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―広間→自室―
――。
[呼び止められて告げられたある種の意思表明にこれは驚いたな、と少し余裕を装い―]
もてる男はつらいねぇ…
[そんな風に冗談を残して広間を後にした。
2階へあがって自室へ入ったなら、薄く笑っていた口元からは笑みがすっと消えた。
そして、後ろ手で閉じた扉にもたれかかった]
…すまん。
[詫びる言葉は、いずこへ向けてのものか]
[見上げていた首を戻してから、広間を去る者は軽い挨拶と共に見送った。
その後は常と変わらぬ量だけの食事を進めて行くが、エルザの姿を見て一度手を止めた]
…話すべき、かな。
[口の中で呟く。
微かな熱を帯びる対の花を、服の上からそうと撫でた。
けれど結局、その機会が訪れることは無く]
……爺さまにも、言われました。
素直なだけじゃ、駄目だ、……って、父さまは言っていた、けれど。
[頭を叩かれて顔を俯かせながら答える。
父のことを思い出して曇りかけた表情を、意識を食事に向けることで消す。
お仕置きされる人物に関しては、頭に入っていなかった]
……そ。
フォルじゃないなら、構わないよ。
[人の意識に獣の意識が割り込んだか、それとも獣の意識に人の意識が割り込んだか。フォルカー以外であれば誰を襲っても構わないと、そう言えるほどに考え方は歪なものへと変わっていた。自室の斜め向いの部屋の扉が閉まる音を聞いた]
─二階・自室─
[部屋に戻ると濡れたタオルを干して、着替えた服を荷物の奥へと押し込む。ついでだからと、備え付けの小さな暖炉に火をつけ、部屋を暖めておくことにした。今入れた薪が燃え尽きても、しばらくの間は暖かさが残ることだろう]
…腹減りには逆らえないよね。
[広間に戻るのも気拙かったが、空腹には負けて。若干濡れた髪のまま、また広間へと戻ることにした。部屋へと戻ったハインリヒとは見事に入れ違ったらしく、顔を合わせることは無かった]
―翌朝/自室→エルザの部屋―
[ハインリヒに想いを一方的に告げた後、台所でパンやドーナツ、薄焼きクッキーなどを作って。
明け方に台所から戻ってきて眠りについた時には、まだエルザの息はあったのだろうか。それとも、すでに手遅れだったのだろうか。
ふと。隣の部屋が騒がしい気がして、目を覚ました。
窓の外をみれば、太陽の位置はまだあまり高くない。いつもならまだ眠っている時間だろう。
どうかしたのかな、と眠い頭で首を傾げながら。
簡単に着替えを済ませ、すぐ隣のエルザの部屋へ向かった]
―翌朝/エルザの部屋―
…………え……るざ、さん?
[床に広がる血の朱。
その中に仰向けに倒れているエルザと、エルザの肩を撫でているユリアン。
何が起きたのか、すぐには理解できなくて――否、理解したくなくて。
呆然と呟いて、数度瞬いた]
……ーーーーー!!
[状況がようやく理解できれば、言葉にならない悲鳴を上げた。
最初の犠牲者のときも、ギュンターの時も、話でなら亡くなったその状況も聞いていたけれど。
話に聞くのと、実際に目の当たりにするのとでは、まったく違う。
悲鳴を上げた後、ほかの誰かが来るのが早いか。それとも、許容量を超えた状況に頭の中の安全装置が働くのが早いか。
その状況に耐え切れず、扉に凭れるように、気絶するだろう**]
─ →広間─
[広間へ向かうと、まずハインリヒが居ないことに少しだけ息を吐いた。また何か言われるかと、少し警戒していたために。ご飯が出来ていることを知ると、いつもよりは少なめに、食べやすいスープなどを中心に貰い、腹を満たして行く]
[遅々として食事を進めていると、幼なじみが戻ってきた。
あ、と小さく声を上げ、隙を見て、彼女に小さく問いかける]
……レーネ。
今朝、……………何、言おうとしたの?
