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集会場は不信と不安がない交ぜになった奇妙な空気に満たされていた。
人狼なんて本当にいるのだろうか。
もしいるとすれば、あの旅のよそ者か。まさか、以前からの住人であるあいつが……
どうやらこの中には、村人が7人、人狼が1人、守護者が1人、聖痕者が1人、智狼が1人含まれているようだ。
[ばーん、と勢い良く教室のドアが開いた]
うむ、全員出席したようだな! それでは! しかと! 勉学に励むようにっ!!
[学長は去って行った。
……何しに来たんだろうか]
―昨夜:共用スペース―
だーかーらっ!
餌付けってなんなんですかーっ
[からかうような言葉にぷうとまた膨れて。
だけれどチャンネルを渡されては、嬉々として変える。
ホラー特集はさすがに毎日はない…と思うが。
どうでも良いような内容の番組にしたらしい。
番組が終わると、人の数も減り]
それじゃあ私もー!おやすみなさーいっ!
[部屋にもどったら*歯磨き→就寝*]
−朝/寮・自室−
[鳥の囀りが聞こえる。
覆い尽くさんばかりの、蝉の合唱も。
空はまた色を青へと塗り替えて、
東から昇った太陽は一日の始まりを告げ、
室内に降り注ぐ陽射しは容赦なく覚醒を促す]
………んーぁー。
[まだ、眠い。
小さな唸りは、そんな抗議だろう。
厭うように、薄い毛布を被り直した。
夢と、現の、狭間。
意識が絶え間なく、揺れて、彷徨う]
………すんげェ、嫌な夢。
[ぼふん、と。うつ伏せにベッドに沈む]
くっそーう。
まだ、足が痺れてる気がするー。
[無論そんな事はないのだが、勝手に文句を言う分にはタダだ。
もしもそう感じるとしたら、
就寝前にやり込んだ一連のトレーニングが原因で、
それも痺れている訳ではなく、筋肉痛か何かだろう]
―寮・食堂―
[たまには一緒に、と誘われて、皐月と共に早めの昼食を取る。
薬味を多めに用意した素麺。
暑い中、冷たい喉越しが気持ち良い]
「恵子さんたちは全く戻ってこないの?」
ええ、どうしても離れられないプロジェクトがあるとかで。
だから私が向こうに行っても邪魔になるばかりなんです。
[寂しいわね、という言葉には曖昧に笑って食事を続ける。
茗荷と大葉の香りがフワリと口の中に広がった]
─寮の外の通り─
ふう……あっつぅ……。
[小さく呟き、額の汗を拭う。
午前中、涼しいうちにいつもの自主練をやった後、用事を思い出して街中へと出ていたのだ]
まったく、七恵姉さんもだけど、春江姉さんも無茶言うよなあ……。
[思わず零れるのは、愚痴。
用事、というのは実家からの要請──こちらに本舗がある菓子処の涼菓を送ってくれ、というもので。
どうやら、長姉の婚約者に、という事らしいが]
……早くも、いぢられてるみたいだなあ……。
[ぽつり、とこぼれるのはそんな呟き]
[なんとか準備を終えて、しっかり立つ。あついからプリントのタンクトップなのは間違いなく……
しかし自分の体を見下ろしおなかにぷにっ]
……むぅ
「みんな、お昼もちゃんと食べているのかしら」
[夏休みには学食は閉まっている。
寮でも出すのは希望者に対してが基本だ。
生徒達を預かる身としては気になるのが当然で]
どうでしょう。
私はここで食べることが多いから…。
[首を傾げた]
まあ、俺も水饅頭は食べたかったし、いいんだけどね。
[そんな事を呟きつつ、寮の門をくぐる。
冷蔵庫、借りなきゃな、などと呟きつつ中に入り、給湯室へ。
持ってきた包みに名前とクラスを書いて、冷蔵庫の隅に入れておく]
あ、御堂さんにいっとかないと……この時間だと、食堂かな?
[俺も、お昼食べないとなー、と。そんな事を呟きつつ、食堂へ]
あ、舞ちゃん。こんにちは。
[考えているうちに同学年の少女が入ってきた。
用意に向かう皐月を手伝うために自分も立ち上がる。
とりあえず麦茶をコップに注いでマイコの所へ]
今日も暑いね。
…ちゃんと食べないと夏バテしちゃうよ。
[頼まれたものの少なさに少しだけ眉を寄せた]
や、こんにちはー。
[食堂に入れば、数人の姿。
挨拶をしつつ、自分も昼を頼んで]
あ、御堂さん。
[ついでに、冷蔵庫を借りている旨を申請する]
あ、ありがとね。
[麦茶を用意してくれたヨウコににこ、と笑い。
元気のないマイコの様子に、やや、首を傾げる]
ん……元気ないね、どうしたの?
……は?
[返ってきた返答は予想外で。
……どう答えていいのか一瞬悩み。
理解したらしたで思わず笑いたくなったりしたんだけど、真剣な様子と先ほどの笑わない、という言葉もあってそうもいかず、結果]
そ……そうなん、だ。
じゃあ、ちゃんと、食べない、と、ね。
[声が引きつっているのは、笑うのを堪えているからというのは多分すぐにばれるだろう]
[当然、むぅっと頬をふくらませる]
笑わない!
って言ったのに!
[ぷんすか。
*食事を受け取ったらすぐに食べ始めるだろうし笑われたらぷくりとふくれるだろう*]
あ、いや、その。
[むくれる様子にごめんね、と謝るものの、笑い混じりになるのは避けられなくて]
でも、それならちゃんと食べないと。
暑いと、体力の消耗も激しいんだから、気をつけないとね?
[ひとまず笑いを押さえ込んでこういうものの、やっぱり微笑ましいらしい]
[返却口に運んだお盆を置いて。
皐月と顔を見合わせると小さく笑った。
出来上がったお盆を手にしてマイコの所へ戻る]
はい、元気の源。
暑さに負けないでね。
[運んできたのは笑ってしまったからのお詫びのつもり]
/*
・憑魔ふたりは今回の事件、共同戦線か否か
偶然鉢併せたか、示し合わせてこの学園に来たか、
というあたり
・どういった展開でいくか
どっちが先に暴れるか、みたいな
大まかな方針?逸れることもあると思うけど。
他に何かあるかな。
*/
[ずかずかずか。
大股で中に歩んでいくと、真っ先に注文をしに向かう]
今日の昼なんだーって素麺かー、
夏らしくていいケド、腹にたまらないんだよな。
んじゃ、天ぷらたっぷりでー、
玉ねぎと海老と南瓜と…、あ、芋は3つで!
[独り言なんだか注文なんだかよくわからない声に反応して、
盆の上に料理が並べられていく。その量は多い。
食卓へと方向転換したところで、ようやく生徒の姿にも気付いた]
お、よーっす!
/*
COは各自勝手にやっちゃっても良いのかな、と思ってる。
お互い、動機は違うだろうし。
私は、COするときにト書きの中あたりで軽く動機にも触れておこうとは思ってるけど。
*/
/*
あと、何か設定的連絡事項とかあれば
今のうちにやっておいた方が良いかもね。
私は、智狼でちょっと上方修正……ということで
私、というより憑魔のほうは
「過去に司を一人喰った事がある」ってことにでも
しようかなと思ってる。
*/
/*
後は空間断絶のイメージをどうするか、位でしょうか。
・共同戦線か否か
どちらでも構いませんが。
…相手が榎本先輩だと、何か指示されれば、それが無茶でない限りは従ってしまう気がします(笑)
・展開について
こちらは場の流れ次第で多少変化させようと思っていたので。
そちらに提案があれば合わせます。基本的に「諦めていた物に躊躇わず手を伸ばし始める」タイプのつもりです。
*/
皐月さーん、麦茶貰えます?
練習してたら喉乾いちゃっ……
「あ、榎本さん!
あなた全然ご飯食べに来て無いでしょ!」
[小さく悲鳴をあげて首を竦めた。]
い、いや食べてますよ。
プリンとか、買い置きしてありま……
「そんなんじゃ駄目。」
[フユはただ、ショウの分の昼食と一緒に、自分の分の素麺が用意されていくのをなす術も無く眺めて居た。]
あ、九の字サンキュー。
[注がれる麦茶に、感謝の言葉を投げかけて、]
えー。
全っ然、元気じゃねぇって。
あ、隣使うぜー。
[不満そうな声を返した。
強調には、全くもって説得力がないが。
マコトの傍の席の椅子を引いて腰を下ろすと、早速、]
いっただっきまーす!
[パキン、割り箸を綺麗に二つ割って、素麺を啜る]
─昨夜─
[何やら疲れ切った体で部屋に帰ってくる]
あー、駄目だ。あの人色々固すぎてうちの爺ちゃん思い出す
しかも天然さんだし……よくアメリカなんかでやっていけたな
とにかく前言撤回します。あれとでは私は楽しめませんわ
[そう言うと制服のまま自分のベッドにぼふり。フユから自分の小さな頃のことを聞かれると]
あー、普通ですよ。普通のどこにでも居る剣道少女
ちょっと2人より早く生まれただけでお姉ちゃん風を吹かせようとする可愛い女の子
……て何言ってんだ。ああ、駄目だ。疲れていつもの調子が出ない
てことで寝ます。おやすみなさい
[そう言って布団をかぶり寝る。事実、いつもならそんなこと聞かれても適当にはぐらかしていただろう]
/*
空間隔絶は、憑魔サイドとしては
「餌を囲い込む」のが目的、だったっけ。
各自、受けるイメージを断片的に書きあっても
いけそうな気はする。
もしヨウコの方で全く予定が無ければ、隔絶作業は
私の方でやった事にしても構わない。
(まだ何も考えていないけど)
一応、今日の夜はずっと居られるから。
*/
榎本先輩もこんにちは。
[ショウの山盛りになった天麩羅には、少しだけ呆れたような表情にもなりつつ。
皐月に捕まったフユには小さく笑って頭を下げて、麦茶を注ぐ。
こんな時の皐月に勝てる生徒はいないだろう]
―寮自室―
あ゛ー…
[机の上には広げたノートと英和辞書。珍しく朝から課題を片付けようとしていたらしい。但し左上に三行細々とした英文が書かれたっきり、一向に進んでいない。
両手で頭をわしわししたり、何とか少ない知識をひねり出そうとしていたのだが、不意にばたりと伏せ、]
……ダメだー。飯行こ。
[選択→現状からの逃避。]
[御堂の上げた声にきょとん、とそちらを見て、フユが来ている事に気づく。
昨夜の騒動をちら、と思い出して、やや、気まずいものを僅かに感じるか]
……それで、元気じゃないんですかっ。
[じゃあ、全開だったらどんななんだ、と。
そんな事を考えつつ、隣使う、という言葉にはどうぞ、と返す]
ああ、ありがと。
[ヨウコから注がれた麦茶を一口飲んだ。
涼やかに薬味の盛られた素麺をトレイに載せ
かくりと項垂れるフユ。
ショウやマコト達とは少し離れたところに落ち着き
もそもそと素麺を食べ始めた。]
/*
ありがとう(笑
ちょくちょくあしらうとする。
私は共同戦線、という予定は特に無かったから
偶発的に囲い込んだか、
それとも、こっちの影響でそっちが覚醒?したか
という事になる……のかな。
*/
―食堂―
ちわー…っと、今日は多いね?
[自分の時間帯がズレているだけかも知れないが、いつもはもう少し疎らな気がした。
先客達に軽く挨拶しながら、注文に向かう。]
[フユの様子はいつもの事だとでも思っているのか、
離れたところに座るのを見れば、敢えて声もかけずに]
なんで、驚くんだよー?
腹減り過ぎて、買い物行く元気もなかったもん。
食べ終わったら行って来っかなー。日射し強いケド。
[マコトに答えつつも、合間合間に食事を進め、
後から食べ始めたはずなのに、速度は他よりも速い]
つか、マイマイ、量少ねーっ!
[彼と同じく小柄な後輩に声を投げた。
足して2で割ると、ちょうどいい量なのかもしれない]
─昨夜のこと─
……見ていて楽しいと思うけど。
[桜の樹の下での、二人の遣り取りをフユは知らない。]
…………。
(そもそも剣道少女自体がそんなに多く無いような)
おやすみ。
[意外と、と言うべきか
幾ら想像がつかないとはいえウミにもそういった可愛らしい時期があったのだと思いながら、照明を、枕元に置いたスタンドライトに切り替える。
そういえばウミから
こういった事を聞くのは始めてだ……][ページを捲る。]
[ショウのあげた声が、フユを回想から引き戻す。]
佐久間先輩もこんにちは。
そうですね、時間が丁度合ったみたいです。
[また新しく入ってくる先輩に麦茶を用意しながら挨拶をして]
それだけ食べられれば十分元気だと思います。
一之瀬先輩と舞ちゃんのを足すと丁度二人前というところですね。
[ショウにはそう言って麦茶のお代わりを注ぐ。
他にもコップが空いているようなら注いでゆくだろう]
[離れたところに座るフユには、軽く礼をしておくに止め。
ヨウスケには、こんにちは、と挨拶を]
え、いや、俺にはすごく元気に見えたんで。
お腹が空いてくったりしちゃってたのを、見た直後だったせいもあるかも知れないですけど。
[ショウにこう返しつつ、陽射しの話に一度、窓の外へ目をやる]
ん、確かに陽射しは強かったですねー、俺、さっき外から戻ってきたところなんですけど。
風もちょっと熱めだったかな……?
[独り言めいて言いつつ、マイコの量が少ない、という言葉にはひっそり同意していたり]
/*
了解。
思い付きで言ってみただけだから
気にせず、そのあたりは好きにやって。
どうしてココに居たのか、か。
考えてなかったけど。
桜に惹かれた、とか。かな。
*/
/*
はい、その場のノリでやらせていただきます(笑)
そういえば桜はどちらの力も持っているのでしたか。
こちらもそのつもりでおいてみます。
*/
[味に慣れた頃に薬味を足し
それにも慣れたら違う薬味を足す、という
地道な作業でフユは素麺を消費してゆく。
ある程度食べたところで残すことも考えたが]
……。
[皐月の目がそれを許さなかった。
空いたコップに麦茶が補充される。]
ヨウコ、アンタ、
メイドじゃないんだからそんなにウロウロしないで
落ち着いて座ってたら?邪魔だし。
お茶のおかわりなんて自分でやらせれば良い。
そうかなぁー?
[ヨウコの声にも、やはり納得いかない様子。
足される麦茶を見ながら、芋の天ぷらを齧る。
まだまだいけると言わんばかりだ。
それだけの量が、身体の何処に行っているかは謎だが―――
エネルギーに変換されて、全て消費されてしまっているのだろう]
くったりしてた?
夏バテには辛い物って言うよなー。
[カレーとかキムチとか。
そんな話をしていたら、余計、暑くなりそうだった。
マコトの言葉を聞いて、窓の向こうを見やり、眉を寄せる]
げー、マジで。
オレ、帽子持ってないんだよなー。
せめて風吹きゃ気持ちいいと思ったのに。
ダッシュで行くか。
珍しいこともあるもんだね。
…と、ありがと。
[用意してもらったお茶を受け取り、集まっている皆の近くに座る。素麺の量は隣で高スピードで食して行く彼には敵わないものの結構多め。
少しだけ、離れた位置に一人いる少女にも目は向けたか。]
/*
あとは展開だなあ。
どのあたりで司に仕掛けるか、とか。
どっちが先に表に出るか
(つまりどっちがラストウルフになるか)とか。
司とかのアプローチを期待しても良いけど。
まあ、こっちから攻めて行くのが礼儀ってモンでしょう
ということで(何
*/
あ、そんなつもりは…。
[フユに言われれば驚いて動きを止め。
とりあえずショウ達とフユ、どちらが手を伸ばしても取れそうな位置にポットを置いた]
…私、使った食器を片付けてきちゃいますね。
[それでも何となく座ることができなくて。
食器がまだそのままだったと洗い場の方へ*向かった*]
珍しいって、何がー?
[ヨウスケに問いを投げかけ、3つ目の芋天を口内に放る]
んぁ?
どーしたんだ、九条のヤツ。
[割り箸を銜えつつ、首を横に倒した。
その場から逃げるようにも見えたのは、気のせいか。]
/*
表は退席しましたが、こちらにはもう少し。
私はまだ大抵の流れに合わせられる程度にしか設定を詰めていませんので、仕掛けるも大人しくしておくもOKです。
そちらとしてはどんな形を希望されますか?
そうですね、動きを作るのはこちら側からも積極的に。
司以外の生徒も上手に巻き込んでいきたいですね。
*/
ええ、くったりと。
[言いつつ、ちら、と視線を向けるのはマイコなのだが。
先ほど笑いを堪え切れなかった事を怒っているのか、まだむくれているようにも見えたりする]
あー、辛いもの。確かに、そう言いますねー。
うん、帽子がないと、ちょっと辛いかもしれないですね。
これから一番陽射しが強くなる時間ですし、日射病には気をつけてくださいねー?
[ショウに言いつつ、食事を終えて。
麦茶のコップを空にし、立ち上がる]
ごちそうさまでした、と。
さて、それじゃお先に失礼しますね?
[言いつつ、食器を片付けに向かう。
一緒に片付けますかと、ヨウコに申し出られれば、自分の使ったものだから、とやんわり断って。
片付けが済んだら、*課題の調べ物のために図書館へ向かうだろう*]
や、こう一所に集まって飯食ってんのがさ。
いつもはもうちょいバラバラだった気がすんだよな。
[天麩羅を口に入れるのを横目に見つつ、麺を啜る。
食器を洗うと言って去る少女に対しては特に思うところもなかったのか、普通に見送った。]
[眉根を寄せ、残った素麺を口の中へ押し込んだ。
マコトの後に続き、食器を持って洗い場へ。]
……だから、アンタがそんなに世話焼く必要
無いって。
[素っ気なく言い
自分の分の食器を手早く洗う。
三年過ごした寮だけあって、何処も勝手知ったる様子
戸棚の扉のひとつの立て付けが悪いのも
その上手い開け方も知っている。]
[食堂から出る間際、ヨウスケを少しだけ盗み見た。]
/*
ラストウルフになれる準備はしてある。
嗚呼、言い忘れたけどフユは
静謐を望んでいる……勿論、憑魔によって増幅させられて
歪んだ形の欲望として殺してしまえば静かになる、という
感じ。
*/
/*
あと、非体育系を全面に押し出してるから……
って二人とも非体育系?(笑
まあ良いや。
暫くは猫被って過ごしたいかな、私は。
*/
……何かあったん?
[何だかむくれている様子の少女に首を傾げつつ、部屋を出て行く少年を見送り。
続いて出て行く少女には声は掛けないが、此方も何気なく見送る。視線を外した瞬時、彼女の目が此方を向いたような気がしたかも知れない。]
カガミ、お前、言い方が保護者くせー。
[同じように、ちらりとマイコに目をやる。
立ち去るマコトは、視界の端で見送って。
量は段違いなのに、食べ終わるタイミングはほぼ一緒。
つるん、勢いをつけて、最後の麺も綺麗に収められる]
ごっそーさまー!
[ぱんっ、と手を打ち鳴らした。
大量の素麺と天ぷらの乗っていた皿は、既に空っぽ。]
あー、確かに、そうだよなー。
授業ある時と違って、みんな適当な時間に来るし。
でも、たまにはよくねー?
[飛び散ったつゆをおしぼりで拭いながら、ヨウスケに答える]
[アーチェリー場で弓を引く。しかし、矢は散っており集中できていないことを暗に示す]
……はぁ。駄目だ、やっぱり調子出ない
[ちらりと時計を見ると昼過ぎ]
今日はこのままやってても仕方なさげだなぁ。はぁ
[そう言うと片付け始める]
/*
力をつけようと〜って(おろおろ
何て素敵な展開。
中の人はときめきまくり。
じゃあ、序盤は「憑魔の願い」を面白がって手助け
していくとしようか。つまりヨウコのサポートで。
邪魔になったら共食いまで出来れば最高。
それじゃあまた夜に。
私は居たり居なかったりするけど
何か流せば多分反応する、かな。
*/
て、早ぇ。
[早くも空になった容器を見て笑い。そういう自分も残りは底に少量と天麩羅を残すのみだが。]
ま、そだね。どうせ少ない人数、皆で固まってたほうが楽しいし。
…あいつらどうしてっかなぁ。
[実家に帰省中の友人を思い浮かべつつ、麦茶を一口。
さらに返された言葉には首を傾げ、本人に尋ねてみようとしたものの、何でもないと言われるだけだったようだ。]
そ?
いつものコトだろー。
スケさんも他人のコト言えねぇし。
[笑うヨウスケにさらりと答え、食器を手に立ち上がる]
あー、短期で講習受けるってヤツいたなぁ。
海に行くんだって張り切ってたのもいたケド。
そういや、スケさんも戻んなかったんだ。
妹も一緒だから、いいんかな。
[コップの中身を空にして盆に乗せ、洗い場へと向かった。
ヨウコは何か考え事をしている風でもあったが、
気にせず、食器を受け取られる前にさっさと自分で洗う]
[片付け終わり、寮へ帰ろうとアーチェリー場を後にしようとすると]
……ケン?
[そこには幼馴染の一人。何やら真剣な顔付きで立っていた]
…………どうしたの?
いやいや、イチ君程では。
[手をひらひらと振る。からりとコップの中の氷が鳴った。]
海かぁ…そいや一回、海が良いか山が良いかで言い争ってたっけ。
俺クーラーの利いた室内派っつったら怒られた。
[小学生並だ。]
ん。むしろ友梨残るから残ったよーなもんだし。
なかなか会えないけどねー。
[避けられてんのかな、と肩を竦めながら、僅か残る天カスを口に入れた。]
[戻って来ると、けらけら、笑って]
何だよソレー、スケさん、ヒッキーだなぁ。
オレは、海も山もいいケド、プールもいいなー。
ほら、流れるのとか波のとか、スライダーもいいし。
っても、あんまり行ったコトないけどさ。
[こちらもある意味、レベルが低い。]
あれ、そーだったんだ?
兄妹って、羨ましいケド、妹相手は大変そ。
大切にしろよー。
[軽く言って、身体を解すように、伸びをする]
[ケンは僅かに俯いていた顔を上げると]
「……ウミ。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
…………何?
[真剣な顔に、僅かに目を細め、短く促す言葉を返す。ケンは僅かに回りを気にした後、言い難そうに頬を掻くと]
「あー……えっと……その、ウミってさ。付き合ってる人とか……いるの、かなって」
…………はぁ?!
[あまりの想定外の言葉に目を丸くして声を上げる]
どーせなら現代っ子と呼んでくれ。
……確かにプールは良いかもな。しょっぱくないし。
[どっちにしろあまり変わらない。プール肯定の理由も。]
ん、お年頃って悲しいねぇ。小4くらいから全然構ってくれなくなってさ。
大切にゃしたいんだけど。
[ちなみに会えないからこそ一部――先程まで同じ場所にいた2年生の少年や、三つ編みの少女の義兄にいろいろ聞き込むわけだが。苦手とされている辺り、ついでに威嚇でもしているのかも知れない。
コップにもう一度麦茶を注ぎ、殆ど一気に飲み干した。片付けようと席を立ちながら、ふと]
…ってあれ、イチ君ひとりっ子だったっけ。
しょっぱくないケド、塩素臭くね?
[あの臭いだけは苦手、と表情を歪めた。]
小4って、…かれこれ8年くらいじゃん。
うわ、さみしー。報われないねえ。
[そんな彼の行動を殆ど知らないショウは、そう返すだけ。
被害に遭っている者からすれば、当前と言いたくなるかも知れず。
伸びに続いて腕のストレッチまでしていると、
流石に、寮母によそでやりなさいと注意を受けた。
はぁいと気のない声を返して、外に出ようかと身体を反転させ、]
んにゃ。違うよ。
[背を向けたまま、問いへの否定は、短い。]
―競技場・フィールド―
あ、ーぢー…。
ってか、砂が固くなりすぎ、た。
[頭からタオルを被って、芝生の木陰に寝転がる。
手探りで、最早土だらけになってしまったスパイクを脱ぎ捨てて
乾いてこびり付いた砂を適当に払いながら、ぽつりと独りごちる。
自主錬だから、全て自分でやるのは判っていたが水が多すぎた。
それはもう、前の比とは比べ物にならないぐらいに。
マネージャーの偉大さをしっかり思い知って、反省中。
ちなみに昼ごはん?何それ美味しい?
と言わんばかりに、口にしたのは10秒チャージゼリーですが何か。
一部の人に知られれば、怒られそうな食生活。]
「おっつかれーん。ホイ、差し入れ」
っうわ、冷た…っ!
