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―東殿・回廊―
…、ん。
[数歩その小さな足を進めては仔は立ち止り、辺りを見回す。
それを幾度として繰り返す様子は、何かを捜している様であった。
何を求めているかまでは私には判らぬ。
しかしどうやら機竜殿が目の前にて姿を消してから――
幼子の様子は常と異なっていた。]
―東殿・回廊―
[命竜の所から離れてから、あちこちを探していたが。
やはり疲れが溜まっているのか、歩みは遅かった]
……、早く、見つけてあげないと……。
[翠樹の仔の心配をしながら、他の竜が残っていないか探し回る。
雷竜や風竜、剣の所持者である闇竜すら見当たらない。
ここ暫くどたばたしていた所為か、まともに情報が整理できていなかった]
―西殿・回廊食堂前―
うはははは、そいつぁ正しいな。
[危険人物扱いされて、へらりと笑む。]
あー楽しいかどうかは微妙だなぁ。
たのしー!って言うには問題あるし。
[それは封じられた竜王だったり、怪我を負ったエーリッヒだったり、まぁ色々あるわけだが。
届いた独り言のような心の声に、一瞬、表情が止まるが。
すぐにまたへらり、常の笑み。
周囲には琥珀の煌き。
エルザとザムエルの周囲にも、それは舞う。
振り払っても逃れられないのは、そもそも琥珀が二人の内側にも存在しているからだ。]
……そう、それがあなたが求めるもの。
理を打ち破る力。
[影輝の竜の答えに、青年の口元の笑みが深くなっていく]
ならば、此方へ来るといい。
あなたが――…剣を持つべき者になればいい。
影竜王が持つは『神斬剣』、『神斬剣』を持つは…【影竜王】
[赤紫の瞳が見つめ、告げるは言霊]
私の『願い』は『自由』を得る事。
刻印、人の姿、そして――『律』から竜を解放する事なのだから。
[ぽてぽてと。
行く当ても無く、ただひたすら回廊を歩き続ける]
……ヒマですわぁ。
ドカーン!とも、ギャー!とも、ぎしぎしあんあんとも、何も聞こえませんですし。
ふーむ。それとも、私以外全員消えてしまったのですかねぃ。
んなアホな。
[一人でボケて、一人でツッコんでおいた]
まあ……ここにいる人の数を考えたら、そう容易く出会わないのも、おかしいことではないですわねぃ。
それにしても、どこかでものの気配ぐらいは……と?
[そこでようやく止まり、ナターリエが辺りを見渡した]
―西殿・回廊食堂前―
おいさん自分の事は一番良く理解してるからなぁ?
[ばっさり言われた言葉も、本気で言われた言葉も薄い笑みでかわすように。]
何で、か。
[短い問い、だが続きは聞かなくても分かる問い。]
俺もあんな風に願った事があるから…かな。
[紡ぐ言葉は少し低く、そこに嘘は一見すれば見られないだろう。]
―西殿・回廊食堂前―
全部無くなっても、叶えたいもんがあった。
だけど俺の願いは叶わなかった。
まだ、その願いは消えたわけじゃねぇが…。
あの時ほど、強く想う事はもう出来ねぇ。
[想うには、時が経ち過ぎて。]
だから、誰にも理解されんでも、他の全部犠牲になっちまったとしても。
あいつらがそれを願うなら、叶えられるならそうすればいいってな。
まぁおいさんのワガママだな!
[けらりけらり。]
[寂しさも哀しみも、千年かけて静かに降り積もり心に沈んだ澱。
精神を司る心の竜が、忘れる事も消す事も諦める事も出来ず、心の奥底に封じるしかなかった『願い』は、ひとたび蘇れば何よりも強い渇望と変わる。
封じるのではなく、求めるのは解放。
だからこそ竜を封じる王を閉じ込め、『律』を断ち切るのだと――]
えーと……。
[少し考えている
↓
属性をさぐってみた
↓
寒くて、もさもさしていた
↓
?]
ん?
とりあえず、精神ではなさそうですわねぃ。
なら、名乗り出ましょうかぁ。
私は、流水のナターリエです。
近くにいるのは、誰かしらぁ?
< 影竜王。
其は名を与えたもの。
「エレオノーレ」という影をつくったもの。
影が其になるということは、影が主を呑むということ。
――数多の影が蠢く。
エレオノーレが沈んでいた青年の影のみならず、
残された随行者の影、静物が地に落とす影、仄かな光と薄い闇の合間、
竜皇殿全体の影が、主の許を離れ、意志を持ったかの如く、独りでに動く >
[オティーリエを探さないのは、そもそも場所が分からない為闇雲に動き回っても時間と体力を消費するだけだというのが一つ。
万一戦闘状態になれば当然邪魔になるというのがもう一つ。
ただ状況を知るために、琥珀は周りを揺らめかせた。]
…地下、ね。
[声は表には出さない。]
―東殿・回廊エントランス―
この声……
[聞き覚えのある声に、微かに歩み寄っていく。そこには、]
ナターリエ!よかった、もう大丈夫なのね。
[回廊のエントランスに当たるところで、流水竜と邂逅した。
それでもまだ付近に、別の気配が感じられて]
―中庭―
[姿を変える影を見ながら、青年は黒い腕輪に手をかける。
空を飛びたいだけなら、魔に堕ちればよかった。
刻印から放たれたいだけなら、竜王を目指せばよかった。
そうではなく願ったのは、ただ竜としての生。
本当の姿である事に代償を強いる、『律』からの解放なのだから]
―西殿・回廊食堂前―
へぇ、ティルが問答とはやるな。
[それは普段の言動からですかと。]
そういうの、おいさんも得意じゃないんだがなぁ。
…こうなってほしいと思う物事。
心の底から欲するもの。
[かねぇと。]
…、ブリジット!……と。
…?
[行く先の気配が氷竜殿である事に気付いたか、幼子は嬉しげな声を上げる。
…続く言葉とともに首を傾いだのは、まさか名が出てこなかった為とは夢にも思わぬが。
ふと、足元が揺らぐ。幼子もそれに気付いたか床へと眼を落とした。
仔の足跡。その足元に伸びるあらゆる影が、揺らめいたのが私の眼にも明らかだった。]
……、ノーラ?
[ぽつりと幼子は声を零す。
確かに、この様な事が出来るは彼の竜しか居るまい。]
ブリジット!
[ようやく見つけた竜の姿に、ナターリエが胸をなでおろした]
……良かったですわぁ。
やっと、誰か見つけられて。
[アホな。とかツッコんでいたが、結構真剣に、他の人はもういないんじゃないかとか思っていたようだ]
寒い気配は、貴方でしたのねぃ。
……とすると。
もさもさした気配、は?
[首を捻って、辺りを見渡して、もう一つの姿を見つけた]
翠樹……!
[当然、名前は覚えてませんよ。ええ]
っ!?
[突然、足元が揺らいだ。
こけかけそうになりながらも、視線を足元へ移せば、自らの影が、離れていく姿]
これ、は……!?
< 全ての影は一箇所に集まる。
結界のものまでを奪う事は、さしもの影も出来まいか。
存在の欠片とも言うべき他者の影を奪い凝縮し一つに固め、黒の――加減によっては深紫にも見える、靄にも似た一匹の巨大な竜へと変わり果てた >
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