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[いつになるかとのオティーリエの声にはわからないと返して。
続いた言葉に沈黙が落ちた]
………。
[椅子に座っての眠りの内でも、意識のいくらかは記憶の整理に当てていたとは言えない。青年の部屋のシーツは一度も使われる事なく、ぴんと張ったままだ]
―会議場前―
手厳しい。
呆れてるというより――… 踊らされているんですかね。
[ティルの言葉に、苦笑]
それでも、もう止められません。
たとえどうなろうとも。
[届かない言葉に、首を傾げた。]
良い、お兄さんですね。
ティル殿は、だからまっすぐなんでしょうね。
[疾風の竜の言葉に、口元が笑う。]
面白がるとか、ありそうですけど。
あの人は、あの通り、皆様をからかって遊ぶのがすきですから……。
[軽く、ため息を吐いてから。
問われた言葉に、微笑んだ。]
かなうのか、ではありません。
――何があっても、叶えるのですから。
―回想/東殿・回廊―
[窮地に救いが述べられたのは命竜殿の言葉。
仔は縋る様に顔を振り向けど、怯えの為か言通りに後ろへと下がる事が出来ぬようであった。
命竜殿が欠片に対し対抗する術を持ち合わせておらぬ事は承知済み故、仔を拾うには難しいかと私は思えども意外にも――…失礼、有り難き事に命竜殿は危険を冒して僅か離れた場所に居る仔を回収する。
慣れぬ人物故か仔は随分と驚いた様であったが、欠片の恐怖に勝るものは無い。
大人しく命竜殿の腕に抱かれたままであった。
案の定か対抗手段を持たぬ以上、偶然にも其処に居られたお疲れの様子である焔竜殿に…少々ご足労をお願いする事になってしまったが。]
[氷竜殿に手渡されるまで身動ぎすら少々怪しかったなれど、
むずがる様子も抵抗もせぬ。
ただやはり慣れぬ腕の為か僅かに硬直した様にも見えてはおった。
だからして氷竜殿に其の身を渡されると、幼子は一寸不思議とでも言うかの様に命竜殿へと視線を向けておったのは少々意外であった。
何を思ったかは私に判らぬ。仔は何を言うでも無かった故に。
時折頭を撫ぜられるのが安堵するか――はてまた嬉しいのやも知れぬ。
以降幼子は始終氷竜殿の首に手を回ししがみ付いたままであった。
氷竜殿には至極申し訳無い事に、彼の腕の中は半ば定位置に収まりつつある。
――しかし此れを父王が知れば、嫉妬に氷竜王殿に下手な八つ当たりが向けられるやも知れぬと危惧せずに居られぬのは私の気のせいであろうか。
…幸か不幸か向こうの声は今は届かぬ故――此方の現状も知らぬと思いたいが。]
[と焔竜殿の消失に驚く間も無く。氷竜殿の問いに、
仔は驚愕したか不思議と思うたか闇竜殿へと視線を真直ぐに向けた。
それも其の筈、捜すと言っていた目的の剣を既に闇竜殿が持っていた故に。
しかし闇竜殿から密やかに告げられる言の葉に其の色も直ぐに消え失せた。]
……!…うん!
