― 厨房 ―
[他家の厨房を勝手に使うのにも遠慮はあるが、]
ごめん、お腹空いたよね。
[期待に尾を振るビルケのため、小鍋を借り、こっそり刻んだ野菜を入れる。
湖で獲れたらしい小魚も塩を振って鍋に入れた。]
(オトフリートさんはたまたま巻き込まれただけかもしれない……。)
(いや、ここにいる全員が巻き込まれたんだ。
歌い手が演奏会をしなければ。
『幻燈歌』を歌わなければ。)
(……あんなに寒い夜に……、
月の下で歌って、「場」の条件を満たしてしまった……)
[火加減を見ながら思い出すと、あの夜の悪寒まで甦ってくる気がした。]