…って慎かよ。ビックリさせんな!
[タオルの覆う白い視界をぼんやり眺めている内に
首筋に当てられたひんやりとしたものに、思わず飛び起きる。
(マネージャー代わりに付き合え、と無理矢理連行してきた)肝心の相手は、
「ひんやりとしたもの」…缶ジュースを持ってけらけらと笑うばかりで。]
「ほい、差し入れ。そこの自販機で買ってきた。」
……うっわ、慎の奢りとか珍しすぎる。むしろ怖ぇ。
明日もしかしたら、台風来たり落ち葉が舞ったり
吹雪が起こったり桜が咲いたりするんじゃねーの…。
「最後のとか、どこの怪談話だよ。」
[軽く投げ渡される缶ジュースを受け取りながら、
うっわぁ怖い、とか大げさに怖がって見せる。
そういう互いの顔は、笑顔が浮ぶものでしかないが。
とはいえ、折角の頂き物にありつかない理由は無い…況してや炎天下。
さっそく戴きまーす、と勢い良くプルタブをあける。]
[瞬間、
激しくシェイクされ、勢い良く噴出した炭酸水を浴びながら
…怪奇現象が起こる事はねーな、と前言撤回の決意を*したとかなんとか*]
あー、そだな。
俺やっぱり室内で良いや。
[顔を顰めるのを見ればまた小さく笑い、]
なー。昔はべったりだったのにさぁ。
それ言うとまた怒るし。
[トレイを運びつつ、首だけがくりとうなだれるようなポーズをしてみせた。]
?…そか。
おう、またー。
[短い返答にはやや首を傾げるものの、振り向いた笑顔に誤魔化されたか、言及することはしなかった。此方も軽く手を振って見送る。]
「あっ、いやその……付き合ってる人居ないんだったら、俺と付き合ってくれないかなって。昔からさ、えっと……好き、だったんだ、ウミのこと」
[しどろもどろに告白の言葉を告げるケンに、僅かにため息をつくと、しっかりとケンの目を見据え]
……気持ちは嬉しい。付き合ってる人も居ないよ。……けど、ごめん。その気持ちは受け止められない
[それだけ言い残すと、その場から立ち去ろうとする]
−体育館−
〔バッシュが床を擦る音。ボールが地を叩く音。
夏期休暇中にも変わらず、幾人かの部員が、今日も早くから練習に励む。
――― 1on1。
オフェンス側の沢口 遥仁は、自ら手に確りと意識を向けつつも、眼差しは全体を捉えていた。対峙する少年は、学年は下でありながら体格は上。まともにぶつかり合えば不利、真正面から打っても止められる。
視線が彷徨って、一瞬、動きが止まりかける。規則的なリズムの変化。
即座に、スティールを狙って、手を伸ばすディフェンス。
それに動揺もせず、…ふっ、と。遥仁の口の端が、持ち上がる。
フェイク。手は止まる事なく、ボールは彼の背後へと逃げた。目測を見誤り僅かバランスを崩す相手を横目に、動きは既に、次へ。球を操る手を左に移しながら、身体を捻り自らを盾にして一気に抜き去る。ボールが強く、跳ねた。
後ろは見ず、今、見据えるのはゴール。
地を蹴り、高く伸び上がるイメージを持って、両手を添えボールを空に解き放つ。
球は、遮るものもなく、弧を描いて輪の内へと収まった。〕
〔幾度かの遣り取りを終えて、笛が鳴る。終了の合図。
コートから戻って来た2人は、タオルを受け取り、呼吸を整える。
外から聞こえる蝉の声が、煩い。生き急いでいるようにも思えた。…実際彼等の生は短いのだから、その通りだろうか。
それに、夏の陽は長いと言うけれど、1日はやはり、短く感じる。
幾ら練習しても、遥仁にとっては、足りなかった。
強いですね。感嘆の声をあげる練習相手の1年生に、遥仁は少し照れたような表情を返した。
特訓して貰ってるしね、との言葉は極々小さく。視線を移して、外を見やる。
「―――折角。
先輩から引き継いだポジションだから。
頑張らないと、ね。」
そう言う遥仁の浮かべる笑みは、僅か、*苦いものだった。*〕
[少女からの食器洗いの申し出は丁重に断り、軽く水で濯いで元の場所へ。]
じゃ、お先に。
「あ、佐久間君」
…はい?
[部屋を出ようとして、ふと寮母に呼び止められる。曰く、妹にも食事はちゃんと取るように言っておいて欲しい、と。]
…会えたら注意しときます。
[昔から少食だったからなと軽く苦笑いを零して、食堂を*後にした。*]
[立ち去ろうとしたのだが]
「……もしかして、マコト?」
[その言葉にピタリと足を止める]
「やっぱり、ウミってマコトのことが……」
……違うよ。好きとか、そんな綺麗なものじゃない。これは私の我侭……エゴだよ
[振り向かずそれだけ言い残し、アーチェリー場を後にした]
[朝早くに寮を出て、戻って来たのは、もう昼の日差しも大分落ち着いた時間だった。その足で寮母の部屋へ向かう]
こんにちは。俺に荷物が…ああ、届いてましたか。ありがとうございます。
[預けられていた段ボール箱を受け取り、昼食は食べたのかという問いには、はい、と頷く]
外で済ませて来ました。夕食はお願いします。
[ぺこりと礼をして、箱を抱えて自室へと戻っていく]
―寮・自室―
[窓を開けると、僅かに湿った風が流れ込んでくる。夕立が来るのかもしれなかった。きっちりと着込んでいた学生服を脱いで、Tシャツに着替える。炎天下に出掛けていた割には、余り汗もかいてはいないようだ]
…………
[段ボール箱を開け、一番上に載せられていたメモを無言で読むと、小さく溜め息をついた]
[ケンから見えない位置まで来ると、ガンッと壁を殴りため息]
……何やってんだろ。わざわざ言わなくていいこと言って……最悪
本当に昨日からおかしいな、私
[トンッと額を壁につけ、*自嘲*]
[メモをズボンのポケットに捩じ込み、箱に入っていた数冊の英文のテキストを引っ張り出す。窓の外、まだ暮れる様子も無い太陽を見遣って、暫し、思案する]
…明日でもいいか。
[取り出したテキストをまとめて自分の机の上に置くと、箱の中に残っていた菓子折りを手に部屋を出る]
[階下に降りると、再び寮母の部屋へ]
………すみません、これ、実家から送って来たものなんですが。
はい、水羊羹らしいです。
[ゆうに40個は入っていようという重い菓子折りを渡す]
はい…もちろん構いません。
[寮生達にも食べさせていいかという問いには、当然に頷いた]
[ついでに冷やしておいて、と頼まれて、水羊羹を10個ほど給湯室まで運んでいくと、冷蔵庫に入れた]
…………
[暫し考えて、電話の横に置いてあったメモに「水羊羹あり、御自由に」と書いて、冷蔵庫の扉にマグネットで留めておく]
[誰も居ない練習室。
蛍光灯は消してあり、自然光だけが照らしている。
壁一面の窓は全て開け放ってある。
湿った風が吹き抜けて、高音を運んでいくのを感じた。
閉じた、フユの瞼の上を汗がひとすじ伝う。]
[自分は麦茶を一杯、コップに注いで飲み干す。自室に戻ろうとして、ふと思い立った様子で、玄関から外に出た]
…………
[額の上に手を翳し、空を見上げる。遠くから微かに雷鳴が届いた]
[周囲の空気とフユの意識が同化していく。
風に乗って、窓から出て行く。]
[高く][高く][煌めく夏の日差しの中を]
[桜の樹を揺らし
陽に透ける青葉の間をすり抜けて][遠く]
[平らな校庭。砂の上を滑り
寮へ。
開け放たれた窓が並ぶ。
窓から吹き込む夏の風のイメージ。]
[低い雷鳴とは違う、澄んだ音色が校舎の方から風に乗って届く]
[それは、遠く離れたこの場所では、ほんの小さな、風の悪戯のような響きでしかなかったが、確かに美しい旋律をもって湿った空気を煌めかせた]
[汗の玉が睫毛のうえに留まる。
閉じた瞼は震えることすらしない。]
[音波の広がりを感じる意識と同時に、
その場に留まる意識がある。
こちらの世界は無音。静謐。
磨き込まれた鏡の如く
研ぎすまされ
ひたすらに凪いでいる、止水の境地。]
[雷鳴の隙間を縫うように、フユの奏でる音色は
開け放った窓から響いていく。
穏やかなる午後を過ごす者には聞き分ける事が出来るかも知れない程度の、微かな調べ。]
[壁に背を預け、耳をくすぐる微かな旋律を、感覚を研ぎすませて拾い上げようとするかのように、目を閉じる]
………………
[僅か、唇に笑みに似たものが浮かんだか]
[フユはゆっくりと目を開く。
睫毛のうえに留まっていた汗が
ひとしずく落ちた。]
[長く、静かに息をはいた。]
…………。
[雨音が全ての音を消し去り、静寂が支配する。]
[ガタン]
[フユが唐突に立ち上がった音だった。]
……洗濯物、干しっぱなし!
[もの凄い早さでフルートを片付け、ケースを抱えて
夕立の降りしきるなかへ走り出した。
雨に濡らさないよう、両腕で確りと抱えた。]
[夕立の雨音が、煌めく旋律を覆い隠し、稲光が閃く]
…………残念。
[目を開けて、白い水煙を上げながら大地を打つ雨を見つめながら呟いた声は、続いて轟く雷鳴に紛れて消えた]
[篠つく雨がフユの視界を隠す。
玄関のぬかるみに足を取られて転んだ。
その際、腕を伸ばして、フルートのケースだけは
器用に玄関の日除けの下に滑り込ませた。]
…………どうも。
[ヒサタカの手を払い除け、雨で顔に落ちかかる髪の
隙間から不機嫌な目を向けた。
相当恥ずかしかったらしい。]
運動音痴なもので。
それ、取ってもらえますか。
[フルートのケースを指差し]
[泥だらけだろうフユの様子には僅かに息を呑んだか。腕を払いのけられたのは気にしない様子で]
………とにかく、早く、中へ……
[言いかけて、指差されたフルートのケースに気付いて、拾い上げた]
これだけ濡れてしまったら
もう手遅れというか。
どうでもよくなりました。
雨は嫌いではありませんし。
[立って、空を見上げた]
……聞こえてましたか。
―昼ごろ:食堂―
約束やぶるのは酷いです!
[マコトにはぷうとむくれたままに、やがて食べ終わるはショウとほぼ同時]
ショウちゃんせんぱい、はやーい…
[小食じゃないもんと口を尖らせ]
そんなにいっぱい食べられませんー!
おなかいっぱいです、ごちそうさまでした!
[元気100%]
あ、片付けるー
[食べおわった食器をもって洗い場に。
すこしお話しながらお手伝い。
一段落したら部屋に戻ったのだった]
―夕方:自室―
[ごろごろと、うなり声のような、遠い音が届いた瞬間、シャーペンの音が止まった]
………………!
[反射的に立ち上がり、ばぁん!と窓を閉じる。
すこし届いたフルートの音など気にすることもなかった]
……………………かみなり?
[顔は青い。空は暗い]
ああ、綺麗な音色だった。
……俺には音楽は、良く判らないが。
フルートも大事だろうが……あの曲を奏でられる自分も大事だと思うよ。
[だから、どうでも良くはないだろう、と言外に。それからタオルを貰いに寮の中へ*先に立って入るだろう*]
[音がなるたびにびくぅと身をすくめ、たどり着いた部屋の前。息をきらせながら扉をあけて]
わたる!!
[しかし部屋はもぬけの空。
空が悲鳴をあげた]
…………。
[濡れた服がぴたりとへばりついて気持ちが悪い。
身体のラインが浮き彫りになっていた。
上着を摘んで身体から剥がした。]
[ヒサタカが寮内へ入ると
騒々しいまでの雨音が聴覚を覆い尽くして
全ての音が聞こえなくなる。
フユは再び目を閉じて、ヒサタカが戻るまで
その静寂を楽しんだ。]
[ヒサタカが戻るとフユは、少し残念そうな顔をして
日除けの下に入ってタオルを受け取り、服の上から身体を拭いた。腕から先を念入りに拭い、水気を取ってからフルートを受け取る。]
……夏に
風邪ひく事も、無いでしょうに。
[まわりをしっかり見ることもなく走りまわっていたら、
自分を呼ぶこえがしっかり聞こえた]
…………せんぱい!!
[ぬれてるのも気にせず、目がけてタックル!
もとい抱きつこうと]
−校外−
んっげー。降って来たっ!
[雨粒が頬を濡らしていく。
ビニール袋を傘代わりに頭の上に翳そうとして、止めた。
逆に抱えるようにして、ダッシュで雨の中を駆け抜ける。
天から落ちる雫も、地に溜まる滴も、一緒くたに跳ね上げて]
どうせ降るなら、買い物中に降れってーの!
[雨音は文句すら掻き消す。
閉まっている店の軒先に走り込んで、その場にしゃがんだ。
雨宿りには、ちょうどいいだろう]
……?!
[びちゃ]
[長身のフユの、腰あたりに綺麗にマイコの腕が巻き付き
助走の勢いもつけた見事なタックルが決まった。
フユは、壁にしたたか背中を打った。
腕の中にしっかりとマイコを抱きとめ、たんだか
飛び込まれたんだか]
っ……どした。
[錯乱した様子のマイコを抱きしめたまま。
空が光り、雷鳴が轟いた。]
雷?
[ざぁああああぁぁぁ………
夕立だろうから、待っていれば降り止むだろうか。
そんな事を考えながら、眼差しはぼんやりと、遥かな空に。
何時もはあちこちに伸びている髪は、
元気のなさそうに、額に張りついていた。
半袖のシャツも、すっかり濡れて、肌に纏わる。
気持ち悪かった。]
…早く、止まねぇかな―――
[*呟きは、天には届かない*]
[ぎゅうと抱きついてどうやらすこしふるえている]
[その音がする瞬間にびくうと身をすくませるのだから…なにが悪いかは当然よくわかるだろう]
─図書館─
……よっし、大体おっけ。
[ぱたむ、と音を立ててテキストを閉じる。
静寂に沈んだ空間で課題に勤しんでいる間に、幼馴染たちの間で何があったのか、などは知る由もなく]
ん……雨、降ってきたか……。
[資料を返すために立ち上がり、ふと見やった窓の外。
空から落ちる雨と、閃く雷光。
それらをしばし、ぼんやりと見つめた後、資料を片付ける]
マイコ、知ってる?
[雷鳴]
雷は「稲妻」って言って、
稲の恋人って昔の人は言ってたんだって。
そういう風に考えたら駄目か。
[小さな頭を撫でる。]
[片づけを終えて、窓越しに雨を見つめる。
さすがに、この雨の中を駆け抜けるのはまずいか、などとふと考えながら]
……雨……か。
[ぽつり、と呟いて。
ポケットに入れたミッドナイトブルーの携帯、そこについた小さな鈴に視線を向ける。
でも、それは一瞬の事で。
視線は再び、*雨の帳と雷光へと向けられて*]
そう。
[顔を上げて目を瞑ったマイコの額を撫であげる。]
だから、えーと
あー……ほら。こう、何て言うんだ
雷が空から地上に嫁入りしてるとか。デートに行くとか。
[こういう話は好きでは無いしフユにとってはロマンチックすぎて気恥ずかしい。]
だから会いに来る、とか ね。
[胴のあたりで、マイコの細い腕に力が篭り、
落ち着いたらしくまた少し緩まるのを感じる。
雨音に紛れるくらいの声でフユは呟く。]
嗚呼
好きな人の事を悪く言われたり……からかわれたり
その人と、他の誰かが喋っていたりしたら
嫌なものかな。
……?
[なにを言っているのかわからずにか。
じぃと彼女を見上げて]
好きなひとがしあわせになれないなら、いや……ですよ、きっと
かみなりも、いや、なのかなぁ……
[だけれどまた完全には離れられず]
…………かもね。
[見上げてくるマイコの額にぺたりと手を載せた。
呟き。]
んー。
まあ、ちょっとモモの好きな奴のことからかったら、
アイツ怒らせちゃって。
あとで謝りに行こうかな……夜にでも。
ほら、
そろそろ部屋戻るよ。
どうせ宿題とか、やりっぱなしで逃げて来たんでしょう
雷よりそっちのほうがよっぽど怖いと思うけど。
[*雨音*。]
モモせんぱいの?
[思いあたるふしはなく、きょとんとして。
だけれど続いたことばに顔色がまた悪くなった。]
ど、どっちもこわいですよ!!
[促され、うなずき進みかけた時。
自分を呼ぶ低い声]
あ、わたる!
[まだついていた手がほどけ、]
ごめんなさいフユせんぱい!先帰っててください!
[宿題は次の機会です!なんて言いかけてゆく。
雷はいつのまにか少し遠くなっているようだった。
義兄の手を取って、共用スペースへ
フユせんぱいが助けてくれたんだよと、*嬉しげに彼女は言った*]
[風邪以前に、フルート死守するより自分の身体を庇えとか、言いたかったのかもしれないが、勿論それは言えず、やっぱりフルート優先で擦り抜けていったフユを黙って見送る。そのまま、自分は、再び空に目を向けて、降りしきる雨をじっと眺めていた]
校門の前に、厳つい車が一台。
その周辺には、学長を始めとする教師たちの姿がある。
「では、留守は頼むぞ! 生徒たちもだいぶ残っておる様子、くれぐれも、事故などなきようにな!」
学長の言葉に、教師たちは頷いた。
空手部の名誉顧問という立場にもある学長は、長期休暇の間でも滅多に学園を離れる事はないのだが。
今夏は、所用で数日学園を離れる事になったらしい。
休みなしの空手部の夏期休暇に、槍の雨でもふるんじゃないか──そんな言葉が飛び交ったらしいが、それは幸いにして、学長の知る所ではなく。
黒塗りの厳つい車に、同じくらい厳つい身体を押し込んだ学長が走り去った後、留守を預かる事となった教師たちも校舎へと戻って行き。
静寂。
それを打ち破るように、リン……と小さな音が響いた。
鈴の音を思わせるそれは、桜の大樹の辺りから響いたもの。
その時、樹の辺りを見た者があったなら。
ふわり、翻る桜色の影を目の当たりにしただろうか──。
やがて振り出す雨に包まれた桜の大樹は、青々とした葉を雨に濡らして静かに佇む。
何事もなかったように、そして、何も変わらぬように。
―午後・皐月の部屋―
[あれから食器の他に鍋その他も洗うのを手伝って。
ちょっといいかしら、と誘われて皐月の部屋に入った]
「ねえ、寂しくなったりしていない?」
[少し考えた後、皐月は正面から切り込んできた。
小さく息を呑んで、けれどヨウコは首を振った]
そんなことありません、ここにも慣れましたし。
[勿論それには渋い表情が返る]
「そんな優等生の答えが聞きたいわけじゃないの。
恵子さんの代わりになんてなれないでしょうけれど、もっと頼ってくれていいのよ?
私はみんなの、もう一人のお母さんなんだから」
[その言葉はジワリと沁みこんだ。
ゆっくり話すことなんて滅多に出来なかった母。
けれどやはり遠く離れて心細くないなんてことはなかったから]
はい、頼りにしてます。
[普段よりも柔らかな笑顔が浮かんだ。
それを見た皐月も満足そうに微笑んだ]
[それからもう暫く話をして。
皐月の部屋を辞すと校舎の方へと向かった。
途中、例の桜の樹へと視線を向け]
え?
[足を止めて目を瞬く。
一瞬、桃色の影が見えたような気がした。
けれどそれは瞬いた刹那で消えうせていて]
…気のせい、よね。
昨日みたいに誰かいるとか。
[結局気になってそちらへ向かう]
[近付いた大樹は、けれど普段と変わらぬままそこに佇み。
やがて降り出した雨にも青々とした葉を揺らすばかりで]
やっぱり、気のせいよ。
[そう言いながらもぼんやりと大樹を見上げていた。
やがて大分濡れてしまったことに気が付くと、慌てて寮へと戻った]
—女子寮・自室—
[浴場へ行き、そのついでに、雨を被ってしまった洗濯物を
タオルと一緒に共用の洗濯機へ放り込んで来た。
洗濯が終わるまではまだ時間がある。
フユは窓を開け、網戸越しに雨を眺めている。
雨音以外は*聞こえない*。]
……ずっと、降ってれば良いのに。
/*
居たり居なかったりしてる。
ptが拙いから、桜が咲くまで表には出ないけど(笑
共食いはロマン。
桜が咲いたあとはなるべく中の人会話を使わないでいけたら良いと思ってるけど。襲撃相談とバトル担当の相談は必要か。
ちなみに初回襲撃はサヤカさんを予定中。
*/
…天野先輩。
[走りこんだ玄関先にはヒサタカが立っていて。
無言のままの視線に怯む。
下手に水を払うと巻き添えにもしてしまうだろうと考え、そのまま動きが止まってしまった]
─図書館─
そろそろ、移動しないとまずいか……。
[雨の勢いが衰えてきたのを見て取り、小さく呟く。
傘を貸しますよ、という司書の言葉に、大丈夫ですから、と答えて外へ。
テキストやノートを濡れないようにとしっかり抱え込み、寮へ向けて走り出す。
雨が冷やした大気と、跳ねる水の感触は、どこか心地よく思えて。
昔から、雨の中を走り抜けるのは嫌いではなかった……幼馴染たちには、おかしい、と突っ込まれ続けてはいたが]
/*
一応、促しなしでいけるようにはするつもりだけどw
マイコか。
私怨なんじゃ?(笑
玄関での一件(?)は目撃されてても良いかもね(笑
サヤカさんは、登場時間が少なさそうだから
PL同士でバトルを仕掛けるのは難しいかなと思って。
襲撃のほうがうまく処理出来そうかな、と。
*/
─寮・玄関前─
[水を弾きつつ寮まで駆けて行けば、そこには複数の人影があり]
あれ……?
どうしたんですか、こんな所で?
[僅かに濡れて額に張り付いた髪を避けつつ、場にいる二人に問いかける]
は、はい。
[言われて端の方に寄ると、ハンカチを取り出して拭き始める。
緊張と冷えたのとで、その動きは少し鈍い]
あ、各務先輩。
…雨に降られちゃって。
[暫く雨に打たれていたため、服の端からもまだ水滴が垂れていた。
困ったなと思いつつ、とりあえず裾を絞って水を切る]
[ヨウコの様子を、再び見ると、踵を返して寮に入り、乾いたタオルを二枚持って戻ってくる]
………二人とも、早く着替えた方がいいぞ。
[タオルを差し出して言った]
……三人目って、何がです?
[ヒサタカの言葉に、不思議そうに首を傾げて見せる]
ああ、突然降ってきたからね。
早めに、身体、温めた方がいいよ? そのままだと風邪ひくからね。
[雨に降られて、というヨウコには、ずぶ濡れの様子に眉を寄せつつこう言って]
/*
(更に目を逸らす。汗たらり)
サヤカさんが今後どう参加されてくるか次第でもありますか。
その辺りの展開のさせ方はお任せしてもいいですか?(首傾げ
*/
/*
(その日の早いうちにメモで持ちかけておいて)
バトルを仕掛けるのが難しそうだったら
デモンストレーション的に死んでもらうのも良いかな、とか。ほら、サヤカさん美人だし。(ぁ
後半はバトルメインが加熱したりしたら
色々難しくなるかな、とか。
だから早いうちかな、とも思ってた。
*/
[差し出されたタオルと簡潔な言葉に『三人目』の意味を理解して]
榎本先輩も、ですか……。
あ……タオル、ありがとうございます。
でも、このくらいは慣れてますから。
[にこり、と笑いつつタオルを受け取る。
慣れですむ問題ではない、という自覚は多分ない]
ありがとうございます。
そうですね、着替えないと…
[クシュン、と小さくクシャミが出た。
タオルを受け取りながら、バツ悪そうに身を竦めて]
榎本先輩も、ですか。
大丈夫だったのかしら。
[寮内に水を持ち込まないように、その場である程度までを拭いてしまおうと、タオルを使う]
―屋内プール―
[夏休み、ほとんどが帰省したはずの寮は、返って残った者たちの騒々しさを強調するようで。人を避け、昼過ぎ頃独りプールへと向かった。]
[昨日泳げなかった憂さを晴らすかのように、ただひたすらに泳ぎ続ける。身体を包む水のやわらかさが、退屈も憂鬱も溶かしていく様に感じた。]
『私の居場所はここしかない……か。』
[背泳ぎの手を止め、天井を見やれば遠くから雨音が聞こえた。]
[そういう問題じゃないだろう、とか、人の心配ばかりしてないで、とか、言いたかったかもしれないが、やはり言葉にすることはなく、明るくなり始めた空に視線を戻す]
もう、上がるな。
[雷鳴は、すでに遠く消えかかっていた]
[校舎の隅でぼおっと空を見上げていたが、突如稲光が奔り遅れて雷鳴。そして雨が激しく降り出す]
…………雨、か。頭冷やすにはちょうどいいかも、な
雨に喜ぶあいつの気はやっぱり分からないけど
[そう呟くと雨の中フラフラとした足取りで寮へと向かう。もちろん辿り着く頃にはずぶ濡れだろうか]
もう止むんですか。
間が悪かったのかしら。
[そこで再びクシャミ。
流石にまずいと思い、急いで重たくなったタオルも軽く絞る]
お先に失礼します。
[そのまま部屋に戻れば着替えを取り出して浴室に向かう]
[ヒサタカの言葉に、空を見やる]
あ……ほんとですね。
もう少しのんびりしてても、よかったかな?
