― 回想・少し前 ―歌が、伝わってるんだ『幻燈歌』っていう。[結局、一番端的に説明出来るのは、それかもしれないと思い至って旅人は、その歌の一節を口に乗せる]月のいとし子は牙の主。鋭き爪と、牙持て引き裂く夜の獣。 人でありながら人でなく。内に獣を秘めし者。 他者の血肉を渇望し。その思いのままに、夜を駆ける。[きちんと節をつけ、低いバリトンで紡がれる旅人の声は朗々と、まるで本職の歌い手のように響いた]