[音の聞きやすい距離まで詰め、しかし、完全に気取られる位置までは行かなかった。演奏に夢中ならば、恐らくは、尚の事。翠眼は見えぬ音を視るように見つめ、旋律を零さず掬い取る][やがて演奏は終わり、最初は疎らな、それから沸き立つ拍手の波。忘れていた瞬きをして、息を吐く。開きかけた口は、何も音を漏らすことはなく。ほんの少しだけ、拳を握った]……ん。[眉を下げて微か笑み、踵を返して、早足にその場を去った。目立つ長い青も、人波に紛れて、間もなく*見えなくなる*]