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[命を奪いはしなかったのは慈悲からではなく、必要が無いと判断してのこと。]
――ッたく。
面倒くせェの。
[濡れて張り付いた髪を掻き、未だ残る傷に触れ。
突き飛ばした先、少女がどうなったかを見もせずに、*丘を下って行った。*]
[玲が落ち着くまで、ただただ背を撫で続け]
うん、出来ること、やろう、ね。
私も、出来ることを、やる、から。
でも、無理は、しちゃ、駄目、だよ。
史人も、心配、する。
[「ね?」と、玲には見えないだろうが笑みを向けて]。
涼の話が出ると、視線を外へと向けて
…一人で、出ちゃったし、ね。
何事も、無ければ、良いの、だけど…。
[彼女を、許すことは出来ないが、流石に安否は気になって。また、外へ出たらしい利吉の安否も気になるところか]
うん…怒られちゃう、ね。
[兄の名前に小さな笑みのようなものを。
何事も無ければ、というのには同じように心配そうに]
涼ちゃんは、まだ取り込まれていないの。
だから、探偵さんの言ったとおりに。できるかもしれない。
許されることではないけれど。それでも。
…探偵さんも、一緒にいるのかしら…。
[視力が戻ればすぐにも探しに行きたかった。
兄たちも今ここにはおらず。だが榛名を行かせるつもりは玲にとて到底無く。微妙な焦燥感を抱えたまま*座っていた*]
[玲に笑みが浮かぶようになると幾分安堵の息を漏らすか]
取り込まれて、ない?
誘われは、したけど、人の、まま、なんだ、ね。
じゃあ、今は、どうこう、する、必要は、無い、のかな…。
[取り込まれていないのならば、取り込まれてしまったものだけを処せば、おそらく惨劇は収まるのではないか。ただ漠然と、そう思った]
利吉さんが、一緒だったら、少し、安心、なんだけど、ね。
ちゃんと、会えた、かな。
[僅かな希望を口にし。自分が外へ探しに行っても、移動だけでかなりの体力を消耗してしまい、ろくに探すことも出来ないだろうか。それを理解しているが故に自分から探しに行くことも出来ず。
今は玲を落ち着かせることに力を*注いだ*]
[自分の手で誰かを殺したときよりも泣けるとか、おかしすぎる。
手を伸ばしたけど、いつもみたいに抱きつくこともできない。]
ばかぁっ…
[誰に言ってるのか、わかんなかった。]
[心の中でなにかが脈打つ。
血を求めないといけないと思うけど、絶対そんなことしないときめた。
涙だって枯れちゃうんじゃないかっていう以上にぼろぼろ泣いて、りきっちゃんから手を離す。
呼吸の音もない。
離れたくないけど、離れないと。孝博が、誰かを、また殺すまえに。
でも、どこにいったんだろう。わからない。]
[閉ざしていた目を、ゆっくりと開ける。
右手を動かした。
軽い、痺れ]
……っしゃ、動くな。
[それでも、動かない、という訳ではなく、動くならそれで十分だった]
……取りあえず……このカッコは何とかしねーとな。
さすがに、いい気はしねー。
っつうか、この帰郷だけで一体どんだけの服が廃棄決定になってんだか……。
[薄給の塾講師になんつー仕打ちだ、と。
ある種場違いな事を呟きつつ、吸殻を携帯灰皿に放り込んで立ち上がる]
[ふらつきながらも部屋を出て、階下へ。
榛名と玲、二人の様子に軽く目を細める。
紅く染まった様子に、さすがに榛名は動揺するか。
それに返せたのは、ただ、苦笑。
裕樹の事を問われたなら、端的に、己が成した事を告げる]
後付けの理由やいい訳なら、いくらでも出来るが……様にならねぇから、それはしねぇ。
俺は、俺の信念貫いただけだからな。
[その信念とは即ち、失わず、奪うものを許さず、という、簡単で自分勝手なものなのだけれど。
今はそれが、狂気と正気の境界線を形成し、自身を見失うには至らせず。
悔いる様子は、微塵も感じさせなかった]
で、俺、ちょいと家に戻る……なるべく、早めに戻るが。
……玲を、頼む。
[支えてくれ、と。
そう言って、外に向かおうとするのと、涼が戻ってくるのはほぼ同時か]
南部クン……どうした?
