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───……まぁ、出入り口の通路が。
水が引く見通しはつかないの?
………そう。
[外へ繋がる通路が水没したと聞いて、隻暗緑を円くした。
外に出ることは少ないため、然程不便には思わないものの。
通れないと困る人は多数居ることは知っていたから、出来得る限りの情報を引き出そうとした]
……え?
死者が、出た?
…そう、その水没した、通路に…。
[そこだけを聞いて、無理に出ようとした人が溺れてしまったのだろうかと考える。
そうしていると、「丁度良い」と言う言葉と共に、団員に宿屋へ集まるよう指示を受けた]
宿屋へ?
ええ、構わないけど……何かあったの?
[呼び出される理由が分からなくてそう問いかけるも、団員は仔細は言わずにその場を立ち去った。
水没通路のこともあり、それ以上引きとめてはいけないと思い、そのまま団員を見送る]
……何が、あったのかしら……。
[リスを押さえていた手はいつの間にか下へと落ち、隻暗緑は出入り口通路のある方へと向かう。
リスが「キルル…」と大人しめの警戒音を上げ、エーリッヒの両肩を忙しなく行き来していた]
[もう一人、ノーラの聲に蒼を瞬かせる]
逃げる……、一緒に……。
[何処に逃げるのだろうと女は思う。
二人にとっての世界は広い。
村から出たことのない女の世界は
二人の知る世界からすれば大分狭いはずで]
私も、ついていって、いいのかな……
[足手纏いになるを危惧して聲は控えめに零された]
─ 広場 ─
……で。
[しばし出入り口側を見詰めた後、自衛団員を振り返る]
水没以外には、何もなかったのか?
[静かな問いかけに、自衛団員はやや、言葉に詰まる素振りを見せた後、死者が出た事を教えてくれた。
それからもう一つ]
……宿屋に? ああ……別に、構わんが。
[宿に集まるように、という言葉。
唐突なそれに、翠が僅か、険しさを帯びる]
……何があった。
[低く問えば、団員はまた、言葉に詰まる。
その様子に、ここで聞き出すのは無理か、と察して息を吐いた]
ま、いいさ……行けば、説明されるんだろ?
引き止めて、悪かったな。
[一転、軽い口調でこう言うと、団員は足早に離れていく。
妙に気ぜわしい様子に、ただ、違和感が残った]
―昨夜:自宅―
[夫が自分を信じてくれているのは分かる。
それと同じくらいこの人は自分の能力も信じている。
…信じるしかないのだと理解しているからこそ、自分は夫を恨む事も、夫の選定から逃がしてくれと言う事も出来なかった。
他に選んだ者の名を聞けようはずもない。
力強い抱擁に、こちらも力を込めて返す。
二度とこうする事もないかもしれないと、そんな思いを拭い去るように。
明るく振舞う事は出来なかった。
それは痛々しくも見えるだろうし、何より自分と夫の事だけではない。
他の物の運命も絡んでいるのだ。
勤めるのは必要以上に暗くならない事だけだ。]
―昨夜:自宅―
いってらっしゃい。 ……気をつけてね。
[食事を終えた後、雨の中出て行くという夫を見送った。
先の話しもだが、この雨にも注意を払っているのだろうとは分かる。
夫の影が見えなくなるまで見送った後、溜息付きながらはじめたのは家の掃除だった。
夫の帰りを待ち、雨音を聞きながら、掃除は夜遅くまで続く。
遣り残しのないように、隅々まで部屋は磨かれていった*]
―自宅―
[自警団がゲルダを訪ねてくるというあまり無い光景に
隣人が野次馬に出てくるのと、目が合った。
愛想も無い女を、言葉も相まって気味悪がる者もいる。
慌てて引っ込む様子を気にする風でも無く、
ノックから訪れた自警団に言われた通りにするつもりで]
……、
[準備の間外で待たれてはいなかったから、
急ぎではないのだろうと判断し。
ゲルダは裁縫箱を抱えて肘に鞄を下げたまま、
昨日行きそびれた服飾屋への道を辿る]
勿論よ。
[嘘を言っているつもりはなかった。
付いて来れる限りは、という注釈がついていることをシン自身も自覚していなかったから、カルメンに微笑む気配で答えた。
実際、叶う限りは手を貸そうともしただろう。
普通に逃げる事が出来たのであれば]
― 翌朝/宿屋→広場 ―
ええ、気をつけます。
アーベルさんも、お掃除頑張ってね。
[アーベルに見送られながら宿を出て、忠告通りに足元を見ながら広場まで歩いた]
あの。
[村の人間ではないから、自衛団にも特に知り合いはいない。忙しそうに働く人達に上手く話しかけられず、困ったように見ていた]
―翌朝/自宅―
……。雨、止んだ?
