―工房『Horai』/客室―
[台所の妻を、そわそわと気にする素振りを見せていた男は、しかし、商談の話になると流石にそちらに集中し真面目な顔を作る。]
そうかぁ。評判佳いのは嬉しいな。
うん……ちょっと数は多いけど、頑張る。
子どもも産まれるし、お父さんは頑張らないと、なんだよ。
[けれど、口調は眼の前の少年と年齢が入れ違ったかのよう。
真面目な顔は氷解して、ほわんとした笑みを湛え、渡されたメモを確かめ頷いた。]
あ、今年はイレーネのも注文してくれるんだね。
嬉しいな。彼女の銀細工はとても素敵だもの。
[そして次にかかった言葉に、室内故色眼鏡越しでない紅を、翡翠に合わせて細めた。]