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―娼館→外―
[朝一で用意された果実汁と薬を飲み、娼館の掃除や各部屋への水の汲み置きなどを始める。
傷を負った身とはいえ、館の中で一番下位にあたる自分の仕事は多かった。
あれこれと働いていると日はすぐ夕暮れ時となり。]
女将さん、夕飯食べてきます。
[そう断りを入れて、宿の方へと向かっていった。]
[かたり。
手にしていた工具が机に置かれる音が鳴る。
集中したお蔭でやるべき研磨は全て終わらせることが出来た]
……疲れた……。
[呟きながら椅子の背凭れに力なく寄りかかる。
酷使した目を閉じ、指で目頭を揉んだ]
……親方、後は終わりだよな?
じゃ飯貰ってくる。
[技師に声をかけてから、日課である晩飯の調達のために立ち上がり、代金を手に工房を出る。
疲れを取るようにぷらぷらと振られた手の指には軽くテーピングが成されていた]
─工房→宿屋方面─
よかったー。それほどひどい怪我でもなかったんだ。
[十分酷い気もするが、動けば大丈夫という認識のようだ]
…確かに、今鉱山の石も結構少なくなってるからなぁ。俺もこの身体生かして細い所の石見つけてるからなんとかなってるけど。
安全第一っていうけど、石みつけないとおまんま食えねえし。怪我しない程度に無理しないとやっていけないんだよね。
[苦笑を浮かべるオトフリートに]
あ。俺は無茶しないように気をつけるよ、うん。
[言いつくろうように、あわてて言葉を付け加える]
[ごそりとポケットに手を入れる。
引き出されたのは先程チェーンを括りつけた小瓶。
水で満たされたそれの中で、ホワイト・オパールがゆっくりと転がった]
…………。
[珍しく口端が僅かに吊り上がる。
穏やかな表情にも見えるそれは、小瓶をポケットに戻すと同時に消えてしまうのだが]
― 広場に続く道の一つ ―
[漂うような歩き方で沿道を進む女性。前から来る村人は彼女を遠回りに避けるようすれ違っていく]
「あ、ブリジットのおねーちゃんだ」
[途中小さな女児がそう言って指差したが、手を繋いでいた母親らしき人物に引かれ、すぐにどこかへと去っていった。女性自身は考え事をしている様子で、その声に反応する事もなくただ広場へ向かい]
[さくさくと宿の方へと向かうと、広場のあたりでエーリッヒを見かけ小さく会釈した。]
こんばんは。
[言いながら視線の先を見ると、教会で。
そういえば、この時期に誰か亡くなったんだっけかと、朧気に思い出していた。]
ま、何れにせよ、間に合いそうにはないな……。
[小さな呟きは、僅かな自嘲を帯びて。
陰りを帯びた目は数瞬閉じられ、開いた時にはいつもと変わらぬ緑がそこに]
っと。
[直後に声をかけられ、はっとしたようにそちらを振り返る]
ああ、こんばんは。
これから、食事かい?
[聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな――
蓋の閉められたオルガンの傍に佇む修道女の紡ぐ歌を、アーベルは机に頬杖を突いて眼を閉じたままに聴く。白い毛並みの猫の姿は椅子の上で身体を丸めている。
ミサに出席することも稀にはあれど、自ら祈りを捧げることはなかった。そんな青年を、馴染みの修道女はどう思っているかはわからないが、請われれば歌う事を拒否はしなかった。
やがて旋律は途切れて、ゆるりと目蓋を持ち上げ青の瞳を覗かせる。
伴奏がないのが残念だと言う彼女に、演奏は専門外だと笑ってみせた]
さて、あまりお邪魔してると拙いかな。
[立ち上がると同時、眠っていたように見えた白猫も身を起こす]
まったく君達は。
[鉱夫たちの判断基準に苦笑は深まる]
そうですね、生活が掛かっている以上はあまり強くも言えません。
鉱山のことに関しては素人でしかありませんし。
…君は特に気をつけてくださいね。細い場所に潜るのが危険だろうということくらいは見当つきますよ。
[重ねて釘を刺す]
こちらに向かっていたということは、上がってきたところですね。
私も鞄を片付けたら酒場に行きましょうか。
体力を回復してもらえるよう、一品位は奢りますよ。
[往診の時に持ち歩く鞄を示して言った]
[小さな呟きは耳に聞こえたが、何に間に合わないのかは知れずそのままに。]
はい。エーリッヒさんもですか?
[ユーディットが家で首を長くして待っている等の経緯はよく知らないので、単純にここに居るから夕飯だろうかと思ってそう尋ね返す。
ふと教会の方から歌が聞こえて、そちらにも少し気を取られたが止んでしまった。]
いや、俺は、散歩の途中。
ここから先の、行く先は未定、かな?
