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[憐れむ様に。労わる様に。
ヴィクトールへ向けるのは、アナスタシアの肉と血を掬った2本の指]
決めるのは、君だ。
[鋭さと、熱を帯びた声を真っ直ぐに*発して*]
墓守……ああ、それで。
[ああいったものは見慣れているのかと納得して、それでもこの状況を考えればその落ち着きが逆に怖くもあった。
途中で会ったイヴァンにはおはようございます、と小さく挨拶をして。
広間に辿り着き、お茶を入れてくると言うアレクセイが戻るまでの間、タチアナの方を見て何か声を掛けようとも思えど、結局言葉にならず]
……ありがとうございます。
[戻ってきたアレクセイがいれてくれた紅茶を口に運ぶと、ようやく落ち着いた気がした]
[ 止める間はなかった。
いや、止めようとする前に、これが自然なのだという気持ちと口元を抑える微かな意識しかなく、見ているしかなかった。
暗闇の中でも、その爪牙の閃きがアナスタシアの命を速やかに断ったのを、何とか目で追えた。
室内に充満してゆく、食餌の香り。
感謝と驚きと動揺と後悔と。
そして、何事かあってしまったのだという、 無念が。
浮かび混じり合って、血肉の香りの前に消えていった。]
[ 血塗れのふたつ指が差し出される。
滴るのは緋色のそれだ。]
……、君が
[ 言葉にならない言葉を紡いだ。
ヴィクトールは、君が人狼とでも仲間とでも言いたかったのだろう。
差し出された指と選択肢に視線が酷く彷徨った。]
僕は、
[ は、は、と犬の様に舌を突き出し指先に乗る緋色に口付けようとし、
苦痛に身を折るように退いた。]
[ 一口、血を啜れば。
一口、肉を齧れば。
きっと、こんな辛さはなくなるだろう。
村の住人であるアナスタシアの血肉を喰らうこと、
それに纏わる言い訳と人の倫理と、もう、"事が起こってしまったのだから喰べればよい"というのを、無理矢理おいやり聞いた。]
どうして、
目を……閉じた。
[ 森で見つかった旅人の目を閉じた理由。
もし襲ったのが目の前の相手であればとの疑問か。
その質問の返事はどのようなものだったろう。*]
[赤い色に目眩がする。
フィグネリアがやってきたことにゆるりと瞬き、ふ、とため息をついた。
気づけばアレクセイや、アリョールなどがいて。
アリョールがアナスタシアの死を確認しているのをただ見つめていた]
アリョール……
[友人の名を呟き。
死を確認するようすにやはりかとため息をつき]
[アレクセイに促されて、ゆるりと瞬く。
こくりと頷く顔は普段とは違ってどこかたよりない。
食堂へと向かって、椅子にすわり。
アレクセイがいれてくれたお茶をのんで、ようやく顔色が戻る]
ありがと。
[ぽつりと二人に声をかけて、問われれば見たことを答えた**]
――…?
[質問の意図が分からず、ゆらりと首を傾げる。
其れは"彼"にとっては意識の外だった。
けれど、頭の中"彼女"の意識と想いが持ち上がる]
ふむ。
["彼"は"彼女"の言葉を反芻し、告げる]
目の前で人が死んでいたなら、墓守としてはそうする他ない…だそうだ。
先に言っておこう。
"俺"には、人としての気持ちは分からない。
狼としての意識しかないからな。
"あちら"は、逆だ。
人の心を持っている。
["あちら"とは、恐らく人としてのアリョールを示すのだろう。
何でもない事のように呟いた]
"俺"も"あちら"も互いに互いの事は知っているし、其々の記憶もある。
[身体の主導権を握るのはその時々であることや、相手の成した行動にはなるべく不干渉を保っていること等を、淡々と口にする]
[ 質問の返事は想定外だと言って良い。
"俺と"あちら"の関係性まで理解出来た訳ではないが、
今話しかけている聲と身体は、正しく言えば共生関係、
ヴィクトールの現段階の理解で言えば、薄らと分離しているらしきことは伝わっただろうか。]
君の…名前は……?
