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さて、我がそう思っただけなのじゃが。
うつくしきは似ておろう。
…おすそわけならば、少々色が足りぬも仕方なしじゃな。
[風漣へとそう呟きかえし、あやめの言葉に一つ頷いて。
きれいに全て食べ終えれば、童子ら膳を下げてゆく。]
〔臙脂の子と白の君との秘密ごとは知りけるか、
座敷に背を向けていてはそれは定かならず。
縁側に腰を下ろして足を宙に遊ばせて、
仰ぎし天には星は昇らず陽ぞありける。
庭の緑に混じるは風に揺れし梔子の布、
されど女の紫黒は未だそれを捉えはせず。〕
[膳の上の椎茸の行く末に、紅緋をひとつ、まばたかせ]
……好き嫌いをいうと、大きくなれぬと聞いたけれど。
[ぽつり、小さく呟いて。
側に戻りし小さき獣をそう、と撫ぜる]
色彩……確かに、虹の色には足りないね。
[えいかの言葉に、小さく笑めば。
紅緋は再び、紙風船へと]
[びくぅっ]
[大きくなれぬという言葉にか]
[それとも、悪いことを見られてしまったということか]
[ぢぃっと、うかがうように]
じゃ、じゃって。
どうしても駄目なんじゃっ……
[小兄を見る目は]
[少しうるんでもいようか]
[暫し待ってからすうと息を吸い語り始める]
―俺の故郷は山の麓の小さな農村でな、山が近いからかな、天狗を信仰していたんだ。
ただ―その村は神隠しから帰りし者を『天狗に忌まれた者』と呼んでな―
[暗くなるのはその時の事を思い出してか―]
[琥珀はすぐにおのこらから外されて、あやめへと移る。]
解けとは簡単に言うたものじゃ。
…答えあわせはなかろうに。
[童子らが笑いには、変なこと言うたかと怪訝な面になったろか。]
[伺うように見られ、紅緋はきょとりとひとつまばたく]
でも、好き嫌いを言っていては強くなれぬのだよ?
[そも、何故椎茸如きがだめなのか。
小首傾げる様は、そう、問うているよにも見えようか]
ふうれん、食べられるん……?
[ぢぃぃ]
[まるで椎茸は食べ物ではないというような]
強うなりたいと思うん
でも。
でも椎茸はいやじゃぁっ……!
[ねいろに好きと言われれば、琥珀きょとりと瞬いて。
にこり向けられる笑みに、肩を小さく竦めやる。]
ああ、そなたが言うは正しいな。
じゃが、美味しゅう食べてもらいたかろ。
食べられしものも作りしものも。
[風漣にはそう苦笑を返し、手の内の紙風船に目を細め。]
足りずともじゅうぶんにうつくしや。
食べれるよ?
好き嫌いは、大地のお恵みを無駄にしてしまうと、母様も、舞弥のにいさまもおっしゃるもの。
[さも当然、と言わんばかりにさらりと告げるか。
叫ぶよな様にはくすくすと、楽しげな笑みをこぼしてみせ]
いやいやよりは、望まれての方がよいのかな。
でも、好き嫌いはよくないの。
[えいかの苦笑には、真面目な様子でこう返し。
紙風船を見やっての言には、うん、と楽しげに*頷いてみせ*]
はてさて、どうだろうね。
もしかすると、あるかも知れぬよ。
左様に望むのであれば。
[えいかへと返す言の葉はどこか軽く]
それ程に嫌われては、椎茸も可哀想だ。
[庭に下り立ち座敷へと眼差し向ける]
[―ややして続きを語り始めた時にはまた何時もの様子に戻っていた]
――俺が音彩と同じかもう少し小さい時分の時もそうした者が居てな―一人っ子の俺にとっては兄の様な人だった。何時も村一番高い木の上まで連れて行ってくれてな、ここの事を語って聞かせてくれたんだ。それがまた楽しくてな―親の言う事も聞かずに度々遊びに行った物だ。
[楽しき事を思い出してか何所か夢見る様な目で―だが、それも長くは続かなかった―]
[やや俯けば、くせのある前髪がその面を陰に隠して。
す、と立ち上がれば童たちと離れ、縁側へと歩み出る。]
[されど話は気になるのか、座敷からそう遠くないところ
――ちょうどあやめの傍近くの梁へと背を預けやる。]
[琥珀揺れれば白い足に、緑の葉に、梔子の布に惑おうか。]
それが他の子供達の気に入らなかったのだろうな―ある日、俺が狙われてな―あの人が俺を庇ってそいつらをやっつけたんだが―
[知らず裾を握り締めた手が震えるは怒り故か悔しさ故か―]
―その所為でとうとう村に居られなくなってしまったんだ。
―俺は、あの人の一家が闇に紛れて逃げる様に去っていくのを見送る事さえ出来なかった――
[だが、真に辛いのはそれから後であった―]
―翌朝、村の近くの谷底であの人の親と弟が見つかったと聞いた―あの人だけが奇跡的に助かって、何所かの寺に預けられたとも―
う、うー。
[自分も食べねばならなかったろうかと]
[小兄の言葉にうなり声]
[だけれど既に膳はなく]
[あったとしても食べられなかろう]
……つぎはがんばるけ
[皆の口々の言葉に]
[それだけを口にして]
[がっと立ち上がる]
[長き沈黙の後、三度語りは続けられん]
―その少し後だったな、あのほしまつりの夜が来たのは――それから先の事は烏も良く知ってるだろう?あの時お前の様に戻る事を選ばなかった理由はこれだった訳だ―
[―ふっと笑みを浮かべて]
―烏のお陰で俺は立ち直れた―ありがとう、感謝している。
……否、
[あやめの声が耳に入れば、ふると頭を振って僅かに瞼を開ける。
が、面も眼差しも上げぬまま紡ぐは、先ほどの話の蒸し返し。]
…答えあるなら、考えるもよいかな。
たとえば、そこな色は…揺藍殿の忘れ物じゃろか。
…お話は解りましたが。
[礼を言われれば、尚不思議そうに雅詠を見返す]
俺のおかげ、とは、不思議なことを。
何もした覚えはありませんがね。
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