―回想/出かける前のこと―
あ、アーベル君、おはよう。
朝からお疲れさま。
[日よけの帽子を被り、色眼鏡をつけた井出達で
名を呼ぶ人を振り返りみた。]
……うん。ちょっと、ギュン様に用事。
[思いつめたような貌、どことなく泳ぐ紅で応える。]
イレーネまだ、寝てるから。
もし、何かあったら、宜しくお願いしていいかな。
直ぐに戻ってくる、けど。
[どこまでも妻第一の願い事を付け足してから、脚を外へと運んだ。
このとき、アーベルも昨夜自分を運んでくれた人の1人だと知れていれば、礼を言えたのだけれど、残念ながら謂うことはできなかったか。]