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約束したろ? 連れて帰るって。
[ゲルダに小さく頷く。
撫ぜる様を眺めていたが問われた事には]
そうだな。
部屋に寝かせたいから頼めるか?
[ゲルダが先に歩き始めれば
クロエを抱いたままそのすぐ後をついてゆく]
…覚えてて呉れたのだね、有難うなのだよ
[幼馴染の泪の理由は其れ以上聞かずに。
クロエの割り当てられた部屋へ案内し、
ベットの中へと寝かせる為にライヒアルトが寝かせて呉れたのなら、
毛布をそっと掛けて、ぽふぽふと撫ぜた。]
―――…無理もないかな
もし明日…誰か死んでしまっていたら、
クロエはまた力を使うことに成る…
[優しい彼女が重責をまた背負わぬか娘は案じていて。
部屋に留まるのも悪いかと想い、出るかい?と訊ねただろう。]
ついさっきの言葉を忘れるほどボケちゃいねぇよ。
そんなことくらいで礼なんて言わんでも良いさ。
[ゲルダに案内された部屋の寝台に歩み寄ると
そっとクロエを其処に寝かせて]
――…そう、だな。
その時はお前さんが慰めてやれ。
さっきだって気になって仕方なかったンだろ?
[訊ねに頷きはするが――]
なぁ、クロエの涙の跡、濡れた布ででも
拭っといてやって呉れねぇか?
あんまべたべた男に触れられるのもイヤだろうし。
頼まれて呉れないか、ゲルダ。
[部屋を出て、その扉の前でそう頼む]
――…そうだな。
俺も怖いよ、明日が来るのが。
[ポツ、と紡ぎゲルダの頭へと手を伸ばす。
軽く撫でれば微かな笑みを向けて
青年は宛がわれた部屋へと戻ってゆく**]
ン、でも無理やり連れてきてしまったのかと想ってたのだよ
そうじゃなければ好かったのだけど
[クロエを起こさない様に一旦部屋を出ようと。]
……うん、でも僕に云えない事かもしれなくって
僕だって話せない事は有るんだよ…
だから、クロエが話して呉れるまで僕からは聞かないのだよ
[こてんと頸を傾ぎ、そうなのだと云う。
泪の後を拭って置いてほしいと云われれば、こくりと頷き。
直ぐに持っていたハンカチを濡らした物を持ってくると、
もう一度部屋へ入りクロエの目許を拭って置いた。
程なくして戻ると待ってて呉れたらしき青年に、]
…そうかな、僕は目許を拭って貰ったり、
お部屋まで運んで貰えると嬉しくて感謝しきりなのだよ?
[厭と決めつける青年の声に娘はふるふる頸を振り。]
[去り際、頭を撫ぜられれば垣間見えた密やかな笑み
娘の眉は下がった儘だけど、同じくした想いを持つと想えば
安堵をおぼえる態へとなり。]
―――明日なんて来なければ好いのにね
クロエも、ライヒ君も……いなくなっちゃ厭だよ
[部屋へもどるのを見送り、程なくして自分も部屋へと戻るのだろう*]
―夜半―
[寝静まった宿屋――。
リヒトはゆっくりと窓に手を掛けた。
並外れた獣の身体能力は人の姿のままでも発揮されるもの。
窓枠に手を掛け僅かな足場を伝いユリアンの部屋に向かう]
――…気付いて呉れるなよ。
[厭な予感がしていたからこそ狩りに慎重になっていた。
窓の外から獲物がいるのを確認する。
運良く此方に背を向ける形となっていた。
器用に窓を開ける。
音は微かだが獣の耳にはやけに響いた。
開け放たれた窓から夜の風が部屋に吹き込む。
夜空を背にしたリヒトの金色の眸が弧を描いた]
[リヒトは窓枠に足を掛け部屋の床に降り立つ。
しなやかな獣染みた動きに音は無い]
だぁれだ?