[疑問の内容は、己が誓いを口にしたときのこと。
感謝の前、消えた言の葉。
答えが得られようが得られまいが、口数は少なく、食べ終えた後には自分で片づけをして広間を後にする]
[自室に向かう前に自衛団員の一人を捕まえて、父の――村長の真意を問うた。
答えは「村長は自衛団の判断に同意した」と、ただ、それだけだった]
……そう、ですか。
[教えてくれたことには礼を言い、唇を噛み締め、部屋へと戻った]
―二階:自室―
[室内に入ると、先ずは備え付けの暖炉に火を点した。
荷物の中から取り出したナイフは小さく、護身用にすらなるか怪しかったが、鞘に収めたままポケットに入れ込む]
……………、
[上着を脱いだだけで眠る支度はしない。
寝台の上に腰を落ち着けると、首元から外したブローチを両の手で握り込んだ]
……エーファ、今度こそは、
[祈るにも似た姿勢で呟き、*視界を閉ざした*]
ああ、少しは信用してほしいものだね。
俺は一応、イレーネのこと仲間だと思って大事にしてるつもりだぜ。
[それは冗談なのか、本気なのか。
部屋の中でささやきかけるコエ、そして皆が寝静まるのを静かにベッドに横になり待った。]
―自室―
[その日はそのまま自室に戻りベッドに横になる]
何事もなく、ずっといけるのが一番なんだけどな…。
[呟く声、その願いはかなわないことだと、すぐに思い知らされるのだが]
[夜、皆が寝静まった頃に部屋を静かに後にした。
向かうのはエルザの部屋、場所は知らなかったけども匂いでわかった。
獣としての意識と共に、力が強くでているせいだろう。]
ここだな…。
[音を立てないように廊下を歩き、ドアを開ける。
中には寝たままのエルザの姿、その姿を見ていると心の中で何かがはじけた]
はははは。
[思わずもれ出る笑い声、口の端が持ち上がり。
ドア閉めながらすばやく近寄る。]
[異変に気付き、エルザが目を覚ます。
こちらを見ると何でというような表情を向けていた、気がする。
声を上げるよりも先に、その喉を裂いて、記憶に残るのは血の赤と、そのご馳走を目の前にした感動のみ]
悪いな、腹が減って…うずいてしかたがないんだ。
[エルザに襲い掛かり、床に押さえつけて、その肩口に食らいつく。
口の中に甘美な味が広がりそのまま首を絞めて殺した。
何度も肩の部分を食いちぎり租借する、そのたびに腹と心が満たされていく]
はぁ…、この感じ……たまらない…。
[暫く、赤に染まった部屋に佇み余韻に浸る]
ああ、いつまでも…いられないな。
[血に塗れた靴を拭き、部屋を後にすると自室に戻り着替える。
脱いだ服は丸めて荷物の中に入れた。後で機を見て処分するなりしようと。]
―翌朝・自室―
[翌朝目覚めると、ぼさぼさの頭をかく。
すっきりとしない、目覚めの悪い朝]
はぁ……。
[ため息を付きながら身支度を整え、部屋をでると開けられた扉にもたれかかるようにローザが倒れていた。]
どうした?
[嫌な予感がしてそちらに駆け寄る。]
―翌朝・エルザの部屋前―
[近くによると鼻に付く匂い、部屋の中を見ると]
……っ…。
[エルザにすがるユリアンの姿、部屋いっぱいに広がる赤い……、
その状況からエルザがもうこの世にいないことは見て分かった]
ユリアン…。
[気遣わしげにそっと声を*かけた。*]
─広間─
[もぐ、もぐ、と食べるペースは遅い。不意にフォルカーから訊ねられると、ぇ、と小さく声を漏らした]
……………。
[しばらくの間、言うかどうかを迷う。長めの沈黙の後、口にしたのは]
……前に言った”絶対”が、出来なくなりそうな、気がして……。
あれだけ大口叩いたのに、出来ないってなったら、フォルに嘘ついたことになっちゃうから。
それで……。
[言おうとして言えなかったのだと、そう告げる。それはあの時言おうとしていたことの半分だけ。残りの半分はまだ、隠したまま。答えた後はお互い口数少なく、黙々と料理を口にする。フォルカーが広間を出た頃に食事を終え、使った食器を片付けた]
―翌朝―
[いつの間にか、少年は意識を失っていたらしかった。
気怠さを覚えながら身を起こし、手のうちのブローチに目を落とす。変わらずにある赤色に漏らしかけた安堵の息は、咳に取って代わる。幾度か繰り返したあと、胸を押さえながら寝台を下りた]
だい、じょうぶ――… 今日は、でも、
[蘇るのは自衛団から下された通達。
見つけないと。
呟き、若干ふらつきながら廊下へと出て行き、]
……………?
[違和感を覚えた。
歩んでいくと、階段のすぐ傍、開いた扉の一つに気付く。内へと向けた眼差しが捉えるのは、兄のように慕う青年の姿と、周りを彩る、異質な色彩]
ユリにい――……………
[か細く名を呼び、室内に一歩、足を踏み入れる。蹲る青年の影に隠れ、よく見えなかった、色彩――生命の赤の持ち主が誰であるかは、そのときに知れた。
命を奪われた女の名を象ろうと唇が動くが、音にならない]
――……………っ、
[元鉱山夫の時も、自衛団長の時も、死を、しっかりと目にしたことはなかった。
凄惨な光景に息を飲み、口許を押さえる。
咄嗟に振り返った先には流れの修道士が居て、彼にぶつかりかけた。
そのとき、ライヒアルトがどんな反応を示したか、少年は覚えていない。
遠かった]
人、狼、
……………れても、……さなきゃ、意味な……
[自衛団を呼ぼうとしてか、階下に向かおうとした黒衣の背を見つめ、無意識に呟きを漏らす。聞きつけ、足を止めた彼へと、足は動き、手は伸びていた。
普段の少年からは考えられない力で持って突き飛ばす]
[その直ぐ先は、階段だった]
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