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何か、出来るならば。
そう例えば力を渡す事が出来るならば、幾らでもするのですけれど…
何も出来ない自分が歯痒くてイライラします。
[アーベルの言葉に、少し困ったように眉を下げて首を傾ける。
精神の竜には、苛々して刺々しくなる心が見えるのだろうか。]
せめてあのお方の不機嫌だけでも治ればマシなのですけれど。
[呟く背後、雨の降る雲の隙間から、ゴロゴロと低い雷の音がした。]
―東殿:玄関―
濡れてしまいましたね。
[屋内に入り、影輝にそう言うと、シャワーを勧めた。
己は大丈夫だと告げ。]
入ってきてください。
体を冷やしてはいけませんし。
[その後、どうなったかは、彼らだけが知る。]
……相性などもありますから。
それに力を渡してしまうと、エミーリェ殿がいざという時に動けなくなります。
[眉を下げる様を視線をずらして眺め、電撃竜の静電気にも似た苛々した心の動きを宥めるように静かに告げる。実際、疲れている火炎竜に電撃の気がどのような刺激を与えるか、青年には判断が付かない]
………雷竜王殿ですね。
此方でこうなら雷皇の祭壇はどうなっているか心配です。
そうですね。
私の力は渡して解決に向かうならドレだけでも、とも思いますけれど、大した助けにもなりそうに無いですし。
[雷と、焔。
近そうで遠いその属性は、お互いに大した影響を与えなさそうな気が、した。]
我が雷竜王様は…きっと、嵐竜王様や他の暴れる王達の宥めに回ってるでしょうね。
それでも内心は激しく不機嫌なのでしょうけれど。
あぁ、祭壇には落雷があるそうです。
――そちらの郷は大丈夫ですか?
[ゆるりと半身を捻って背後の窓へと一度目をやり、戻して精神の竜へと目を戻す。
眼鏡のレンズを2枚隔てた視線はぶつかることは、きっと、無い。]
……そうですか、無理もありませんが。
[様々な事に複雑な響きながら短い一言を返し、戻された電撃竜のレンズ越しの視線に紺碧は逃げるように逸れる]
一度、峡谷に帰った時には変わりないようでした。
碧き虹は…僅かに儚くなっていましたが。
我等が領域に住む竜は多くなく、警告は心話で飛んでいますから混沌の欠片の影響は少ないでしょう。
[そう告げたところで大地の老竜が辞する声が聞こえ会釈する]
混沌の、欠片。
[老竜にアーベルが会釈するのに釣られる様に、同じようにそちらへと会釈をした。
呟いて、目を外へと向けるとやはり、ふよふよと浮く黒い物体は、存在する。]
警告が飛んでいるのなら、少し安心ですね。
竜郷全域に、ちゃんと注意勧告が行き届いていれば良いのですけれど…――
「あれを現れさせた」というだけでも、今回の騒動の犯人は断ずるべきです。
貴方は…揺らされていませんか?
[低い声、ゆっくりと顔を向け
精神の竜をじっと見て、問うた。]
[背を預けた壁近くにある入り口へ歩いてくる大地竜を視界に入れながら、まっすぐ断罪するような電撃竜の声に目を細める。見つめてくる瞳と青年の紺碧は合わない]
えぇ、勿論
[静かに返した時、不意に擦れ違おうとした老竜の動きが止まる。それはほんの刹那であり、他に気付いた者はどれ程いたことか青年にはわからない。
各自の心の動きよりも、湧き出るように高まる影輝と精神の気配に意識は向いていた。足早に去っていく背を横に流した視線で僅かに追い、壁から背を離す]
[勿論]
揺らされているのでしょうね――…
[心の奥の呟きは淡く、オティーリエの伸ばす心の力に添えて目標へと導く。他に気付かれないようにほんの僅かに添えた力は、皮肉にも大地竜から湧き出るように高まった精神の気配に隠された]
…勿論、ですか。
[僅か、ほんの僅かだけ片方の口角を上げ、人差し指で眼鏡の中央を押し上げる。
壁から背を離したのを見て移動するのかと目を細め、カチャリ、机の上の食器を重ねた]
焔竜殿の先ほどのが只の手妻で無いなら、絞られても…来ていますね。
見つける事が先決ですが、その後の事も考えないと。
[呟いた時、潜められた声に顔を上げる。
いかんせん、感知系は鈍い上に自らの属でないものは、感じづらかったけれど。
言葉に神経を研ぎ澄ますと、違和感だけは、感じて]
…これは…一体?
[精神の竜の視線を追うように、扉へと目を向けた。]
[絞られた後と言う声に頷き、続く問いに扉へ向けていた視線を電撃竜へと向けた。刹那、互いの眼鏡越しに視線が合う。その奥の紫紺が二枚のレンズ越しに見えたかは電撃竜のみに、彼女の瞳から何かを見たかは青年にしかわからない]
大地の属で無い気配がしました。しかも二つ。
どういう事でしょうね…?
[直に視線を伏せた青年は、食器を重ねる少女のような姿の側を過ぎ行きざまに囁く。
そうして残されていた翠樹の仔竜へと近づいて、テーブルに残されたままの影輝の分のデザートを食べるかどうか*問いかけた*]
[それから、オティーリエへと静かな声を投げる]
――…剣に弾かれた影響はありませんか?
[心に伝うのは微かな*心配の色*]
― 東殿・回廊 ―
大丈夫という言葉ほど、
信用できないものはないかと。
< 水分を含んだ衣服は無論、濡れた艶やかな黒からも、その合間を通り抜けた指先からも、ぱたぱたと滴が落ちた。
二者が中に入るのを待ち受けていたように雷鳴が轟く。
嵐が来る、そう呟きかけた刹那、内から強い力の波動が感じられた。鋭く向けた視線は足早に回廊を行く老竜の姿を捉える >
……あれは。
[振り返る精神の竜の、その顔に置かれたレンズに光のラインが上から下へと流れる隙間、紫紺の揺らめきに暫し動きが止まる。
囁かれた言葉には、あぁと小さく息を吐いて]
…二つ。
それ、は…――
[皿を重ねる手は動きを再開する。
眼鏡の奥、考えるは 善いか悪いか、白か黒か。
雷鳴に空をもう一度見上げると、編んだ紅い髪が肩から落ちた。]
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