[どこか、何か、違う様子。
決意を固めたような姿に、静かに問う。
返されたのは、利吉の死。
そして、孝博の居場所を問う言葉]
探偵の旦那が……そうか。
ったく、人に御身を大事に、なんつっといて、てめぇは何してんだよ……。
[口調は吐き捨てるよに。それでも、僅かに伏せられた目には僅かな陰り]
孝坊の居場所、か……どっか行ったっきり……みたいだが。
……とにかく、俺、一度家に戻る。
っても、そういう事なら、早めにもどらねぇとならんだろうな。
[静かに言って、外へと飛び出す。
不自然な闇。これは、いつ晴れるのかと思いつつ、自宅へと駆け戻り、部屋へと戻る。
机の上のファイルケースと蛙の灰皿。
そこにあるのは、今は遠く感じる、日常]
取り戻さねぇと、な。
[完全には無理とわかってていも、そう、呟いて。
紅を帯びた服を脱ぎ、荷物から出した物に着替えた。
適当に選んだそれは、期せずして黒一色に統一され。
シャツのポケットから僅かに覗く煙草の箱の紅が、冴え冴えとして見えた]
…………ん、動く、な。
[着替えを終えた所で、もう一度、右手の状態を確かめる。
痺れはあるが、動くならば問題はなかった]
……物を生み出す事のできねぇ手でも。
奪う事しかできてなくても。
……それでも、まだ、先を掴む事ぐらいは……できる。
[静かな呟き。
黒檀の短刀はまた懐へと収められ]
よっしゃ、戻るか。
[黒一色のその身は再び、広がる開けぬ*闇の内へと*]
[玲が落ち着いたら温かいお茶を用意し差し出して。出て行った涼や二階へ向かったままの史人達を待つ。ややあって、姿を現したのは、史人]
…っ、史人、その、格好…!
[これまで何度か見た紅を纏った姿。その姿に思わず椅子から立ち上がる。母親のことなどがフラッシュバックしかけるが、どうにかそれに耐えて]
なん、で……。
…そうだ、裕樹君、は…?
[史人は裕樹の部屋へ居たはず。史人がそのような姿であるなら、共に居たはずの裕樹はどうなったのか。心配になりその安否を訊ねた。無事であることを願ったが、それは儚くも崩れ去る]
……そ、んな……。
[手を下したのは、他ならぬ史人。彼の纏う紅は、即ち裕樹のもの。告げられた言葉から史人が理由と信念を持ち行動を起こしたと言うのは理解出来た。理解は出来たが、告げられた事実に対するショックは大きい。幼馴染が、己と親しかった者を手にかけたのだから。その心に去来するのは悲しみ。それは、裕樹が死んでしまったこと、史人が裕樹を手にかけねばならなくなってしまったことに対して。大切な者を奪われた者が抱いた憎しみは、何故かあまり起きなかった。抱くのは、ただ悲しみのみ]
…………。
[何も言えなくなり、ふらりとよろめき、また椅子へと座り込んだ。しばらく思考がぐるぐるとしていたが、続いて玲を頼むと言われると、やるべきことがある、と気を奮い立たせ、心持ちしっかりした様子で史人に頷いた]
[史人が旅籠を出ようとしたと同時に涼が戻って来て。無事な姿に僅か安堵する。しかし直後に告げられたのは利吉の死。また人が死んだ、と更に悲しみが募る。孝博の居場所を訊ねられると]
ここには、居ない、みたい。
どこに、行ったか、までは、分からない、な。
……聞きたいこと、あったのに、どこ、行ったんだろう……。
[最後はぽつりと呟くように。
着替えに行く史人を見送り、窓の外を眺めた。空は曇天、光が差し込む気配は無く。時間の感覚が狂い、最初の事件からどれだけ経ったのかも分からない。そんな空を眺めながら今後の行方を思い、深く溜息を吐いた]
[死した者と会えなくなるという事実を認識して、落ち着けるのに幾らの時を過ごしたか。愚痴るといったわりには無言でいたが]
それでも、一人でも多く生きて欲しいと思うのは、偽善だろうか
[この気持ちは、己が抱くに値しないもの]
その中に、親しきものが入っていて欲しいと思うのは、傲慢だろうか
[目を開いて改めて外でできた友人を見やる]
二度と会えなくても、どこかで生きていてくれたらいいと思うのは、自己満足だろうか。
[裕樹の持っていた剃刀を手に取り立ち上がる]
もらってく。嫌だったら取りに来い
[部屋を出て、階下へと降りた]
[幼い頃から慣れ親しんだ集落とはいえ、最終的に帰る場所と言われれば一つしかない。
雨に濡れた身体を人目から避ける為――父親を手に掛けた時と同じように――裏口から自分の部屋へと向かった。]
・・・ッち。
んだよ、コレ。
[扉を閉めたその内、ぼやく顔色は優れない。
服の左胸を掴むようにして、扉に寄り掛かる。]
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