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お気になさらず。
私がそうしたいのですから。
[恐縮するミリィには笑顔でそう答えた。
8割方の食事が終わったあたりで鉱夫に呼ばれた]
ああ、急いで戻ります。
ノーラ、食べ切れていませんがこちらで。
[怪我人との言葉に頷いて食事を切り上げた。
代金を近くに居た女将の妹に渡す]
[聞こえてきたブリジットの声に軽く眉を寄せた。
気にしなければいい。そう自分に言い聞かせて席を立つ]
ミリィ、お送りできずに申し訳ない。
またそちらにも顔を出しますから。
[テーブルを回って近くへと寄り、軽くその頭を撫でた。
周囲には家族に向けるような親愛の情と見えるか]
それではお先に。
[急かす鉱夫に連れられて宿を*出て行った*]
[去っていく客の一人一人を、カウンターに頬杖を突き、微笑を湛えて見送る。
ユリアンやイレーネ、ミリィに対するオトフリートだけでなく、ブリジットにさえ同じ眼差しを向けていたから、微笑ましく見守る、というにしては少々奇妙なものだった]
面白いねえ。
[呟きを聞き留めた上の姉が、歳の割には達観したような様子に溜息を零す。そんな弟に浮いた話はないのかと訊ねてみれば、]
さあね。
そういう話が聞きたいなら、
ノーラ姉にすればいいんじゃない?
[話の矛先を逸らす返答。
悪戯めいた笑みに、*女将はどんな表情を返したやら*]
中:
何となく、オトフリートとユーディットが狼候補だったりとか思ってたり。
ユリアンは違うっぽいんだよなぁ…。
これで狼だと困るかもしれないし(イレーネは狼を信望する予定)
─昨夜─
[星空に惹かれて立ち止まったり、軽く寄り道して小さな花束を一つ手にしたり。
そんな事をしてから帰り着いた自宅で待っていたのは、やはりと言うか、朝からの放浪ぶりを諌める言葉。
それを例によって軽く受け流し、追撃が来る前に、持ち帰った花束を預ける]
好きな所に、好きなように活けておいて。
ユーディがいいと思う形に。
あと、食事まだだから、何か軽いものを。
[花束を持ち帰った経緯やら何やらには一切触れずにこう言って。
食事の後は自室に戻り、昼間集めたイメージの断片を手帳から拾い出す作業にしばし没頭した]
[翌朝、夜明け前に目覚めるのはいつもの事。
起き出して、また、窓越しに空を見上げた後、窓を開けて風を呼び込む。
吹き込むそれにしばし、金の髪を遊ばせた後、向かうのはピアノ。
鍵盤の蓋を開き、音を一つ、二つ、紡ぐ]
ん。
[ごく短い声を漏らした後、書きかけの譜面を広げ、綴った音を一通り繋げて行く。
開いた窓から、まだどこか覚束ない旋律が風に乗って*運ばれて行った*]
─坑道の中─
[こつり、こつり。少年が岩を掘っている。
程なくひとつの岩を掘り出して、手にとってじっくりとみる。そして苦い顔をした]
ちぇ。これもいまいちかぁ。今日は全然いーのが採れないなぁ。
[とりあえず中身の少ないバケツに入れてはみたものの。これでは今日はほとんど稼ぎにならない]
仕方ねーな。あっち行くかぁ。
[坑道のわき道から、奥に入っていく狭い場所。身体の大きな大人には入れない場所]
ユリアン兄ちゃんやユーディ姉ちゃんに言われたけどなあ。万が一にでも怪我したら、オト先生にも大目玉で怒られちゃうだろうなあ。
[言う言葉ほどは軽い口調で言いつつ、そちらへと向かう]
気をつければ大丈夫、だろ。
[そういって、狭い場所へと*もぐりこんでいった*]
[昨晩。やはり今日も酒場まで主人を迎えに行かなければならないだろうかと(若しくは捜索願いを出すべきだろうかと)諦めかけていた頃、エーリッヒは飄々と帰ってきた。]
あ……こんな時間まで何やってらっしゃったんですかっ。心配したんですよっ!?
[玄関で出迎えるや否や、いつも通りの台詞を浴びせた。]
お昼はどうなさったんです?
…………飴だけ?
[返答に眉を寄せる。]
……そんなの喉が乾くばっかりじゃありませんか。一度家に帰ってらっしゃれば良かったのに。
[大体、と小言を続けようとしたところで渡されたのは、小さな花束。白、黄色、薄紫などの淡い色をした可憐な野の花が、微かな夏の香りを放っている。]
え、どうなさったんですか、これ。
[可愛い、と思わず顔をほころばせながら、意外な行動にきょとんと目を瞬かせる。しかしそこに更に意外な言葉が。]
……お食事、まだなんですか?
は、はい、すぐに用意致します!