[昨夜の雨は一段と酷かったようです。夜になっても音が止む事はありませんでした。
一夜明けて目を覚まして、漸く聞こえない事に気付いたくらいです。
何にせよ、もう降っていないなら外に出ることに問題はないはずです]
……んー。……あ。
[僕は今日の行き先について考えて、ふと机の上に目を遣りました]
― 自宅 ―
[熱々の紅茶とパンケーキの香りが辺りに漂う。
差し入れであるサラダとパンケーキを頬張り一人口許を緩ませた]
おいし。
[仄かなあたたかさのパンケーキを食べながら
ちらと見遣るは棚に置かれたままになっているジャムの瓶。
添えられるもののないままでも其れは十分おいしいのだけど
一緒であれば更においしいだろうと思う]
死者が出た……。
[話しかけることはできなくても、会話を拾い聞くことは出来る]
困ったわ。
本当に見つかってしまったみたい。
[悩ましげに囁いた]
返すの、忘れてたな。……。
[そこには借り物の本が置いてあります。小説です。
分厚くて、中の字も細かくて、分からない単語も多くありました。僕の年齢で読むにはちょっと早かったのかも知れません。
でも一応最後まで読むことはできたから、褒めてもらってもいいはずです]
……。うん、返しに行ってこよう。
[ともあれ、とりあえずの行き先は決まりました。
僕はその本を両手で抱えて、ついでに昨日と同じ手提げ袋を持って、自宅を後にしました]
――…ん。
[ノーラの応えに安堵の聲が漏れる。
其れは置いていかれないことへの安堵。
逃げ道を失った事をしったのはその直ぐ後の事だった]
─ 広場 ─
[広場には自衛団以外にも人の姿がちらほら見えて。
知り合いであれば挨拶くらいはした]
何だか、落ち着かない雰囲気ね。
[零れ落ちたのは慌しさだけでない何かを感じ取ったもの。
それが何なのかまでははきとしなかったけれど]
パラッシ、あなたも落ち着きなさいな。
[忙しなく両肩を行き来するリスに声をかけ、その身体を手の中に収める。
手の間から首だけを出したリスは、やはりどこか落ち着かなさげだった]
―今朝:自宅―
…………あら。
…まぁ、こんな所で…。
[掃除の途中で寝てしまったのだろう。
目が覚めると、床に倒れこんでいた。]
痛たた…ああ腰が。
嫌ねぇ、疲れたのかしら…。
[ベットで眠らなかったせいで、腰が酷く痛む。
眠い目を擦りながら周囲を見回したが、夫の姿は無いようだった。
もっとも帰ってきたのなら声をかけるか寝台に運んでくれただろうから当たり前ではあったが。]
…あの人、帰らなかったのね。
[曲りなりにも自分は容疑者だから。
夜を共にするのは避けたのだろう。そんな風に思いながら身を起こした。]
ああ、もうこんな時間。
早く食事の準備をしないと。
[きっとお腹をすかせているわと。
着替えて台所に戻ってきた所で扉を叩く音がした。
普段夫はノックなどしないから、怪訝そうな顔をしながら扉に手をかけ。]
あらあなた、帰ってきたの?
─ →自住居穴 ─
[リスは手に収めたまま、自宅兼店舗である自住居穴へと戻る]
……あら、ゲルダ。
何か御用かしら?
[そこにいたのはお得意様とも言える刺繍師の女性。
首を傾げながら声をかけた]
─ 広場 ─
……さって、と。
ここでぼーっとしていても仕方ないし、一先ず、お呼び出しに応じる、か。
[呟くように言いながら踵を返す。
実際、治水作業を手伝わないなら、ここにいても邪魔になる。
そんな事を考えながらふと見回してみると、どこか困ったようにも見えるノーラ>>151の姿]
……おはようございます。
どうしました?
[掛ける声は、できる限り軽い調子を維持したもの]
…あら、あなたは。
どうかなさったの?
[扉の向こうに居たのは夫ではなく、夫の部下ともいえる自衛団の一人。
首を傾げていると、相手は極言い難そうに話を切り出した。]
ああ…昨日の話なら、あの人から聞いてます。
わかりました、宿屋へ行けば良いのね。
[呼びに来た自衛団員は、何度も顔を合わせた顔見知りだ。
何より自分の上司の妻を呼ぶ事に抵抗も逡巡もあるのだろう。
ありありと見える戸惑いの色には、穏やかな笑みを向けた。]
…そんな顔をしないで。私は大丈夫ですから。
[夫に言った言葉と同じ事を彼にも向けて。
一人で行けるわと彼を一度帰そうとして。]
ああそうだ。あの人、昨日帰らなかったけれど…大丈夫かしら?
[何だか雨が強かったから、と夫を案じる言葉をかければ、昨夜の雨でトンネルが水没した事を聞かされる。その為自衛団も総出で借り出されているのだと。]
まぁ、そうだったの…。
いいえ、あの人が無茶してなければいいのよ。
ああごめんなさいね、忙しいのに引き止めてしまって。
[それじゃあと今度こそ見送った自衛団員が、何か他にも物言いたそうにしていたのには、気付くことが出来なかった。]
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