[共に王をお出しするとの言葉に仔は嬉しげに口許を綻ばす。
捜していた剣を闇竜殿が既に持ち合わせて居た事は確かに幼子にも不思議であったようであるが、其れ以上に父王に会えるやも知れぬという期待は幼子の心を埋めた。やくそく、と真似る様に仔は口許へ指を添える。
後の事は仔の記憶に少々薄い。
幼子の事、多少の恐怖はあったに違いは無かろうが氷竜殿に抱かれていた事も安堵する要因で有ったし、何より父に会える事への歓喜は何より大きい様であった。]
[途中で命竜殿を個室へと送りはすれど、幼子が行った運搬はそれは酷いものであった。首根っこを引っ掴み運ぶ仔の頭の中に首が絞まるや窒息する等の配慮は恐らくではあるが、無い。
もし氷竜殿が居らねば、…命竜殿の無事は確証に厳しいものであっただろう。
――氷竜殿には既に何度感謝を重ねたか判らぬ。
後に氷竜殿と共に個室へと戻り休息を取る事となった。
この時私はまだ知らねども一寸前程から雷竜殿の消失により力の調整が利かぬ。
身体を休めようかと思う矢先、氷竜殿は早々に倒れこんでしまった。
ここ数日、申し訳無い事に仔を抱きかかえて事を過ごして居るからであろうか――にしてもやはり珍しき事。因は疲労のみで無いのかとも思うが、その理由は私にはまだ知る由も無かった。
仔はいつかの様に少々の時間を掛けて氷竜殿へと毛布を被せると、就寝の挨拶を交わし。
闇竜殿の言葉に、仔と私は聊か異なる感情を抱きながら眠りの底へ着くことになる。]
―回想終了―
[暫しのときをそこで過ごすと、首飾り――剣は、少し落ち着く様子。]
失礼しますね。
[そう云うと、足早に立ち去る。
向かう先は、アーベルがいるであろう場所。
そうして、眠りへみちびく安らぎの闇を、彼に与えて。]
[その髪をそっと、撫でた。
ゆっくり眠ってくれるようにと*]
―結界内―
ええ。そうです。
……それに、わたしは送られていませんよ
[雷竜に告げる言葉は、わずかな微笑みと共に。]
―とある部屋→回廊―
[天気は今日も悪い。
その部屋を出た後、気配を探った。
今はこの首飾りは、沈黙している。]
[翠樹の仔へ、話にいかなければと。
そして、もうひとつ。
それは、決して心の奥から外へもらしはしない決意があった。]
――こちらですね。
[氷破の竜に願ったとおり、二人は一緒にいるようで。
仔にだけ話すことは可能だろうかと、困りながらもその部屋へ向かう。]
―東殿・個室―
[疲労の程は氷竜殿程では無く、また同じ翠樹の気を纏う者であれど仔は幼い故にか均衡の崩れし影響を私ほど受けた訳でなかったのか、仔の目覚めは私や彼の竜より早かった。
幼子は一度寝台から抜け降り私と氷竜殿がまだ眠りの底だと知るや、
静かにせねばならぬと考えたのか、部屋に備えてあった椅子の一つに腰掛けたまま常に握り締めたままの小袋の中を弄る。
一つ、何味か判らぬ真白の包み紙に首を左に傾ぎ、しかし口へと放り込む。
薄荷だったか、慣れぬ味に僅かに幼子の顔は苦悶に歪んだ。]
―回廊→氷破の部屋―
[決して気付かれぬようにと気配を殺し、その部屋にたどり着く。
こんこんこんと、手の甲で三度ノックした。]
[突如室内へと響いた音。
別の味を食しようと包を解いた小さな手がはたりと止まる。
一寸の逡巡の後、椅子から軽く飛び降りた仔はぱたりと素足で床を叩いて扉へと駆け寄った。
その跡に点々と残る緑達は今まで寄りも些か大きく成長し、しかし直ぐに枯れゆく。
――其れが、雷竜殿が消失した影響かは知らねども。]
……だぁれ?
[幼子は恐る恐るに僅か扉を隙間に開け回廊へと覗き込んだ。
相手の顔を知れば、すぐさま其の顔は綻びようか。]
おはようございます、ベアトリーチェ殿。
[小さく笑って、首を傾げる]
今日は、まだお休みですか?
[仔の腕を見て、そこに蛇がいないことに気付き、尋ねた。
声は小さい。]
ブリジット殿も。
――うん、おはよ。
[幼子は自らの小さな身体で抑える様に、先程よりも扉の隙間を押し開ける。
投げられた問いに一度瞬くと、何かを確認するかの如く一度己の腕へと視線を向け次に室内へと振り返る。――私と氷竜殿が未だ眠りの底に居るようだと確認しやれば、最後に闇竜殿へと視線を戻して仔は小さな頷きを返し肯定を示した。]
ナギも、ブリジットもまだ、ねてる。
…きのう、たくさんつかれちゃった? から、かも。
そうですか。
それじゃあ、寝かせておいてあげましょう。
ベアトリーチェ殿は、大丈夫なんですか?
