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―アーヴァインの部屋―
[踞る者と傍に立つものの姿が見えた。開け放たれた扉の中からは、微かに香る錆鉄の匂い。
自分は知っている。もう何度も現場に足を運んでは、かいだ事のある、血の臭い。シャーロットとの出会いにも、その臭いは満ちていた。
シャーロットがついてきていたなら、絶対に中に入るなと、この時ばかりは強く告げて、自身は部屋の奥へと踏み込んだ。]
っ、………アーヴァイン卿。
[凄惨な現場に、驚きながらも顔色が変わらないのは慣れのためか。
それでも背に薄く汗をかき、拳は強く握られる。]
人狼の……。
[仕業だろうなとは、その死体の有り様が*物語っていた*]
―二階・廊下―
[途中で擦れ違った少女から、主の名が紡がれるのを聞く。
眉を顰めたのはその様子からか、微かに漂う違和からか。
兎角只事ではないことだけは、要領を得ない言葉からでも判る。
礼もそこそこに、主人の部屋へ向けて足を早めた]
失礼。
[墓守は主人の部屋の前に蹲る影に状況を問うことはしなかった。
此処まで来たならば、中を見た方が早い。
だから断りだけを入れて、扉の前に立つ。
隣の使用人が、ひっと引き攣った声を上げた]
―主人の部屋―
[凄惨。
そんな言葉では表しきらない程の主の顛末を、墓守は暫し無言のまま見遣った。
その傍に立つ青年に気がつくのは、少し経ってからのこと。
彼に一礼をして、墓守もまた部屋の中へ入った]
人狼ですか。
[青年の言葉を聞いたか、それとも自らで判断してのことか。
声色は常の低さを保つ]
埋葬は無理ですね。
まだ地面が緩い。
[淡々と紡ぎながら、散らばった主の断片を素手で拾い集める。
辺りには血の臭いが充満していたが、嫌な顔一つしなかった]
―アーヴァインの部屋の前―
[ユージーンとハーヴェイがやってくるのに気付いたけれど、ラッセルの側を離れずに様子だけを伺う。
惨状を見た二人がそれほど動揺していないように見えるのは、職業ゆえだろうかと考えて。もっとも背中からでは表情までは伺えない]
……人狼?
[聞こえてきた言葉を拾い上げる]
これが…人狼の仕業…?
[人狼の存在は知っている、だけど目の当たりにしたのは初めてで。
何かしなくてはと思うものの行動には*移せないまま*]
嗚呼、すみません。
此処は片付けますので、離れて頂けますか。
[本来なら真っ先に言うべき筈の言葉が出たのは、それからだった。
青年と、外にいる二人と、他の客人もいたなら彼らにも促して]
御客人の手を煩わせるわけには。
[誰かから手伝いの申し出があればそう答えるが、強く拒みはしない。
そんな調子だった為、共に来た筈の使用人の姿が何時しか消えていることに、墓守は未だ気付いては*いなかった*]
[足音とかはあまり強くは聞こえなかった。
しばらくの間、少し曲がった指でぐるぐる遊んで、窓を見上げる。]
――…あれ?
[窓の外が、雨以外の色を見せていた。
白、黒。下の方は見えない。]
なんだろ?
[声は上からだった。
下は知らない。
立ち上がって、広間から出てみる。]
[玄関の方に行ってみた。
扉を開けてみた。
火の爆ぜる音が聞こえる。
女の騒ぐ声が聞こえる。
油でも引いたのか、とか、そんなことはわからない。
吊り橋が赤い。]
…???
あれ???
火事?
[雨は止める力を持たない。
風が炎を巻き上げる。
空には白と黒の煙があがる。
色々と案内をしてくれた人が、煙の向こう側にいる。]
[動けないうちに火の勢いが増した。
吊り橋の向こうへ渡る、騒がしい声は、開いた玄関の扉から館の中へと入っていく。
扉の前に立ったまま、誰かが来たら、こう言うだろう]
案内してくれた人がね。
あっちに行ってるのは見たよ。
[指差すのは、崖の向こう。
火を付けられた吊り橋が落ちるのは、いつだったか。どちらにせよトビーの*目の前で*]
─アーヴァインの部屋前─
[駆けつける数名の足音。
声をかけられても苦しさに返事が出来ないで居た。
ただ震える右手でアーヴァインの部屋を示し、左手で胸元の服を握り込む。
部屋の中を見た者達により、事態は他へも伝わって行った。
少し後に傍で弱く名を呼ぶ声がする。
苦しげな表情を浮かべながら、その人物を瞳に映した]
……にー、ちゃ…は…ひつじ……。
おおかみじゃ、ない……。
[傍に居たギルバートを眼にし、小さく呟く。
彼の背後に浮かぶ白い影に、幾許かの安堵を覚えた。
ああ、触れていたのはこの人だったのかと。
気付かぬくらいの掠るような接触だったのだと、刹那に思う]
………ギル、も、ひつ、じ………。
[零れた声は掠れた小さなもの。
過呼吸のような、ひゅ、と言う呼吸音を漏らしながら、縋るようにギルバートに対して手が伸ばされる。
触れるを拒むラッセルが、求めるようにギルバートの服の一部を*握った*]
[庭の片隅にある枝振りの良い大樹の下、そこから何か重量のある長い物が風を切る音が幾度も聞こえる。雨の当たらない(さらに屋敷の者に迷惑が掛からない)場所を選んで素振りをしていたのだ]
…はて。
何やら屋敷の方が騒がしゅうござるな。
[ふと聞こえてきたかすかな騒ぎ声に一旦振り上げた刀をそのまま降ろし、手拭いで汗を拭いて戻り支度をする。]
童っぱが何か悪戯でもしたのであろうかな?
