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―広間―
[一度、呼ばれてマンジローの方にも行った。
ハーヴェイの言葉も聞いた。]
うん、ほっとくー。
傷がある子っておんなじの見たら落ち着くけど、逆になっちゃった。
やっぱりきれいな場所って違うんだね。
[食事、と言われて。食べているパンを見る。
これ以上無理、って感じで食卓を眺めた。
その後で、席を立ったマンジローを追いかけはせず、部屋の隅へ移動する。
「ヘンリエッタ」の名前が聞こえた気がした。一人遊びは中断せずに、耳をすませる。
だけれど距離が遠いから、まともに聞こえなかった。
聞こえないとわかれば、めんどくさくなって、そちらに意識も払わない。
やらなきゃいけないことは、見ていること。トビーが事情をまったく知らなくても、*支障は無い*]
─ →アーヴァインの部屋─
[廊下を進む間、鼻を啜りながらラッセルは考えていた。
自分が触れられるのを拒んでいたのは、あることを忌避していたため。
けれどシャーロットに撫でられても、何も起こることが無かった。
既に誰かに触れていた?
だとしてもいつ?
疑問ばかりが頭に浮かび、その答えを見つけられない。
そうこうしているうちに、ラッセルはアーヴァインの部屋へと辿り着いた]
…アーヴ、起きてる?
[ノックの後に声をかけて、覗けるくらいだけ扉を開ける。
扉の正面にはいつもアーヴァインが座っているオーク材の大型デスクがあったが、そこにアーヴァインの姿は無かった。
鍵が掛かっていないのに返事がないことに疑問を持ったラッセルは、大きく扉を開ける]
アーヴ、居ないの?
[再度の声かけ。
けれどやはり返事は無い。
一歩部屋の中へと入り、部屋を見まわそうとした時。
家具の陰から、床に不自然に流れ来る紅い雫があることに気付いた]
────……!
[それは以前にも見たことがあるもの。
慕っていた人が流していた色。
恐る恐る、視界を遮っている家具の奥に視線を向けた]
あ、あああぁぁああぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
[それを見た瞬間、ラッセルは普段響かせることの無い程の大音量で叫び声を上げる。
扉を開け放していたため、廊下にも響いていたことだろう]
[アーヴァインは部屋の片隅で血に濡れていた。
白い壁を背に、それをキャンバスにするかのように赤を飛び散らせていた。
胴は引き裂かれ、床には破片もいくつか転がっている。
腕やその他の部位にも獣の爪のような痕が残り、内から引き出された物の中には、足りないものもいくつかあった]
[ラッセルは叫び続けながら廊下へと飛び出した。
顔には恐怖の色。
部屋から出て直ぐ、足が縺れて床へと倒れ込む]
うっ、ぐ……げ、ぁ……!
[胃に込み上げて来るものを感じ、吐き出そうとする。
けれど何も食べていなかったせいで何も吐き出すことは出来ず、僅かな胃液を口から零れ落としながら何度も何度も吐こうとした。
叫び声を聞いた使用人や騒ぎに気付いた者が現れるまで、ラッセルは苦しげにその場で*蹲っている*]
―廊下・アーヴァインの部屋の前―
ラッセルさん!?どうしたんですか!?
[蹲るラッセルの姿が見える。
急いで駆け寄ると、開けはなした扉の中から錆びた臭いが漂ってきた。
その光景に目を奪われる。
引き裂かれた体、まるで、食い荒らされたような―――]
―――〜〜〜ッ!!
[怖い。これは何?一体どうやったらこんな風にできるというのだろう。足が竦む。
この場から逃げ出したいのに、体が動かない。
それとは別に、湧き上がるもうひとつの感情
……待ってた、この時をずっと]
[生きたまま喰われる感触。
寒い、骨が砕ける音がする―――]
―――人狼……。
[私の記憶ではない。これは、アーヴァインの最期の情景。
凄惨な記憶が流れ込んでくる。
唐突に理解した。いや、思い出したのだ。
頭の中で、何かが壊れる音がする]
ひ、人を呼んできます!!
[動揺する素振りをして、広間に向かって駆け出す。
自分の顔が、喜びの形を作っていくのを感じた]
人狼…殺すの…私が、この手で人狼を殺すの……!
[まるで大切な人と再会を果たしたような、そんな顔だった]
―回想―
[今日は『お父さんの知り合い』が来ているから、書斎に入ってはいけないといわれた。
お父さんは『ぎろん』を始めると暗くなるまで止まらない。
わたしはもう子供じゃないのに、どうして一緒にお話させてくれないんだろう…。
ひとりで遊ぶことにもあきてしまって、
父の部屋の扉にぐっと耳を押し付け中の会話を聞いてみる]
『―――先週手紙が届いたよ………で…生き残ったという男性から……ああ、そうだ……――』
―広間―
[粗方食事を終えかけた所で、ラッセルが広間を出て行ったのに気付く。
とは言っても、ふらりと居なくなるのはよくあることだったから、その時はそれほど気にはしていなかった。
食事を終えて広間を出てから]
……にーちゃん、ねぇ。
[ぽつりと呟く。
自分は似ているのだろうか?だとしたら、何かできるだろうかと考える。
そうして軽く首を振る。あまり慕われていないのはわかっていたから]
どうすっかなぁ、今日。
[外の様子ではまだ暫くは帰れないだろう。
館の主に話してみようか、と思い始めたその時。
悲鳴が、聞こえた]
―館内―
何だ…今の…?