[ "俺"の名前、狼としての意識に別の名はあるのだろうか。
或いは、母から聞いて狼同士では別の名を持つという話を思い出したからか、口にした。]
[差し出した指先とは逆の手で、アナスタシアの血肉を掬い舐めとる]
マグダラ、だ。
もう何年も呼ばれていない名ではあるがな。
[先代が名付け、そして、先代以外に呼ぶ相手も居なかった孤独な名前。
問い返す口調にさしたる感情は乗ってはいない]
――…あんたには、名前は有るのか?
―自室―
[ ヴィクトールは、他の者へも伝えに行こうとするアリョールに問いを投げかけた。]
今日、人狼として殺されるのは、
君は誰だと思う?
[ アリョールから返事が返っても返らなくても、ヴィクトールが広間へ降りるのは気持ちが落ち着いてからだろう。*]
もしも、狼としての名が無いのなら、自分で付けるか、俺に付けられるか選べ。
その前に、人狼として生きるかどうか――これを喰らうか否かの決断が先だがな。
[素っ気無い響き。
掬った血肉が零れて*落ちた*]
ヴィレム…
母に一度そう聞いた。
名付けたい名だと
[ 苦痛に耐えているのか淡々と、
しかし何処か陶然となった声で返答する。]
―朝/自室―
[昨夜は結局、アリョールから教わったことを生かして
自室の掃除を行うことまでは出来なかった。
まだ少し埃っぽい寝台の上で目覚め、目許を指で拭う。
何時かの誰かが己の傍に居てくれた夢を見たのは
昨日の夕飯時、どこか様子がぎこちなく見えたニキータに
付き添うように出て行って見えたイヴァンを見た所為だと。
そんな昔の誰かに、長い髪を撫でられた夢を見たのは
広間でアレクセイが親しい人に頭を撫でられていたのが
横目に見えた気がした所為だと。そう、考えた。]
羨ましかったん、だろう、な。
[用事があるなら何時でもきていい、などと
言っていたのは誰だったか――そんな思考もすぐに流して。
身を起こし、鏡も見ずに手で髪を梳く。]
[ それから続ける。]
君が新たに名付けてくれてもいい
[ 成長したらという但しがあったからだ。
マグラダの指先に乗る緋色に再び視線を向けた。
今度は、揺らがない。
だが、決断には長い長い時間がかかった。*]
[この中に、「人狼」がいる。
そんなもの、言葉やお伽噺でしか聞いたことはなかった。
本当にいるのかどうか。
あの、「アナスタシア」だった体を見れば、否定したくとも出来ない]
……。
[誰を処刑するのだろう。「食欲」を増幅されているのなら、明日も誰かが死んでいるのかも知れない。
それを思うと、カップを持つ手が震えた]
[身支度を整えてから、部屋の机に目を向ける。
手に取ったのは小さな鞄に入れていたあのナイフ。
少しの間見詰めてから、シーツの端を裂いたもので
刃の部分を覆い、腰のポケットにねじ込んだ。
それから目は、湖畔の絵を収めたスケッチブックへ。
思い出されたのはイヴァンに絵を見せる約束で――。
また暫く見詰めていたものの、今は携えないことにした。
こうして漸く廊下に出てみれば確かに、
生臭いものが鼻を突いて感じられた。
広間へと行こうとしていた脚は二階の階段傍で止まる。
くらりと立ち眩み、壁に身を寄りかからせていた。**]
― 広間 ―
[温かい紅茶を飲んでため息を1つこぼす。
人狼がいた。
ならば――]
誰かを殺すのね……
[覚悟もないまま、ぎゅっとショールを握りしめた。
人狼が誰なのかを知らなければならない。
さ迷う視線の先は定まらず、続く言葉は声にならなかった]
―個室―
[アリョールのノックの音よりも先に、
廊下を行き来する物音や、
隣室の話し声に男は目を覚ましていた]
…
[ノックの音へは、同じくらいのテンポでノックを返す]
きこえていた。
たぶん、下には行く。
[扉を開けずそう答えた]
[父はその話を聞く度に母に対して怒っていたような、気がする。
あれはひょっとして、お伽噺では無く――]
皆さん、まだ眠ってらっしゃるのかしら…。
[随分と時間が経った気がする。
まだ日は昇ったばかりだと思っていたけれど]
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