[別に構わなかったけど、と呟いて。
部屋へと戻るヨウコには、ちゃんと温まるんだよー、と声をかける]
/*
という訳で、一回目か二回目でサヤカさんを殺害
させて頂きたく。
下手人はどっちでも良いけどね。
取り敢えずフラグのセットも終わってるから
まったり、応援しながら見物してる。
*/
―浴場―
…ッシュン、クシュン!
[思った以上に肩が冷えていた。
脱衣場に入った途端、数回続けてクシャミが出る]
…もう利用時間だもの。
だから別におかしくないもの。
[一人で言い訳するようにそう呟いて*浴室の中へ*]
[寮に辿り着くとそこにはもうひとりの幼馴染と昨日でしっかり苦手意識の染み付いた年上の同級生]
…………やほ
[軽く手を上げて挨拶。頭は冷えたが、ずぶ濡れになった制服と髪が重い]
……っと……。
[呼びかける声に、そちらを見やり]
って、どしたの、そんなに濡れて!
[挨拶を返すより先に、飛び出したのはこんな言葉。
先ほど受け取ったタオルをまだ広げていなかったのを幸いと、問答無用で濡れた髪に被せようとする。
勢いで抱えていたノートやテキストが落ちたが、そこに意識は回っていないらしい]
/*
ありがと。
我が侭言ってごめん。
まあ展開次第、かな。
はじめのほう、特に初回はバトルも組みにくいだろうから
チャンスはあると思うけど、無ければ強引にもってく。
応援してようと思ってたのに、退席記号出してたw
それじゃあ、暫く大人しくしてようかな。
*/
[雷鳴、一瞬だけ照明が落ちてはすぐ戻り。壁の時計を見やって。]
あぁそろそろ時間……か。
[寮に戻りたくないな……などと考えながらプールから上がりシャワールームへと向かった。]
[慌てて構いに行ったマコトに、僅かに苦笑が漏れただろうか、ばさばさと落ちたノートとテキストを拾い上げるために屈み込んだから、そうだとしても誰にも見えなかったかもしれない]
/*
いえ、その判断はもっともだと思いますので。
強引に持ってゆくのは下手なので、そこは宜しくお願いします。
こちらも潜伏用退席記号の気配が(ぁ
暫し様子見モードです。
*/
[軒先で座り込んだまま、膝の上に頬杖を突く]
『リュウ、大丈夫かなぁ』
[耳は雨の世界に慣れて、最早、それが当然のようで。
視界を跳ね回る滴の方が、“煩い”と感じられた。
それでも降り注ぐ銀の矢は、徐々に勢いを和らげていく]
『ハルヒと花火の約束もあんのに』
[雨空を見上げ、棲み家で丸くなっているであろう仔犬と、
雨にも気づかぬ程、練習に励んでいるだろう後輩を思って、
吐き出される息は、重い。]
[軽く頬を叩いて、もう一度、頭を振った。]
あー。
いかんいかん。
[ついつい、思考が暗くなる。
やはり、雨は好きじゃない。
気分を変えようと立ち上がったところで、
世界が変わっている事に気づいた。
灰色の雲は流されて、現れた空は、明るい。]
待った甲斐、あったかなー?
[手を翳して空を眺め、あげる声も明るい。
ビニール袋を伝う滴を掌で払って、一気に駆け出した。
音が、還って来る。]
[ずぶ濡れの彼女に驚き、マコトが慌ててタオルを被せようとする
それを脊髄反射的に弾こうとはするものの、張り付いた服が重く、ふわりと暖かいタオルが頭に掛けられる
さすがにそうなったら投げ返すわけにもいかず]
…………ありがと
[俯き目を逸らし、ぶっきらぼうにそれだけを言った]
[手早く着替えを済ませ、傘も持たぬまま寮へと向かう。置き傘はあったのだが、何故だか雨に降られていたい、そんな気分で。]
[針のような雨粒が、髪を、頬を伝っていく。制服は雨を吸って重いだろうに、そんなのもお構いなしで。]
[ふいに銀色に光るアスファルトの上を素足で歩きたくなって、靴を脱ぎ右手に持ち、ぺたぺたと歩いてゆく。]
―→寮―
ほんとに、もう……。
[呆れたように息を吐くも、ぶっきらぼうな言葉に、苦笑めいた笑みを過ぎらせ]
タオル持ってたのは、ヒサタカさんのお陰だから。
と、いうか、どこにいたんだよ?
そんなに濡れる前に、雨宿りとかできなかったの?
[俺じゃないんだから、と、呆れたように言って。
投げ出した物を拾おうと屈むヒサタカに気づけば、あ、と短く声を上げる]
あ、すみませんっ、大丈夫ですからっ。
—女子寮・自室—
[雨があがり、
蝉の声が、人々のざわめきが、風の音が、還って来た。]
(嗚呼、また)
[煩くなってしまった、と
消えた雨音と遠ざかった雷鳴を惜しみ、フユはもの憂げに目を伏せた。]
―寮・2階通路―
[男子寮と女子寮を繋ぐ通路は仄暗く、雨音だけを響かせる。だがそれも徐々に遠ざかり、雨の筋に遮られるようだった窓の外の風景も徐々に色彩を取り戻していた。]
止む、かな。
[窓の外を眺めながら、一人きりの足音を響かせる。結局課題はあれから1ページを埋めるに留まったのみ。
…不意に、その足が止まる。]
……友梨。
[通路の窓際、佇むツインテールの少女を捉え。
雨音は何時しか止んでいた。]
何?……もしかして、好きな人でもできたのー?
[一瞬浮かんだ色は目の奥に消え、
対する亘の目にも一瞬だけそれは浮かび消える。
……返事はない。]
えー、だれだれ?私の知ってるひとー?
「……そう」
うっわぁ、先輩くやしがりそうー
[マコトの慌てた声には構わず、ノートとテキストを拾い上げ]
………気にするな。こういう巡り合わせらしい。
[そのままマコトの方へ差し出す]
[ヒサタカがタオルを持ってきたという言葉にチラリとヒサタカに目を向けるがすぐにスッと目を逸らすと]
…………そう
[短くそれだけを言う。マコトの続いての呆れた声には俯いたまま]
……部活棟。雨が降ってきてから、歩いて帰ってきたから
[その言葉は先ほどよりも僅かに冷たい突き放す印象があったかもしれない]
名前教えてよー!
応援するよ!
[にこにこと笑い、言うものの、義兄からの答えは無い]
ねえ、わた……
おにいちゃん
[口唇は求められるままに名前を呼ぶのをやめて]
[友梨はと言えば、その声の主――兄を一度見遣り。
何時ものように露骨に嫌な顔をすることもなく、また逃げ出そうともせずに、窓の外に目を戻した。]
「……何時からいたの」
さっき来た。
「…そっか」
[沈黙が降りる。外では再び鳴き出した生き物たちの声。
洋亮が2歩、3歩歩いて隣についても、友梨はそのままでいた。]
[アスファルトの水溜りを踏む度、上がる飛沫。
ぱしゃり、ぱしゃり、弾く音。
学校と寮の、丁度、狭間の辺り。
花の咲いていない、桜の大樹が視界に入る。
その周りにコンクリートはなく、雨水を吸った泥濘が覆う。
大降りの枝から、ぱたぱたと、滴が落ちるのが見えた]
……は?
巡り合わせ……ですか?
[言われた意味がわからずにきょとり、としつつ。
差し出されたノートとテキストは、ありがとうございます、と言って受け取って]
部活棟なら、雨宿りできる所だってあったろうに……。
[ウミに向き直りつつ、ため息混じりに言う。
冷たい響きには、僅か、戸惑うものを感じつつ]
とにかく、そのままじゃ風邪引くから……早く部屋に戻って、着替えろよ?
体調崩したら、俺もケンも心配するんだから。
[それでも、かける言葉は、口調も内容もほぼいつも通りのもので]
誰がすきなのか教えてよー
[笑いながら言うと、亘も笑う。
どこか普段とは違う緊張に二人ともが気付いていたけれど、それを口にすることはなく]
「言うわけねーだろ」
えー、ケチー!
[玄関前、すっかり雨を吸い込んだスカートの裾を軽く絞り。スポーツバックからタオルを取り出し軽く水滴をぬぐいながら中へと入れば、同じようにずぶぬれの二人と天野が見え、軽く頭を下げた。]
[手早く熱いシャワーを浴びて、そのまま身体を洗う。
蒸気の上がる中、ホゥと息をついた。
冷えた部分は気をつけて温め、脱衣場に戻ると]
「大丈夫?」
[風呂上りらしい響子がいた。
先刻は急いでいて気が付かなかったが、その時からいたらしく]
あ、はい。大丈夫です。
ちゃんと温めてきましたから。
「ヨウコちゃんもたまにボーっとしてることあるよね。
そういうの見ると従兄妹なんだなって思うよ」
[からかうような口調で言われれば、困ったように下を向いた]
[マコトとウミの様子を、どこか微笑ましく見つめながら、頭を下げたサヤカに気付いて]
5人目……雨に濡れるのが流行なのか?
[すでにぼやきに近いかもしれない]
……よく、覚えてたな。
[先に口を開いたのは洋亮のほう。内容は昨日送られてきたメールのこと。]
「…まあね。どーせ、そっちは覚えてなかったでしょ」
失礼だな。……まあ、そうだけどさ。
「全く。何で私のほうが覚えてんだか」
[呆れ声の友梨の顔は微かに笑っていたように見えた。]
「…父さんのことなんか、殆ど覚えてないっていうのに」
[そんなじゃれあいにも、まわりからは見られるだろう雰囲気。
ちらりと窓の外を見やれば、細い雨がまるでカーテンのように見えた。
言葉がとまる。
テレビの音。]
校庭に佇む、桜の大樹。
雨に濡れ、静かに佇んでいたその周囲で大気が揺らめき、揺らぎ、そして──
ざわり、と言う音が響き。
緑色の葉が、激しく揺れた。
──と、思うと緑色は唐突に枝を離れ、吹き抜けた風により、天高くへと舞い上がる。
静寂。
それを、リン……という音が打ち破る。
「……さくら、さくら……」
音に続き、小さな声が響いた。
「いのちのまつり。
おもいのめぐり。
きみゃくはめぐる、ちからのままに。
きざめ、きざめ、いのちのしるし。
ゆくかいなかはだれもしらぬよ。
さくら、さくら。
はなはひらきてみまもるのみ。
さくら、さくら」
響く、歌。
それに呼応するように、大気が震え、そして──。
……ごう、と。
不意に風が強く吹き抜けて。
それが過ぎた後には──色彩鮮やかな花びらを散らす、満開の桜の大樹。
リン……と。
また、鈴の音が響き。
昨日、誰かが座っていた枝の上には。
桜色の小袖をまとった、黒髪の、幼い少女の姿があった──。
「いのちの、まつり。
こうさが、はじまる。
はじまるよ?」
どこか楽しげに、こう言うと。
少女の姿は、花びらの色彩の中へと、溶けて、消えた──。
……?わた……おにいちゃん?
何、?
[突然、謝られた意味がわからずに顔を向けると、ぐいと肩に手が掛かる。強い力だった。
男の力だった。]
[そこで立ち止まったのに、特に理由はなくて。
あるとすれば、昨日の怪談話を思い出したくらい。
だから直ぐに立ち去ろうと、足を1歩―――]
―――わっ…?!
[揺らぎ。
大樹がざわめき、晴れ渡った空へと、緑が舞う。
耳に届いた音色は、鈴だろうか。
辺りに響いた声は、歌だろうか。
訳もわからずに、巻き起こる風に、片腕で顔を庇う]
[咲き誇る、季節外れの、薄紅色の花。]
…っ、なん………
[眼差しは、ほんの一時、誰かの影を捉えたか。
しかし遠目では少女であるとの視認までは出来ず、
瞬きの後には、その姿はもうなかった。]
……………なんだ、コレ。
[ぱちくり。
幾度かの瞬きの後、自らの頬を抓る。
痛い。
ついでに、雨上がりの空気は多少冷えているとは言え、
それは春には程遠く、夏のもの。
夢ではない、らしかった。]
[相変わらずのお節介なマコトの言葉にタオルの下の目は益々細められ。ケンの名前に僅かにピクリと反応するものの]
…………余計なお世話
[乱暴にそれだけを言い残すと、マコトに髪の水分を少し吸い取ったタオルを投げ付け、サヤカの存在には気付きつつも声を掛けることなく寮の中へ
すれ違うその目に不機嫌な色が宿っていたのはおそらく髪に隠れて誰にも見えなかっただろうか
もちろん制服は濡れたままなのだから、廊下には点々とした水溜り]
5人目……?流行……?
[天野へと小首を傾げ、そうして普段の彼女よりもどこか楽しげな口調で。]
傘を持ってない人が雨に降られてしまった、単にそれだけの話では?
[腕が、落ちた。]
……?
[離れるのではなく、近づいて。
何か声が聞こえたかもしれないけれど、それすらわからなかった。
だって綺麗な、花が咲いていたから。]
[やって来たサヤカに気づいて一礼し、ヒサタカのぼやくような呟きに、それは違うんじゃ、と言おうとした矢先、濡れたタオルが投げつけられ]
って……ウミ!?
[不機嫌な声と、走り去る様子に、思わず声を上げる]
……何なんだよ、もう……。
大きなお世話って、心配するのは……。
[当たり前じゃないか、と。
小さな声で呟いて、軽く、唇をかみ締めて]
亘……?
[どこか遠い。すべてが遠い。
テレビの声も、窓の外の雨も。
自分の体にも咲いた赤い花も。
義兄の背が視界に入る。
崩れたその背には大輪が。]
[名前を呼んでいるのに、訂正の声もなかった。
何、か、が。
あたたかい赤に指が触れる。
あたたかい。あつい。
ああ、あついんだ。
まっかであつくてあたたかくてあまそうでああなんだろうこれはどうしてこれがあらわになっているんだろうだってこれはほんとうはこんなところにあるはずのものじゃなくてだってたいせつなものだからかくさなきゃいけないんじゃないのそれはいのちの]
わ、たる……?
……え?
[ここから、桜は見えないのに]
なに……。
[桜の方から、何かが伝わってきたような、そんな気がして]
……何か……起きて……る?
[零れ落ちる、呟き。俯いていた視線が、校庭の方へと向けられる]
まあ…そうだな。
[サヤカの言葉には、頷いて]
君も、風邪をひかないうちに…
[着替えた方が、と、言いかけて…]
…………?
[ざわめいた桜の葉音が聞こえたか、それとも風に微かに混じる血の匂いに気付いたか、不審気に眉が顰められる]
……………すっげー。
[たっぷり数十秒、否、分単位の沈黙の後、呟きを零す]
怪談、マジであったんかなー?
…あ、ハルヒにも教えてやろ。
[濡れないようポーチに入れておいた黒携帯を取り出して、
登録していた短縮ダイヤルを押す。
けれど、数コールを終えて返って来たのは、機械的な音声]
――電波の届かないところにあるか、電源を…
[まだ練習中なのだろうか、と思う。
熱心なあの後輩の事だ、ひとりででも残って練習しているだろう]
約束忘れてねぇだろうなー?
[眉を寄せて、拗ねたような声。
携帯を切ってポーチにしまって、再び、桜を見上げる]
[女子寮三階。
フユは、モモの部屋のドアの前に立って、渋面を作っていた。]
[まずは何と言おうか。
『昨日はごめん』 いきなり?
『今日の夕立、凄かったね』 余所余所しい?
結論は出なかった。]
[軽く、ノックを二回。返事を待たずに扉を開けた。
儀礼的にノックをしても、返事を待ってからドアを開けたことなんてこれまで一度も無かった。]
[そよとの音さえ無く、蝉の声すら聞こえない。
部屋の真ん中に、少女が寝そべっていた。
首がおかしな方向を向いていて、床には静かに、血溜まりが出来ていた。
駆け寄って確かめるまでも無く、牧原モモは死んでいた。
生きているという気配が、いや厳密に言えば呼吸音や心音、衣擦れ、血管を血が巡る音、
そういった、耳で捉えられるものから捉えることの出来無いものまで
常日頃、無意識的にフユの聞いていた全ての、モモが発する”音”が絶えていた。]
[モモが生きることによって作り出されていたそれらの音色が好きだったのだと
フユはそのとき初めて気付いたことになる。]
[いまや世界は静寂に包まれていた。]
[去ってゆく女子と、取り残された男子と。リボンから察するに2年だろう。]
[天野の言葉が途切れる間際、ぞくりと背を伝う不快感。]
???
[怪訝な目を天井に向ければ、雫がぽたり、髪を伝い落ちていった。]
なん……だよ、これ……この感じ……。
[掠れた呟きがもれる。
同時に感じる、奇妙な不安。
それは、何を意味しているのか]
……っつ……。
[考えようとした矢先、頭の芯に鈍い痛みが走り、その痛みが更に不安を煽った]
[見えない手が頸へ添えられ、フユの顔の向きを変えさせたように
フユはモモの死体を振り返る。]
————見ただろう? ……簡単な
………………ことだ。
[もう一度振り返った。
そこには桜色の]
まだ3才だったもんな、お前。…今年はどうする?
「帰るよ。その日だけ」
[相変わらず外を見たままで、会話は続く。
幼い頃に他界した父の命日が近づいていた。]
「あんまり長くいたら、お母さんたちの邪魔になるし」
……たち、って?
「あーほら、やっぱり気づいてない。」
何だよ。
[軽く叩こうと右手を振り下ろすと、友梨は笑いながら逃れようとする。少しだけ昔に戻ったようだった。
――が。
その動きが止まった。]
響子会長?
[ドサリという音に振り返る。
シャツのボタンを留めながら、今まで話していたその人を]
どうしたんですか!?
[倒れ伏したその人の。
風呂上りのはずのシャツはどうして赤い。
どうしてその赤は濃くなってゆく]
な――
[理解が現実に追いつかない。
けれど本能は全身に警鐘を鳴らして。
ひゅぅ、という音を立てて息を吸うと、その場から駆け出した]
[様子のおかしいマコトに気付いて、声をかけようとして…その匂いに気付く。雨上がりの空気を淀ませる、生臭い匂い…]
………
[踵を返し寮内に駆け込むと、その異臭は更に強くなる。やがて、目に入ったのは…緋色の華………]
……ただし。
[顔を覆った手の隙間から漏れる声はフユのもの。]
代わりって訳じゃあないが、
お前のこの
[手がフユの顔の上を滑って]
身体と
[指先が喉をなぞり、胸の中心で止まる。]
正気と
[指が、身体を離れた。]
周りの奴らの命を頂くことになるがな。
だがそれも構うまい?
お前の望む静寂を得る為に、最も簡単な方法は
奴らを皆殺しにすること、だ。
おれがその為の力を与える
おれがお前の心を強くする。だから、恐れることも
憚ることも……無い。
[心がざわつく、強風を受ける水面のように。]
[2年生らしき男子の言葉が遠く近く聞こえた気がした。]
[思わず、彼女は自分自身を両の手で抱きしめた。]
[数度、頭を振る。
周囲の音は、聞こえない。
ただ、言い知れぬ不安を感じて。
……前にも感じたような、そんな感覚。
それは、錯覚だろうか?]
…………部屋。戻らないと。
[機械的な呟きがこぼれる。
そのまま、ふらふらとした足取りで、三階の自室へ向かう。
あちこちでおき始めている異変には、気づいた様子もなくて]
[廊下を歩いていると声にならない悲鳴が耳に届く。何事かと声の聞こえた共用スペースに顔を出すと]
…………何、これ
[背負っていたバッグを取り落とし呆然と呟く。水分を吸っていたバッグがベチャリという音を立てるのにも気付かず唯目の前の光景を見つめる
そこには背中から血を流し真っ赤になった男の子と彼に抱かれるようにその下敷きになっている少女
彼女の方はフユ先輩にいつも懐いている1年生。たしかタチモリマイコ]
ちょ、大丈夫!?
[そう言って駆け寄る。背後からヒサタカが来ていることにも気付いていない]
[フユは、よろよろと
モモの死体の脇を通り
窓際へ行って、窓を開けた。
風が吹き込んで、血の匂いを散らす。
手すりを掴んだまま、ベランダに膝をついた。]
[ごくり、と唾を呑み込む…それでも声は出なかった。何があったのか(彼の命が既に無いのは見れば判る)マイコはどうしたのか(生きているのだろうとは判る)問うべきことも、かけるべき言葉もあるはずだったが、頭に浮かぶ言葉は、どれもこの場に相応しいとは思えなかった]
………
[漸く共用スペースの隅の電話機の存在に思い至って、受話器に手を伸ばした]
[悲鳴。鉄臭い臭い。]
[警笛が胸に響きはじめる。]
何……?何なの……?
[訳もわからぬまま、彼女は踵を返し学園へと駆け出していた。]
……ケン?
[いないのかな、と、小さく呟く。
日常が壊れかけているのを、察しつつも、それができない状態と言えるだろうか]
ケンー?
[呼びかけつつ、ベッドを覗き込むが、姿はなくて。
暗い室内に響くのは、開け放たれた窓から吹き込む風が、カーテンを揺らす音]
……ベランダ、かな?
[小さく、呟き、ベランダへと向かい]
……ケンー?
[三度、呼びかけて。目に入った色彩に、動きを止める]
何で……桜――?
[訝しげに発しようとしていた言葉が、何か重い音で遮られる。
――どさっ]
友梨?
[先程までそこに居た筈の妹の姿はなく、代わりに黒い――否、あかい線が一筋、手摺りから地面へと伸びていた。
その先に蹲る塊。]
[救急車を呼ぶべきなのか、警察に知らせるべきなのか、迷いながら受話器を耳にあて…その向こうの沈黙に気付く。ボタンを押しても、フックを叩いても反応はない]
[受話器を戻した手は、僅かに震えていた]
……先生を、呼んでくる。
[それは、誰に向けた言葉だったか、ただ絞り出すように、そう言って、サヤカの後を追うように、校舎に向かって駆け出す]
[シン、と。
辺りは、静まり返っていた。
水滴が地を跳ねる音すら、聞こえそうな程に。
木の葉が風に揺れる声で、耳が覆われる程に。
昨晩、桜の周りに人が集っていた事を思うと、
それは異様な事のように感じられた。
空気に味がついているような気がするのは、
…雨上がりだからだろうか。
不意に、言いようのない不安が、胸に去来する。
光が、遠い。
灯は点いているのに。
月は輝いているのに。
星は煌めいているのに。]
[さっきまではなんとも思わなかった制服がやたらと重く感じ、足の裏が痛む。]
[遠く、霞んで見える薄紅に、さらに警笛は強くなり。]
[それでも、足は止めぬまま走り続けた。]
[やがて薄紅があの桜だと気づき。]
……何、で?
……ケン? 何してんだよ?
[幼馴染は、ベランダにいた。
手すりにもたれかかるようにしているその足元には、数個の空き缶。
……どうやって持ち込んだのかは知らないが、酒類であるのは一目瞭然だった]
ちょ、お前何して……っ!
[慌てて駆け寄るが、返事はない。
傍目には、酔いつぶれているだけのようにも見えるが、しかし。
……それだけでは、ない、と。
意識のどこかが冷静に告げていた]
……ケン!