[そっと仔の頭を撫でて]
剣の、お話。
それなら、ここでしてしまいましょうね。
[しぃ、と人差し指を、口にあてて。]
リーチェは、たくさんねたから、へいき!
[頭に触れる指が僅かくすぐったかったか、小さく笑いながら身を捩り。
そうしてから仔は自らの声が少々大きくなった事に気付いたか慌てて口を両の手で押さえる。氷竜殿を起こしはしないかと室内を再び振り返ったが、扉近辺からでは幼子の眼にはどうやら無事な様に見えたか安堵の息を零した。
確かに少なくとも先程より位置が動いたと云う訳では無い様に見えたが、
私も同様眠りの中故、実の所は判らぬ。]
おはなし。
ないしょ?
[闇竜殿の真似事の様に、仔も短な人差し指を口へと当てる。]
良い仔ですね
[くすくすと笑って、両手で口を押さえる様子をほほえましく見た。
それから、そっと膝を折り、目を合わせて。]
そう。お話、内緒ですよ。
ナギ殿にも、ブリジット殿にも。
できますか?
ブリジットにも、
…ナギにも?
[高さの近くなった闇竜殿の眼を真直ぐに捉えながら、仔はゆると首を傾ぐ。
氷竜殿であれば口を閉じれば幼子なりにも秘密裏に出来よう、しかし常日頃仕えている私にはどうか――仔は一寸困惑にも似た色を浮かべ考え込んだ。
しかし幾ら悟られる事が多いとは云え事を全て知られるとは在るまい。]
…わかった、だいじょうぶ。
リーチェ、いいこだから、できるよ。
良い仔ですね。
[仔の言葉を信じて、にこりと笑う。
もう一度、頭を撫でてから、ネクタイを外す。
そしてボタンを開き、そこにある首飾りを見せた。]
これも、剣です。
本当は、ザムエル殿のと、二つで、ひとつの剣。
半分だから、まだ、王様方は出せないのです。
ですが、もしかしたら。
……わたしが、その中に行ってしまうかもしれない。
その前に、あなたに、これを渡します。
[微笑んで。]
ぜったい、内緒ですよ?
…きれい、だね。
[闇竜へと見せられた首飾りを、幼子の双瞳は興味深げに真直ぐに捉えた。
剣の事と聞きして、何故首飾りなのかと幼子は思ったかも判らぬが、口を継いで出た言の葉は首飾りに対する素直な感想であった。
やはり幼子と云えども女児。装飾に興味を抱くのは不思議でないのやも知れぬ。]
――? 剣なの?
[闇竜殿の言葉に、仔は再び不思議そうに相手を見やった。
そうして今一度首飾りへと視線を向ける。幼子の眼にはやはり首飾りの様にしか映らぬのであろう。]
――ととさま、だせないの?
でも、おじいちゃん、剣もってないって、いってた。
…ノーラみたいなわっかも、わっかだから違うって。
…! やだ。
オトが中いっちゃったら、やだ。
[ふる、とむずがる様に仔は首を横へと振る。
しかし次の言葉には今度こそ確りとした驚愕の色を滲ませて瞬いた。
闇竜殿の言葉が判らなかった訳では在るまい。
しかし仔にとって驚くべき事に相違は無く。]
…あぶなくないの?
――さわっても、へいき?
[内緒との言葉には、小さく頷きながら。]
そのわっかと、この、かざり。
二つで、剣なのですよ。
すごい剣だから、形が変えられるそうです。
[微笑んで]
でも、老君。ザムエル殿は、二つが一緒になるのを、いやがるから、
どこかにやってしまおうと、しているんです。
だから、ザムエル殿は、教えてくれないんです。
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