[花束を手にしたまま、慌ててキッチンへ向かう。
頼まれた「軽い食事」には、いつも以上に気合いが入れられたことだろう。
渡された花束は幾つかに分けて水差しに入れられ、食卓や玄関先を暫く*彩ることになった。*]
─工房─
[戻って大目玉を食らった後は、サボった分も合わせて研磨を行い。
合間合間に休憩は入ったが、流石に細かい作業が続いたために疲労はピークに達する]
……疲れた……。
でも、サボっちまったのも事実、だしなぁ…。
[元々宝石加工に対しての姿勢は真面目なもので。
それがあったために今ここで修行の許可を貰っている。
仕事の開始に遅れたり、夜出かけたまま戻らないことも多々あるが、その真面目さがあるのを知っているために技師も咎めはすれど追い出すことはせずに居てくれた。
何ともありがたいことである]
……後もう一息……。
[研磨を続け、残り数個となった時。
磨き終わった一つの小さなオパールを手に、その動きが止まった]
……あ。
入ってる。
[ぽつりと声が漏れた。
研磨していたオパールは、ホワイト・オパールと呼ばれる乳白色の地色のもの。
一般的に市場に出回っているものではあるが、今研磨したホワイト・オパールの中には美しいプレー・オブ・カラーが入っていて。
小さくとも映えるその輝きにしばし意識を奪われた]
………似合いそう、だな。
[そう呟くとそのオパールを手に技師の下へと。
オパールを見せながら会話を交わし。
しばらく渋っていた技師がようやく首を縦に振った]
……我侭聞いて下さってありがとうございます。
[常ならば滅多に言わぬ丁寧な言葉での謝辞。
深々と頭を下げてから自分の作業場へと戻った。
手にしているオパールを、水を入れた小瓶へと移し。
その小瓶の口に首から下げられるようチェーンを括りつけた。
満足げにそれを見やり、机の上に置くと、再び研磨へと没頭。
夕方まではずっと仕事に集中することであろう]
―昨夜/診療所―
無理をして怪我をしたのでは元も子もないでしょう。
私に出来るのは治るお手伝いだけなんですから。
[包帯を巻き終わった傷口を軽く叩いた。
当然相手は小さな悲鳴を上げる]
それだけ元気があれば十分ですね。
「だってよ、最近どうも当たりが悪いんだ。
俺らじゃそう狭い場所には入れねえしなあ」
奥ですか?良い石はあるかもしれませんが、支えを確保出来ていない場所では何が起こるかも分からないでしょう。
「そりゃそうなんだが。金も必要だし」
…あそこに通うのを控えればいいだけでしょうに。
[苦笑しながら道具を片付けた。
鉱夫の仕事は肉体的にも精神的にも辛いものだ。
その気持ちを理解できないわけではないが]
いずれにせよ。
自分から危険に向かっていくようなことはしないで下さい。
診療拒否しますよ?
[鉱夫は慌てて首を振った。
それには柔らかい笑みで頷きを返す]
ああ。奥に入れそうというのはティルですか?
あの子も無理をする方ですから気をつけていてあげて下さいね。
「おうよ」
[家へと戻る鉱夫を見送り扉を閉めた]
[奥へと戻れば食事に行く前に開きかけた本があった。
妊産婦の症状について書かれたその本を手に取る]
ふむ…。
[知識の確認をするようにゆっくりとページを捲る。
紙の音は灯りが頼りなく揺れるまで続いていた]
─自宅・私室─
[音を連ね、紡ぎ。
手を止めては譜面の上にペンを走らせ。
もう一度奏でてはまた手を止め、違う譜面に目を向ける。
他者が声をかけても、容易くは破れる事のない集中。
しかし、それでも]
……あー……あと、もう少しなんだが。
[ため息混じりの呟きと共に、手が止まる。
まとまらないわけではない、けれど。
どこかまとまりのつかない感覚。
それを持て余しつつ、鍵盤に蓋をして譜面を片付けると、また手帳をポケットに突っ込んで部屋を出た]
……ちょっと、散歩してくる。
そんなに遅くはならないから。
[行く先を問うユーディットに軽くこう言って、例によって例の如く、当てのない散策へと]
[いつもより中身が少ないバケツを抱えて、坑道から出てくる。少ないがこれで何とか今日の生活費は確保できただろう。
外に出てみれば、少し周囲が騒々しい]
ん?誰か怪我でもしたの?
