[そんな時、何だか聞き覚えのある声が右手から聞こえた。
そちらを振り向くと、少し視線を彷徨わせ、首を振ってから知り合いの姿を認めた]
ああ、シグナスさん。おはようございます。
こちらにいらしてたんですね。
[笑みが深くなったのは、一瞬。
次の瞬間、教え子の情報を聞いて表情がそのまま凍る]
………そう、ですか……
[何か言おうと口を開くが、そのたびに言葉に詰まった。
瞼の裏に少年の笑顔が浮かび、鼓膜に笑い声の残滓が蘇る]
……あれから、きっとすぐに特効薬が見つかってますよ。
そのうちに、大人になったトビーが迎えに来てくれるかもしれません
[結局、舌にのせた言の葉は、自分でも空虚だと思う。
ただ、元気付けるようにぎこちない笑顔を作る。
涙を拭くハンカチを探したが、それはどこにもなかった]