[あまりにも酷い叫びで誰の物かまですぐには把握できない。
だけどそれは、これから向かおうと思っていたその方向から聞こえてきた物。
途中でセシリアとすれ違う。アーヴァインが、と言う声しか聞き取れず、彼女の表情までは気付かずに。
自然と足は早くなり、辿り着いたこの館の主の部屋の前]
…?
ラッセル!
[そこにいたのは蹲り震えているラッセルの姿。
不用意に驚かさないように側に近づく]
……今の、お前か?
どうした?なにがあった?
[震えるラッセルは何かを示しただろうか]
[何もなくても、開け放たれたままのドアから感じるのは異様な気配。
覗き込めば、容易に中の様子は知れて]
な…っ…なんだよ、これ…旦那?
[確認しようとして、部屋に入ってそれを目の当たりにして、軽くよろけそうになる。
吐き気を堪える。ここで自分が取り乱せばラッセルがまた怯えるから。
だけど、どうすればいいのかもわからない]
……ラッセル。
[部屋を出て、弱い声で名前を呼ぶ。
ラッセルが一番心を開いていたのはアーヴァインだと知っていたから。
何があった、とは訊けない。この様子ではたぶん何も知らないだろうから。
ただ、少しでも落ち着かせようと名前を*呼んで*]
―回想―
『……妻が、死んだそうだ……
彼女の能力を知って……手元に置いて研究したいと思ったんだ……。
それがいつの間にかセシリアも生まれて……平穏なら、それがいいと…………。
―――から手に入れ……骨を妻に見せたんだ。
それが間違………ああ、そうだ、発現したんだ、精神…を…伴って……』
[聞こえる声は小さく難しい単語は理解できなかったが、母の話をしているらしいことは分かった。
母はセシリアを産んですぐになくなったと聞いていたのだが、違うのだろうか]
―回想―
『まるで別人だ…―――…そう、人狼を殺すことしか考えな………。
そのためだけに生きているような……――。
……骨を隠すと正気に……だが酷く怯えていて……もし人狼の疑いがあ……家族さえ殺してしまうのではないかと……。
……その後すぐうちを出たよ……』
[何を言っているかよくわからない。
けれど無性に怖くなって、急いでセシリアは自分の部屋へと戻った]
『……もし力が家系的なものとしたら……』
―広間―
[広間に飛び込んで、大声で叫ぶ]
あ、ああ、アーヴァインさんが!!
[自分の変化に気づかれてはいけない。もし能力を悟られてしまえばきっと真っ先に殺されるだろう。
冷静な頭で、動揺した己を表現する]
[これで広間に居たものはアーヴァインの部屋へ向かうだろう。
次は使用人の詰め所か――。
途中で出会う者がいれば状況を伝えながら、セシリアは詰め所へ*走った*]
死んじゃったの?
それなら、どこかに捨てないとね。
くさくなっちゃうし。虫も出てくるし。
あ、でも少しさむい?から、外なら平気かな?
[立ち上がりもせずに、そんなことを言う。]
それとも、きれいな家は、ええと、まいそう?するんだっけ?
神父様に頼むとか、言ってるのを聞いたことがある気がするけど。
よくわかんないや。
[だって死ぬのは普通のことでしょう?
と、首を傾げる。おかしいというような反応をされても何がおかしいのかわからない。
知らない人だし泣くわけないし、と斜め上に思考は飛んだ。]
―玄関―
[玄関にいた年配の使用人に外套を預けようと、脱いだそれを差し出したその時だった。
覚えのない叫び声が聞こえて来た]
誰でしょう。
[立て続けに先よりも小さな声、廊下を駆ける音。
使用人と顔を見合わせて、ともあれ階上に向かうことにする]
悲鳴は聞こえたけど、近付いちゃだめなんだよ。
だって、好奇心で近付いたら、死体が増えちゃうから。
仲良くなった子の悲鳴でもダメなんだよ。
なんにもなくなってから行くの。
[人狼、という言葉を聞けたなら、不思議そうな顔をするだろう。
スラムでは見たこと無いよ、と首を傾げたりもするかもしれない。
セシリアが居なくなってからも、その場所で一人、指遊び。]
―広間を出る前―
[考えものよとキャロルに言われ、視線の先に重みがかかる。
冗談めかした口調にもシャーロットにも、動じることなくさらりと言った。]
大丈夫、シャロには一番だって言ってあるから。
[人前で囁かれる好意の言葉は、シャーロットの頬を朱色に染めるに十分だろう。
ひらり踊り子の君に手を振り広間を離れる。シャーロットが付いてくるなら、構わず共に歩いた。]
―館内―
[暫く、散歩がてら歩きながら話す。不在だった一年の間にあった事柄を聞いていた。]
そう、それでシャロはどうし―――
[そんな会話の途中、耳に届くのは誰かの悲鳴。
何事かと、声がした方へと足は向いた。]
シャロは広間にいるんだ。
[悲鳴に過る予感は良いものであるはずがはない。
なのでそう促したが、彼女が嫌がれば無理に追いやることもしないだろう。]
見つかったか………。
まぁ、あまり隠す気はなかったけど。
[ぽつり、呟いた。
だが向こうでは、さも驚いたように振る舞う。誰の目があるか分かったものではなかったから。
今はまだ、知られてるわけにはいかない。]
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