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─ 一方その頃、あちら側─
「さて……大体の状況は把握できた所で……どうしたものか」
零れ落ちてきた機鋼の仔竜、その話を一通り聞いた所で、影輝の王は館広間の天井を見上げつつ、小さく呟いた。
空間に干渉し、崩しに行くのは容易いが。
創り上げた力の大きさなどを加味すると、手順を誤ればややこしい事になるわけで。
「ったぁく……ほんとに、竜族は厄介事を持ち込んでくれる」
……大元の大元が何かは、取りあえずおいとくらしい。
「とりあえず、現状こちらからできるのは、安定取り、か。
恐らく、時空竜が一度は無茶を通してくるだろうから、後はそれを安定させてバイパスにすれば、脱出経路の確保はできるだろう」
なんせ、あいつの仔だからなあ、と。
呟く所からして、行動予測の基準は時空の竜の生命の父──影竜王の気質であるらしい。
それもそれでどんななんだ。
「にしても、空間に関する専門家が揃って捕まる、ってのも、一体どうなんだか、ねぇ……」
ぼそり、とこんな事を呟いて。
菓子を食べて落ち着いたのか、うつらうつらしている機鋼の仔竜の様子に苦笑めいた表情を向けた後、影輝の王はふらり、館の外へと向かう。
外に出て、改めて上を見上げる。
ぼんやりと浮かんで見えるのは、『複製』の空間か。
近くて遠い場所にあるそれをしばし見つめた後、天へと手をかざして愛刀・草薙を呼び寄せる。
同時に、具象化するのは貴紫の六翼。
最も力を繰りやすい状態を取り、ふわり、ゆらりと光の粒子を散らしてゆく。
「……ヴィオ、聞こえるか? 聞こえてるなら、返事しろ」
『複製』側にいる、自身の分身へと呼びかける。
その声が自身の元へと届いたなら。
「時空竜に、伝えとけ。
『空間に風穴空けるのは一度で十分、後は、こっちで安定させる。
寝込まれると厄介だから、自重してくれ』」
……こんな指示を出していたとか*いないとか*。
[握られた手から伝えられる冷気には気持ち良さそうに]
んー。竜族は私達より肉体への依存が強い人多いって言うし。
仕方ないのかも?
[自分も良く居眠りするのは棚に上げてます。
まぁ本気で眠るのは力の消耗によることが多くはありますが]
うん、力抜いておく。
[そうして瞼を閉じ休んでいた。
ふわ、と身体から抜けていった何かを強く意識することもなく。
それが同属ではない親しき力に引き寄せられるのも*気付かずに*]
[緩やかに知覚の糸を伸ばす、触れていくのは、様々な感情の波、心の流れ、ある者は楽しげに、ある者は哀しげに、ある者は不安に揺れて、そうして、他ならぬ己自身に向かう複数の疑念。それら全ての感触を楽しみながらも、ふと触れた陽光の精の感情には、僅かに呆れたような視線を向ける]
おや…
[ふいに幽かに感じたのは影輝王の意志]
あちらでも苦労なさっているようで。
[笑みを深めて呟いた]
[やがて、手にしたカップを空けると、足りなくなりそうな湯を沸かしに厨房へと歩み入る]
『しかし、あの方は、探査の鎖も跳ね返してしまいそうですねえ』
[そうなってしまうと、この空間の外に跳ね飛ばされるのは時空竜の方で、それはいかにも面白くないと顔を顰める]
『と、いうか…』
[湧かした湯をきっちりと茶葉を計った大きめのポットに注ぐ]
居眠りしている間にやっちゃうとか、面白過ぎますよ。
[くつくつと笑いながら呟いて、砂時計をカタンと回転させた]
[オトフリート達から粗方の話を聞いて、今置かれてる状況を把握する]
その核になっちまってる奴をこの空間から追い出しゃ皆出られるわけだな。
で、そいつを特定する術とかはあんのかね。
[聞けばオトフリートが読み取る切欠を持っているらしい。情報収集を生業としてはいるが、ここでは接触出来る風精の数も少ない。自分は役立たずかね、と座っていたソファーの背凭れに体重を預けた。それと同時にセレスを追わせていた風が傍へ戻って来る]
……お前はどこ行ってたんだよ。
『えーとぉ……おちびちゃん見失っちゃってぇ。
そしたら変な力感じてぇ……えへv』
えへv じゃねぇよ。
ちまっ子がどこ行ったかはもう分かったから、お前うろちょろしねぇでそこに居ろ。
[風がぷーと膨れたが無視]
[ミハエル達が居る側ではなく、本来の空間で影輝王がきりきりと働き始めた頃。
”空間に風穴を開けるらしい”と聞きつけた翠樹王は花火大会か何かと勘違いでもしたらしく、お茶と菓子を抱えて見物準備を整えていたようだが──
そんな事は知る由もなく、ミハエルは時折ブリジットの頭を撫でたりしながらクレメンスを監視したりしていた。]
そういえば、人間も一日のうち半分近くを眠って過ごすな。私たちにとっては基本的に、肉体の持つ意味は強く無いが……あいつらにとってはむしろそれが自然なのかも知れない。
[当然のようにブリジットの居眠りは計上に入っていない様子で、何となく納得した仕草。(しかし昏倒することは日常的ではないと思われる)
広間から出てまた戻ってきたクレメンスをやっぱりじろじろと見ている。]
[ゆら、と浮上する意識。
探査に力を特化させている時は特にそうなりがちなのだが、夢見はある意味最悪で]
……縁起わりぃ……。
[目を開けるなり、口をついたのは、そんな呟き]
[影輝王の分身たるふわもこの上げた声に、ちらと目をやり、唸り声をあげた時空竜にも笑みを零しつつ、黙って新しい紅茶をいくつかのカップに注ぐ]
熱いお茶でもいかがですか?皆さん。
[氷精の不信まみれの視線にも動じず、にこにこ]
………?
[現実との通信中とは知らず、微妙に真剣な雰囲気に瞬きひとつ。
声を掛けるも憚られつ見守れば、ふわりと紅茶の香りが届いた。
視線を流せば、心の魔の姿。僅かに眉を顰める]
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