[ユリアンには聞こえぬ聲で悪戯に問い掛ける。
気付かぬと思いながら紡いだ聲。
けれどユリアンは気配を察し身構え振り向こうとしたか。
リヒトに焦りはない。
寧ろ其れを愉しんでいる節がある]
済まねぇな、お前さんに恨みはねぇが……
喰われて呉れよ。
[此方を向く前に声を出させぬよう右手で口を塞ぐ。
もがき抵抗されるもリヒトの腕はビクともしない。
これで鼻も塞げば窒息死させられるかな、と
そんなことを考えていたけれど――。
抗うユリアンが音を立てようする気配がし
金の眸がすぅと細まり左の腕が彼の首へと掛けられる]
[咽喉へと宛がわれた左手の爪が人狼の強靭な其れへと変わる。
腕を引き深くユリアンの咽喉を引き裂く。
太い脈まで断ち切ってしまったのだろう。
勢いよく吹き出す血潮。
室内には甘く獣を酔わす香が漂う]
ユリアン。
お前さんと話すの、俺は結構好きだったぜ。
[多くの血を失ったせいか
深い傷を受けた衝撃かユリアンの躯から力が抜けてゆく。
相手が如何思っていたかなど漆黒は気にしてはいない。
求めても得られぬものと何処かで分かっていた]
――…あーあ。
取引先が減っちまったな。
[残念がるような聲。
本当は話せぬ事を残念に思ったのだけど
漆黒がそれを語ることは無かった]
[重くなったユリアンの躯を静かに床に横たえた。
咽喉から溢れる血が床を濡らしていた。
見下ろす獲物の躯はまるで人形のようにある。
漆黒は左手を濡らす赤に舌を這わせた。
口腔に広がる血の味は結社を名乗る男に似ていたが何処か違う]
ユリアンは如何やら力持つ者だったらしいな。
分からぬ事は心に訊くか。
[クツリと咽喉を鳴らす。
膝を折り衣服を軽く裂いた。
ユリアンの心臓の上には鋭い何かで傷付けた痕があった]
………何だこりゃ。
[コトと首を傾ぎながら痕をそろと指の腹で撫で遣る。
確かめるようなその仕草。
考えても分かりはしないから漆黒は思考を放棄した]
[獲物の首筋へと顔を埋める。
未だあたたかな血を啜り漆黒は咽喉を鳴らす。
酷く機嫌の良さそうな音色は先ほどの怖気を忘れたかのよう]
――…美味いな。
[昨日の血ともまた違う。
男の血にしては蕩けるような甘さが舌に残った。
咽喉を潤せばくちびるを其処から離す。
強靭な爪がユリアンの胸から肉を掻き抉り
阻む白が覗けば無理に歪めその奥に眠る心臓へと向けられる。
既に其れが動くことはない。
太い血の管をぷつりと引き千切り赤く熟れた実を齧る]
……へぇ、こいつは面白い。
[何かを悟ったか口の端を吊り上げた。
半分同胞への土産にするかと一寸考えるも隣にいるヴァイスルヴを
起こしては彼女を部屋に止めた意味が薄れる。
残りを一呑みにしてリヒトは食事を終えた]
ご馳走さん。
男にしてはなかなか美味かったぜ。
[狩りと食事を終えた事を同胞に告げる聲は
何処か控えめなもの。
調子の悪そうなもう一人に気を遣ってのことだった]
さてと、そろそろ退散するか。
[両の手に付着する血液を丁寧に舐め取ってから
窓枠へと手を掛け血に濡れた部屋を出る。
外の水場で残る赤を綺麗に洗い流してから
窓から宛がわれた部屋の寝台に戻ると静かに目を閉じた。
金色だったその眸は次に開かれる時には深緑に戻っている筈**]
―昨夜―
[部屋で静かに夫の様子を見ながら、耳は注意深く同胞の狩りの様子を探っていた。
些細な変化があれば、すぐに飛び出して行けるようにと。
だが同胞の楽しげなコエからは、彼が感じる不安要素は見つからず。
調子の良さそうなコエに、時折くすくすと笑うほどの余裕は保たれた。]
あら、当たりだったのかしら?
[力持つもの、との同胞の言葉に嬉しそうなコエが小さく零れる。
何時もより小さな囁きは、傍らの夫を気遣った為。
夫は良く眠っていたか、それとも眠れず様子を伺っていたか。
どちらにせよ、こちらは狩りの熱に当てられぬよう戯れに夫の長い髪に指を絡ませ
唇で掬うなどして玩び、その衝動を紛らわせていた。]
[内に宿った熱も衝動も、
目を閉じ夫の規則正しい呼吸と鼓動を聞いていれば、緩やかに収まってゆく。]
何もなくて良かったわ。
[同胞の狩りの終了の合図には、ほっとしたようにそう返し。
彼が部屋に戻り目を閉じる頃、おやすみなさいと囁きこちらも眠りに落ちていった。]
―翌朝―
[女狼がその部屋へとふらりとやって来たのは、文字通り血の匂いに誘われたからだ。そして同胞の狩りの顛末を見てみたい、そんな好奇心もあった。
対面した餌。それは甘やかな香り放つ格別の贄。
口元を抑え、震えながら、内に再び宿り燻る衝動に耐えた。]
……ユリアン、さん。
――――――――――美味しそう。
[紡がなかった言葉の続きは、魅惑的な香り放つ骸への感想。]
ああ本当、甘くていい匂い。
……でも駄目ね、啜ってしまっては。
ふふ……惜しい事したかしら。
[惜しいと言いつつも、さほど惜しさが感じられないのは、
一度自分も上質の果実を喰らっているから。
それでも隠された口元には、溶けるような笑みと、犬歯が楽しげに覗いている。
鮮やかな瑠璃には、獣の光が密かに宿っていた。*]
―宿屋・自室―
[途絶えた意識は過去を彷徨う。
飛び出した先で、十九の時に巻き込まれた事件。
己が力が何を為すのか、何をもたらすのか。
父に教えられただけではわからなかった事を、幾つも知った。
その場での出来事には、忘れたい事の方が多い、けれど。
忘れようもない、『痕』もまた、刻まれているから――それも叶わなかった]
……ま、仕方ねぇんだけど。
いつまでもついてくる、よな。
[目を覚まし、ベッドを寄せた壁に寄りかかるよに身を起こすと、煙草に火を点け。
それから、左の肩に手を触れた]
[手を当てた場所にあるのは、文字通りの爪痕。
かつての事件で、相対した人狼に刻まれたもの。
故郷に帰れない、『理由』]
……。
[シャツの上から、痕をなぞる。
傷を受け、そこから人狼の血を体内に取り込んだ事から、事件の後もしばらくは『結社』に留め置かれた。
『感染』の可能性は否定されず、受け継いできた血の作用が『発症』――人狼に転じるのを押さえているのだろう、と言われた。
不安定な状態。
『結社』に所属する医師は庇護下に入り、銀を身に帯びる事を勧めたが、それは拒否して。
けれど、故郷に帰る道も選べず。
選んだ行き先が――裏通りだった]
[その場を離れる少年を見送った後。
自衛団は来ないのか、と外の様子をみたり、取りあえずテーブルを磨いたり、と時間を潰している内に、二階から何か、物音がしたような気がして、天井を見上げる]
……なんだ?
