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[くるり、振り向く様子は、いつもと変わらないようにも見えて。
ほんの少し戸惑いながら、きょとり、と瞬きます。]
ああ、昨日の事はいいのよ?
……これから、教会に行くのかしら。
お花を摘んでから、行こうと思ってました。
お兄ちゃん、いらないって言いそうだけれど。
〔困ったように笑うアナ。
腕から提げた籠の中は、まだ空っぽ。もう片手のランタンの中も、空っぽだ。〕
あ……っ、きれいなお花!
どこで、見つけたんですか?
――翌朝――
[次の日も、お日さまはいつもと同じように昇ってきました。けれど、なんだか村の雰囲気は、いつもと違うようなのです。
かあん、かあん。教会の鐘は、誰かがいなくなった時の音。
そして、村を行く人々は、みんな黒い服を着て、俯いて歩くのでした]
おお……なんという事じゃ、ホラントが。
[その知らせが入った時、おじいさんはがっくりとした様子で呟きました]
昨日のうちに、もっときちんと探しておくべきじゃった……。
[おじいさんは項垂れたまま、けれど最後のお別れをするために、教会へと急ぐのでした]
そうね、お花はあった方がいいわ。
あら、いらない、だなんて、そんな。
大切な気持ちなのに。
[何気なく答えてから、一つ、瞬きます。
何か、引っかかるような気がしたのは気のせいでしょうか。]
え? ああ……これ?
ううん……これのある場所は、教えてあげられないの。
そうなんですか? 残念。
〔アナは眉を下げて、しょんぼり顔。〕
村のはずれに行ったら、あるのかな。
とりあえず、いってきます。
早くしないと、お兄ちゃんのからだ、会えなくなっちゃう。
ごめんなさいね。
[しょんぼりするアナに、ちょっとだけ困ったように笑いかけます。]
ええ、いってらっしゃい……。
[早くしないと、という言葉に頷きますけれど。
『からだ』という言い方は、何だか不思議に思えました。]
――教会――
[おじいさんが教会に辿り着いた時、棺はまだ土の中に入れられる前でした]
可哀想にのう……まだ若かったのに……。
[すぐそばには、もう一人のお年寄りであるゼルマがいました]
わしらより先に天に召される者がいるとは、思わんかったわい。
アリーにベリー、シリーにデリー、イリーに…おいおい、エリーにフリー、あんまり遠くに行っちゃだめだぞ?
[狼は怖いけれど、羊飼いはいつもの丘に羊の放牧に出掛けていました。だって青々とした草を羊に食べさせる事は、真っ白でふかふかな羊毛や、美味しいチーズの為には欠かせないのです]
やれやれ、今日も羊達は落ち着かないな。おいらもちょっと落ち着かない気分だけれど。
おや?あの鐘の音は…?
[宿の中は静かです。
旅人は食事を作り終えると、テーブルの上に置いて、上から布をかぶせておきました。
きっとまずくはないのですけれど、いつもと比べると量も見た目も物足りないかも知れません。
旅人は先にアナと一緒に食べていましたから、それらには手をつけないまま、宿から外に出て行きました。]
[駆けて行くアナを見送った後、しばらくそこに立ち尽くします。]
『からだ』。『からだ』って?
……どうして、そんな言い方するのかしら?
[考えても、答えは出ないのですけれど。]
誰が亡くなったんだろう?
まさか、女将さんが?
いやいや、まさかそんな…
ほーい!ほーい!アリー、ベリー、シリー、デリー、イリー、エリー、フリー、みんな帰るぞ、大急ぎだ!
[慌てて牧場に帰り着くと、羊達を大急ぎで小屋に入れて、羊飼いは一張羅の黒い上着を羽織って村への道を辿ります。小屋から抜け出した子羊のエリーとフリーが、とっとこ後を追って来ましたが、気付く余裕も無いのでした]
まさかまさか、狼なんかいるわけないよ。
狼が人を襲うなんてあるわけないよ。
狼…いいや、ジンロウだって?
[擦れ違った村人がひそひそと噂しているのを耳にして、羊飼いはぽかんと口を開けました]
そんな…だってあれは、ホラントの、ほら話だろう?
[静かなのは宿の中だけではありませんでした。]
小さな村だからな。
それにしても急だけれど。
一体、だれが亡くなったんだろう。
[呟いてから、旅人はふと立ち止まります。
村人たちのうわさ話が聞こえて来たからです。]
『人狼』。
……ああ、それよりも、わたくし自身の事ですわね。
本当に、どうしましょうか……。
[小さく呟くと、歩き始めます。
足取りは、どこか覚束ないかも知れませんけど。]
まさか。
ベリエス殿も言っていたではないか。
惑わされてはいけないと。
[そう言いながらも、旅人はマントの内側に手を入れました。
そこにはいつも隠して持っている短剣がありました。
旅をするのにはなにかと役に立つのです。]
おや。
[ふと人の姿が見えたので、旅人は剣から手を離しました。]
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