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[終焉。
己が発した疑問を切欠に、頭上で飛び交う話題。
物思う瞳は何も語らずにいたが、
話題が収束する頃、顔を下へと向け、
伸ばした爪先を弄びながら呟きを落とす]
終わりの刻の為に、選ばれた。
それは、誰の為で、何の為で。
[言葉の群れから、一つ一つを掬い取る。
けれど、掴み取れはしない。
音もなく、滑り落ちていく]
……やっぱり、よく、わからないね。
[疎らに人の散りゆく室内に、視線を走らせる。
薪の爆ぜ、朽ちていく音が鼓膜に響く。
焔を生み、黒く染まり、潰えるさまを見送った]
分からないけれど。
滅ばないなら、壊れないのだろうか。
皆はすぐに、壊れてしまうから。
[戸惑いも憂いもなく、ただ、淡々と]
貴方のような人は、きっと、好き。
こうして話す人も、初めてだから。
[愛を囁くには稚くも無機質な聲が返る]
[傍らに置いていた画材を拾い上げ、
立ち上がり埃を払う]
ん、さみしくなった。
[少なくなった人気に独り言ちる頃、男が一人、入って来る。
名は知らぬから呼ぶことは叶わなかったが、
能面とも異なる、しかし表情の薄い顔を向けた]
この世の終わりは来るか知らないけれど、
あなたの終わりは来るかもしれないよ。
そういう話を、していたんだ。
[ほんの一部だけを拾って、言葉を返す。
直後、僅かばかり眉根が寄った]
……変な臭い。
[瓶が差し出される先、
ソファに身を預ける男へと視線を移す]
美味しくなさそう、薬?
[掠めるような笑みは目に入らず、疑問を発した]
ナサニエル――だっけ。
ナットは、きちんと飲んで、ゆっくり休んでね。
治らないで動けないのは、辛いだろうから。
[様相を暫し見詰めた後、勘違いをしたまま広間を出て行く。
薄暗い廊下を歩む足裏に、古びた城の冷たさが*伝わった*]
知っていれば、俺と関わろうとはすまい。
お前は生まれたての仔と同じだな。
においが……あたらしい。聲も稚い。
[探るように聲で相手の『聴く耳』の縁を撫でてゆく。]
きっと、知らないのだと思う。
全てを憶えているわけではないけれど。
誰もいない部屋――其処に居たから。
[労りの声を発した後、加えられる言葉]
[人には聴こえぬ、密やかな会話]
ナットは、どうだった。
ナットは、昔から、ナットだった?
ああ、聞きたいけれど、今は休んで欲しくもある。
良くなったら、教えてくれる――?
[昔話を強請る子供のように問うて、離れた]
そうなの?
[微か聲が震えた][擽ったそうに]
僕には貴方の匂いも聲も、
よくわからないけれど。
奥底が、あたたかくなる気がする。
[紡ぐ音無き音色に、抑揚が生まれる]
そのうちに。
話そう、お前に――
共に終わる世界を見るであろう、お前に。
すべてを。
[水面に投げられた小石のゆらゆらと沈みゆくごと、男の聲は深く深く底へと沈んでいった。*]
あ゛ーん、俺の終わり?
人形見てえな面して言うことが穏やかじゃねえな。
[薄暗がりで見たシャーロットより格段に表情のないラッセルの言にも大して衝撃を受けず。ナサニエルへ歩み寄り手にした瓶の小さい方を差し出す]
ほらよ、その顔なら自力で飲めんだろ。
[戻す手で自分も瓶の蓋を開け、一口含んで髭面を歪ませる]
くはー、最高に効くぜえ。
変な匂いもまずそうな味も、薬ってなら納得かい?
[ラッセルの方に酒臭い息を吐き、テーブルにあったクッキーを鷲掴んで大口開けて放り込む。噛み砕きながら暖炉に目をつけ、その傍に胡坐をかく]
まあまあじゃねえか。
しっかし何の統一感もねえ連中だな。
一体なんであんたらこんなところに集まってんだ?
[図々しく暖を取りながら上げた声は現状をつかむ為ではなく*単なる興味本位でしかない*]
信頼?
[近付く気配と声に、閉じた眼を開いて顔を上げます。
声の主がどんな表情をしているかは分かりませんから、それが純粋な疑問なのか、皮肉なのかもまた分かりません。
尤も、見えていたとしても分からなかったかも知れませんが。]
信頼は、…分かりません。
でも初対面だからこそ、何も起こっていないうちからいきなり変に疑うのも失礼じゃありませんか。
それに、
[一度言葉を切りました。
人差し指で眼を示しましたけれど、少しずれていたかも知れません。]
わたしは、これですから。
誰も彼もを敵にしていては、生きていけないんです。
さあ……何故でしょうね。
色々と理由は考えられるとは思いますけれど。
[薄く微笑みながら、蓋を開けようと]
ところであなたはここに来る前の記憶をお持ちですか?
此処に居る我々全員、あの森に現れる以前の記憶を持たないようですよ。
[さらりと無精髭の男に告げて、壜の酒を少し含んだ。]
[理由は他にもあったのですけど、それ以上は口にしませんでした。
幾人かが去り、新たに現れた色のひとからはお酒の臭いがしました。
あまり好きな臭いではなかったので、眉が寄ってしまっていたかも知れません。]
分かりません。
[質問には、それだけを伝えました。]
[だから、というわけでは決してないのですけれど。
わたしは杖を頼りに、椅子から立ち上がりました。]
済みませんが、灯を貸していただけませんか。
此処のことを知っておきたいのです。
[番人がいると思しき方向に眼を向けて、尋ねました。
灯があれば色が見えますから、時間は掛かりますが、独りでも歩くことはできます。
危険なものや細かい障害物は分からないので、少し不安もありますけれど。
他人に頼ろうと思わなかったのは、先程の言葉もあったからかも知れません。]
それだから、これからどうしたものかと話し合っていたのですよ。
[指で唇を拭い、]
私も詳しくは知りませんが、自称・番人氏が言うことには、何でも此処は「終焉の地」であるとか…。
[静かにシャーロットから聞かされた話を説明し始めた。*]
[話しながら、杖を持って立ち上がるニーナを不思議そうな顔で見た。
彼女にはものの形が判らないのだということを彼は知らない。]
[木の杖を右手に、差し出された灯を左手に、扉のあるほうへ歩き出します。
背後では先程の説明を繰り返す声が聞こえました。
ふと、視線を感じた気がして扉より少し手前で振り返ります。
青い色が見えました。]
[黒の門の軋む重い音]
[押し開くのに合わせ、鈴が揺れた]
[冷たい外気が膚の熱を奪い、その白さを覚まさせる]
うつくしい月。
[空を仰ぐ姿勢は変えず、緋の靴を道の先に進める]
[纏う緋は徐々に花の緋に紛れた]
[窓から飛び出し、門を抜けて、外へ。
月下の緋色は美しく、しかし、どこか疎ましく]
……は。
いい趣味。
[吐き捨てるよに呟いた後、左の腕を押さえる。
右手の下にあるのは、微かな熱と疼き。
その熱を厭うように、歩みは自然、泉の畔へ]
[月の皓を宿す緋は、現実よりも幻想に近く]
[時折、戯れに女は花弁を引き抜き放った]
――あら。
[泉へ向かう道なりに行くと見える人影]
[リィン]
[鈴の音が存在を主張する]
何処かで擦れ違われましたかしら?
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