[零れたのは、訝るよな呟き。
ともあれ、何かあったのか、と蒼鷹を伴い、二階へ。
部屋を回って、何かなかったか、扉越しに問い歩き、そして]
……カルメンさん?
何か、ありましたか?
[その内の一つから、まだ新しい血の臭いを感じて。
嫌な予感を感じながら扉をノックする。
中から返事はあったか、否か。
何れにせよ、開けますよ、と声をかけて扉を開け。
その先の光景に、しばし、息を飲んで立ち尽くした**]
―朝/宿屋/個室―
[ゲルダが無事二人を迎えられたか気にしつつも、食堂を後にしたのは、無理はできないとゼルギウスが一番佳く判っていたからだ。
薬が効いたのか、胸が痛むことなく貪る眠りの世界は、
妻が傍に在るからか身体の状況に対して、酷く優しい。]
んっ……イレーネ?
―――……イレーネッ!?
[そしてその優しい眠りから覚める切欠も、イレーネという存在。
傍らにない温もりに気がつくと、名を呼び飛び起きる。]
―――……っ!?
[と、ポタリ――シーツの白に散る紅。
薬のおかげか、それとも気が高ぶっている所為か、痛みはないけれど。
ぐっと喉が鳴る、うちから競り上がってくる感覚に、慌ててシーツを剥ぎ、口元に添えた。]
もう、あまり時間、ないっぽいなぁ。
[吐ききってしまった後、紅に染まったシーツを、同じ色の眸で見る。
ライヒアルトの佳く効く薬も、それは痛み止めであり、根本的な治療とはならない。
汚してしまったシーツの行方を思案して、どうしようもなく、一先ずベッドの下へと放置した。]
―朝/宿屋/ユリアン個室前―
[廊下に出ると血の匂いが濃厚に漂うのは、2つの血の匂いが混じるから。
昨夜殺されたカルメンの、それより後の時間襲われたユリアンの。
カルメンの死を識ることが出来ていなかったのは、彼女の死が、夫婦が部屋に戻った後の出来事だからだろうか。
ゼルギウスの脚は、迷うことなくより濃い血の匂いのする方へと焦り走る。
心裡、昨日アーベルとベッティが真っ直ぐにブリジットの部屋に行くを疑ったが、血の匂いを理由にあげられれば、なるほどと謂わざる得ないと、探すという立場になって思う。]
――……イレーネ!!
[果たしてそこに妻の姿があった。
あがった息を整えると、動かぬ妻の傍に寄り、背後からそっと抱き寄せた。]
もう、心配したんだよっ
[此処最近、当人比押さえていたスキンシップを、もう控えることはしない。
――……自分の先が、見えてしまったから。
イレーネを背後から抱きながら、紅は無残な姿となったユリアンを見る。つっと細くなる紅玉は、どこか羨ましそうに亡骸を映した。]
『 ご め ん ね 』
[音にならない唇の動きは、誰に対しての謝罪だったか。
背後から抱いていれば、その唇の動きは妻にも読み取ることは*出来ずに*]
[見栄を張っていても、昨夜はどうにも起きておくことが出来ず。
気がつけば深い眠りに堕ちていた。
それが優しいものであったのは、寝る間、グラォシルヴが白銀に触れていたからだろう。]
グラォ?
[その眠りから覚めて、個人的一騒動あってから、赤の声でも呼びかける。
声が聴こえることから、彼女の無事は識れども、その言葉の内容からこの時間に獲物を喰らいそうになっているのではないかと……―――闇が護らぬ時間にそれは拙いと、慌てて血の匂いを辿りその場に寄った。]
もう、びっくりしたよ。
お腹すいたなら、私に構わずに、
夜リヒト君と一緒に行けばよかったのに。
[ぎゅっと背後から抱きしめて謂う。
つっと紅がユリアンを映す。
紅玉が羨ましげに揺れたのは、どうせ死ぬならば、
2人の糧になりたいとそう思うからか。]
『 ご め ん ね 』
[音にならない謝罪。
それは、今はまだ音に出来ない*謝罪でもあった*]
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