[それを拒むように、名を呼んで、肩に触れた途端──]
[へたりこんだ頭から自分もその色に染まってゆく。
それはまるで、直前に見た人と同じように。
目の前の人と同じように。
全てが緋に染まってゆく]
[マイコに凭れ掛かっているワタルを退けようとするが、マイコがしっかりとワタルを抱きしめているため、離すことができない]
ちょ、何をして……
[その時耳に届いたのは「わたる」「はなさない」という断片的な呟き
その言葉に手を離し、僅かに後ずさる]
あ……。
[目に入ったのは、あか。
鮮烈過ぎる、いろ]
……ケン……?
[もう一度、名を呼ぶ。
答えはなく、倒れた周囲に広がる、同じ色]
……なん……で?
[問うた所で、答えは得られるはずもなく。
その場に座り込むように膝を突き、胸元を深く抉り取られた幼馴染の姿を、呆然と見つめる]
友梨……どうした?
気分でも悪い、のか…?
[鉄錆のような臭いが矢鱈と鼻につく。不快。違和。
だがそれより妹が先と、彼女の横に屈み、身を起こそうと肩に手をかけた。]
[――ぬるり。手が滑って。落ちる。
いつの間にか出来ていた水溜りの水が、洋亮の顔に跳ね返る。]
[桜の木の下に、昨日怒らせてしまった年下の先輩を見つける]
一ノ瀬せ…
[呼びかけようとしたとき、校舎の方から駆けて来る人影が見えた]
あ…あああぁぁ
[声は言葉にならず彼女の目がウミを見る
否、見ているのかいないのか
白く細い指は切りさかれたような服の下に、埋まるよう
ふさぐこともできずに]
うごかないで亘、けがひろがるからぁ…
「おい!天野か!?」
[かけられた声に、人影が知らせに走ろうとしていた、元担任であることに気付いて、再び駆け出す]
先生…!寮で、今…
[人が死んでいる、と告げようとした、その瞬間…]
[寮の方から、駆けて来る人影が見えた。
ほんの少しだけ、
安堵して、そちらへと顔を向ける。
…それが誰かとわかれば、僅か、眉を寄せたが]
…天野。どしたの。
[返す声は低い。
が、その声が途中で止まったのを訝り、同じ方角に視線を送る。
教師のようだった。]
…………。
[声が、出せなくて。
しばし、呆然としていた、けれど]
……ぁ……。
[不意に感じた、違和感。
何かが、近づくような──]
……だめ……だ。
[かすれた、呟き]
寄るな……消えろ!
[鋭い声、それに応ずるように。
駆け抜けた風が、空間を切り裂いた。
近づいていた、違和感も諸共に]
[――妙に暖かいそれは、粘性を含んだそれは、水?
ああなんでどうしてこんなに、]
……ゆ、り?
[今度こそ、しっかりと肩を掴んで抱き起こす。
仰向けになったその瞳からは色が失われていて、制服の左胸は何かにちぎられたかのように穴を空けられ。
其処から、
あかい水が止め処なく、]
―屋内プール―
[そこに自然と足が向いたのは、本能だったのだろうか?]
―――純ねぇっ!!!
[思わず口に出たのは、子供の頃の呼び名。]
[プールの中に早乙女は、浮かんだまま顔を彼女へと向け悠然と笑う。]
『どうしたの?珍しいじゃ…。』
[1歩、近づく。
男が、倒れる。
もう1歩、近づく。
男が、―――斃れた]
なん、
…あかい、
………血?
[とめないと。
その言葉は、声になっただろうか]
いっつ……。
[違和感の消滅を確かめるのと同時に感じる、頭痛。
いまのはなにこれはなになにがおきてじぶんはどうなって。
そんな思考は、長くは続かなくて。
ただ、意識の一部は。
起きた事を至極冷静に──過ぎるくらいに冷静に受け止めていた。
まるで、『自分の中に最初から刻まれていた事』のように]
[「ゆめじゃ、ない」と、背後で呟いた声が聞こえて、ゆるりと振り返る]
…………夢じゃ、ない?
[呆然と呟く。…ざわりと、桜が蠢いたように、見えた]
『そうだよ、それでいいんだ。
ほら、手を伸ばしていこう。
でもね、あの音色はまだダメ。
そのためにはもっともっと力が必要なんだ。
邪魔者もいるみたいだよ。
だから、最初は慎重に行こうね』
[そう囁く声は、けれど興奮の色を隠せていない]
なにいってるんですか
わたるったらわるふざけがすぎるから、はやくおきてよねぇそうじゃないとせんぱいがしんぱいするから
[声にほとんど抑揚はなく]
わたる、わたる
おき――――
――ああ、またお前、こんなに怪我して。
昔からそそっかしいとこは変わってないな。
[ややあって、口唇から洩れた言葉は、]
ほら、動けないのか?仕方ないな。
保健室に連れてってやるから。
[あかい水溜りの中から、その身体を抱きかかえ、]
軽いな。
お前ちゃんと食べてるか?皐月さんも心配してたぞ。
[笑う目は虚ろで、現実を見ていなくて、]
……ちょっと……待て……よ。
[そんな冷静な一部分が]
俺……こんなの、知らない……。
[言いようもなく怖くて]
こんな……の……。
[ふ……と。
泳いだ視線が、校庭の桜の大樹を捉えた]
……さくら……。
[昨日、登って転寝をしていた時は、青々としていたそれは。今は、季節にありえない様相で。
そこから感じる力の意味を、冷静な一部分はしっかりと理解しているのが、わかった]
”餌”ども。
たとえ
此処から逃げようとしたとて
[左右に誰も居ない、男子寮と向かい合ったベランダで
俯いた、唇から零れる
フユの声に依る独白]
……………………無駄だ。
…あ、
ハルヒ。
ハルヒは。
[震える手で、黒携帯を再び、取り出す。
ビニール袋が、風に揺られて、不快な音を立てる。
何かが、ざわつく。
短縮ボタンを押して、通話を、
―――繋がらない。
耳から離して、携帯の画面を、見る。
圏外。
今までそんな事、一度だって、なかったのに。]
[戸惑いの渦中にある生徒達は未だ知らねど
学園はいまは外界と遮断された異界と化していた]
しかし…………。
[顔を上げた。]
おれ以外にもう一匹。
どうやら、紛れ込んだらしいな……
……それにこいつはどうやら
随分と。
弱い。
[早乙女の瞳は彼女に向けられたままで、水面は朱に侵食されていく。]
[千切れとんだ腕と足が、水母のようにたゆたっている。]
[胸元は深く抉られて、それに伴い水着もかろうじて上半身に引っかかっている様な状態。]
[其れは、現実感のない風景。]
[涙を流し抑揚のない声で呟き続けるマイコに、僅かに目を逸らしたが]
……そうやって現実から逃げてると、死んだ人間が浮かばれない
…………わかってるんでしょ、もうその子、ワタルだっけか、が目を覚まさないこと
[マイコの目を見据え、そう言い放つ]
……始まった……始まったら……。
……止める?
[小さく呟いて、空へ向けて手をかざす]
……もう……『閉ざされてる』、のか……。
[確かめるような呟きに応えるが如く、その周囲に風が舞う。
風はさながら付き従うように、ごく自然にそこにあった]
[携帯が、手から滑り落ちた。]
オレ、
………行って、来る。
[声には、力はなくて。
けれど足は、地を蹴って。
駆け出す。
きっと、体育館にいる。
自分の携帯は壊れていて。
練習に夢中で、気づかないだけだ。
遠くから聞こえる声。啼き声。無き、声。]
[一度、その目が離れて
再び向いたときに、口唇が最後の名前を呟いた。
涙はもう止まらずに。]
ど、して…………?
[小さな声は耳に届くだろうか。]
なん、で……?
なんで、なんで、なんで……?
[ぎゅうと、その抉れた背を抱きしめる。
深い、ふかい、きずあと。
なにも、ない。
あぁと小さく口唇が動いた瞬間――その手のおもみが、まぼろしのように消えた]
だからっ……。
何を言ってるんだよ、俺っ……。
[翳した手を握り締め、それでベランダの手すりを殴りつける。
風が、案ずるように揺らいだ。
その感触に、気が鎮まるのを感じつつ]
わけ……わかんない……けど。
やらなきゃ……ならない……?
[確かめるように、呟く]
それが……『役目』?
[共用スペースにいる人の気配にも、その入り口に立つ少女にすら気づかない様子で。
通路を通り、何時ものように靴を履いて。
腕には亡骸を抱えたままで。]
[相変わらず滴りおちるあかが自分のシャツを染めても、一向に気にも止めないで。]
[夢じゃない、と自分の声で呟いても、やはり現実感は戻らず、駆け出すショウを呆然としたまま、見送って、再び、緋に染まった男に視線を戻す]
………先生………
[答えは返らないと判っていて、そう、呼び、ゆっくりと近付く]
[目の前の光景に唖然とする。なんせさっきまでいたはずのワタルが跡形もなく消えたのだから]
…………何これ。消えた? これってどういう原理
[理解不能でぽかーん]
[辿り着いた先、体育館には、灯りが点っていた。
―――けれど、音は、 無かった。
ここの扉は、少し、開き難くて。
何処を叩けば直ぐに開くのか。
後輩に教えたのは、自分だった。
それなのに、今は、どうやればいいのか想い出せなくて、
何度かガタガタと鳴らした後、両手で無理矢理に開けた。]
さくら さくら。
凄いね。力がいっぱいだね。
[クスクスとワラう]
あの嫌な力も。
取り込めればきっと強くなる。
音色にもっと近づける。
素敵な音色。
もっともっと傍で聞きたい。
[鼻を突く、臭い。
昼にスケさんと、プールの塩素臭さは嫌だなんて話をしたっけ。
ああ、違う、それとは、違う臭いで、
視界を彩る、緋色。
そう、夏なのに桜が咲いたんだ、とても綺麗な薄紅色をしていて。
ああ、違う、それとは、違う彩りで、
何処からか、転がって来たボールが、足に当たった。
べっとりと、赤い手形がついていた。]
……どこ?
あ、れ?なに?どこ?
[あかを吸っていた服も元の白をとりもどし、
体にかかっていた重みはもうなく
起き上がって、立ち上がる]
どこ?
どこいったの……?
[きょろきょろとあたりを見回して――その端にあかをみつけて、扉へと走りよる。
視界の先には亘はいなかった。]
[だが、その身体に触れる前に、緋色の華は、白く閃く固まりとなって]
………な?!
[風が、白い花弁を舞い上げる。ざわざわざわ、と桜が嬉しげに揺れた]
『役目』……とか。
わけ、わかんない……けど。
[言いつつ、視線を向けるのは、向かい側の棟。
そこに、何かがいるのは感じられた。
それが、先ほど風で切り払ったものと同類であり──それが、更に力を得ているものなのは、感じられて]
……『憑魔』……。
[どこかに刻まれていた知識が、その名をはじき出した]
嗚呼、この感じは間違いない……。
[膝を折り、苦しげな息を吐いた。
何度か、喘息めいた呼吸をしてから顔だけを上げ
闇の向こうに呟いた。]
………『司』………。
[過去に口にした
フユの口にしたことのない、甘美な味が
舌の上に蘇った。]
[ヨウコに手をとられて最初に感じたのは、何だったのだろう。
その感情の名前を彼女は知らない。
ただ望むままに思い切り腕を振り払って]
はなし、て!
どこ……にいったの?
どこ?
[赤を追いかけるように目が動く。
なくしたくないというように。
――かれのこんせきのひとつすら、ないのだ]
[ぺたり、その場にへたりこむ。早乙女の瞳から目を離せないまま。]
純、ねぇ………?
こんなの、夢だよね……?
[掠れた声が呟いた、その刹那。何かが水面を覆いつくして。そして、早乙女だったものも、染める朱も、すべてかき消した。]
[―――膝を突く。
腕に提げたままだったビニール袋が滑り落ちる。
中に入っていた、花火が、赤い床に、散らばった。
後には、ショウの傍を転がるバスケットボールと、
彼の居た場所には小さな人形の付いたストラップ。
それは、まだ、未開封の。
そう言えば、
以前、失くしてしまったのだと、
ハルヒに言った覚えがあった。
何処かで、買って来たのだろうか。
誕生日プレゼントにと。
答えを知るものは、もう、いない。]
[屈み込んだ目線からは、まるで鉄格子のような
ベランダの柵を掴み、呟く。]
…………司。
[呪詛のように低く
または睦言のようにささやかに]
つかさ。つかさ。司。つかさつかさつかさつかさ
喰らってやる。喰らってやる。喰らって
おれが、
必ず
”還す”間など与えん
肉の
ひとかけ
血の
一滴
骨の
一辺まで残らず
残さずに。
嗚呼
桜の齎したこの
巡り合わせに
感謝、
しようじゃないか………………………。
[それに誘われるように足をふみだす。
靴など履こうという気すらおきず。
土を踏む足は痛みを覚えたのだろうか。
よくわからなかった。
ただ、赤が伝っていたはずの地を踏んで]
……おにいちゃん、どこいったか、知ってる?
[問いに問いを返す]
あかも、ないの。
……ゆりちゃんも?
[ビクリとなる。
おぼろげに聞きとっていたものでなく、ハッキリしたコエが響いて]
このコエ、音色の?
聞こえる、うん、聞こえる。
[コクコクと頷く。
怯えと期待を半々に滲ませて]
かりそめの
馴れ合いを
うわべの
触れ合いを
続けようじゃないか。
そののちに待つ絶望、悲哀、苦悩、激情、慟哭こそが
お前らの肉を華々しく彩り、血を香しく染め、
心室に甘露を満たすのだから。
[ふらり、立ち上がる。
血濡れのボールを抱いて、
未開封のストラップを手にして、
目的を失った、
咲くことのない、
火の花は置き去りに。
誰もいない体育館は、明るい。
人工的な光を、宿したまま。
そこから、立ち去る。]
[背後の部屋に退く。
窓から下がるカーテンが
夜闇の向こうとこちらを隔てる。
そこに在った死体は桜の根元へ運ばれ、もう無い。
跪き、床に口づけた。]
[ふる、と頭を振る。
唐突な出来事に対する衝撃は、だいぶ和らいでいて。
ただ、今は、自分がやるべき事をやらなくては、と。
そんな思いから、ケンの横に膝をつく]
……還さなきゃ……。
器は大地に、魂は天空に。
再び輪廻の内へと還しゆかん。
世を巡り流れを兆すもの、風の流れ司りし者の名において。
……魔によりて生命奪われしもの、その存在を……。
還さん。
[その言葉は、無意識の内に零れ落ちたもの。
風が、ゆるり、揺れて。
ケンの身体を包み込む]
日月君?
…さあ、俺は知らないなぁ。
[首を振る動作も、浮かべる表情も、言葉もしっかりしていて、何時もと変わらず、]
うん。全く、あいつ何処に行ったんだろ。
怪我してたから、手当てに連れて行かなきゃなのに。
[ただ、目だけが虚ろに、]
[あの、屋内に充満していた鉄臭い臭いも消え。]
[プールへと這い、水を掬い上げても、いつもの様に透明が零れ落ちるのみ。]
……夢、なの……?
あは……そうよね、こんなの……現実な訳ないじゃない。
消えた――?
…ああ、うん。さっきまで此処にいたのにさ。
何処に行ったか、九条さんは知らない?
[背後の桜には気付かず、ただ聞こえた声に反応して、]
[マイコの呟きを聞いて]
桜の下には死体が眠る。
その紅を吸い上げて、桜は鮮やかな華を咲かせる。
…そしてその身を自然に還す。
[改めて口にする]
[声は届いているだろうにヨウコの方を見ることはなく。
ただただ桜に向かって足を踏み出す。
土が、砂が、こまかい石が。
柔らかな足を傷つけていたのか、かすかに、あかが残った。]
[顔を上げた
その片目だけは、光をうつしていない。]
…………いまは
くれてやる。
[立ち上がり、部屋を出た。
階段を降りる。
血の匂いも消えた共有スペースを通る。]
何を得る?
[暫し悩む。
欲しいのは音色の力。音色と同じだけの力。
それを使って何をするとか、そういうことは考えてなくて]
音色のようになる。
そうすれば寂しくない。
おにいちゃんは、しんじゃったん、だ
[かわいた筈の目がまた涙をこぼす。
背後の、ヨウコの言葉が聞こえたのか。
いちど、立ち止まったけれど、目を離すことは出来ず]
『桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことぢゃないか。』
[それが頭の中に過ぎっただけなのか、それとも口唇から音として零れたのか、洋亮には分からなかった。]
桜…
屍体…
死………
何、言って、
[撩乱と咲き誇る桜の下、ただ呆然と舞い躍る白い白い花弁を見つめる。いくつの身体が消えたのか、どこへ消えたのか、それを知る術もなく]
そう、アナタのように。
ヨウコはエノモト先輩のようになりたかった。
寂しいと泣くのではなく。
自分の力を示せるような存在に。
[交じり合ってゆく意識]
ずっと音色に憧れていたんだよ。
[それからフユは、桜の樹のもとへ歩いていき
生徒達の後ろから、舞踊る白い花弁たちを見た。
樹の根元に横たわっていたモモの身体もまた、花びらとなってその中に混じっていくのを見た。]
「自分の力を示せるような存在」、ね。
ひとは互いの孤独を知り得ない、か。
……面白いね。
……暫く、アンタの様子を見てることにしたよ。
死んでしまったの。
日月君も、友梨ちゃんも。
きっと、響子会長も。
――皐月さん、も。
[その喪失の闇は深かった。
冷静にも聞こえる、けれど感情の宿らない声でそう告げて。
桜を見て。
ヨウスケを見て。
マイコを見た]
[ダン、ダン、ダン。
無意識にか、ボールを跳ねさせて。
地に残った滴が、水飛沫を上げる。
洗い流されたのか、吸われたのか。
そこから緋い軌跡は、消えている。]
[ひとりで居るのは嫌だけれど、
誰かと一緒に居るのも怖くて。
咲き誇る桜の大樹の傍に集う、
見えた人影に近寄る事はなく。
落ちていた黒い機体を拾って、
舞い上がる白い花弁を眺める。]
…………。
[夜空に消えていく光の粒子を、ぼんやりと見つめる。
それから、転がった空き缶に目をやって]
……ケン……なんで、お酒なんか……?
[ぽつり、呟いて。視線は再び、桜へと]
…………。
[しばし、かすんで見える桜を見つめた後。
ふらつく足取りで、下へと向かう。
建物の中に入っても、風は、慕うようにその後を追って]
[純粋な”力”への憧れしか持たなかった憑魔。
幼い頃からの寂しさを覆い隠してきた葉子。
その二つが交じり合った結果が、これ]
……音色、手伝ってくれるの?
―桜の花開く数刻前・学校内敷地境界―
よ、っと…!
[最早常習とも言える、ひらりと舞う2つの影。
外と敷地を隔てる壁を乗り越えて。]
…───、…何だ?
[たし、と僅か塗れた地の上へ着地する複数の音。
「楽勝っ」やら嬉しげに声を上げる友人に続くように
敷地内へ降り立った、瞬間。背筋を這う底知れぬ感覚にゆるりと瞬いた]
[久留米は、自分のために、学校に泊まっていたのだ。元担任の責任だから、と、日本での授業に必要なだけの補習を一人で請け負ってくれた。デートの相手も居ないから構わない、と、代わりに向こうで使っていたテキストを教材に提供してくれればいいと…笑って]
あ
[ひらり。さくらのはなびらが舞い落ちて。
一度視界を奪われたあと、そこにかれはいた。
桜の根元。
よく見えた。
それは何故なのか。
たっと地を蹴り、そのそばにかけよる。
近くに他の姿もとらえたけれど、かれのそばに]
[歩いて来たヨウスケの近くまで行き]
ヨウスケ君…………いや、ごめん。
何でもない。
[何かを言おうとして止めた。
彼もまた何かを失ったのだという気配を
体中から発していたから。]
[握っていた手を開いた。
フユの掌の上に、桜の花びらが一枚。
それが牧原モモであったものかどうかは
既に分からないが。]
[マイコやヨウコたちとともに桜の木の近くへ
そしてヨウコから、ワタルやユリの他にも死んだ人がいたことを聞かされる
だが、それを聞いて大きな動揺を出すことなく]
…………そう
[ただ俯き、それだけを呟いた]
[ゆっくりと、後ろを振り返る。
そこに聳え立つのは今し方乗り越えてきた筈の、
『外』と『中』を隔てる、壁。
きっと、今では入る事はおろか
出る事すら、叶わないのだろうけど。]
……。
…うっわぁ俺、若年性痴呆?
[ふと、浮んだ言葉を反芻して、瞬いた。ぽつりと言葉を零す。
何が出れない?たった今、自ら乗り越えた壁から?
……一体何を言ってるのか自分は。随分と滅茶苦茶じゃないか。
馬鹿らしいとばかりにふるりと頭を振って、友人へと向き直る。
向き直ろうと、して。]
[降りてきて、ふと覗いた共有スペースには誰もいなかったけれど。
そこで何が起きたかは、感じ取れた]
……みんな……外、か。
[みんな、が誰を意味するのか。
わかっているのは、恐らく本人だけだろうが]
…………。
[一つ、息を吐いて。
外へ──桜へ向けて、歩みを進める]
[無意識の行動だった。その体を抱きとめようと、伸ばした手を更に早く。
しかしそれが触れたのはかれではなく、花びら。
そして通り越した先の、土。
ほんの一瞬の出来事だった]
……あ、ぁ
……何?
途中で止めたんじゃ、分からないよ。
[掠れた声で、頭の中は別のことで一杯なのに、
それでも近付いて来た少女に話を促そうとするのは何ゆえか。
彼女の掌の桜の花弁に目を落とした。]
「……さくら、さくら……」
音に続き、声が響く。
「いのちのまつり。
おもいのめぐり。
きみゃくはめぐる、ちからのままに。
きざめ、きざめ、いのちのしるし。
ゆくかいなかはだれもしらぬよ。
さくら、さくら。
はなはひらきてみまもるのみ。
さくら、さくら」
そしてまた、鈴が、りん、と鳴って。
[触れる事すらかなわず。
何一つ残す事すらかなわず。
その体がなくなった。
白の花びらの中、消えた。
ぼろぼろと涙が零れ、
だけれどそのまま手を伸ばす。
桜の幹に、白い手がドンっとぶつかった。]
……慎。
[突如地へと伏せた友人の名をぽつりと呼んで、三度瞬いた。
その下で、湿り気の含んだ地へじわりと緋色が滲んでいくのを
呆然とするでも無く、ただ、何の感慨も無く眺める。
突如、友人が倒れて混乱している自分とその反面、
心の何処かでそれを予感して…友人が二度と起きないだろうと
気付いている自分に、僅かに、眉を寄せた。]
[ゆっくりと、地へ落としていた視線を上げる。
溶ける様に、消え失せていく友人の身体を足元に
僅か離れた場所、繚乱に咲き誇る桜の影を見据えて]
辛そうだから。
こんな話、邪魔でしょう。
後で言う。
だからいまは。これだけ、アンタの手の中で
傍に置いてやって。
[花弁を載せた手を差し出した。]
ふわり、と。
枝の上に桜色の小袖の少女が現れる。
その姿は一部の者には。
近しさと共に、疎ましさを感じさせるだろうか。
少女はどこか楽しげな笑みを浮かべつつ、桜色の瞳で集まる者たちを、ただ、見つめていた。
…ダメ、かな。
やっぱりもっと力をつけてからじゃないと無理?
[流れる沈黙に、少し項垂れるように]
でも、ヨウコに入って少し力ついたんだよ。
もっと力つけたら食べられるようにならない、かな。
[その恐ろしさを知らないが故に。
その甘美さは音色の響きで感じたが故に。
その力への憧れもまた強い]
[携帯とストラップとを、一緒に、ポーチにねじ込む。
やけにシャツが肌に張り付くのは、汗のせいだろうか]
―――…あ、
[2、3度、瞬いて。
小さな呟きが、零れる。
人の声は窓越しの雨音のように遠くて、
人の姿は霧の中で煙るかの如く遥かで、
自分の中で確かな事は1つだけあって。]
ぼーっとしてる場合じゃ、ねぇじゃん!
[不意に声を上げ、外へと繋がる門を目指して、駆け出した。
不可思議な桜の存在だって、今は、どうでもよかった。]
…………司は。
[司は]
[己のものとしたい。
だが、この小さき憑魔にそれが可能だろうか?
司を打ち破ることなど。
もしそれが叶いそうならば]
そうだね、もっと
こいつらでも喰らって、力がつけば。
[そのときは]
[背後から近付いてくる気配に僅か眉を顰めて]
桜色の、影。
[枝の上に現れた少女を見てポツリと呟く。
どこか遠い所で、夕刻の影はこの少女だったのかと納得していた。
親しみと嫌悪とを同時に感じながら、桜色の瞳を見つめ返す]
[ゆっくりと、ゆっくりと、桜に近づいて。
……感じるのは、強い違和感と親和感か。
桜の下に集った体が消えうせるのを目にすれば、瞳はすう、と細められ。
次いで、その瞳は枝の上の少女へと向けられる]
……キミは、誰?
