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ええ。丁度先程、楽譜を書き終わったところで。
…夢中になるといけませんね。
[もう一度苦笑を浮かべ]
…ああ、こんにちは。
[掛かった声に振り向けば、知った顔が一つ。
軽く頭を下げて応えた]
― 図書館 ―
[書庫の外は、読書のための小部屋が連なっている。書庫に保管された本は、自由に持ち出せるものではなく、司書の手を介して希望するものに貸し出され、この小部屋で読むことになっていた。持って帰ることは出来ないが、内容を書き写すことは自由。数日かけて丸ごと一冊書き写していく者も居ないではない。ちなみに司書はここに住んでいるから、一年中図書館は開いている]
・・・・・
[しかし昼間は働く者の方が多く、今の時間に図書館への客は少ない。男はくちゃくちゃと口を動かしながら、読書室から建物の外へと通じる扉を開けた]
よぅ。ユリアン…続々とだな
[とはいえ、立地も中央。近くには大衆食堂もあるし、水もある。
何かあったとき集められるにしても、単なる通り道としても。と不思議ではないが]
いや、集まってるのは偶然だな。俺は水汲み。そっちは?
[ミハエルにしたように軽く桶を叩きながら言ってそちらは?と見遣る]
は?…人がとんだって…
[とりあえずエルザに何かあったというわけでもないかな。とさりげなく思いながらも。内容に間の抜けた顔をしながら、指が指された方に視線を向ければ]
納得した…で、やっぱ落ちたのか
[それはエルザに聞いてるようなユリアンに聞いているような]
[歩いて行く道すがら、すれ違う人たちの挨拶に軽い調子で返して行く。
先代の『絵師』は厳格な雰囲気の人だったが、当代たる彼はいつもこんな調子で。
先代を知る人々からすると、自覚がないように見える……と、長に釘を刺された事は幾度もあったが、その小言の効果は未だにない。らしい]
格式ばったからって、どうなるもんでもないと思うんだけどなぁ……。
[暢気にそんな事を呟いていたら、横合いから飛び出して来た子供とぶつかりそうになった。
完全に意識していなかったためか、すぐには止まれず]
わたとっ!?
[道が緩めの傾斜だった事もあり、まともに後ろによろめき、転んだ]
― 図書館入口 ―
[相変わらずくちゃくちゃと口を動かしながら、扉にもたれるようにして辺りを眺める。少し離れた広場に若いのが数人たむろしているのが見えた]
どいつもこいつも暇なのか?
[ぼそりとつぶやいてから欠伸]
[そして]
…飛んだ?
[続いた言葉に訝しげな顔をして、指差された先、ユリアンを見た]
あれ。
もしかして、成功したんですか?
[彼が気球研究家を自称していることを知っていたが故に勘違い発生]
……ってて。
あー……大丈夫大丈夫、なんて事ないから。
[こちらが誰か気づいて青くなる子供の様子に、苦笑して]
でもなぁ、いきなり飛び出すのは、危ないからなぁ。
広い道に出る前には、一度止まって、左右を見る。
『絵師』のおにーさんとの約束なあ?
[笑いながら言って、頭を撫でてやると、子供はほっとしたような表情でこくこくと頷いた]
うん、聞き分けのいい子だ。
飴ちゃんをあげよう。
[何故そうなる、と突っ込まれそうな理屈を展開しつつ、蜂蜜を練った飴玉を一つ、子供に渡して、駆けていくのを見送った]
楽譜を書く…か
[ミハエルの言葉に。それはどういう作業の連なりでできるのか。少し考えてみた。…すぐ諦めた。]
そうか。気づけた辺り無茶までしてないならいんだが、今度聞かせてくれよ。
[そういえばミハエルの兄も夢中になると寝食が滞るとか聞いたことがあるような。と思うとやはり兄弟なのだろうと思ったとか]
[掛けられる声によっと挨拶を返すが、指差されて飛んでたとかやけに納得されて落ちたのかとか言われて]
ちょっ!?
飛んでたとか落ちたとか酷くね!?
……いや、そりゃ宙を飛んだし、当然重力ある訳だから落ちたわけだけどさ。
[オトフリートがこちらにやって来るのに、軽く首を傾げ]
相変わらず、っていきなりだなぁ。
[呆れた一瞥に、ややむっとしたようにこう返す。
立ち上がらないのは、打ちつけた部分が痛いからなのは、恐らく一目瞭然]
[そして、ミハエルの言葉にうっと言葉を詰まらせると]
ああ、ええと。
それは、その。布の縫合とか、もう少し軽くて頑丈な布とか。えっとそのつまりは……
…………またです、ごめんなさい。(ぼそ
[汗はダラダラ。
目線はそこらの魚にも負けないほど泳いでいる。]
あらぁ、酷いのかしらぁ?
それはごめんなさい?
[ユリアンの言葉にも満面の笑みを浮かべた侭
悪びれぬ風に顔をそちらに向けて首を傾けた。
セルシアンブルーの長く伸ばしっぱなしの髪が
肩から落ちて、揺れた。]
でも事実なんだろ
[笑みをたたえ頷くエルザに合わせるように頷いて、あっさり言う。飛んで、落ちた。気球を作っていると知らないものにはさっぱりであろうが知ってるものには至極わかりやすいが]
で、大丈夫だったのか?……誰かの上や誰かの家に落ちたりしなかったんだろな?
[幼馴染だからか、心配はまずはそっちらしい]
食事は欠かしてませんからね。
[アーベルにはそう言った。
一日一食であったり、時にはクッキー一枚だったり、殆ど「一応」と言えるレベルではあったが]
ええ。後から弾いてみて、音を調整して…
近々お披露目できると思いますよ。
[やることを指折り数えてから、嬉しそうに頷いた]
[立ち上がれない様子の絵師に、視線はますます冷たくなる]
事実を言ったまでだ。
[くちゃり、と蜜蝋を噛むと、絵師の腕を問答無用で引っぱりあげる。痛がろうがおかまいなし]
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