[近くの鉱夫を捕まえて聞いてみる。聞いてみれば軽い怪我ですんだようで、すでに医院へと向かったらしいと聞いた]
オト先生のとこかぁ。怒られてくるんだぜ、きっと。
[軽く笑いながら話していれば、複数人が集まり話の輪ができる。
鉱夫の中ではもちろん最年少のティルだが、人懐っこい性格もあり、会話で浮いているようなことはなく。人の話をききつつ、時には茶々をいれつつ、話の輪に加わっている]
「おいおい、また惚気話はじめちゃったよ」
「美人の奥さんうらやましーぜ」
「ひゅーひゅー」
[一人の鉱夫が、気がつけばまた新妻の話を始め、それを周りが茶化している。
そんな会話になりはじめたころ、鉱夫の親分が会話に顔を覗かせ]
「お前ら何時まで話しこんでるんだ」
[そんな声とともに、話の輪が崩れていく]
兄ちゃんも怪我には気をつけなよ。ノーラ姉ちゃん泣かしちゃ駄目だよ。
[笑いながらからかいの茶化しを入れ、その場を立ち去った]
―現在―
はい、それではお大事に。
[熱を出してしまった子供を往診し終わり。
ぼんやりと歩いたら診療所の前を行き過ぎてしまっていた]
……おや。
[立ち止まり、軽く首を振る。
この先には工房と鉱山くらいしかない]
[バケツを持って、今日の給金をもらいに行く]
うー。やっぱりいつもより少ねえなあ。しょーがないか。
[いつもより少ない小銭を手に、鉱山を降りていく。腹も減ったことだし、酒場へと行こうかと歩いていたら、先ほど話題になってた人の姿]
あ。オト先生ー。こんにちはー。
[軽く手を振って、近づいていく]
-昨夜-
[ユリアンと分かれてから、娼館の女将にもう一度服を脱ぐよう言われ、晒し素直に背を向けた。深く残る傷痕には布を当て、浅いそれには傷薬を塗られる。改めて治療を受けながら聞くのは女将の呟き。内容は、あまりユリアンと親しくするなといったようなものだった。]
…どうしてですか?
[見上げる目には困惑が。
女将がユリアンを快く思っていないのは薄々気づいていたが、その理由がよくわからず尋ねた。]
「一人の娼婦に入れ込みすぎると、ロクな事にならないからさ。」
[溜息と共に告げられた理由は、自分には理解できぬもので。
だったら今日の人はどうなんだろうとか思っていたら、「狒々爺とあの子は違うよ」と先に言われた。
ユリアンが駄目で老人が良い理由などさっぱり分からず。
困惑の色を湛えたまま、自分の部屋へ戻りますと軽く頭を下げて女将の傍を離れた。決して頷きはせずに。
後ろで女将が小さく息を吐いた。]
女将さん。
[階段を登る前に立ち止まり、振り返る]
私のしてる事は、いけないことなの?
[素朴な、そして常に胸の中にあるそれを口にすると、女将は緩く、だがはっきりと首を振った。
その答えに微笑んで、今度こそ自室へと下がってゆく。
女将の深い溜息は、自分が部屋へと入ってから為されたため聞こえなかった。]
[部屋に戻るとベットには座らず、傍にある小さな椅子に腰掛け、机の上の袋をなぞった。
この位置からは窓の外が良く見えて。今日も星が綺麗だと思いながら、いつものようにぼんやりとしていた。
ふと、ミリィが言った事、女将の言った事を思い出す。
娼婦という仕事。老人ならよくて、ユリアンが駄目な理由。
そして、幸せの事。
女将はこの仕事は悪い事ではないと言った。だが村の人から感じる、好意的でない視線は何なのだろう。
ユリアンが駄目で老人が良い理由は何なのだろう。
「緑色の空を見た人は幸せになれる」という。ならば今の自分は。]
…幸せ。
[今が?]
…幸せ、なのかな。
[それすらもよくわからなかった。
幼い頃から強制されたような人生しか生きてこれなかった自分には、他の生き方が分からない。
例えばミリィの人生と自分のものを比べる事は出来るが、そもそもミリィには家族がいる。自分にはとっくに失われたものが。
無いものを欲しがった所で仕方なく。
仕方ないと諦めているから、現状のままで。
諦める事と受け入れる事に慣れてしまって。
時折、自分の立って居る場所が分からなくなる。]
[漠然とした不安を覚え。テーブルに置いておいた袋をあけ、中にあった親指ほどの丸い何かをそっと舌に乗せた。]
ん…。
[口に含み、目を閉じる。
暫くころころと飴のように転がした後、ぺろりと舌から取り出して汲み置きの水で洗い、再び袋の中にしまった。
そうすればどこか安心したような顔をして、ゆっくりと眠りに落ちていった。]
[オトフリートの柔和な笑顔を見れば、つられて微笑んでしまう]
ん?俺は元気だよ。ぴんぴんしてる。
今んとこ、先生のお世話になるようなことはしてないって。
[腕をぶんぶんと振り回して、おどけるように言う。
危険な仕事をしているからこそ、心配をかけないように]
そういえば、今日誰かが先生のお世話になったみたいだね。
俺も気をつけないと。
─広場─
[宛のない散策は、やがて、広場へとたどり着く。
昨夜とは打って変わって静かなその場に何となくほっとしつつ。
ふと、見やるのは教会の建物]
……ああ。
そろそろ、時期か……。
[自身の帰郷の切欠となった、父の命日。
それが近いな、と今更のように思い出していた]
お元気そうでなによりです。
ええ、鉱夫の方々はどうも無理される事が多いようで。
[怪我人の話には頷き]
昨夜の方ですか。腕の傷は浅くありませんでしたが、あれなら動かなくなるほどではないでしょう。
新しい鉱脈を探るつもりで無理をなさったのだとか。
医者の立場から言わせてもらえば、安全第一でお願いします、なのですけれどね。
[そうもいかないようで、と苦笑を浮かべる]
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