[問う声はどこか、険しさを帯びるか]
わかった。
もっと力をつける。
力をつけて、司を食らう。
[伏せられた言葉には気付かない。
だから素直に頷いた]
それまで、我慢する。
……
[彼女が何を言おうとしているのか、おおよそ検討もつかなかった。
自分が辛いのかすらも、よく分かっていない。
だが、多分それは大事な話なのだろうと、]
……分かった。
[その手を包むようにしてそっと、花の欠片を自らの手の中に納めた。]
「桜花(おうか)だよ」
投げられた問いに、少女は歌うようにこう答える。
向けられた視線、それにこめられた感情すら楽しげに受け止めながら。
「いたいよ、殴らないでよ」
それから、幹を殴る少女には、どこか不満げな声を投げる。
[乾いた笑いを吐き出した後、しばらく水面を見つめていた。]
[ふいに、どこかから聞こえた鈴の音に誘われるようにふらりと出て行く。]
[鮮やかに咲き誇ったままの桜の樹の下、幾人かが見え。]
―→桜の樹の下―
[―――ガシャン。
バスケットボールを足下に転がして、
閉ざされた門を開こうと、手を伸ばした。
けれども、開かない。
鍵が閉まっているのだと、そう思って。
いつものように、膝を屈めて飛び上がり、
ギリギリ届いた上端に、手を引っ掛ける。
そのまま乗り越えようと、身を乗り出して、]
[声にようやく気付いたように顔を上げて]
かえ、して……!
かえしてよ……!
[硬く握り締めた手は、少し赤い。
だけれど、もう一度、幹にむけて叩き下ろす――]
桜花。
[告げられた名を、小さく繰り返して]
ええと、それじゃ……。
キミは、何?
[今度はどこか曖昧な問いを、投げる。
ヒサタカの視線には気づいていたけれど、今はそちらを見やる余裕はなく]
出来れば。
思い出に捕われず新しい道を歩んで。失った人の為にも。
多分伝えられないまま、密かにあなたに思いを寄せていた奴の為にも。
[花弁はいずれ消えてしまうだろうが。
拒絶するでなく、ヨウスケの手を優しく振りほどいて、その手を胸の前で握った。背を向け、桜花と名乗った少女とマコトの遣り取りを見つめながら微かに微かに呟いた。]
謝れなかったけど。
これで、代わりになった?
(これが、アイツの”願い”だったからな。
ついでに叶えてやっても良いだろう。)
[ヨウスケからマコトに視線をうつし]
どうかな。
……見極めてごらん。
司は、二人居る。
[頭上を見上げる。そこには桜花と名乗った桜色の少女
ただまっすぐにその少女を見据え]
……この騒動は君が起こしたの?
[単刀直入に問いかける]
かえして、という言葉に、桜花と名乗った少女はゆる、と首を傾げた後、笑う。
仕種に合わせて、首からかけられた鈴がリン、リン、と音を立てた。
「かえした、よ?
うつわはだいちに、たましいはそらに。
ふたたびりんねのうちへとかえしゆかん」
かえせという、言葉の真意は理解しているのかいないのか、歌うよな口調のままでこう返し。
「桜花は、桜花。それ以外のなんでもないよ?」
声は、どこまでも楽しげか。
[桜の下に集う、見覚えのある面々の他に、
ふわりと枝の上に現れる少女を認めて。
あぁ、と薄く開いた口唇から小さく言葉が零れる。
この感覚をしっている気がする。
親しいのか、それでも近付きたくない。──同属嫌悪、にも近い感情。
少女の姿を視界へ入れる事を避ける様に、桜の木から視線を逸らして。
ふと、僅か離れた場所の地へ転がる影を目にして、緩く瞬いた。
あそこは、確か校門の位置する場所ではなかったか。
ゆっくりと其方へ歩み寄って、 …その人物を認めれば、更に瞬いた]
…一ノ瀬センパイ、 何やってんスか。
[何処か呆れたような、溜息混じりに言葉を零して。]
[桜の欠片。…否、元は少女の欠片であったかも知れないそれを手の中に包んだまま。
今は、それを手渡した少女の言葉を理解することは出来なかった。]
〜〜〜〜っつー…
んだよ、コレ………っ、
[咄嗟に受身はとったものの、打ち付けた身体は痛む。
すぐには起き上がれず、地べたに座り込んで、
大樹の方向に視線をやる。
宵闇の中、少女の姿は浮き上がるように見えた。
微かに、響く、鈴の音。]
盗られた…。
[既にその喪失感は無くて。
僅か困惑しているようにも見える無表情で少女を見つめている]
大地と空に。
[勿体無いなとは小さく口の中だけで呟かれて]
「盗ってなんかないよぉ」
むう、と。今度は少女はむくれて見せて。
「かえるべきところにかえしただけ。
桜花は、輪廻の輪を巡らせるだけ」
続いた言葉は、その意を理解する者以外には、真意は伝わる事はなかろうが。
「……違うよ?
桜花は気づいて目覚めたもの。
始まりは全て、ここにいる子らに寄る」
くすり、と。
楽しげに笑んだ桜色の瞳は刹那、力を得たものたちへと向けられようか。
桜花は桜花……。
輪廻の輪を、巡らせる……。
[投げかけられた言葉を、小さく反芻する。
それらは『知って』いる事ではあるようだけれど。
でも、感情の理解は追いつかない。追いつかせたくない]
[投げ掛けられた声に、顔を上げる。
一瞬、驚いたような表情になったのは、
その呼び方が彼と一緒だったからだろう。
アクセントも声も、全く違うのに。
もう、居ないのだ。
払おうと、首を振った。]
…外に出ようとしたら、
弾かれて、
出らんなかった。
そんだけ。
[抑えるように、普段より、端的な言葉]
[相変わらず現実感のない風景。]
[夏の夜に咲き誇る桜、その上の子供。そしてその下に集う学生たちを遠巻きに眺め。]
あぁ…これはまだ夢よ。きっと、そう。
朝が来れば、すべては元通り。
側に、という言葉。
それに、桜色の瞳はゆる、と瞬くか。
「……ひきとめたかったの?
あの子らの清めを得られねば、あの子らに喰らわれてしまうのに。
永遠に消えてしまうのに」
続いた言葉は、やはり、楽しげな響きを帯びて。
奪われるの?
桜花は奪う者なの?
[桜の少女から感じる、相反する感情に不快を表しながら]
じゃあ、奪われないようにしないとね。
折角手に入れた力なのに、奪われるのは嫌だ。
……外。
[緩く、校門の外へと視線を向ける。ぽつりと鸚鵡返しに言葉を返して。
出られなかったと告げる相手に、やっぱりそっか、と
頭の端でチラリと思った自分には気付かないフリをする。]
…大丈夫ッスか。大分、泥まみれッスけど。
[立てます?と、ゆるり腕を差し出す。
桜の少女から響く声は、聞えているのか否か、
チラリと視線を送るだけに留め、直ぐに再び視線を逸らす]
[少女は盗ってなどいないと言う。意味など分からない。
ただ、もう戻って来ない。それだけが、]
……友梨。
[もう一度、失ったものの名を呟き、
今はもう何もない、桜の根元に目を向けた。]
[言葉の意味などわからない。
ただただ、 奪ったのはこの少女だ と。
頭の中にはそれだけが。
今はまだ、かれをころしたのが誰かとは考えられず。]
まだ……っ、言ってなかった、のに……!
[願いは一つだったのに、それもいえなかった。
にらみあげる目からは幾筋か涙が伝った。]
(悲しみと、叶わぬ願いと。)
[フユは、辺りの様子を見て
空気の匂いを嗅ぐようにして目を細めた。]
……こんな
お化け少女の話なんか聞いたってしょうがない。
[フユは踵を返した。
サヤカの横を通り過ぎるとき、軽く手をあげ
彼女の頬を打とうと平手を向けた。]
…………。
[きつく、唇をかみ締める。
桜花の言っている事は、『理解』はできていた。
魔によって死を与えられたものは、新たな魔となるのだと。
それを阻むための清めを与えられるのは、自分なのだと。
わかっていても、それでも。
大切なものを奪われた痛みは、理屈では癒せないのも、わかっていた]
……っ……。
[ぎり、と。噛み切りそうなくらい、きつく唇をかみ締めつつ。
手は無意識の内にポケットの中、ミッドナイトブルーの携帯を、そこについた小さな鈴を握り締める]
[同じように、出られぬ校門の外へと眼差しを向ける。
差し出された手にも、自らの手を伸ばす事はせずに、
首を振って、俯いた。]
…じょぶ。
[小さく、返して。]
リュウ、大丈夫かな。
もしかしたら、外なら、逆に、安全かな。
[問いかけるというよりは、そう、願うように。
地に転がっていたボールを自分の傍に寄せた]
[涙を止めることなど出来ないままに、桜から目を離す。
振り返る先に、桜の少女の視界の先に、見知った顔の数々。
だけれどどこかおかしい。
あぁ、それもそうかと思う。
ひとがしんでいるのだから。
彼女にとっては義兄が
彼にとっては、妹が
では他の皆は……?
もし失っていないのなら、とても――]
桜花は奪わないの?
[きょとんとした声で聞き返す。
それでもとりあえずの理解は示して]
なら桜花には手を出さない。
でも司はいつか絶対に喰らう。
[その存在を見極めようと、この場にいる者へ視線だけを巡らせる。
一人は多分目の前で問答を交わしているこの男。
もう一人はどこにいるのだろうか]
向けられる言葉も感情も、桜色の少女にとってはなんら感慨あるものではないらしく、その笑みは絶えない。
それでも、『お化け少女』という言葉には、何故か。
嘲るような、慈しむような。
そんな、矛盾を湛えた笑みをふい、と浮かべて。
「始まりも終わりも全て、導くのはひとの子ら。
桜花はただ、見届けて巡らせる」
吟ずるような言葉と共に、鈴がリン……と鳴って。
[殴りつけた手は、土の上。
こわばったまま握ったまま、泣いたまま。
戻した視線の先、もう、樹の上の少女は見えなかった。
ただ桜の花びらが散り、それはまるで一枚の白い布のように彼女には見えた。]
…また、消えた。
[溜息をつく。
周囲の先輩達に困惑の混じった視線を投げて。
涙を流し続けるマイコに手を伸ばしていいものか悩んで]
舞ちゃん…。
[とりあえずは、そう小さく声を掛けた]
[そっと手を伸ばす
手がゆっくりと開く
花びらに触れる
白い白い花びらは、確かに質量を持って
(いるように彼女には感じられて)]
かえして
[それはかれを?
それとも――始まりを告げてしまう前の、日常を?]
[フユが踵を返すのが見えた]
しょうがない…か。
[確かにそうなのかもしれない、話を聞いた所で、理解出来るのはただ、起こっている事態の異常さだけで、自分達を助けるつもりがある存在とも見えない。死者を輪廻に返すという言葉は、寺の子に産まれた自分には受け入れやすくはあったが、それでも…一方的な理屈に聞こえるのも確かだった]
………
[それでも、最後まで、桜花の言葉を聞いて、その姿が消えるのを見届けてから、再び視線をマコトに向けた]
[サヤカが避けようとしなければ、フユは彼女の頬に手を振り下ろして]
サヤカさん。
ぼーっとしてたでしょう。
これ。夢じゃ、無いんだよ。
[夢に逃避することなど認めないと、
ひとには聞こえない声で憑魔が囁く。]
[桜花の姿が消えた事で、相反する不可思議な感覚からは解放されるものの]
…………。
[違和感は、消えなくて。
ぐるり、見回した視線が、ちょうどこちらを見ていたヒサタカのそれとぶつかるだろうか]
──、ん。
[短く返る答えに、緩く頷いて。
差し出した腕を引っ込める。
そのまま、ポケットへと突っ込んだ。]
…リュウなら、大丈夫だと思います、けど。
いちお、探しに行きます?
[座ったままの相手に視線を合わせるように、屈みながら
ゆるく首を傾げて、問い]
舞ちゃん!
[傾いだ身体に慌てて手を伸ばす。
どうにか倒れる前に支えたものの、運ぶことは流石に無理そうだ]
天野先輩…。
[困ったように声を掛ける]
……だって、痛い。
[先程、ヨウスケに向けたのとは逆の手は握りしめられていた。開くと、フユの掌に、強く力を入れたことでついた赤い4つの爪痕がくっきりと浮かんでいた。]
[桜に溶け込むように消える少女。その様子を静かに見ていたが]
あの子の言ったことが嘘なら元凶はこの桜だろうけど。真実なら、元凶はこの中にいるってこと、だよね?
それってどういうことだろう?
[その場にいる面子に問いかける]
[頬に衝動を感じ。すいと瞳を向ければ…あぁ確か吹奏楽部の……。]
……だって……死体は消えちゃうし、こんな季節に桜が咲いてるし、それに……さっきまでいたあの女の子。
これが、現実な訳ないじゃない、おおげさよね……。
[頬の痛みが、現実であることを知らせてはいるけども、それでもまだ彼女の瞳は現実を受け入れないままで。]
[投げられた問いに、一つ瞬き。
しばし、言葉を探すように、目を伏せる]
知っている……って……言っていいのか……俺……。
[あるのは、いつの間にか与えられていた『知識』だけ。
それに対する理解は全く追いついていない、というのが現状で。
考えても、説明するまでにはたどり着けず、言葉はそこで途切れ]
大丈夫なら、いいんだ。
[相手と話しているようで、独り言のようで。
屈まれてもまだ俯いたままで、固く、拳を握る]
でも。
今度は。
今度こそは。
まもらないと。
りゅうを。
…………
[途切れた言葉を、どう受け取ったのか、息をついて]
判った…話せないなら、いい。
[あっさりと言って、ヨウコの傍に歩み寄り、マイコを腕に抱き上げた]
甘い香り。
うん、力の源。
[支えている身体から伝わってくる鼓動]
早く、食べたいな。
[それでも葉子としての知識が理性のように働く。
目の前には司だろう人物もいる]
まだ、我慢。
[少女が消えたのにも気付かないまま。
手渡された欠片はやんわりと両の手で包み込んだまま。]
……
[虚ろではない、けれど何処か感情を失くした目で。]
…………今、それを考えて結論が出るとは思えない。
[マイコを抱いたまま、ウミに視線を向けて言う]
とりあえず休むか、外に逃げるか…出来るのはそのくらいだ。
……ああ、そうか。いや、違わないんでしょうね
ちなみに受け入れたくなかったとかそういうことじゃないんですよ。ただ、きっと誰かからの言葉が欲しかったんですかね
……この中に人じゃなくなった奴がいるっていう
[クスリと冷たく笑う]
なるほどね。
確かに、人殺しはある意味で人じゃないかも。
[表情の消えた顔のままで。
誰かが言った。”嫌な部屋”。
肩越しに、サヤカに答えた。]
……さあ?
……、うん。センパイが守ってあげないと。
リュウ、一人ぼっちになっちゃいますし。
[手伝いは出来るけど、俺じゃ守れないッスよ?
ゆるりと相手を見詰めたまま、苦笑にも近い笑みを向けて。
拳を握る様子に、緩く首を傾げたまま]
……人じゃなくなった……。
[ウミの言葉に、小さく呟く。
それはある意味では、自分自身にも言える事ではなかろうか、と。
ふと、そんな考えが過ぎり。
過ぎったそれを、振り払うように、頭を振る]
……ウミ……あの、さ。
ケンも…………殺されて、た。
[それから、ずっと言わなくては、と思っていたその言葉を。
*小さく小さく、呟くように告げて*]
[一人一人の表情を注意深く見つめる。「人じゃなくなった奴」というウミの言葉には、僅かに眉を顰めたか。そして、ヨウコに視線を向ける]
寮の電話は繋がらなくなってた。電話線を切られたのかもしれない。携帯を持っていたら電話してみてくれないか?
出れないよね。
出さないし。
逃がさない。
[全く自覚せずに放った力。
それでもその力が働いてることそのものは分かる。
もう一人の憑魔の力と、司達の力と交じり合い、それは下界とこの校内を完全に隔絶していた]
[サヤカの言葉には目を閉じ]
理解は超えてますけど、実際起きたんですから事実として認識すると。それこそ、人でない何かの仕業なんでしょうね
桜の少女がいたんですから、離れた人を殺せる存在がいてもおかしくはないんじゃないでしょうか
[その言葉は、ただ推理を述べるだけの平坦で感情の篭っていない言葉]
えっ、あ、はい。
[殆ど使ったことの無い携帯。
それでも一応念のためと持たされてはいて。
しかし取り出したそれには「圏外」の表示。
万に一つに賭けてもみるが、勿論繋がるはずも無く]
…ダメです、電波も届いてない…
[その無情な表示をヒサタカに見せて]
[軽く目頭を押さえながら小さく息を吐き、淡々とした言葉に視線を向ける。
彼女は…誰だったっけ?なんで夢なのに、名も知らない人がいるのだろう?そんなことを考えながら。]
事実?
今此処で起きてることが?
貴女は……これが現実と思ってるの?
…………そうか。
だったら、朝まで待った方がいいな。
[ヨウコの言葉への返事が、意外そうな声ではなかったのは、ある程度の予測がついていたからだろうか?]
…彼女を寮に運びたいんだが、部屋を知っているか?
[腕に抱いたマイコを差し示して尋ねる]
……、……………。
[ふるふる、何度も、かぶりを振った]
ソレは、駄目だ。
[短く言って、立ち上がる。
握っていた拳で、目の辺りを擦る。]
[返事が冷静だなと思えば、自身も少し落ち着いた表情になるか。
一瞬女子棟に男子生徒を入れていいのかとか思ったが、既にそんな場合じゃないと頭を振って]
そうですね、朝になったらまた試してみます。
はい、分かります。こちらへ。
[そう言うと寮の方へと歩き出す。
ウミやサヤカの会話は出来るだけ耳に入れないようにしながら]
[桜を見上げていた視線を下ろすと、サヤカに向き直り]
現実じゃなかったら何だって言うんです?
夢? 幻? それとも、妄想とでも?
そう言って逃避するのは簡単でしょうけど
起きたことを起きたこととして認識できないと……死にますよ
[そう言うと、返答も聞かずその場を後にしようとする]
…、うん。
[立ち上がったのを眺めて、
ぽつりと零れる言葉を肯定する様に、短く言葉を返す。
ゆっくりと自らも立ち上がって。]
…だから、明日の朝にでもリュウ探してあげませんか。
今からでも良いッスけど。
[俺でいーなら付き合いますけど、と
立ち上がった事で自分より低くなった相手へ視線を向けながら]
………すまない。
[ヨウコの案内に従って、寮にマイコを運んでいく。去り際に、校門近くにいるショウとアズマに、一瞬視線を向けただろうか]
ギタイ?擬態。
ヒツヨウ?必要。
[どちらかといえばまだ交じりきっていない部分が表に出ただけか]
面倒。でも我慢。
[それはいつまでもつのだろうか]
[ふと、此方へ向けられる視線に気付いて、
ポケットへと手を突っ込んだまま、ゆるりと意識を向ける。
寮へと向かうのか、歩みを進める集団の中から
視線の持ち主を悟ってか、不思議そうに緩く首を傾げ]
ん、ヘーキ。
オレだけでも、捜せる。
アイツの事だから、中、いるかわかんないし。
[居て欲しくない、と思う気持ちと。
居て欲しい、という願いとは、半分で]
あずまんは、休むといーよ。
…あずまんも、
[“アレ”と同じようなモノを、見たのか。
そう問いかけようとして、止める。]
[そのまま、寮の部屋へとマイコを運び、ベッドへ寝かせると、後のことはヨウコに頼んで、自室に引き上げていくだろう]
[どう考えても、*眠れるはずもなかったが………*]
[向けられる視線に気づいて、顔を上げる。
いつの間にか、桜の大樹から少女は消えていて、
人も疎らに散っているようだった。
…けれど、すぐに顔を戻して]
―――…、あ。
あずまん、コレ、お願い。オレの部屋に。
[バスケットボールを拾って、アズマに向けてパス]
こんな夜にこんな所に突っ立っててもしょうがない。
[話し込んでいるアズマとショウから視線を外した。]
それにしても。ウミは、強い子だね。
[ヒサタカの後を通ってフユは寮へ。]
[マイコをベッドまで運んで貰い、感謝を述べてヒサタカを送り出す。
それから衣服を緩めたりなんだりと苦しくないようにして]
―――。
[数瞬、その寝顔を見つめ]
…おやすみなさい、舞ちゃん。
[そう言うと明かりを消して扉を閉める。
それからゆっくりと自分の部屋に*戻った*]
音色と親しい子。
ヨウコは羨ましかった。
[マイコを見下ろし憑魔が哂う]
いつも元気いっぱい。
きっと普通の人間でも力は溢れてる。
[それでもまだ手は出さずに]
まぁ、ヘーキなら…いーんスけど。
無理はしちゃダメッスよー?
[目元を擦った相手に、不安も過ぎったが
無理強いする事でも無いし、と思い直して。
相手の返事に、りょーかい、と。軽く返事を返す。
と、続きかけて消えた言葉に、ん?と首を傾げるも
投げられたボールに、咄嗟にポケットに突っ込んだ片手を抜いた。
一度弾いて、今度は両手で受け止めて。]
…センパイの部屋っスね。
ういス、頼まれましたー、と。
[気をつけて下さいね、と。左腕にボールを抱えると、
ヒラリ手を振って。そのまま寮へと*足を向けた*]
ん。じゃなー。
[へらり、笑みを浮かべて見せて。
相手の返答に頷いて、裏庭へと駆け出す。
感覚はあるのに、何処か、*現実味がなかった*]
[ツインテールの女子の背をぼんやりと見つめ。]
死、ぬ………?
ばかばかしい……。
非科学的な現実が現実のはずないわ……。
[そうして、桜に歩み寄り、幹にもたれかかるように膝を抱えて座り込み、空虚の瞳で薄紅を見上げる。]
あぁでも……この桜は綺麗。
こんなに綺麗だったっけ?
[そうして、しばらくそうした後、*寮へと戻るだろう。*]
―明け方:自室―
[意識を失ってから数刻後。
まつげが震えて、どこか遠い目が開いた。
誰が運んでくれたのか、そこがだいぶなれた寮の部屋だということに気付く。
外はしずか。
ゆっくりと起き上がって、机へと。]
……
[家族五人の写真。
隣同士に並んで、笑った。
ぽたと、雫がそこに伝った。]
……だ、たったん、だよ
なんで、あやまった……の?
[答えなどない。
涙腺は壊れてしまったんじゃないかと思えるほどで。]
−昨晩/学校・裏庭−
[蝉の合唱も、梟の声も聞こえない、静謐な空間。
茂る草は水分をたっぷり吸い込み、頭を垂れていた]
…リュウ―――
[普段より小さな声で名を呼び、口笛を吹く。
いつもの合図。 けれど、反応は返って来ない。
住家は学外にあるから、夜は、いつもいない。
だから、当たり前。
それでも捜そうと、1歩、先へと進んで、
叢に、鞄が落ちているのが見えた。
忘れ物―――では、ないだろう。
無造作に投げ捨てられた学生鞄の口は開いていて、
まだ新しい筆記用具やノートなどの中身が零れていた。
惨劇の痕などなく、残されているのは、それだけ。]
[それでもなんとかタオルで目を押さえて、ふらり。
まだ明るくなっていないのに、部屋の外へと出て行く。
向かう先は男子寮。
廊下は暗く、どこか現実味がなかった。
やがて辿り着いたその部屋。
躊躇いもせずに中に入ると、ベッドの脇に腰を下ろして]
亘……
すき
[小さな言葉は、*闇の中に消えた*]
[ぺたんと。
力が抜けて、その場に座り込んだ]
………夢じゃ、ない。
[小さく、呟きを洩らす。
のろのろと、膝を抱えて、頭を乗せた。
濡れた草は冷たくて、ぬくもりなどない]
ハルヒが、―――居なくなったのも。
[しんだのも。ゆめじゃない。繰り返す。
自分の目で、確かに、見たのだ。彼の、その姿を。
改めて口にすると、急に実感が生まれて来て、
認めたくなかったのに、認めざるを得なくなって、
…心の底から、湧き上がって来る感情。]
[どれだけの間、そうしていただろうか。
朧な意識の中で、声を聞き、気配を感じて、顔を上げる。
ぼやけた視界に映るのは、短い茶の毛並みの仔犬。
尻尾がぱたぱたと揺れていた。]
……、リュウ?
