―個室―
[翌朝、夜が明ける頃、男は既に目を覚ましていた。
身支度は既にきっちりと整えられており、元より荷物は少ない。貯蔵庫の荷物を加えれば、後はいつでも屋敷を去る事ができる。
そんな状態で、男は一人静かに手元に目を落としていた。
そこにあるのは黒い手帳。数日間の予定などが書き込まれた頁の途中には、別のところから破り取られたらしき紙が一枚挟められている。
手帳の中の几帳面な文字と違い、文字の大きさも列も揃わない、殴り書いたかのような文章を暫し眺め。
睨めつけるようですらあった目をふと伏せて]
……ナターリエ君が起きていれば良いが。
[息を吐いて手帳を閉じ、懐へ仕舞った]