻、少女から聞いた話のせいでしょう。
こころの欠片は、どこにある?]
それで、ルイさんのからだはどこでしょうか。
[辺りに、木こりの姿を探しながら
牧師はご隠居に問いかけます]
[アナの上げる例えは、どれも正しいように思えました。
だから、尋ねるように見上げられると、一つ、頷きます。]
押しつぶす、というよりは、食べてしまう色、かも知れないわね。
[震えるような声を上げる子羊は、同じ不安を感じているのかしら、なんて。
ふと、思いました。]
ルイは、蛍のいる川の近くに倒れておったよ。
教会までは運ぼうとしたんじゃが、わし一人ではのう……。
メルセデスや、少し手伝ってくれんかのう。
[そう言って、おじいさんは川の方へと歩き出そうとします]
[ごくり、と唾を飲み込みながらゼルマはドミニクに云いました]
あんたは、人間、なのよね?
そう信じていいのよね?
だったら、聞いてほしいわ。あたしの、勘が正しくて、ヴァイスの感覚を信じるならば、獣かも知れない人はドロテア、ベリエス、牧師様、しかいない。
もしこの中にいるとしたら、まさかだけど、ベリエス?
[たったこれだけのことを言うのにずいぶんと時間がかかっていたのでした。
その間に二人はだいぶ村近くまで降りてきていたのです。]
ドロテアお姉さん。
黒い森に住む双子は、
同じだけど違っていて。
ひとりの色は白くて、
ひとりの色は黒かったのだって。
〔とつぜん、そんな話を始めるアナ。〕
ふたりは、どうなってしまったと思う?
ふたりは、どうしたかったと思う?
お姉さんは、どうしたいと思う?
〔質問したのに、答えは求めずに、くるりと向きを変えて、また、歩き始めてしまった。後から、フリーもついていく。時々、後ろを振り返りながら。〕
そう、ですか。
[ご隠居の言葉を聞くと
短い時間でしたが、ルイと話をしたことを思い出し
牧師は目にそっと手をあてます]
わかりました。
では、お手伝いさせていただきましょう。
[牧師は手で隠した顔に笑みを浮かべました。
そっと辺りを窺うと、川の方へと歩き始めます]
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