なんでオマエ、ここにいるんだよ。
[少し躊躇いがちに、手を伸ばして、抱き上げる。
くぅん。温かな舌に、頬を舐められて、思わず目を瞑った。
涙と泥混じり、汚いから止めさせようとしても、止めず。]
―――ばぁか。
ゴメン、な。
大丈夫だから。
…ちょっと、泣かせて。
[柔らかな身体を抱いて、顔を埋める。
その温もりに安堵して、*瞼を下ろした*]
─桜の下/昨夜─
[一人、去り、二人、去り。
集まっていた者が散っていく。
最後まで残っていたサヤカも戻って行くと。
そう、と、桜の幹に手を触れて]
いのちのまつり。
おもいのめぐり。
[小さな声で、桜花の歌っていた歌を繰り返す]
きみゃくはめぐる、ちからのままに……。
[力、と。短い言葉を繰り返して、ぐ、と拳を握り締める。
その周囲にふわりと舞う、風。さながら、ここにある、と言わんばかりに]
……俺は……。
護れない。護れなかった……。
………………また。
……また、かよ!
[苛立ちを帯びた声と共に、握り締めた拳で桜の幹を殴りつける。
風が、揺らいだ]
…………。
[しばし、そのまま立ち尽くして。
それから、ゆっくりと校門の方へと向かう。
門の向こうには、変わらぬ世界が広がっているようで。
……しかし、そことの間には、隔てるような壁がある、と。
感覚は確りと告げていた]
……これ……消さないと……出られない……。
[なら、どうすればいいか。
それは、『わかって』いる。
いる、けれど]
…………。
[唇をかみ締めて、携帯と鈴を握り締める。
そうやって、しばし立ち尽くした後、ゆっくりと踵を返し、自分の部屋へと戻っていく。
……戻ったところで、*眠れる自信は皆無だけれど*]
[ウミと共に自室へ戻ったフユは、
その空間で口にするべき言葉も思い付かないまま、
弛緩して横になっていた。
沈黙によって、夏の湿気以上の重量感を持った空気が
小さな部屋の暗闇にたっぷり溶けている。
寝返りを打つ。ベッドの小さく軋む音にすら、
大気は小揺るぎもしない。]
[やがて、どれだけの時間が流れたのか
いつの間にか眠っていたのか、覚め続けていたのかは
フユ自身にも分からなかったが
起き上がって、身なりを整え、
やはり眠っているのか目覚めているのか分からない同居人には黙って、静かに部屋を出た。]
[寮を出て、昨晩、ショウとアズマの居た辺りへ向かった。
校門の前に立って、門柱の間の空間に手を伸ばした。
伸ばした手が、宙の一点で静止する。]
(憑魔のちからが作り出した結界……
おれと、それからもう一匹のほうのは無意識。
だがこちらは問題無い。)
[指先から痛癢感が広がる。]
(司。)
[感覚の種類が、灼けつくような痛みに変わっていく。]
(なんにせよ、おれも出られ無いということか)
[ならばどうすれば良いのか]
(司を殺さないことには。)
[差し出していた手を戻し、目の前で何度か握ったり、開いたりを繰り返した。
それから、携帯電話を取り出してみたが、画面の右上には「圏外」の小さな文字が*浮かんでいた*。]
―寮・2階通路―
[あかい線はもう残ってはいなかった。彼女が確かに其処にいて、そして居なくなってしまったという証は。もしかしたら、全て嘘だったのではないかと思う程に。
昨日と同じ場所に立ってみた。けれど、其処が本当に同じ場所だったかすら洋亮には分からない。]
…
[握っていた片手を開く。掌の上で外気に触れた花片はふるりと震え。
風に誘われ宙にふわり浮いて。
すっと溶けるように消えて見えなくなった。
あれは誰だったのだろうと、呆とした頭の隅で考えたかも知れない。]
[花片を追うように見上げた両の瞳には光は在れど、幾度瞬いても動くことはない。
一度も雫を落とすことはなかったけれど、一切の感情を忘れてしまったようで。]
[それからまたほんの少し動いて、遠く咲き誇る桜の花を*映した。*]
―寮2階西棟・自室ベランダ―
[室内に居る気分にならずに、ベランダへ続く戸を開ける。
生温い空気が肌を取り巻くのも意に介さず、何をするでもなく。
ガラス戸を背にして、コンクリートの床の上に座り込む。
立ち込める静寂の中、もう何時間経っただろうか。
途中、誰かが寮を抜け出した気もするけれど、余り覚えていない。
対面の棟の向こう側の空が、僅かに白みつつあるのが解った。
夜明けだな、と薄ら考えながら。それでも室内に戻る気は更々起きなかった。
とても、寝れそうには無かったから。]
[親友が、死んだ。さっきまでそばに居た人間が。
そしてきっとまだ続くんだろう。
…『憑魔』と呼ばれる、ソレが居る限りは。
そこまで考えて、
知らない筈の其れを『本能的』に理解している自分に再び嫌気が差した。
何度目かとも解らない溜息を吐いて、ぼんやりと外へ視線を向ける。
視界の端に、咲き誇る桜の大樹がちらりと映った。]
[本当は、
力の限り、心の望むままに。
子供のように思い切り泣き叫んで。喚いて。
そして、今直ぐにでも逃げ出してしまいたかった。
無理だと、頭の何処かで痛い程に声が響く。
判っている。外と中を隔てるあの見えない壁を取り除かない限り。
其の為に、何をしなければ成らないのかも、理解している。
泣いた所で意味すら成さないのだと、解っているけれど。]
っあー…泣きてー…。
[ぽつりと、言葉が零れる。
──あぁ、あの時から。
諦める事には慣れていた筈だったのに]
[過去に戻りかけた思考を飛ばす様にゆるりと頭を振って。
一度だけ、深く溜息を零す。
徐々に蒼を取り戻しつつある空を眺めながら
流石にそろそろ立ち上がろうか、と手摺りに触れようと手を伸ばす。
パチン、と指先に走る痛みに、一瞬手を引っ込めた]
…いっつ、…。
[…夏に静電気とか、珍しい。そこまで考えて、
……そういえば部屋に入るときも、ベランダに出ようと扉に手を掛けたときも
走った気がする事に思い当たる。]
…?
[ぼんやりと、自分の掌を眺めて緩く瞬いた。
…俺って、此処まで帯電気質だったっけな、とぼんやり考えて
まだ、どうでも良い事を考える事が出来る自分に小さく苦笑して。
よっと少し勢いをつけて、手摺りを使わずに立ち上がる。
少しだけ、考えて。
足で無作法にもカラリと戸を開けると、室内へその姿を*消した*]
[薄らと、瞳を開ける。
瞼に普段と違う重さがあった。
目元の赤みは、自分では見えない。
不自然な体勢で寝ていたせいで、身体が痛む。
腕の力を緩めると、仔犬が抜け出して、地に降りた。
ゆっくりと関節を伸ばす。軽い音が鳴った]
っはぁー…
[大きく息を吐き出いて、大地に寝そべる。
雨露は失せていて、辺りの空気は乾いている。
陽は、随分と高くなっているようだった。
暑い。
昨日から着ずっぱりのシャツは、
汗と雨と泥とに塗れて、元の白さはなかった]
[以前に付けていた革のストラップももうなくて、
黒い機体だけのシンプルな携帯。
…ポーチから、未開封の袋を取り出して、
少し迷ってから、開けた。
小さな動物を模した人形が、揺れる。
紐の部分を携帯の穴に通して、括って止める]
[校門を背にして、陽が昇るのを眺めて居た。]
[フユは、陽が昇ってからそれが高くなるまで
誰も居ない三年教室の机につき、
窓の外をぼんやりと眺めて居た。]
[きょとり、仔犬が小首を傾げてこちらを見上げていた]
とりあえず、…寮、戻るか。
[何も考えは思い浮かばなかったけれど、
ここでじっとしていても仕方ないのは確かだった]
………御堂サンも、言えばわかってくれるよな。
[あの寮母が、もういない事を、ショウは知らない。
今、誰がいて、誰がいないのかも、理解していない。
そして、何が起こっているのかすらも。]
―朝:亘の部屋―
[目を閉じては開けて、眠りには落ちられず。
鋭い朝日に、目を細めた。
どこか落ち着いたのか、ベッドを振り返り……]
おはよう、おにいちゃん
[何もいない空間に、*嬉しそうに笑いかけた*]
…した、って、なんだよ。
んなん、やってねーよ!
[仔犬を抱きかかえて立ち上がり、
つい、返したのはそんな言葉]
………オレが知りてぇよ。
[声音の様子は日頃と違っていても、ショウの声に、
フユは校舎の影から踏み出して、
腕の中に子犬を抱えたショウに厳しい視線を向ける。]
本当にアンタじゃないの。
…フユっち。
[現れた人影を認め、緩く瞬く。
僅かばかり、困惑の色を滲ませて]
違う。
オレじゃない。
…ワケ、わかんねーよ。
どーやったら出来るんだよ、
あんなの。
…あんなの、
[―――人間に出来るワケがない。
そう言おうとして、今更ながらに、ぞっとした。
じゃあ、“何が居るというのか。”
問いかけに我に返り、聞かれた事を理解すると、
一瞬、視線が彷徨う。
仔犬がまた、小さく鳴いた。]
も、ってコトは。
…そっちも、か?
……まあ、ね。
それから、他にも。
マイコとか、マコト君とか、ウミとか、ヨウスケ君とか
ヒサタカさんとか、サヤカさんとか、
その辺りは、昨日の夜に会ったり、見たりしたけど。
[フユは子犬の鳴き声に小さく身を震わせた。
それから続く言葉は震えていた。]
もしかしたら
そのうちにきっと私たちも。
……。
[涙は流れなかった。
代わりに、汗が伝い落ちた。]
………っけんな。
なんで、
…昨日まで、何にもなかったのに。
[声は、低く、小さい。
はっと顔を上げて、首を振った。]
…悪ィ。
フユっちに言っても、仕方ないよな。
しっかり、しないと。
[腕の中の仔犬をそっと撫でる。
黒い眼が、細められた]
さあ。
何でかな。
分からない。
[低い、唸るようなショウの声に
フユはただ短く答える事しか出来無い。
誰か答えることの出来るものは、説明をすることの出来るものは居るだろうか。]
…………………。
別に。
構わない。
[フユは、あたたかそうな子犬に少しだけ目を向けた。
子犬の仕草に、視線の険しさが緩んで
その後ろにあった警戒と、更にその奥にあった怯えが滲む。]
……じゃ。
こんな人気のないところに
アンタと居るのも、ぞっとしない。
…どーゆー意味だよ。
オレもずっとココにいるワケいかないし、
そろそろ移動するけどさ。
[アレが人の仕業と思えない―――
そして昨晩の話を聞いていないショウには、意味がよく取れず]
………ああ。
寮、戻んないと。
服、気持ち悪。
[また肌に張り付こうとするシャツを引っ張って、風を送る。
涼しいというよりは、生温かった。
フユよりも先に、裏庭を後にしようと歩み出す]
昨日。
沢山人が死んだあと
桜の樹からお化けみたいな女の子が現れて。
……はん。
こんな事言ったら私の頭がおかしくなったとでも思う?
でもその女の子は言った。
「始まりも終わりも全て、導くのはひとの子ら。」
だったっけ。こんな事をね。始まりも終わりも。
惨劇を起こしたのも、終わらせるのも。
お化けの言う事信じるのも馬鹿らしいけど。
[フユはその場に立ったまま、ショウと擦れ違う時に、
すい、と身を引いて距離を取って]
だけど、いつ自分がああやって死ぬか分からない。
そして自分を殺すかも知れない相手がもしかしたら目の前のアンタかも知れないって考えるのは間違ってるの?
[そのまま歩み去ろうとして、足が止まる。
終わりの言葉は、背中越しに聞いた。]
…なんだよ、ソレ。
[―――馬鹿らしい。
そう、一笑する事は出来なかった。
目の前で季節外れの桜が咲くのを見て、
前触れもなく人が殺されるのを見て、
視えない何かに遮られて外に出られず。
今。
ありえない、なんて。
ありえるのだろうか。
仔犬を抱く手に、力が籠もった。]
間違ってるかどうかなんて、知らねぇよ。
ただ、オレは違うし、…誰かがやったなんて、思いたくない。
―寮・自室―
[あの後、独り部屋に戻り、倒れこむように眠った。朝目が覚めれば、悪夢が跡形もなく消えている事を祈りながら。]
[目覚めれば、夏の陽射しがいつもの様に色濃い影を作っている。彼女はベッドから抜け出し、ベランダへと出、学園の方へと目を向ける。そこには、季節外れの薄紅が咲き誇っていて。]
……まだ、夢?
それとも………。
[言いながら足元に視線を落とせば、泥で薄汚れた素足。部屋に戻り鏡を覗き込めば、頬にうっすらと残る赤み。思わず、昨日から何度繰り返したかわからない言葉を吐き捨てた。]
だから……何なのよ。
こんなのって…………ありっこないじゃない。
[自分が今、どんな顔をしているか、わからなかった。
俯くと、前髪が顔に影を作る。]
…っかんねえよ。
今まで知り合いだったヤツが、
殺人犯かもしんねえなんて、
[―――ハルヒを殺したかもしれないと、]
そんな風に、すぐには、思えねえ。
オレは、フユっちみたいには考えられない。
能天気って、言われようとも。
んなの、
解決にならないって、わかってるケド。
疑うんなら、他の可能性がないってわかってからにする。
[単なる後回しだと、自分でも理解している。
けれどそんなに簡単に、頭は切り替えられなかった]
でも、もし―――…
[ふるり、頭を振った。]
なんでもない。
んじゃ。
[*急ぎ足に、寮への道を、辿る。*]
[人気の絶えた裏庭。]
(一部はアレだが
どいつもこいつも『信じない』、か。)
(やはり、
目の前で誰かが
”誰か”に殺されるくらいの事が無いと駄目なものか。)
[*腕組みをする*。]
[結局、夜明けまで眠ることは出来なかった。明るくなってから、漸くいくらかうつらうつらしたものの、妙にはっきりとした夢ばかりを見て、熟睡にはほど遠く…諦めて身を起こした時には、すっかり身体は怠さに支配されていた]
…………
[何度も見た夢は「全てが夢だった」という夢…それは、以前にも経験したことで、現実逃避の一種なのだと、嫌になるほど理解している。窓の外に咲き誇る桜が、それを冷たく肯定していた]
…確かめないと…
[昨夜から着たきりだったTシャツを新しいものに着替え、階下に降りる。しん、と静まり返った共有スペースの端に置かれた電話に歩み寄り、昨夜と同じように受話器を取った]
………
[沈黙…半ば予想通りの展開に、吐息をついて受話器を戻す。そして、そのまま、寮を出ると校門の方へと向かった]
[校門に手をかけて、開けようと試みる。彼は知らなかったが、昨夜ショウが試みたのと同じように]
………ダメか。
[そして、ショウと同じようにその鉄の扉が開かないことを知り、試すように、腕を格子の隙間に差し入れる]
………!
[見えない空気の壁に突き当たるような感覚…そして、弾き返すような反発]
………出られない、か。
[それも又、驚くべき事とは思えなかった。軽く腕をさすり、桜の木を振り返る]
─寮・自室─
[いつの間にか落ちていた、浅い眠りから目を覚ます。
眠り──眠っていた、というよりは、意識を失っていた、と言うべきだろうか]
…………。
[しばし、ぼんやりとそのまま寝転んでいたものの、やがてゆるゆると起き出して、ベッドの上の段を覗き込む]
…………。
[いないのは、わかっている。
それはほとんど、無意識の──喪失を否定したい、という思いのなさせたもの]
[ふる、と頭を振ってベッドから離れ、崩れ落ちるように椅子に座り、机に突っ伏す。
視界の隅。
銀色の鈴が目に入る。
つきり、と頭の奥に走る、鈍い痛み]
……………。
[唇が、誰かの名前を紡ぐように動いた]
……ここで、落ち込んでても仕方ない……。
とにかく……探さないと。
[『憑魔』を、と。小さく呟いて。
既に機能していないミッドナイトブルーの携帯をポケットに押し込み、部屋を出る。
……寮の中は人気が途絶え、シン……と静まり返っているように思えた]
[いもしないはずの空間に、何度も語りかけて笑う。
変わっているのは彼女だけではなく、
部屋の中、机の上。
一冊のノートが開かれている。
窓の外の風を受けて、めくられていたそれは――昨夜、ないし、明け方、彼女が来たときにはなかったもの。
彼の文字が、そこには躍っていた。
彼女が見てはならなかった――封じていた言葉が、連なっていた。]
……おなか、すいたかなぁ?
ごはん、たべてこよう。
おにいちゃんはどうする?
[問いかけて、かえるはずのない答えを聞いたか。
小さく笑って]
うん、じゃあいってくるねー
ちゃんとたべてくるから、だいじょうぶだよ。
[静まり返った廊下に響く音。
扉を開けるそれは、生きた人間がいる、という事で]
……誰? 誰か、いるの?
[生きてるの、と。そう問いたいのは辛うじて抑えたものの。
それでも、呼びかける声には微かな警戒の響きが混じるか]
[一度ふりかえって、手を振って外に出ようとしたときに、
声が届いて首を傾げる]
?
あ、こんばんは。
……内緒にしてください!
[女子生徒が男子寮にいてはさすがにまずいと声をあげて。
まるで昨日がなかったものであるように――昨日の彼女の様子を知っていればそれはおかしなことに違いはないのだが――
いつものように、わらう。
目元は赤く腫れているけれど、それ以外はすべて日常であるかのような]
内緒にって……。
[言われた言葉の意味が、つかめなくて。
思わずきょとり、と瞬く]
『この子……確か、昨日……』
[桜に向けて、桜花に向けて。
叫び声を叩きつけていた姿と、今そこにいる姿は、余りにも差がありすぎて。
どう、言葉を続ければいいのかわからず、それきり何も言えなくなる]
−寮・自室−
[寮に戻り入浴と着替えを済ませたショウは、
何をするでもなく、部屋でぼんやりとしていた。
髪には滴が残り、肩にタオルをかけて、
腫れた瞼を冷やすため、目元にも濡れタオル。
人工の灯かりは点していないけれど、
差し込む明かりが部屋を薄く照らす。
仔犬はひとり、人形にじゃれついて。
聞こえる音は少なくて、静かだった。]
[窓の外に、薄紅色の花弁を付けた、大樹が見える。
昨日よりも鮮やかに見えるのは、気のせいだろうか。
じゃれつくのを止めた仔犬が、一声、吼えた。]
…ん。
リュウ、どうした?
腹でも、減ったか。
[近寄って来る仔犬を膝の上に乗せつつ問いかける。
………直後、鳴ったのは、自分の腹だった。
そう言えば、昨日から何も食べていない。
食欲はなくとも、身体はきっちり空腹を訴えていた]
だって、女の子がいたら、だめっていわれますしー
いくらおにいちゃんの部屋でも
[にこにこと笑って]
……どうかしたんですかー?
[言葉に詰まったその様子に首をかしげた。]
―寮・自室―
[昼間にも目を覚ましはしたのだが。
どうにもだるさが先に立ってそのまま起きる気になれなかった]
『ちから、たりないよ』
[微かに残る違和感、そして疲労]
ああ、食事もしないと。
[呟いた時には既に、再び暗くなった後で]
皐月さんに怒ら…れない、のよね。
[溜息混じりに呟く]
……それは……そうだけど。
[既に、そういう問題じゃない、と。
言っていいものかどうかの逡巡。
……告げた方がよいというのは、現実を見せた方がよいというのは、『わかって』いて。
壊れた心。
それは無垢であるが故に、魔を呼び込みやすい、という側面もあると、『知って』いるから]
いや……俺は、どうもしない……よ。
なんだか、へんな、かがみせんぱい
[おかしいのは彼女だというのに、本人にはわからない。]
あ、ごはん食べに行きませんか?
おにいちゃんに怒られちゃう
[後ろ手に扉を閉めて]
一緒に居るんだもの。
『ずっと一緒に』
寂しくなんか無い。
[身支度を整えながらポツリポツリと呟く。
机の上に置かれた携帯電話を手に取る。
もちろん表示は圏外のままで]
本当に隔離しているのね。
『逃がさないよ』
そう、ずっと一緒にいたいもの。
おかしい……か。
[そうだね、と。小さく呟いて]
……何もかも、おかしくなり始めてるのは、確かな事だから。
[静かな言葉は、正しく届かない可能性も高いけれど、それでも、こう言って]
ご飯……か。
でも、きっと自分で作らないとならないだろうね……。
[後ろ手に閉められた扉に、一瞬だけ視線を向ける。
中には、人の気配は感じられなかった]
なにもかも?
[不思議そうに首を傾げる。
彼女がいると思っている部屋の中には、ベッドの上には、義兄の姿が本当はない。
告げられた言葉に、首をかしげて]
ええと、ごはんって自分で作ってましたっけ?
あれ、誰か……?
そういえば誰に怒られるんだろう?
[何かがわからなくて、だけれど 深く考える事はしたくなくて]
まあ、いっかぁ。
せんぱい、一緒にいきますかー?
………残っているのは、10人だけか。
[生き残っているのは、と…口にしなかったのは、その事実を正面から受け止めるには、まだ躊躇いがあるからか]
[落ちかけていた濡れタオルを外して、
肩の布で目元に残る滴を拭う。
腫れは多少、引いているようだった。
仔犬は置いていくかどうか一瞬迷って、
やはり、連れて行く事にした。]
あんまり、吼えたりするなよー?
[言葉はしっかり届いたらしく、
ショウを見上げる仔犬は口を動かすも声はなく、
代わりに頭を上下に揺らした。
扉を開いて、廊下に出る。]
そう、何もかも……ね。
[言いつつ、目を伏せる。
言葉を交わせば交わしただけ、壊れている事が感じられて。
……いっそ、自分もこんな風に壊れてしまえば楽なのだろう、と。
ふと、そんな風にも思えるけれど]
『……それじゃ、コトネが浮かばれないもんな……』
[そんな考えがそれを押し止めて。無意識の内に、ポケットの中の携帯と鈴を握り締める]
……作ってくれるひとは、多分、もう、いないから。
うん……俺も行く。食欲はほとんどないんだけど、ね。
[フユはゆっくりと数歩、校舎から離れ
重みで枝が落ち掛かるかと思わせる程見事に花を咲かせた巨大な桜の根元から頂上までが望めるあたりで立ち止まり、咲き誇る花を見つめた。]
[開いたフユの掌から、握り潰された花びらが
風に乗らずに地に落ちた。]
?
[不思議な顔をして、マコトを見る。]
たべないと、体がうごきませんよー?
そうしたら……
[どうなるのかなと、よくわからずに口をつぐんだ]
そうなんですかー
[自分のわからない色々なことは、決して追求せずに。
それはどこか防衛本能でもあるのだろうか。]
[視界の正面にある桜の木、その花弁が風に躍る様を、見るともなしに眺めていると、見覚えのある女生徒の姿を見つける]
………
[彼女が桜の木に近付いていくのを、知らず知らず目で追った]
[時刻は食事に適した頃だったが肉体的な空腹は感じない。
そもそも榎本芙由は大食らいでは無かったし、ここ最近は夏バテだろうか、食欲自体も落ちていた。]
[視線を上にあげ、枝の上を見上げている。]
動けなくなるのは、困るなあ。
[何にもできなくなるし、と。どうにか、冗談めかした響きは織り成せたか。
こちらの言葉を追求しない様子には、僅か、眉を寄せて]
それじゃ、行こうか、食堂。
[ここにいても仕方ない、とこう促して歩き出し]
……あ……そう言えば。
―寮内―
[そういえば皐月と響子の身体が消えたことは確認していない。
頭から浴びたはずの返り血が、いつの間にか消えていたから、おそらく同じように消えたのだろうと思っただけで]
見ておくべきよね。
[まずは浴室へ向かい、それから皐月の私室へと。
勿論どちらにもその身体は残されていなくて]
やっぱりない。
[そういうと、座り込んで窓の外をぼんやりと*見た*]
うん、こまりますよー
せんぱいは、ええと、剣道とかでしたっけー?
[首を傾げる。日常の会話]
うん、いきましょう!
……どうかしましたー?
