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……あら、猫さんに、ヨハナの御婆様。
[近づく姿と声に、伏せていた目を上げてそちらを見る]
ええ、もしかしたらエーリがいるかな、と思って。
ちょっと、遅かったみたいなのですけどねぇ。
この匂いは……お鍋が焦げてしまったそうです。
…そうか、坊は行っちまったかい。
忙しない子さね。
何か、聞いちゃいない…かねェ。
[間に合わなかったと言う言葉に溜息を付き、腕にかけた籠が軽く揺れた。薄茶猫はトンガリ帽子の飾りの赤と白い鳥を狙う仕草]
鍋は残念だったねェ…って事は、アーベルはいたのかい?
ボクが着た時には、ちょうど、窓が割れる所でしたから。
[ため息をつく様子に、申し訳なさそうな表情を覗かせる。
白の鳥は猫の仕種に警戒中]
ええ、アーベルさんは中に。
エーリとも、お話されていたようですよ。
今は、エーリを探しているそうなので、ボクは邪魔をしないように、外に。
…見事に割れてるねェ。あそこから逃げたって事かい。
少しでも話したなら聞かせてもらいたいもんだが、
[ミリィの説明に頷き小屋へ入ろうとし、邪魔と言う単語に止まる]
ふゥむ、それなら出てくるまでちィと待つかね。
そういやお前さんはアーベルから聞いちゃいないのかい?
知ってる分だけでも話してもらえると坊を止める手掛かりになるかもしれないんだがなァ。
[立っているのも疲れたのか、切り株によいしょと腰掛ける。
猫は赤か白か悩んだ末、珍しい方――つまり赤のリボンを狙う事にした。姿勢が低くなり、ちりりと涼しげな音が鳴る]
おやめ、ツィムト。
着地し損ねても、わたしゃ今は助けてやれないんだからね。
[紅のリボンを狙っていたらしき猫の様子に、あららぁ、と暢気な声を上げ。
問われた言葉に、先ほどのやり取りを思い返す]
聞いたのは、簡単な事なのですけれど。
エーリが、人間不信で、愛情不信らしいとか。
アーベルさん自身も、はっきりとした事は聞けてなかったみたいですねぇ。
[話しつつ、腰掛ける姿に心配そうな視線を向けた]
[心配そうな視線に気付き、大丈夫とばかりに腰のせいで俯きがちな顔を上げる]
人間不信に愛情不信ねェ…坊は愛されとったと思うんじゃがなァ。
だが、結び付きが深ければ深いほど、置いてかれる方は辛かろゥ。
[祖父との思い出が詰まっているだろう森番小屋に目を向け、目尻の皺が深くなる]
……坊は墓前で、人は儚いと言ってたよ。
わたしですら小さかったのにって子供の頃の背を示してなァ。
わたしゃもう、残していく側だからねェ。
坊の気持ちは判ってやれんのだろうなァ。
じゃが、残していく方の気持ちは判る…わかってるつもりさね。
[枯れた茸の作る円。その内側は虹を切り取ったような鮮やかな色彩の結晶に彩られる。
妖精の踊った跡と言われるものを模した“それ”は、異空間への口を開けたままで、ひどく不安定になっていた。
一度落ちれば、戻れるかわからぬ深い穴のように]
……この件が一段落したら、ゆっくり湯治しましょうねぇ?
[今はそれどころではないけれど、と笑って。
続いた言葉に、微かに目を伏せる]
……置き去りは、寂しい、ですねぇ。
置いていく方も、置いていかれる方も。
[何か、思う所でもあるのか、ほんの一瞬、陰りは深くなり]
人は、確かに儚いですねぇ。
永い時を生きるひとは、皆、そう言います……。
[メモに円を描き、ことばを口にする]
[エーリッヒの居場所を]
[片耳のピアスを引き換えに、魔法の力が飛んでゆく]
――林檎好きなんだね、エーリ君は
[彼には力が伝わったに違いない]
んん、行こうか。
ピアスちゃんともう一つつけてっと。
[部屋に戻り、新しいピアスを耳に]
[それから外に出ると、ヨハナもいた]
あれ、おばあちゃん。おはよう?
腰はだいじょうぶ?
[湯治という声に微かに笑って、ミリィに視線を戻す。
微かに目を伏せる様子を婆は静かな目で見ていた]
しかしなァ、限りあるからこそ人は精一杯生きるのさね。
いつ死ぬか判らんから、わたしゃ美味い菓子を作って食べたり食べさせたりしたいんじゃし。
果実にしろ何にしろ、何時でもあれば逆に作らないだろうなァ。
[妖精王のお陰で空になった籠を置いて、ゆっくりと腰を上げる。
前掛けのポケットの中で偽虹の天使が微かな音を立てて転がった]
まァ何にせよ当の本人ひっ捕まえんことにゃ話も出来ないさね。
わたしの頭が錆付いてるんじゃなきゃ、多分いつかはあそこに戻って来ると思うんじゃが、さて。
そうですね。
……限りあるからこそ、なのですよ、ね。
[ヨハナの言葉に小さく呟いて、こくん、と頷く]
そうですねぇ、まずは話をするためにも……あら。
[直後、小屋の扉が開いて、青年が姿を見せた]
あ、アーベルさん。
エーリ、見つかりましたかぁ?
ぜんぜん大丈夫そうに見えないよ
大事にしなきゃね。
ミリィちゃんが、ちゃんとあとで治療するでしょう?
[尋ねてから、指をさす。]
えっとね、エーリ君あっち。
林檎の方だよ
[見えない何かの近付く気配。
手を伸ばすと、ぱち、と弾けるような感覚]
……嫌いだって言ってるのに。
[指を舐める。
長めの金糸が目にかかり、頭を振って払った]
[知ってはいる。
嫌いなことを、他者にさせているのは自身だということを。
矛盾している、ぐるぐる回る。
初めのときに楽しいと思ったのは確かだったのに。
いつからこういう心を識ったのだろう]
あァ…やっぱりそこか。
[溜息を付いて、二人を目だけで見上げる]
……たぶん、その林檎の樹が、坊さね。
初代の林檎の森番さん…アンネリーゼさんに連れて来られたと、そう言っとったから。
[籠をその場に置いたまま、迷いの無い足取りで歩き出す。だがその速度は遅く、薄茶猫がすぐに先導するように前に立った]
[治療する、という言葉には、しっかりと頷いた。
それから、指さされた方を、見て]
林檎の方、ですか。
それじゃあ、行ってみましょうかぁ?
[帽子を被りなおしながら、いつものよにのんびりとした口調で言って。
そちらへ向けて、歩き始める]
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