[何かただならぬことが起こったような、そんな不安が胸の内に広がるのを感じつつ、あえてそれを打ち消すようにひとりごちる。だが口を出た言葉とは裏腹に、いつの間にか彼は屋敷に向かって走り出していた]
―庭→玄関前―
[屋敷に戻ろうと玄関に向かえば、そこには目を疑うべき光景が広がっていた。この屋敷と外の世界を結ぶ、たった一つの吊り橋が燃えている…!]
井戸はっ…!?
[手後れなのは一目でわかった。暗い景色の中に一際鮮やかに踊る豪火は、明らかに失火などではない。]
童っぱ!これは一体どうしたことでござる!?
[玄関の扉の前にいるトビーに気付き、叫ぶように問い掛ける。彼が指さした方を見れば何人かの使用人が燃え尽きんとする吊り橋の対岸にいるのに気付く。]
彼らが…火を?
しかし、何ゆえに?
[彼らが吊り橋を燃やしたのは明らかだ。この燃えようでは、燃えるのに気付いてから渡るのは不可能だろうから。だがそれが分かったところで何になろう。自分達はこの屋敷に閉じ込められてしまったのだ。
彼が呆然と見ている前で、吊り橋が*焼け落ちた*]
なんでかは、わかんないけど…。
あ、アーヴァインさんが死んだって、さっき言われたよ。
何人か、見に行ったんじゃないかなぁ。
ラッセルさんが叫んでたんだ。
[名前なんだっけ、というような顔をして。
人狼と聞いていたなら、その言葉も伝えられたかもしれない。
ただ、周りに人が集まってきたなら、そちらの人に説明は任せることになるだろう。]
それでなのかなぁ?って思うけど。
人が死ぬのって、そんなにないことなの?
[親しさとかそんなものはわからなくて、ただ、マンジローを見上げて*問いかけた*]
―アーヴァインの部屋の前―
[使用人が駆けて行くのは連絡を取るためなのだと思った。だからそれほど気には留めない。
少し騒がしくなったことに気付いたのか、ラッセルが動くのに気付いて。こちらを見るのに小さく声を掛ける]
大丈夫か?
[問いかけへの返事は返らずに、ラッセルが小さく呟く。
あぁ、また誰かと間違えているんだな。そう思うと呟きに自分の名が混じって、その表情が少しだけ変わるのに気付く]
ひつじ?俺が?
[問い返しては見るけれど、ラッセルはまだ苦しそうで。
縋るように服を掴むのに少し驚く。誰かと間違えているのだろうと思う。
だけど、それで少しでも落ち着くならと膝をついて、服を掴む手に触れる]
[そう長い時間ではないと思った。
ユージーンから声を掛けられて、手伝いを申し出ようとしてやめる。
それよりも、ラッセルをここから離した方がいいと思った]
ラッセル、立てるか?
下に行って水をもらおう…な?
[ラッセルが承諾したなら手を貸して、そうでなくても説得はして。
吊り橋の異変に気付くのはもう暫く*後のこと*]
―客間・回想―
[窓の外に人影は見えなかった。
其れでも不安は消えることが無い]
『監視下から外れられるのは困るのだよ』
『始末出来てしまえば早いのに』
[黒服の男達の声が甦る。
連れ込まれた時に捩られた腕が痛い]
『機を図ってお逃げなさい』
[母のこえに従って夜会から逃げ出した。
如何すれば好いのか分からぬまま衝動に突き動かされるまま飛び出したが斯うして捕まってしまった。
逃げなければ。逃げなければ。逃げなければ・・・・・・]
―回想―
[真逆二階の窓から抜け出したりするとは思わなかったらしい。
自分でも出来ると思ってなど居なかった。
其の後何処を如何辿ったのかも憶えていない]
『山のお屋敷』
『アーヴァイン様を尋ねて』
[隠れていた物陰から噂話を聞く。
運が良かったのだろうか聞いた名前だ。ならば其処に行けば好い。
暗くなるのも構わずに山へと踏み入って・・・・・・]
[名を呼ぶコエが聞こえる。
未だ少しぼんやりとして居たがインサニアのコエに目を瞬いた]
大丈夫。
二人居るから元気。
[深く息を吐いて纏いつく嫌な感覚を振り払った]
―客間―
[短くない時間寝具に包まって居れば震えも収まった。
深く息を吐いてゆっくりと寝台から出て部屋内を見回す]
呼び鈴は無いのね。
[綺麗に畳まれていた衣装を手に取る。
如何にか着替えた所で部屋の扉がノックされた]
キャロルさん。
お早う御座います。
[鍵を外すとそこには踊り子の姿があった。
曲がっているリボンを直してもらったりするだろうか。
他の客人は既に朝食を取っていると聞いて広間へ向かうことに]
―廊下―
ハーヴ様がそう。
ええ、本当はその通りです。逃げ出して迷った末に辿り着けた此方で保護して頂きましたの。
お招きを受けて船旅をして来たのですが、滞在先に他にもお客様方がいらっしゃって。どうも雰囲気がおかしいと母に勧められて…。
[二人でいる間にと尋ねられ肯定を返した。
その説明の途中で叫び声が響き渡る]
な、なに。
[咄嗟にキャロルにしがみ付き震えた]
―廊下―
[直ぐに何人かが悲鳴の元へ向かおうとやって来た。
震えて居るのが見えたからだろうか。広間へ行くのを勧められた]
…はい。
そうさせて頂きます。
[只事で無いのだろうとは叫びの凄まじさから容易に想像出来た。
邪魔にならないようにと其の場から離れてゆく。
キャロルが事態を気にしているようなら手を離して一人でも大丈夫だと*言っただろう*]
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