[歩き出した彼についていって、何かを思い出したような言葉を聞く。
何かあったのかな?と、尋ねたのは、当然のことだろう]
死したるものの血を吸いその花を咲かせ、
躯を自然に帰す。
一方は憑魔のちからで
もう一方は司の。
本来、どちらも分たれるべきものではなく
ひとというものの、幾つかの側面が剥離してしまった
ものなのだろうな。
おれはそう思っている。
[桜花からそれに返る言葉は無い。]
だから、憑魔を滅さんとする
あいつらのやり方は間違っているのさ。
現におれたちは反目しあいながら
……それは、互いが対極に位置するものだから
仕方の無いこと
だがその一方で
こうして惹かれあいこの地に……
うん、剣道。
……強く、なりたくて、ね……ずっと、続けてきてた。
[呟くように言う刹那、視線はどこか遠くを見たか]
ん……大した事じゃないんだけど。
お菓子、買って来てたの……昨日の騒動で、忘れてたなって、思って。
[ごく何気なく織り込んだ言葉は、果たしてどう捉えられるか]
そうなんですかー?
剣道ってかっこいいですよねー
[にこにこと笑う。
遠くを見る様子には何も気付いていないのか]
おかし?
[まず反応したのはそこで。
ふと、昨日は何かあったっけとおもって――]
忘れちゃ、おかしがかわいそうです、よ?
[ずきと、頭が痛んで。
だけれどそれを隠して、えがおを浮かべて。
口にした言葉のせいで、また痛んで。
今度は瞬きの拍子に、雫が散った。]
−寮・食堂−
[ゆっくりと、扉を開く。人気は、なかった。
幾度も使わせて貰っていたから、勝手知ったるもので。
電灯を点けて、奥の炊事室へと向かうと、食料を漁る。
仔犬は、入り口の傍、見える位置。
中身は、荒らされてはいないようだった。
そう言えば、建物にも変化は見られない。
“アレ”は人間だけを狙ったのだろうか―――
ぼんやりと、そんな事を考える。]
…何、つくろー。
[気を紛らわすように、声を零した]
うん……昔の俺、どうしようもなく弱かったからね。
ま、今もだけど……。
[今も、という部分には、微かな自嘲の響き]
お菓子どころじゃなかったからね、昨日は。
[それから、静かに言葉を続けて。
散った雫に、僅か、表情は翳るか]
……大丈夫?
[そう、と、問う。何が、とは言わずに]
[フユが、こちらに視線を向けたのを見て、ゆっくりと数歩、足を進める。声をかけられると、足を止めて、軽く首を振った]
………いや。俺も、桜を見ていた。
[淡々と言う]
えー、せんぱいがよわいなんて、ないですよ
[にこにこと笑うものの、その目からはとめどなく雫があふれ。]
おか、しいなぁ
[ひとりごちて、両手でそれを拭う。ひりつく肌]
昨日、なんにもなかったじゃないですか。
いつもとおんなじですよ
まいにち、あっついしー
[目をそらして窓の外。
何かが見えた気がして、すぐに視線を戻した。]
だいじょうぶですよぉ……なんで、ないてるんだろ
綺麗…か。
[その言葉に、今気付いたように、桜を見上げ]
そういえば、そうだな。
[不思議そうに呟く。続くフユの問いに、視線を再び彼女に向けた]
………学校の外に出られなくなっている。この桜が原因なら、彼女に直談判するのが近道かもしれない。
いや、弱いよ。
女の子泣かせちゃってるなんて、男子失格だしね。
[苦笑しつつ、言って。
弱い、と口にした本来の意図と、それは違うのだけれど]
何にもなかった……か。
うん、俺もそう思いたかった。
[けど、と。声は静かに。どこまでも、静かに]
……変わっちゃったんだよ、ね。昨日から、色々……。
なかせちゃったんですかー?
あ、私?
[困ったような顔をする。まだ涙は止まらない。
こすった場所が痛かった]
かわってなん……て
ないです、よ
なんにもないですよ。
おにいちゃんだって、いるもの。
今は、君だし……その前にも、ね。
[チリン、と。ポケットの中で、小さな音。
鈴の音色は、少し心に痛い]
……本当、に?
[小さな痛みを抱えつつ、静かに、静かに、問いかけて]
[音が届く。
それは、 を思わせて]
ほんと、ですよ
ほんとに
おにいちゃんはいるから、なにもないですよ
[本当のことだもんと、呟きは濡れて言葉が止まる]
なにも、なんにも、ない…
―自室―
[わずらわしいだけ、と充電すらせずに机の上に放り出されたシルバーの携帯の存在を思い出し、彼女はそれを手に取る。引き出しから充電器を取り出し、コードを繋ぎ充電しながら、早乙女の携帯へと掛けようとしてディスプレイに目を留めれば、そこには圏外の文字がはっきりと。]
………。
[苛立ちの全てをぶつけるよう、床に激しくたたき付けた。]
アレが私を……というより、私たちを騙す理由が
私には思い付かない。
それに。
”明日ありと 思う心のあだ桜
夜半に嵐の 吹かぬものかは”
私がああいう死に方をしないとも限らない。
私は、あなたやウミのように武芸の心得がある訳じゃない。
自分の身を守ろうと思えば
用心に越したことは無いと思っています。
[何にもない、と。
繰り返す様子に、何か思うところでもあるのか。
瞳には、深い陰り色]
……えっと……ごめんね?
[ため息の後、口にしたのは小さな謝罪]
でも……辛いだろうけど……嫌だろうけど。
逃げたら……ダメだから、さ……。
[途切れがちのそれは半ば、自身に言い聞かせるための言葉か]
[夕刻、茜が部屋を侵食し、研ぎ澄まされた彼女の頬を染め上げてく。床には叩きつけられフリップの取れてしまった携帯が転がったまま。]
[食事もとらぬままベッドに座り、茜を見つめ、昨日からの出来事を思い出す。]
[雨、桜、鉄の臭い、水面、緋、消失、鈴の音、不思議な少女。]
[そして、誰かが言った『認識できないと……死』、その言葉が頭の中を廻りだす。くるくると散る桜の花弁の様に。]
騙す理由が無い…そうかな?
桜が咲くと同時に、人が死んで、俺達はここに閉じ込められた。
そして、死体は桜になって、この樹の下で消えた。
しかし、それは、桜のせいじゃない、と桜から出て来たものが言う。
………桜のせいだと判れば、桜を害されるから……そう思っても不思議じゃないだろう?
武芸の心得があろうと、無かろうと、そういう存在の前では意味がない。
用心することは君の自由だが、俺には、意味があると思えない。そういうことだ。
[何を苦しんでいるのかわからない
違う――わかりたくない]
なんで、あやまるんですか……?
お食事、いきましょうよ、せんぱい
[もう、聞きたくないというように、逃げるように、階段をおりようと]
なるほど。
害されたく無いのなら、害されるようなことを
しなければ良い。
では桜は一体何の為に?
人智を超えた存在は確かにおそろしいです。
が、あなたは……
少し達観しているというより
ずれていると、よく言われませんか。
例えば、自分が死ぬ事を考えないのですか。
意味の分からない死の前に、単純な暴力が完全に無意味かどうかは分かりません。
ただ、無意味であったとしてもそれに心を頼らせることは出来るかも知れない。
[フユの言葉に僅かに目を細める]
……つまり君は、桜花の言うとおり、俺達の誰かが、あの殺人の犯人かもしれない、だから警戒して…力に訴えてでも、自分の身を守ろうと考えている、ということかな?
[自分自身に関する言葉には触れずに、また問う]
辛い思いをさせたなら、謝らないと。
[苦笑しつつ、こう言って。
食事に、という言葉には、うん、と頷く]
……でも、ね。
これだけは、言っておきたいんだ。
君が先に進めない事を、君の大切な人は、きっと……喜ばないから。
[小さな小さな声で言って。
ぽふり、となだめるように頭を撫でてから、自分も階下へと]
別に。
[フユは、視線と声を落とした。]
ただ、死にたいとは思っていません。
死んだ友人の分も生きていたい。
[消え入るような声で言ったが、
ヒサタカを向いてまたはっきりとした声で。]
……「そういう存在の前では意味がない」と言いましたね。
何か経験でも?
[つらいという言葉が聞こえて振りかえる。
その顔は微笑み]
つらくなんてないですよ。
[続いた言葉に、目の精彩がかけたようにみえるだろうか]
しあわせなら、よろこんでくれますよ
……あれ?
[自分が何を言ったのか、わからなかったのだろう。
すぐに首をかしげて、その後を追った。]
[軽やかな包丁の音が、静寂に波を立てる。
手早く出来るから。それだけの理由で、野菜炒め。
キャベツはザク切り、ピーマンと玉葱はスライス、
人参を千切りにして、大蒜をみじん切りに、
中華鍋を火にかけて、熱して油を入れて―――
レシピを頭の中で思い浮かべながら、
初めて料理をした時に作ったのも
野菜炒めだったかな、などと、ふと、振り返る。
結果は、散々だったけれども。]
[やがて、くだらないことばかりが頭の中をくるくると。普段なら泳げば消えてしまうのだろうが、あの場所には行く気にもなれず。]
……シャワーでも浴びようか。
[これが夢であるなら、なんと不便な夢なんだろうと思いながら、着替えとバスタオルを手に部屋を出た。]
……そうか。
[死んだ友人、という言葉には、僅かに声を翳らせたろうか]
………俺の実家は古寺でね、そういう場所には、色々な物や話が集まってくるものだから。
[問いに対する答えは、どこか曖昧に聞こえたかもしれない]
……本当に、幸せなら……ね。
[呟くような言葉はため息に紛れ、果たして届いたかどうか。
ただ、これ以上言葉を重ねてもどうにもならないような気がして。
このままゆっくりと壊れていくか、一撃で砕け散るか。
現実と向き合う、という選択肢がなければ、その二択なのは覚えもあるから]
『俺は……向き合う道を選べた。けれど』
[この子には、それだけのものが現実にあるのかどうか。
その判断は、どうしてもつかなくて。
食堂へ向かいつつ、自然、表情は陰りを帯びるか]
寺。
それであなたは達観したような物言いをするとでも?
[フユは少し驚いた顔をした。
恐らく昨夜から久しぶりの、睨むこと以外の表情。
それは、ヒサタカの声に感情らしきものが過ったことと、彼の語った内容に対してだった。]
……どのような話や、物、が。
[後ろをついていくのだから、当然その顔は見えずに。
言葉は届いていたけれど、それに返す言葉はなくて。]
そういえば、つくらなきゃいけないなら、つくるんですよねー
[自分が料理をした時のことを思い出して、少し声は苦い]
あー……そうなんだよね。
まあ、俺も多少は作れるけど……姉さんたちに付き合わされたから。
[マイコの言葉に、姉たちの料理修行に巻き込まれた頃の事を思い出してか、ふっと遠い目をしつつ。
それでも、何とかなるだろう……と思いながら、たどり着いた食堂のドアを開けて]
……誰か、いる?
[明かりがついている事に、一つ、瞬き]
………さあ、どうかな。
自分では、達観しているつもりはないからね。
[静かに答えて、視線を逸らす]
そう…いろいろだよ。呪いだの祟りだのという怪談じみた話から、呪物だの魔を封じた遺物だのね。
眉唾物も多いが……馬鹿に出来ないものも、いくらかはある。
そうだな…だから、慣れてはいる、か。
[視線は再び、桜の樹に注がれている]
へー、すっごいですね!
やっぱり、かがみせんぱいは、ものしりですねー
[それは何か違う気がするものの。
食堂のあかりに、声を上げる彼の様子に首を傾げる。
いてもおかしくないと思っているのか。――否、普段ならそれは当然なのだから、おかしくない。]
まあ、達観しているというよりかは…………。
[フユは、桜ではなくヒサタカの横顔に視線を注ぎ]
……訊いてみたらどうです。
私には分かりません。慣れてはいませんから。
昨日は、マイコが
桜の樹を殴った時にでも、現れたのでしたっけ。
─自室─
[フユが出て行ったのをぼんやりと気付いていたが、声を掛けることはせず……というか]
…………だる
[騒動の間ずっと濡れたままの服でいたわけで。当然の帰結として、夏風邪をひいていたりするわけで]
物知りというか、まあ、その……。
[視線が泳いだ。
身に着けた知識の大半が、姉たちの玩具にされた結果の産物というのはさすがに言えない]
『……御堂さん、無事……なのかな』
[なら、いいんだけど、と。
ごく小さな声で呟きつつ、食堂の中へと入り]
えっと……誰か、いますかあ?
[声をかけつつ、ふと感じた気配に目をやれば]
あれ、あの犬……?
[そこには、以前何度か見かけた仔犬の姿が]
…………確かに、ずれているとは良く言われる。
[自覚はあったようだ]
……それも考えたが、無闇に殴ると殴り返されそうでね。俺も命は惜しい。
経でも唱えてみるかな?
[口調はどこか軽い]
[手早くシャワーを済ませ、ショートパンツとTシャツに身を包み、乾かした髪をラフにまとめ、浴室を出る。
麦茶でも飲もうと食堂へ足を向ければ、誰かが入っていくのがちらと見えた。]
[一瞬躊躇うも、そのまま食堂へと向かった。]
―→寮・食堂―
…ん?
リュウ、どうしたー?
[調理の音で、人の声には気づかず。
火を止めて出来上がった野菜炒めを皿へと移し、
仔犬用に用意した煮込み野菜は少し底の深い器に。
入り口を見つめていた仔犬は振り返り、
小首を傾げながら、ひゃん、ともう一鳴き。]
[弱いところを他人に見せるのは嫌という意地っ張りな考えの下、声を掛けなかったのだが]
………限界っぽ
[そう呟くとモゾリとベッドから這い出て、寝間着の上に少し厚めの服を纏って階下へ]
いやまあ……色々と、あるから……。
[素で言われて、どう返したものか悩んで。
結局流す方向にしておいた]
この犬……前から、構内で見かけてたけど……なんで、こんなとこに?
[首を傾げて呟きつつ。
調理場の方から声が聞こえれば、一つ、瞬いて]
[食堂の入り口に立てば、確か桜の樹の下にいた二人と、犬が見え、思わず幾度か瞬きをした後。]
……こんばんわ。
[ぽつり、呟く様に声を掛けた。]
[餌の匂いを感じ取り、中に入って来て
尻尾を振る仔犬を嗜め、炊事室から顔を出す。
馴染みのある後輩の顔が、2つ。]
…れ。
カガミに、マイマイ。
―――と。
[その背後から現れた顔にも見覚えはあったが、
名前は知らず、言葉に詰まった。]
[流されてきょとんとして]
犬、みたことないですー
あれー?
ショウちゃんせんぱい?
[声に聞き覚えはあった。
それから後ろからの声に、ふりかえって]
こんばんはー!
[呟くような声を捉えて、そちらを振り返る]
あ、こんばんは。
……ええと。
[昨日、最後まで桜の元に残っていた人、というのはわかったけれど。
名前は聞いていなかったな、と思い、やや、首を傾げる]
[背中にちりちりと、視線を感じる。
振り返らずに桜の樹の横を通り、真っ直ぐ寮に向かった。
五枚の花弁としてではなく一輪の花の形のまま散った桜が、
ヒサタカの視線を遮るように、榎本芙由の背を滑った。]
あ、一ノ瀬先輩。
[知った相手が無事な様子に、ややほっとしてか、声には安堵が混ざるか]
……その犬……先輩の……だったんですか?
[それから、ふと感じた疑問をそのまま投げかけて]
[フユとその中にあるものの現在の関係については、テレビのチャンネルが切り替わるのによく似ている。
バラエティからドラマ、サスペンス、そして怪奇番組。喜怒哀楽。各チャンネル毎に自我を持っているが、主導権はリモコンを握るモノにある。]
(一見、ぼんやりしているようだが、意外に……)
[玄関を通り、寮へ。]
[どれ位そうしていたのだろうか。
フルリ、と頭を降ると立ち上がって外に出る。
廊下に出ると犬の鳴き声が聞こえて]
…なんで寮内で?
[怪訝そうにそちらへ向かう]
[3人の顔をゆっくりと見渡し。確か…同級生でバスケ部にいた人と、昨日玄関でもあった人と、そして桜の樹の下にいた人か、と思い出しながら、同級生だった人が言葉に詰まるのを感じ。]
あぁ…3年の桐生です。
[そして、普段ここにいるはずの人が見当たらない事を疑問に感じ。]
あの……御堂さんは?
[少し表に出るのに躊躇いが生じたのは、
フユの言葉が脳裏を過ぎったからだろうか]
あー。
うん、まあ、そんなトコ。
[けれども、すぐにいつもの気楽な笑みを浮かべて。
マコトの問いかけに、曖昧に答えた。]
メシ作ってた。
腹、減ったから。
[マイコにもそう言って、
一度中に引っ込み、手には野菜炒めの皿]
きりゅうせんぱい。
私、日月舞子っていいます。
よろしくおねがいします!
[ぺこっと頭をさげて]
あ、あと
同い年なんですけど、亘っていうおにいちゃんもいるんで、よろしくおねがいしますっ
……みどうさん?
[首を傾げる。
誰だっけと思う。
思い出すなと何かが思ったような気がして、首をかしげた。]
霧生、ね。
オレは一ノ瀬。一ノ瀬 翔。
[よろしく、と簡単に名乗りを返す。
当然の疑問に対しては、…逡巡して]
………わかんねえ。
[一言だけ、零した。]
―食堂―
[中を覗くと複数の人物がいた。
そしてよく知る犬が一緒にちょこんと座っていて]
リュウ。
…一之瀬先輩、連れてきちゃったのね。
[溜息と苦笑とが一緒に出た]
[入ってきたのには気付かなかった……なんといっても食事に集中していたから。
だけれど声にはさすがに気付いて]
あ、ヨウコちゃんだー!
こんばんは!
[にこっと笑って]
二年の各務誠人、といいます。
[サヤカの名乗りにこう返し。
続いた問いには、どう答えていいかわからず、さあ、とだけ返し]
前から、見かけてはいたんですけど。
……人馴れしてるわけだ。
[仔犬とショウとを見比べつつ、妙に納得したように呟く。
マイコの様子には、ほんの一瞬、険しい色彩を瞳に過ぎらせたか]
御堂さん…皐月さんは、もう。
[サヤカの声に小さく呟いて]
舞ちゃん。
こんばんは。
元気になったのね、よかった。
[声を掛けられればこちらもニコリとして挨拶を返す。
彼女の今の状態は露知らず]
えええええー!
私の分はないんですかー!?
[隠されて、がーんとショックを受ける。
だけれど続いた言葉には、ぱぁぁと顔を輝かせ]
あ、それならみんなの分とか!
[にこにこにこにこ。悪気はない、まったく。]
リン……と。
不意に響く、鈴の音。
桜の枝が僅か、ざわめいて。
「そんなことしなくても、大丈夫なのにぃ」
くすくす、くすくすと。
楽しげに笑う声だけが、刹那、響いた。
[やってきた九条に軽く頭を下げた後。]
……変、よね……御堂さん、この時間ならここにいるはずなのに……。
[そして、野菜炒めのおいしそうな臭いに、小さくお腹の虫がなるのを感じ、小さく苦笑しながら一ノ瀬に。]
私も、いただいて構わないかしら?
[マコトの顔など見てもいない。
気付かない。
――そうしている]
元気にって、私いつでも元気だよー?
[どうしたの?といって笑う。
先にあげられた名前の持ち主が、わからずにそこは流して
……否、耳にきちんといれなくて]
[マコトの名乗りに、
ようやっと、フユが口にしていた名前が一致して、
ああ、と内心、納得した。
それと同時に、ワタルがいないのはどうしてか、と思う]
…あー。
九条、見逃して?
こんなときだし、さ。
[けれども生徒会の後輩の姿を認めた事により消え、
苦笑染みた表情を返した。
新たに現れる人の顔を見る度、安堵と不安が交互する。]
や、こんばんは。
[やって来たヨウコに、挨拶をして。
微か、ざわめくようなものを感じて、ふと、外を振り返る。
鈴の音が聞こえたような気がしたのは、気のせいだろうか、と。
そんな事を考えていたのは、ほんの一瞬のこと。
無意味に重なるものがあるせいか、今はやはり、マイコの様子が気にかかった。]
…オマエらー。
オレ、おさんどんじゃないんだぞ。
[男だし、と付け加えながらも、
食べてくれる人がいる―――というのは純粋に、嬉しい。
同学年の彼女からも頼まれて、折れた。]
わぁーったよ。作る、作りマスー。
マイマイ食うの遅いからソレ食っていいよ。
飲み物くらいは自分で入れろよー?
[箸を乗せた皿を、
いつもと変わらないように見える後輩に押し付ける。
受け取らなくとも、卓上に置いていくだろう]
[入り口近くで立ち止まったまま。
流石にマイコの様子に怪訝そうになるか]
ああ…。
外に出れないのだから、リュウもお腹空かせちゃいますよね。
それは可哀想だから。
[ショウには小さく頷いた]
って……。
[入り口から聞こえた声に、そちらを見やり]
ウミ?
[だるそうな様子に一つ瞬き。
それからふと、ある事を思い出す]
……ウミ、あのさ。
昨日……ちゃんと、身体あっためた?
リュウ、先に食ってていいぞ。
冷めちまうしな。
[大人しく中で待っていた仔犬にそう声をかけ、
目の前に皿を置くと、調理場に引っ込んだ。
けれども仔犬は尻尾をゆらゆら揺らしながら、
ショウの後姿を見つめ、食べ始めようとはしない]
わーい!
ショウちゃんせんぱいだいすきー!
[犬だったら尻尾ぶんぶん振り回すくらいの喜びよう。
ぱっとその皿を見て、受け取る。
だけれど量は彼女にとってはおおく]
ええととりざらとりざらー
[割り箸も探して、それでとりわけようという魂胆か。]
らじゃー!
[飲み物はしっかり確保するだろう。]
[聞こえない筈の鈴の音に反応したかのように眉を顰める。
マコトとは距離を取るような位置に移動して]
水月先輩?
どうしたんですか、具合悪そう…。
[入ってきたウミの様子に軽く目を瞬いて]
[ぱたぱた忙しく動いてから、ヨウコの怪訝そうな視線を受け止めて、首を傾げる]
どうしたのー?
[どうかしたのは自分のほうだと気付かずに。
昨日の話になれば、話はきちんと聞けず。
むしろ常ならぬほどのスピードで食べ終えたら、何も聞く前に*亘の部屋へと向かう*]
誰か殺す。
力を貰うってことだよね。
そうだね、マイちゃんやキリュウ先輩は目を背けてるみたい。
あのままじゃ良くないよね。壊れちゃう。
その前に、力を貰いたいな。
[昨夜、『認識できないと……死』ぬと告げた人へと軽く頭を下げ。おさんどんがかりじゃないと言う同級生の言葉に、微かな笑みを浮かべながら。]
ありがとうございます。
飲み物……あぁ、麦茶でも入れましょうか。
[返事も待たずに、人数分のグラスに麦茶を入れようと。]
でも覚え……違うな。
忘れないで
「力を貰う」
という事は、その相手を”殺し”て”喰らう”こと。
ひとにとってはそれは”殺人”。
怖いことで、悲しいこと。
どうしたのって。
[マイコにはどう声を掛けてよいものか分からず。
困惑した表情で戻ってゆくのを見送って]
もしかして昨日の雨ですか?
…風邪薬ってどこにあるのかしら。
[距離を取るヨウコの様子には気づいたものの、軽く、視線を投げるだけに止める。
昨日から感じている違和感の理由は、気づいてはいるけれど。
今は、それを追及するよりも気がかりな事があって]
夏風邪って……っとに、もう。
[ウミの返事、つい、呆れたような声が上がるものの。
案じているのは、表情を見れば誰の目にも明らかか]
[鍋の大きさがあるから、
大人数にはあんまり向いてないんだけど。
そんな事を思いながらも、手は、調理を進める。
団欒の声は、まるで、昨日までと変わらない。
世界は、昨日で、変わってしまったはずなのに。
この日常的な光景は、ある種、異様なように思えた。
ショウにヨウコの小さな声は届かなかったが、
寮母である彼女がここにいないという意味は、
…既によく、理解出来ている。
ただ、認めるのを厭っているだけ。]
[フユは、冷蔵庫のドアに残された覚え書きに目をとめた。
庫内から水羊羹を取り出し、足で冷蔵庫の扉を閉めながら戸棚に手を伸ばし、引き出しからスプーンを取る。]
ああ、そうか。
力貰ったら死んじゃうんだっけ。
[小さき憑魔は無邪気に笑う]
一緒になるから寂しくないのに。
[願いを叶える為の正当化。
それが歪みであることにヨウコは気付くことが出来ない]
美味しくなるならその方がいいね。
きっと力も増えるんだよね。
[希望的観測、楽観的予想。
ただその言葉を信じて、自分に都合の良いように解釈する]
―――…、っつー。
[左の人差指の脇から、緋色が流れ出る。
反射的に口に含むと、舌にざらりとした味を感じた。
塩味。俗に言う、鉄のような味、だろうか。
痛みは、現実に引き戻させる。
今が現実だと、知らせる。]
…後で、消毒しよ。
[面倒だと思いながら、油を敷いた鍋に材料を放る。
大人しく待機していた仔犬がピンと耳を立て、
調理室の中に駆け込んだ]
[血の匂い。甘い甘い匂い。
微かなそれにピクリと反応する]
リュウ?
