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―礼拝堂―
[伸びてくる手を避けようともしていなかったが、その手の触れるか否かのところで、左の手が伸びた。]
ほんとうの望みだ。
変わらぬままに、かの女の生が、しあわせにあることだけ。
[手をかけ、力をいれ、その腕から離れる。]
君にはどうやらお気に召さなかったようだね
うん。
[コエは、すぐに返す。
戻ってきた花と蔦には、場に似合わぬ柔らかな笑みが浮かぼうか]
君があんまりにも僕の力を使うと、風だって君に望まれるままに振舞おうとはしまいよ。
だから、しばらくこの子たちは返してもらうね。
[嘘をつくのは、得意なのだ。]
─Kirschbaum・庭─
[影輝の精霊と天聖を宿す少女、二人の様子を見つめつつ、考え事をしていたが。
不意に、新たに加えられた氷破の気配。
それから、疾風の少年が呟く、ここにはいない翠樹の魔の名に、ふと、思考から抜け出す。
直後に感じた羽音に、左腕を天へと差し延べ。
舞い降りる白き梟、その表情はやや、険しくもあり]
……どうした、ヴィンター?
……マジでなんかいそう。巨大モンスターとか。
[笑えない冗談を呟きつつ。
奥に続く細い道を見つけ、慎重に進んでいく。]
こういう場所は、トラップがあるんだよなあ。
[小部屋状の部屋へ入る前に、懐からペーパーナイフを取り出し。
入口に当たる場所をつつく。]
……よし。問題ない。
[トラップが仕掛けられていない事を確認し、一歩踏み出す。]
[触れた場所からはほんの少し、ブリジットに近しいものの存在――天聖に属する精霊の力が感じ取れたことでしょうか。けれどもそれは人間と混じり合い、融け込んでしまっていて、ほとんどわからないほどにわずかなものという工合でした。]
ブリジット、どうかしたの?
[真っ直ぐに見たままに、ベアトリーチェは訊ねます。]
まるで、精霊みたい。
[触れた指から伝わってくる天聖の気配。
人間の持つそれではなく、自分達のそれに近い力。
けれどそれはすぐに人間の気に溶け込んでしまって]
……ううん、なんでもない。
きっと気のせい。
[手を離すと小さく首を振って笑った]
いきなり、ごめんね?
[引きちぎったネックレス、小瓶。
それに何か、どこか、かなしげな目を向けるも、それは一瞬。
投げたなら、それは三ツ花が受け止める。
そんなに大きくはないはずの三ツ花は、受け止めて、どこかに姿を消す]
―礼拝堂―
わかっているよ
[戻った蔦を身体に感じる]
わかっているとも。ながくを生きているのだから。
今ですら僕たちは変わり続けている。
それでもかの女が望む世界を、見せてやりたいと僕は思うのだよ。
僕がそこに居なくても、かの女が幸せに生きるこの世界を。
だからそれまでは、絶対に
鍵をあけるなどは赦さない。
[何かしら気の乱れらしきものを感じて来たらしく、やや落ち着かない相棒をなだめつつ]
……取りあえず、そろそろ冷えて来ましたし。
中に、入りませんか?
[少女たちに向けて、そう声をかける]
おーい、誰かいないのかー?
[もう一度、呼びかけてみる。]
【赤ちゃんの泣く、声】と【雨の降る音】……。
一体誰なんだか。
[大ボケ全開。]
―Kirschbaum―
[...はミハエルの問いかけに意識を店内に戻す]
いや、なんでもない。
ところで、ティル見なかった?
[いつもとは違う厳しい声色]
[三ツ花消えた どこに消えた
この教会の 外に消えた
ゆらゆら、ゆらり 漂うように
ふわり、舞いおつ、花の中。
ふわり 舞い落つ ふるきの樹]
[ゆっくりとまたたいて、ベアトリーチェは微笑います。]
そうだよ。
[あまりにもあっさりとした肯定は、届いたでしょうか。]
ううん、気にすることないよ。
そうだね、オトフリート。入ろうか。
[ぱっとブリジットから離れると、店内に戻ろうとします。]
えっ、あ、はい。
[桜の根元で休んでいるアマンダをどうしようかなと一瞬考えて。
今の彼女なら大丈夫だろうと思い直す]
あっ!
[ようやく窓の向こうにミハエルの姿を認め。
思わず両手を後ろに隠した。もう治っているのに]
[さらりとされた肯定に、異眸は一瞬、険しさを帯びたか。
しかし、それはすぐに溶け]
……大丈夫ですよ。
[両手を後ろ手に隠すブリジットにくす、と笑んでから、店内へ]
─…→店内─
ー礼拝堂ー
そのためにお前が朽ちて、そうして変わらずある世界を、喜ぶ者があると思うか?
ああ、そうか、それは、ただ、お前だけの望みなのだな。
お前は魔の苗床。
真に望むは、己の幸福、ただそれだけ。
[気配に気づかれていたかと思うも、
それを悟らせぬように微笑み]
うん、そうだよ。
ああ、ひとりというか。
あの子たちと一緒。
[...は食い違う話に軽く混乱しつつも、
ミハエルの肩をがしっとつかみ怒鳴った]
広場?……森とかじゃなくて?
ていうか、誰かティルがどこにいるか知ってる人はいない?
[店内に入ってくる人に聞く表情は強張る]
―礼拝堂―
そうだよ、今更何を言っているの
[口元の微笑みは、どこかどこか、まがまがしさを。]
僕は魔族だ。
忘れていたのかい? クレメンス。
他よりも自分の思うとおりに生きるよ
─Kirschbaum・店内─
[入るなり、投げかけられたユリアンの問いに、一つ瞬いて]
……どうしたんだ?
ティルが、どうかしたのか?
[強張るユリアンの表情に、ふと、何か。
嫌な予感めいたものが過ぎる]
広場と言った。お前の耳は何処へついている。
見にゆけば良いだろう。私が広場を通ったのはそれほど前のことではない。それよりお前たちは繋がっているのでは無かったのか。ならば問え。
[ユリアンの剣幕に、目を戻し眉根を寄せて
肩を掴まれた手を、強く払う]
そう、ですね。
[誤魔化し笑いを浮かべながら店内へと入ってゆき]
え、ティルならさっき出かけていったよ?
[強張った表情を浮かべたユリアンに答えた]
[常と変わらず微笑んで、祭壇の前で両手を広げる姿は、その背後に架かる宗教画の移し絵にも見えただろうか]
では、望みのままに。哀れな苗床よ。
[グラスを受け取ろうと手を延ばすと、ユリアンの声が聞えてきました。]
ティル?
[ほんの少しの間、探るように眼を閉じます。以前には感じられなかった、力の流れがなんとなく、伝わって来るのでした。それにその力が“ある”のは、彼女にとても近しい場所でしたから。]
……ああ、教会。
[小さく声をこぼします。]
望みのまま?
[見据える瞳の奥でまたピシリ、小さく響く音がする]
僕が哀れという君を、
僕は哀れと思うのだよ。
[左の腕を口に近づけ、ぐいと引き抜く茎の棒]
教会……広場。
[上げられる場所。
そこには何があり、誰がいる?
そして、その者は。
今、消息を求められている翠樹の魔は、確か]
……あいつ、まさかっ!?
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