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[ナサニエルの言葉>>44が、届く]
[男は左手を右腕に触れさせる]
[金属の音がして、黒を破いて銀があらわれる]
それはお前の望みだろう
ラッセルの――お前にとっては"フィン"か?
あいつの望みは、何だったんだ
[問いかけではない]
[続く言葉の波にそれは沈む]
[それは、男が考えることでも、他の誰が考えることでもない]
[ナサニエルが考えれば良いことだと、男は思っているのだから、答えは望まなかった]
[血が壁や床に飛び散り、奇妙な紋様を描く]
ハ、ハ!
知った風な口を叩くな!
[憤りではない、]
俺たちとおまえらは決して相容れない、
共に在ることもあり得ない、
殺し合いに理屈を捏ねるな!
[ナイフが皮膚を裂き、肉を削いでゆく。ギルバートはそれを、右の掌から肩の筋肉に掛けて、電気のようにビリビリと走る感覚として知覚した。]
[彼の視界に、スローモーションで血飛沫が舞う。
ナイフが「当たった」場所は、狙った場所とは違う、ナサニエルの腕。それでも当たらないよりはマシと判断した彼は――]
………ぐっ………はァ
[真正面から腹に膝蹴りを食らい、胃から逆流してきた液体を撒き散らして、その場に崩れた。]
[ギルバートが崩折れた]
[タン、と床を蹴る。軽やかに、滑らかな軌跡を描き階段を駆け上がり、ナサニエルへと肉薄し]
そうね、殺し合いに理屈なんて要らない。
やるかやられるか、それだけ!
[体勢を低く、滑るように移動し。狙うは膝蹴りのために持ち上げられた足の腱。ケープの中から己が牙を抜き放った]
[引き裂かれた腕はだらりと垂れている。]
[その指先からは絶え間なく血が滴り]
[異様な光を放つ双眸は青玉の色、]
[日の沈む前は回復の速度も常より遅く、苦痛も和らぐことなく、]
[蒼白の顔に玉のような汗が浮かんだ。]
甘えるな
[男の声はただただ告げる]
終焉を望むのは勝手だが、自分の選ぶものを他のせいにするな
世界が悪い、他人が悪い
お前はその中で何をした?
……うるせえ。
黙れ、クソボケが。
[崩れ落ちた場所から、よろよろという動きで、ナサニエルの真下の位置を避けようと移動する。]
何が「終焉」だ。
てめぇは、カッコつけて御託並べて、現実から逃げてるだけじゃねぇか……!
そんなにあいつが大事なら、鍵付き冷蔵庫にでも放り込んでりゃ良かったんだよ。外に出すからロクなことにならねぇんだよ……
寝言垂れるのも大概にしろ……ヘタレ種族が。
[たとえギルバートを目の前にしていても]
[階段を駆け上がる娘の気配に気付かぬ筈もなく]
ッ――ちょろちょろするな!
[上げた足をそのまま娘へと蹴り下ろした。]
ふ。
[そんなことかと、口角を釣り上げます。]
そう簡単に世界は変わらないわ。
失くしたものも戻って来ない。
――だったら、初めからやり直すほうが早いでしょう?
[反撃が来るのは覚悟の上。今の自分の避けるほどの俊敏さは無い。だから]
他人に任せて結果を待つほど、私は大人しくないのよ!
[蹴り下ろされる足に対し左腕を掲げる。体勢が低いのはそのまま膝をつき、蹴りを受け切るため]
……っ!
[重力をも伴った蹴りは重く、かなりの衝撃を伴う。けれどその威力を受けながらも、右手に握った牙で相手の脹脛付近を思い切り切り払った]
最初から決め付けて何が出来る
喪ったものがかえらないことくらい――誰だってわかっている
誰だって、経験する
それが生きているということだろう
最初からやり直しても、お前がそのままなら何一つ変わらないぞ
[よろりと立ち上がり、再びナイフを力強く握り締める。]
お嬢さん……危ないよ。
なんて、聞く耳は持って無さそうだけれどね。
[シャーロットに気を取られている隙を狙い、ナサニエルに向かってナイフを振るった。]
[それでも男が抗うのは、]
[齎される終焉を忌避するが故に]
[心の痛みを紛らわせる為に]
[贖罪にもならぬと]
[自己欺瞞と知りつつも、]
[己を罰する為に]
[手応えはあった。鮮血が飛び散り、少女を紅く染める]
[けれど少女も無傷では無く、左腕への衝撃は骨を伝い肩や足にも影響を及ぼしていた。掲げていた左腕が力無く垂れ落ちる]
…悔しいけど、私が動けるのはここまで、かしらね。
[呟き、ギルバートが再びナサニエルに向かう様子に邪魔にならぬよう隅へと転がるように移動する]
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