[けれどそれより早く動き出したのは仔犬。
調理室に駆け込んでゆくのを見て、ゆっくりとその後を追う。
入り口から中を覗き込んで]
一之瀬先輩、どうしました?
[気付けば日は暮れていた。
殆ど動かずにいたとて、丸一日食わないでいるのは流石に辛い。喉が食物を受け付けるかは別として。
とにかく何か口に入れようかと階段を降りる途中、少女と擦れ違った。その様子に僅か違和感を覚えながらも、階下へと向かった。]
―寮2階→…―
…………うー、だってしょうがないじゃない
まさかあんなことが起こるなんて思ってもいなかったわけだし
おかげでお風呂に入るタイミングが遅れに遅れて
[そう言いながら椅子に座ると、ぐてーっと机に突っ伏し]
甘いの?
この匂いみたいに?
[少しだけ浮かれたようなコエ。
期待に満ちて]
早く食べたいな。
ここに司がいなければ、すぐにも食べられたのに。
[教わったことは憶えていた。
司は奪うモノ。
今、手を出しても妨害されるのは目に見えている]
ざんねん。
んぁ。
[外からかかる声に、鍋から視線を外す。
遅れて、足下に不安そうに擦り寄る仔犬]
大丈夫ー。
指、切っただけ。
リュウもそんなに心配すんなー?
[グラスを盆にのせ、冷蔵庫から麦茶の入ったポットを出し、戻ろうとする時にフユがこちらにやってくるのが見え、すれ違い様感情のこもらぬ声で一言。]
――昨日はどうも。
[そして、皆の待つテーブルの方へと。]
……まあ、それはそうだろうけど。
[昨日の出来事を思い返す刹那、僅か、表情は陰りを帯びるか]
とにかく、ちゃんと水分と栄養とって、ちゃんと休んで。
……医者にかかれる状態じゃないんだから。
[それでも、陰りは一瞬で振り払い。
いつもの調子で、こんな言葉を投げかけて]
…救急箱、持ってきた方が良さそうですね。
[血の流れている指をじっと見て。
小さく頭を降るとそう言って踵を返す]
皐月さんの部屋には、薬も確か置いてあったはず。
ちょっと取って来ます。
[足早に皐月の部屋へと向かう]
[ひとまずはぐったりと机に突っ伏しているツインテールの人の横に麦茶を注いだグラスを置き。各務の「医者にかかれる状態じゃない」、との言葉に怪訝そうな顔をし。]
……どういうこと?
[口を挟む間を与えずに立ち去るヨウコに瞬き、
こちらを見上げる仔犬に視線を下ろす]
…大丈夫だって、言ってんのになー。
[呟くショウを咎めるように、きゃん、と一声。
軽く目を瞑って、肩を竦めた。]
と、火っ!
[危うく目を離すところだった。
慌てて調理を再開して、手早く仕上げ、器に盛りつける]
あ、ありがとうございます、霧生先輩。
[麦茶を用意してくれたサヤカに、にこり、と笑んでこう言って。
投げられた問いには、ほんの少し、表情を険しくして]
……出られないんです……学園の、敷地内から。
外部との連絡も、取れなくなってるし……。
[だから、と。呟くような声は、苦いものを帯びて]
[給湯室の流し台に腰掛けて、ぼうっと宙を眺めている。]
……甘い。
[時々、水羊羹を口に運んだ。]
だが、まだ時じゃない。
[つう、と視線が動いて
サヤカの通っていった方を辿る。]
出られない……?
ますます現実味がない話だこと。
……ねぇ、いったい何がおきてるの?
あの桜や、あの女の子は一体何者なの?
そして……他に消えたのは誰?
[考えまいとしていた疑問が、つい言葉となりあふれ出ててしまった。]
佐久間先輩、こんばんは。
食堂に他の先輩達もいらっしゃいますよ。
[すれ違ったヨウスケには簡単な挨拶だけをしてその横を通り抜け、皐月の部屋へ。
目当ての物を見つければその中身を確認する。
消毒薬に絆創膏、風邪薬や鎮痛剤も入っているのを見て]
力、無駄にして欲しくないよね。
無駄にするくらいなら、くれればいいのに。
[クスリと笑うと、それを抱えて食堂へ戻る]
おーまーたーせっ、とー。
[ちょうどヒサタカが食堂に姿を現すのと同時、
調理室から大皿を運んで来て、テーブルに。]
ていうか、1人でやるの無理。
手伝え、お前らー。
(どうせ死ぬのなら、散々恐怖してから死ねば良い。
その方が美味いのだから。
あの小さい奴。
うまく動けば良いがな。)
[水羊羹が甘い。
そして、喚起される記憶の味もまた、甘い。
しかしその記憶は現実の味覚より尚甘美。]
(……まあ、おれの好みの話になるが
何にせよ
結局は願いを叶えることになるのだから。
おれは暫く静観だ。
どうせ、一人や二人殺せばすぐに自我も潰れて
消える。)
[マコトの言葉には軽く唸り声を上げ]
うー、わかった。つきましては何か食べやすいもの欲しいかも
[麦茶を入れてくれたサヤカには、まだこの人は温い思考に逃げてるのかという視線を向けるが]
…………ども
[軽く手を上げ、お礼の気持ちを示す]
[大皿を運んで来たショウを見ると、一瞬、目を瞬かせた]
………君が作ったのか?一ノ瀬先輩。
[相変わらずちぐはぐな口調と呼び方で問いかける]
…って、何かまた増えてるし。
ミズクラゲに、………天野か。
[声が鈍ったのは、
苦手としている相手だからと、
昨日の事を思い出したのと、両方。]
そーだけどー。
こー見えても調理部デスー。
[ふいっと視線を逸らすと、へたっているウミを見て]
………調子、悪そーだな。
欲しい物に手が届く。
美味しいものに。
司の力にも。
[微妙にずれ始めている思考。
それが相手の感情に釣られているとも知らず]
ちゃんとやるよ!
[上機嫌にそう答えて]
[入ってきたヒサタカにどうも、と礼をして。
サヤカの問いには、一つ、息を吐く]
何が起きている……ですか。
俺に言えるのは……日常が、崩壊したって事と……。
[そこで一度、言葉を切る。
続きを言うことには、微か、ためらいもあるか]
人、ならざるもの。
そんな存在が……ここにいる、って事……です。
[自分も含めて、とは。
さすがに声に出さなかったが、代わりに、ため息を一つついて]
……食べやすいもの、ね。
お粥でよければ、作るけど?
[唸るウミには、こんな問いを投げかけて]
………………………なるほど。
[ショウの返事に頷いて、そのまま近付いていく]
………何を手伝えばいい?
[ショウの目の前に立って尋ねた]
おまっ、近づくな!
[首痛いし。
とは言わなかった。プライドが許さずに。]
………取り皿と、箸!
[ハウス!とか犬に命令するような勢いで、炊事室を指さす。
怪我をした左手だったため、微かに痛んで、眉を顰めた。
調理場の入り口付近で待っていた仔犬が、
ショウの傍に歩いて来て、ヒサタカを見上げた。]
[給湯室の中にいる人影が誰か考える前に、その人が此方を見た。]
…フユさんか。
[疲れたようではあるものの、小さく笑みを浮かべた。一見、何時もとそう変わらないかも知れない。
その目を除いては。]
[ショウの言葉に手だけで応じると]
あーショウ先輩。どうも、夏風邪っぽいッス
[マコトの言葉に僅かに顔を上げてジッとマコトを見やっていたが、お粥を作ろうかという言葉には]
あー、お願いする。おいしいの作って
[ショウとヒサタカのやり取りには小さく笑って]
はい、一之瀬先輩。
ちゃんと手当てしておいた方がいいですよ。
[近くのテーブルで救急箱を開けて。
ウミの方へも顔を向け]
風邪薬もありましたから。
何か少し食べて、水月先輩もこれを飲んでおくといいと思います。
ん。
[水羊羹の、アルミ製のカップにスプーンが当たって
かちゃりと音を立てた。
フユはスプーンを一度口に運ぶくらいの間を取った。]
覚えたんだ。
[近付くな、と言われた瞬間、す、と目を伏せて、見上げた子犬と視線が合った]
……………
[見つめ合っているところへ、取り皿と箸、という声が聞こえて、顔を上げる]
………わかった。
[頷いて、厨房へ向かう姿は、どこか嬉しそうに見えたかもしれない]
……夢だと思って、逃げ出すのは、簡単ですけど。
でも……それじゃ……何もできないから。
[現実と、認めています、と。
サヤカには、はっきりとこう答え]
はい、はい、と。
それじゃ、しばしお待ちくださいませ。
[いつからかこちらを見つめていたウミの返事に、軽い口調でこう返し、調理場へと]
夏風邪ー?
[あー、何とかが引くっていうな。
そんな軽口は、今は出なかった。]
…そ、気をつけろよー。
[そう返したところに背後から声をかけられて、振り向く。
ヨウコが救急箱を開けるのを見て、うんざりした表情]
えー。
ほっときゃ治るって、マジで。
[仔犬は暫しヒサタカと見つめあっていたが、
調理場に向かうのを見送ると欠伸をして、
目を細めてかしかし、後ろ脚で身体を掻いた。]
[サヤカの言葉に流石にムカッと来たのか、不機嫌そうな目でサヤカを見やり]
……昨日も言いましたけど。現実以外の何だって言うんです?
夢ですか? 幻ですか? それとも単なる妄想とでも?
いい加減その温い思考に逃げるのやめていただけませんか
……正直ムカつきます
[そう言い放つ。そして、ヨウコが薬を持ってきてくれると]
あー、ありがと。後で飲むよ
[手を上げて、お礼]
…其処まで覚え悪いつもりはないな。
直々にお叱りも受けましたし。
[苦く笑う。やはりその目に感情はないが。
そういえば、この間の避けるような態度は何だったのだろうと思いながらも、見つめられるのに軽く首を傾げた。]
ほんとに、もう……。
あんまり、心配かけないでくれると、嬉しいんだけどな……。
[小さく呟きつつ、料理にかかる。
姉たちにいぢられていたのは伊達ではないのか、手際は決して悪くはないようで]
……もう、これ以上は……嫌、なんだから、さ。
[ぽつり、呟いて。思い返すのは、5年前。
分家の一人娘だった従妹のこと。
たまに遊びに来るといつも自分の後をついて来て、三人組の中に入りたがって。
幼馴染以外には上手く心を開けず、慕われる事に慣れていなかった自分は、どこか、彼女を持て余していて。
……身近に、年齢の近い者が少ない従妹が、自分に拠り所を求めていたなんて事には、幼さもあって気づく事ができなかった]
[そして、そんな小さな思いの行き違いが、魔を引き寄せやすいなんて事は、知る由もない事で。
……確か、あれは祭りの前の夜。
遊びに来ていた従妹が、どこにもいないと。
末姉に知らされて。
皆で手分けして探しに行った。
……探し回って、たどり着いたのは、神社の境内。
従妹は、そこにある桜をじっと見つめていた。
葉桜の季節のはずなのに、満開に花開いた桜──丁度、今の校庭の桜と同じように、それは、薄紅を散らして]
[その下で、どんな言葉を交わしたのかは、覚えていない。
もしかしたら、覚えていたくないのかも知れない。
ただ、微かに……「一緒にいたいのに」と。
そう、言われた事だけは覚えていて。
それに、どう返せばいいのかわからずにいたら──紅が舞って。
しろは、あかに。
小さな鈴が、チリン、と鳴って。
──同時に、何かが近づくのを感じ取った。
それが何かなんて当然わからないし、何より、その時は夢中で。
それを退けて護らないと、と。
そんな意識の赴くままに力を暴走させて──
意識が途切れる直前に、鋭い風鳴りの音を聞いたのは、覚えていた]
[それから後の事は、よく覚えていない、けれど。
しばらくの間、精神的に不安定な状態に陥っていた事。
周りのおかげで、安定を取り戻せた事。
その時に、一つ決意を固めた事。
それだけは、しっかりと認識していて]
……なのに……俺は……。
[悔しさを帯びた小さな呟きは、*誰かの耳に届いたか*]
そう。
[その目に何も読み取ることが出来なくとも、フユはヨウスケを注視したまま。
もしその様子を見た人間が榎本芙由をそれなりに知っていれば、フユが異性の目を見つめることなどそうそうしないと指摘をしたかも知れない。]
スケさんって呼ばれてるんだってね。
ショウが言ってた。
スケさんの近くでも、誰かが亡くなった……のだよね。
だって今、痛そうにしてたじゃないですか。
それこそ…何かあっても病院とか行かれないんですから。
[流石に最後の方の声は低くなるか]
だから、念のために…
[響いてきた派手な破砕音に一瞬首を竦め、そちらの方を見て溜息]
現実、か……。
[ふいに湧き上がる、ヒステリックに喚き散らしたい衝動を奥歯をギシとかみ締めることで押さえつけ。]
私には、未だこの状況を現実と認識できない。
あまりにも……かけ離れすぎてるもの。
どうして……そこまで現実と信じ込めるの?
もし、これが本当に現実だったとしても……。
原因が、"人ならざるもの"なら……私たちには何も出来ないんじゃないのかしらね?
[そして、冷めた瞳でウミを一瞥した後、溜息をひとつ*落とした。*]
[残った皿をシンクの横に置き、布巾を取って割れた皿の欠片を拾い集める。妙に慣れている風なのは、気のせいではないだろう。入って来て粥を作り始めたマコトに、「足元に気をつけろ」と言おうとして…小さな呟きを聞き止めたかもしれない]
オーマーエーなーっ、何してんだよっ!
布巾で拾うな、ちりとりと箒あっち!!
[騒がしい乱入者にも、
物思いに耽るマコトは料理に意識を向けたまま。
ある意味では素晴らしい集中力かも知れず。]
それから、
怪我してないか九の字にでも見てもらえっ。
[自分の事はしっかりと棚に上げた。]
…ああ、うん。
そっちで呼ぶ人はあんまし多くないけどさ。
[注視されていることには少し戸惑ったような仕草を見せるも、未だ殆ど話したことのない洋亮では気付ける訳もなく。
続いた言葉に初めて少しだけ、瞳の光が陰ったように見えたかも知れない。それは相変わらず凍り付いたように動かないけれど。]
……ん。
でも、ってことは…そっちも、か。
…本当の本当の、本当だなー。
[言い分には一応は納得したようだが、
それでも半眼でヒサタカを暫し見て。]
わかった。
自分でやった事は、責任持てよ。
[…ふい、と視線を逸らすと、
念のためにと、わざわざ掃除用具を出して来て、
それから置かれっ放しだった仔犬用の器を手に取り]
冷めちゃったじゃんか。
[独り言ちるように言って、温め直すと、
食堂に戻ろうと踵を返す]
大丈夫でした?
[その剣幕に何となく付いてゆくこともできず。
仔犬と一緒にテーブルの傍で待っていた。
お行儀良く待っているリュウはパタパタと尻尾を動かしながら。
ショウをキラキラした目で見つめている]
ああ……本当だ。
[半眼で睨まれると、思い切り頷いて、拾った分の欠片を不燃ゴミの箱に捨てると、出された掃除道具を手に取った]
………ありがとう。すまない。
[食堂に戻ろうとするショウの背中に向けた言葉は、他の意味も含んでいたかもしれない]
[投げられた言葉は聞こえたか否か、定かではなく。
不機嫌そうな表情で戻って来る。]
大丈夫って言ってたから、大丈夫なんじゃねー。
[けれど、眼を輝かせる仔犬に気づくとそれは和らいで、
苦笑を滲ませて、ゴメンなと謝罪を述べつつ、
その目の前に器を置く]
リュウ、食っていいんだからなー?
さっきも待ってただろ。
オレも、手当て終わったら食べるから。
[きちんと治療を受ける気になったらしい。
そう声をかけると、椅子を引いて座った。]
[割れた皿を片付け終わると、残った皿と箸を運んで食堂に戻る]
俺も、食べていいか?
[ショウに尋ねる姿は、やっぱり犬と大差なかったかもしれない]
[サヤカの言葉に僅かに目を細めるものの]
……それは実際に目で見て耳で聞き手で触り鼻で嗅いだから
現実には非科学的なこと、不思議なことが起こりうる。ただその前提があるだけですよ
それに、そこから逃げることは、自分を信じないことと同義ですし
……何も出来ない、か。……そうかもしれませんね。でも、私は足掻きますよ。たとえ敵わない相手でも。最後の瞬間まで
だって、大人しく殺されるなんて……癪じゃないですか
[そう言うと、不敵な笑みを浮かべる]
それならいいんですけれど。
[機嫌悪そうな表情が仔犬に和らぐのを見て、ホッとしたようにそう言って]
本当に賢くて偉いね、リュウ。
[釣られたように小さく子犬に笑いかける。
消毒薬とコットンを取り出して、椅子に座ったショウに向かい]
はい、手を出してくださいね。
片手じゃやりにくいでしょうから。
はーぁーい。
[賢い仔犬と違って、少年は物分りが悪い。
間延びした返事をしながら、左手を差し出した。
食べていいと言われた仔犬は、褒められて、
尻尾を大きく一度揺らした。
遠慮がちに餌を齧ってから、2人の様子をじっと見る]
[コップを両手に握ったまま、それを見つめる。]
昔からずっと可愛くて仕方なかったし、兄貴だから守れって大人にも言われてたから。
それが俺の役目で。
構いすぎて逆に嫌がられるくらいで。
……けど。泣けないんだ。
[淡々と途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
その目から涙どころか一切の感情が抜け落ちてしまったことには気付いていないのか。]
[再びその目を其方に向け、]
……ああ。
そういえば、……還ってったよ。
[何を、とは言わずとも分かるだろうか。
昨日渡された花片のこと。]
そんなに嫌そうにしなくても。
…出血は酷くないですけど、浅くも無いじゃないですか。
少し沁みるかもしれませんが我慢してください。
[傷口を見れば思わず動きを止めて。
小さく呟くとコットンで抑えながら消毒液で傷口を洗う。
軽く上からも押さえた後、大きめの絆創膏を貼って]
はい、これでよし。
気をつけてくださいね?
[リュウも心配になっちゃうよね、とこちらを見上げる仔犬に同意を求めてみたりして。
クゥン、という小さな鳴き声が返った]
別にしてねー………、よっ。
[言葉通りに沁みる消毒液に、小さく声を上げた。
手当てが終わると、止めていた息をゆっくり吐き出す]
…わぁってる、って。
サンキュ、九条。
[名を呼ばれた仔犬はヨウコに眼を移し、
真っ直ぐに見詰めた後、返した鳴き声は同意だろうか。]
んじゃ。
さっさと食うか、なくならないうちに。
[もう一歩踏み出して
少しだけ高い位置にある目を見つめ]
妹さんの為に、気が済むまで沢山悲しんで。
佐久間君が泣いたり、笑ったり
するのが好きだった私の友達の為に。
昨日渡したアレが、アイツかどうかは分からないけど
私は、そうだったと思ってる。
[目線を床に落とし、次の一歩を斜め前に。]
それでもしいつか、遠い未来でも良い。気が済んだら、私がこんな事を言ってたって思い出してやって。
[それから更に一歩。ヨウスケの横をすりぬける。]
そうだ。
夏ですから、傷口が蒸れる可能性があるので。
ちゃんと明日も取り替えてくださいね。
また手伝いますから。
[血の付いたコットンを持った手を口元に当てながらそう言って]
私もいただきます。
[消毒セットを片付けながら、風邪薬を取り出してウミの所へ運び。
それから相伴に預かるだろう。
実の所それほどの食欲は自分もあるわけでなく。
量はいつもより少ないものだったが]
[その後、マコトが持ってきたお粥をもぐもぐと食べ、ヨウコの持ってきた風邪薬を麦茶で流し込むと]
うー、それじゃおやすみ
[そう言って、ズルズルと重い体を引き摺りながら自分の部屋へと*帰っていった*]
…マジで?
[次いだヨウコの言葉に、箸を持つ手が止まった。
すかさず、下から、きゃん、と声が飛ぶ。
足に擦り寄ってくる仔犬に促されるように、…頷いた]
……友達。
[洋亮にとって、彼女の口にするその人に心当たりは一つしかなかった。
顔は動かさずに、]
そっか。
…分かった。
[そう返事を。]
……私は妹さんの事を知らないから、
こんな事を言う資格は無いんだけど。
妹さんがあなたの事を大切に思っていたのなら
多分、あなたが泣いたり笑ったり出来るようになる事を
願ってるのかも知れない。
勝手にこんな事言ってごめん。
[給湯室を出た。]
[フユは、廊下で明らかに体調を崩したウミに追い付き]
……ちょっとアンタ、どうしたの
[力も無いから上手くはいかないだろうが、手を貸そうとしながら部屋へ。]
たかが切り傷って馬鹿にしちゃだめです。
大丈夫です、明日はそんなにしみないと思いますよ。
[引き攣ったようなショウにそう言って。
リュウの促しに頷くのを見れば小さく笑って頷いた]
水月先輩もお大事に。
[ウミが体を引き摺りながら歩くのは心配そうに見送り。
食べ終わればその食器も一緒に洗うだろうか。
全てを終わらせても残っている者がいれば、おやすみなさいと挨拶をして*部屋に戻っていく*]
あいつは…如何だろな。
……けど、ありがと。
[背を向けたままで一言。足音が遠ざかるのを聞きながら、洗面所に近付く。
蛇口を捻り、コップに汲み取った温い水を喉に*流し込んだ。*]
[食事の手を進めながら、皆の顔を見回す。
ここにいるのは、自分を含めて、6人。
自分が会ったのと、フユが口にしたのと、
それを合わせても両手で足りそうな人数。
…他の人々は、どうしたのだろう。
皆で食卓を囲み、団欒めいた光景。
他の静寂とは、切り離されたよう。]
『そういや。
あずまん、ちゃんと食ってるのかな』
[ふと、昨日、会話を交えた後輩の事を思う。
頼んだ通り、ボールは自分の部屋にあった。
ちゃんと、礼を言わないと。
せめてお握りでも作って、持っていこう。
そんな事を、ぼんやり考える。
それでもまだ、残された日常に*縋っていた*]
―昨夜:亘の部屋―
[姿を見られていても気にはせず、部屋へゆく……戻る。
戻ったところで誰もいるはずはない。
だけれど彼女は彼を見て、笑う。わらう。]
おいしかったよー
ショウちゃんせんぱいが作ってくれたんだ!
[水を飲まずに、食事をとらずに、人がすませられるはずもないのに。
あたまの隅で冷静に考える。それが表に出ることはないが。]
昨日……
うぅん、なんでもないよ。 なんでも
[呟きはちいさく聞き取れず
彼は何もいわない。
当然だった
眠るのがこわかった
どんな怪談をきいても怖くなかったのに]
ゆめ、 てしまいそう
あ、れ……?
なにをいってるのかなぁ……
[ベッドに顔をうずめた。いきている気配。
それがやがて消えてしまうのがわかっていても、すがるようにシーツを強く握った]
[朝、目が覚めた時。
となりに彼はいなかった。
しばらく人形のような目でそこを見て……]
どこ?
[慌ててたちあがると、*いないはずの人を追って*]
─食堂/昨夜─
……ちゃんと、休めよー?
[自分も食事を相伴しつつ、部屋に戻るウミに声をかけ。
それが済んだ所で、片づけをして部屋へと戻る。
……途中マイコがいるらしいと、気配で感じて、それに小さくため息をつきつつ。
同時に、異様に研ぎ澄まされていく自分の感覚に、苦笑する]
……ほんとに……人間なんだか、違うんだか。
[愚痴めいた呟き。
やがて、誰もいない部屋に戻り、一度、ベランダに出て夜空を見上げる]
……方法は一つしかない……んだ。
[小さな呟きは、自身に言い聞かせるが如く。
やがてふる、と頭を振って一つ息を吐くと、*部屋に戻って眠りに落ちて*]
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