[零した呟きとそれに伴っていた陰りなど、微塵も感じさせぬ様子でにこりと笑いつつ、返す言葉は冗談交じり]
どっちにしろ、少し休憩しようか、とは思っていたけどね。
[歩む速度はゆるりとしたもの。
途中何度か大きな欠伸をした]
……眠ぃ……。
半徹夜だったしな…。
[注意力散漫な様子でふらりと広場に足を踏み入れる。
周りを気にすることなく広場を突っ切り、真っ直ぐ宿屋へと向かった]
――共和!
[やがて広場の入り口に着くと、そう一度叫んだが。ふう、と小さく溜息を吐いて噴水の方へ歩いていき、その縁に腰掛ける。紐を解いてばらけた荷物を横に重ね、ノートとペンを手に取ると、ノートを開き何やらがりがりと書き始めて]
[修道女に別れを告げ、静寂を取り戻した教会を後にする。
夜の帳も下り始める頃、空は刻一刻と色を変え、闇に沈んでゆく]
おや。
珍しい取り合わせ。
[程近い場所にあったイレーネとエーリッヒの姿に零れたのは、そんな呟き。それは酒場で顔を合わすことはあれど、対話している姿は、という意味で]
< アーベルに代わり、白猫が挨拶の鳴き声をあげる >
中:
>ユリアン
こっちも恥ずかしいよ!独り言で書くかどうか迷ったんだ!
でもあえてメモにのこしてみた。
一緒に恥ずかしくなればいいんだとおもtt(ちょ
や、折角だから伝えとこうというのもあったり。
まあ、俺達が、オト先生の治療に何も言えないのと同じようなことかなあ。
[そして、釘を刺されれば]
う…うん。細い場所よく行くし。確かに…気をつけます…
[オトフリートに注意をされれば、どうしてもおとなしく聞いてしまう。人間、どうしても頭が上がらない人もいるものだ。
少し小さくなっていれば、酒場に行こうという提案に話題をそらすように、元気な声で]
うん。今日はもう上がってきたんだ。
やった、先生おごってくれるんだ、ありがとうございますっ!
早く行きましょうよー。
[うれしそうに言えば、オトフリートの先導をするように歩き始めようとする]
[唐突に響いた声に何事か、とそちらを見やるものの。
そこに、ブリジットの姿を認めれば、いつもの事か、と結論付ける。
続いて聞こえた、猫の声。
振り返れば、白猫と青年と]
おや、こちらもこんばんは。
[挨拶は自然、白猫へと向いたかも知れない]
風の向くまま気の向くまま、ですか。
[冗談交じりの声には、思わずこちらも小さく笑む。]
歩きながらお仕事、大変そうですね。
あ、ならやっぱり、宿の方ですか。
[そう言って視線を外したときに。]
あ…ユリアン。
[真っ直ぐ宿へ向かおうとする人に声をかけた。
一瞬、女将の言葉が思い出され躊躇うが、胸の奥にしまって。]
[エーリッヒを送り出して、今日も1日家の仕事を片付ける。
毎日やることなのだから1日ぐらい手を抜いても良いだろうに、ユーディット自身にはそういう気は微塵もない。仕事をしている、というより、させて貰っている、という意識が強いのか。]
あっついなぁ……。
[ベッドシーツを庭で干しながら、目を細めて太陽を見上げる。
夏の陽射しはきらきらと魅力的、且つ洗濯物を素早く乾かしてくれるので大変助かるものではあるけれど。]
[何気なく、喉に手をあてる。そこに乾きを覚えて。]
……雨のほうが、やっぱり好きだな。
[ぽつりと独りごちた。その顔に浮かぶのは微かな翳り。
しかしそれは一瞬で掻き消え。]
あっ、そうだ、お買い物行かないと!
[ぽんと手を打ち鳴らして、干したシーツを改めてぴんと張って整えた後、洗濯籠を持って家の中へ。
数分後には、机に(一応)エーリッヒ宛に「買い物に行って参ります」とメモを残し、戸締りをして出かけるユーディットの姿があった。]
[ブリジットの叫びに、少しだけ肩を竦めそちらを見る。が、何か主張する前に別のことを始めたので不安を覚えただけで終わり。
代わりにかかってきた声の主に小さく頭を下げた。]
アーベルさん、こんばんは。
あ、カインも。
[よくアーベルの傍にいる白猫に近づき、屈みこんで頭をそっと撫でた。]
疲れが残っていては怪我しやすくなりますからね。
[元気良く歩き始める姿に苦笑ではなく笑った。
大人に混じり生き抜いていこうとする少年の強さには感心する。
だから気になるのかもしれない]
はいはい、一足先にどうぞ。
この鞄を置いたらすぐに行きますから。
[診療所までは先導されるままに後ろを歩く]
今から御祈りにでも?
