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どうした、って言われても、俺にも何がなんだか。
神父様と一緒に、ヒルダとホラント探しにきたら、ヒルダが木の下に座り込んでて……。
その時には、もう、こうなっちまってて。
……なんか、ホラントも、なんかあったみたいっす。
姿は、どこにもないんだけど……森ん中に、あいつのお気に入りのランタン……壊れて、散らばって、て……。
……森で、ヒルダさんが……。
[言おうとして、迷い]
…あ、覗いては──!
[扉の先を覗こうとするのなら、慌てながら阻止しようとマルガレーテへ手を伸ばす]
ランタンが?
壊れて、
散らばって?
……。
大方、単に思わせぶりな噂をばら撒くだけじゃあ、
人の気を引けないと思ったのだろう。
ヒルダに関しては、そうだな、貧血でも起こしたんじゃないかね。
黒い森は謂れのある場所だ、
しかしだからと言って、些細なことに惑わされては、いけないよ。
御伽噺は、御伽噺に過ぎないのだからね。
そうは思わないかい、ヨハンくん。
非常識と思えることは、大抵、人の妄想から出来ている。
そりゃ、御伽噺は御伽噺かもしなんいっすけど!
俺も、弟寝かしつけるのに、使ってましたし……。
でも、あいつ、あのランタンは大事にしてたし。
いくら気を引くためとはいえ、壊すとか……。
服の切れ端みたいなのも、散らばってて。
……やっぱ、なんか、おかしいっすよ。
……ふむ。
まあ、何にせよ、だ。
今、これ以上、あの場に踏み込むのは、
それこそ森に喰われに行くようなものだ。
あの森も広い。そして、夜の闇は深い。
ひとまず、今は、ヒルダを連れて行くのが先だ。
君一人で支えて行けるかね?
私はこの通り、灯りが邪魔だ。
…すみません、声を荒げてしまって。
ええ、見ない方が、良いです。
[そこにあったのは綺麗に半分欠けた、ヒトの形をしたもの。
これ以上人目に晒されぬよう、一度診療所の扉を閉める。
自分を落ち着かせるためか、マルガレーテを落ち着かせるためか。
彼女の頭を優しく撫でた]
……そう、っすね。
夜に踏み込むのは、止めた方が、いいかも知れない……。
[少しだけ、森を振り返って。
それから、村長に向き直って]
ああ、支えるのは大丈夫っすよ。
力仕事は、慣れてますから。
いいえ、私も直ぐに扉を閉めれば良かったことですので…。
謝らないで下さい。
…けれど、どうしましょうか…。
ヒルダさんもそうですが、ヴェルナー先生がこのようなことになるなんて…。
ヨハンさん達も、大丈夫でしょうか。
[灯りを翳す。ゆら、ゆら、ゆら。診療所から漏れる光と混ざる]
……ああ、
そこにいるのは、メルセデスくんかね?
どうしたのかね、入り口で突っ立って――
[腕に力を入れなおし、村長に続いて診療所へと歩いてゆき]
あれ、神父様……入り口に突っ立って、どしたんですか?
マルガレーテも。
ヴェルナー先生、いないんすか?
[言い淀み。
意を決すると、少し長く息を吐く]
……何者かに、襲われた、ようで。
その、亡くなられて、いました……。
[ちらりと、視線が診療所の扉へと向かう]
……第一発見者は?
いいや、ひとまず、村の者に知らせよう。
こんな小さな村とは言え、自衛団と呼べるものはある。
いいかい、勝手に、動かしたりしてはいけない。
ヒルダの事は君達に任せた。
何なら、私の家を使っても構わない。
ドロテアに言えば場所の用意はすぐさま出来るはずだ。
ああ、
まったく、なんだと言うんだ――
これでは、まるで。
[医師は覚めない眠りの中。
夢へと誘ったのは、獣の仕業。
*誰かが、御伽噺のようだと、囁いた*]
…私です。
先生を呼びに来たら、もう……。
中には、入っていません。
見つけた後に来たのもマルガレーテさんだけで、中には入れていませんから…。
ヒルダさんは、そうさせて頂きますね。
お手数おかけします。
……ホラントさん、も?
[呟いたヨハンの言葉に視線を向ける。
言いようのない不安が胸に去来した]
…とにかく、ヒルダさんを村長のお宅へ。
[言ってヨハンを促し、村長の*家へ*]
アナはねアナはね識っているの
『御伽噺』は御伽噺でしかない…………なんてことはないの
誰も知らない昔、ここではない何処かであった悲しいこと
それを忘れないように語り継ぐのが『御伽噺』だって
そう、おばあちゃんが言ってたの
でもね、おばあちゃんはこうも言っていたの
語られることが真実とは限らない
時に、人の悪意によって御伽噺も歪められるって
英雄も殺人狂へ、善意も偽善に、美談も醜聞へ
斯くも人は愚かしい生き物だって
だから、アナは自分で見た物を信じることにしているの
……ホラントのランタンとか、服の切れ端っぽいのとか、森ん中に落ちてて。
んでも、あいつ、いなくて……。
[神父の声にぽつり、と呟いて]
ん、そーっすね。
いつまでも、俺が抱えてるのもなんだし。
…ランタンと……服の切れ端、ですか…。
[眉根が寄る。
尤もそれも表面上だけなのだけれど]
お邪魔します、ドロテアさん。
申し訳ないのですが──。
[村長宅へとつくと、対応に出て来たドロテアに説明し。
承諾を得ると中へと通してもらう]
客間を貸して下さるそうです。
そこまでお願いしますね。
……わりぃっすね、ドロテアさん。
[ぺこり、と頭を下げてから客間へと]
よっ、と……。
あーあ、っとに。
こんなに静かになっちまいやがって。
調子、狂うっつの……。
…結局、ヒルダさんがどうしてこうなったのかが分かりませんね。
調べられそうな先生も……。
[通された客間で呟き、言葉が途切れる]
……そうっすねぇ……。
ちょっと前まで、あんなに元気よかったのに、なんでいきなり、こんな事になっちまったんだか……。
先生がいてくれれば、なんとかなったかもしんない、けど……。
……はぁ……これから、どーなっちまうんだか。
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