……と言う程、信心深そうには見えないけど。
[向く先が異なる故か、単にそういう性格か。
夜の挨拶を返す事はなく、投げる問いと次いだ台詞は、他人の事は言えないであろう内容]
そこまで、突き抜けてはいないけどね。
[イレーネの言葉に返すのは苦笑。
村を最初に出た時は、そんな生き方に憧れもしたのだけれど]
正確には、歩きながらするものじゃないんだが、ピアノの前に根を張ってても思うようにはいかないもんだから。
[軽く、肩を竦めつつ。
宿の方に、という言葉は、そうなるかな、と否定しなかった]
[叫ばれた一言は聞こえていたとしても反応することは無く。
内心、またか、などと思っている。
無視を決め込んだ時、聞き慣れた声が耳に入った]
……イレーネ。
[ゆっくりとした動作で振り返る。
その雰囲気はだるそうな、眠そうな、どこかぼーっとした感じに見えたかもしれない。
振り返った先に他の者の姿を見止めると、会釈ではなく、かく、と首だけで頭を下げた]
いや、そういう訳じゃないけれど。
そろそろ、命日が近いな、と思い出しててね。
[挨拶抜きの問いを気にした様子もなく、さらりと返し]
……信心に関しては、大きなお世話ですよ、と。
[それに関しては、自覚らしきものもあるらしい]
わぁい。美味しい飯が食えれば、結構疲れも吹っ飛ぶしー。
オト先生にもこうやって心配してもらえるんだし、俺も気をつけまーす。
[オトフリートの笑顔が見えて、心からうれしくなった。
そして、オトフリートの前をうれしそうに歩く。時々後ろを見ては、他愛のない話を振ってみて。
何事もなければ、程なくして診療所の前までたどり着くだろう]
[アーベルに緩く首を振る。]
私は、教会には行かないですから。
[正確には、教会には行くなと女将に命じられているからで。それは教会に来ないで欲しいという村側の意向があったからだったが(神父や修道女の意志はそこに加わってはいないようだが、与り知る所ではなく)]
何だか、ミリィみたい。
ミリィもずっと座りっぱなしじゃ筆が進まないって。
[エーリッヒに、幼馴染の言っていたことを反芻しながら。]
自分の内側で物を作ろうとする人は皆、大変なんですね。
[彼女にとって、芸術家と称される人はそう見えているらしい。]
……う〜い。
肩こったあ〜……。
[青い顔で、肩をごきごきと鳴らし、がに股の大きな歩調で、ミリィが気分転換に道を歩いている。
乙女のカケラも無い仕草だ]
……やっぱ、あれだね。
何事も根つめすぎるのは良くないね。うむうむ。
あぁ、……成る程。
[誰の者かは知らない筈もなく、僅かな間、逸らした眼差しは過去を思い起こすように遠くを見た。
視線を戻したときには、いつもの薄い笑みに戻り]
まあ、いいんじゃない。
見えもしないものを信じるという方が難しいし。
……信心深いエーリ兄、っていうのも。
[終わりまで言わずとも解るだろう、と言いたげな切り方をして、緑眼をまじまじと見つめた]
[青果店やら精肉屋やら、もはや顔馴染みになった商店を巡り、挨拶を交わしてにこやかにお喋りに興じ(「エーリッヒの旦那は最近どうだい?」「相変わらずですよ、でも少し上手くいってるみたいです」「あんたも大変だねえ」「いえ、私は全然お手伝いできてませんし」)(いつも通りの日常風景)(和やかなひととき)、気付けば夕暮れが迫っていた。]
今日はお夕飯どうするのかな……。
[一通り買ったものを確認しながら道を歩き。
未だ散策中である主人に思いを馳せる。
だが結局、要らないだろうと判断しても、彼の分まで作るのは無意識の決定事項。]
[小さくのどを鳴らすカインに微笑んで、抱き上げようかと手を伸ばしかけたが。]
ユリ
[カインを撫でていた手を止め、疲れが見えているユリアンに慌てて心配そうに近づいた。]
…大丈夫?お仕事、大変だった?
[そう下から見上げた。]
実際、ただ、ピアノや譜面に向かっていても、求めるものは見えてこないからね。
ん……ミリィもか。
作るものは違えど、あちらもやっぱり似たようなものだろうな。
すぐに「目に見える」という点で、俺とはまた違うんだろうけれど。
[目で見るか、耳で聴くかの違いを思いつつこう言って]
んー……内側だけで作ると、結局は自己満足だから。
そこから、踏み出す必要はあるけれど。
確かに、大変、かな?
……。
[ふと、空を見上げる。
夕暮れの赤い光が、ミリィの紅玉色の瞳をさらに赤くする]
……赤い、な。
もう少しすれば、黒。
緑になるには、夕暮れが終わる一瞬。
それから、なんか色々な要因があるって話だったっけか。
青、赤、黒、緑。
他には何色になるだろ?
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