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[ ネリーが扉を開くのに礼を云い、広間の中に入ればソファの上に男を寝かせる。降ろす瞬間に聞えたのは吐息か声か。然し其れは薪の爆ぜる音に掻き消された。]
毛布を掛けておいたほうがいいかな。
―書庫―
[細身の銀縁の眼鏡をかけて、本棚の前で書物に目を通している。]
…秘密。
[挿し絵には、薔薇の咲き乱れる茂み。]
[青年が中に入るのを見届けて自らも中に入り、扉を閉めた。まずはテーブルへと歩み、中央の花瓶へと花を活ける]
ああ、そうですね。
お持ち致しましょう。
[丁度背後で聞こえた声に反応を返して、もう一度廊下へと出る直前に男性を見ると、如何やら目を覚ましたようだった]
御願いします。
[ 立ち去ろうとするネリーに微笑を向けるも、届いた男の声に目を戻す。]
……ああ、起きていらっしゃいましたか。
此処ですか? アーヴァインという方の所有する館の、広間です。
[ 其の視線は柔らかい。]
…何処まで知っているのやら。
あの方も真意の読めぬ方だ。
[ぽつりとひとりごちて捲るページは、薬草の章へと。]
……はい?
[ 唐突な言葉に瞬いて僅かに首を傾げる。
然し広間の扉が再び開けば其方に気を取られ、召使の女が湯気の立つカップと軽食を卓上に並べて直ぐさま去っていくのを、感謝の言葉と共に見送った。如何やら、晩餐会の準備に忙しいようだった。]
飲めますか?
[ 手に取ったカップには、上品な香りのする菩提樹の花のハーブティー。其の匂いは遠い記憶を呼び起こすかのように思われた。]
[暫くして毛布を抱え、再び広間へと現れる。
――とほぼ同時、厨房から彼女を呼ぶ声]
はい、今すぐ!
[声を投げると、青年に毛布を任せて頭を下げ、厨房へと姿を消す。
男性が青年に何か呼び掛けているようだったが、それに耳を傾ける間も*なかった*]
そうですか。
[ 口許を笑みに象り男の指に温かなカップを触れさせる。]
どうぞ。……温まりますよ。
[ 受け取れるようならば手を離そうと。]
[気がつけば足は庭園へと向かうも、この雨の中、傘はみあたらず。
温室の窓に頬を寄せて、微かに歌う。]
If whose voice is not carried to you, either I erase everything.
It is sad to have repeated wrong Onage and trembles.
[指にカップが触れ][温かな温度]
[其れに気付き、もっと温まろうと]
[両の手を這わせる]
[が、]
[震える手はそれを受け取り切れず]
[揺れて]
[中の茶の幾らかを零してしまう。]
とっ、
[ 完全には手を離していなかったが為に器ごと落ちる事は無けれども、零れた滴は青年の手を濡らし床に落つる。其の熱さに、声をあげはせずとも息を呑み片眉を寄せた。]
[失望の色]
[或いは困惑の][嘆きの]
[重要な失敗をしでかしてしまった子供の様な]
[乱れた夜着][包帯の覗くそれに]
[広がる染み]
[濡れて]
―客間―
[目覚めはいつも通り、しかしどことなく穏やかなのは昨夜交わした会話のせいか。
自分に向けられた言葉を思い出し、苦笑]
…あんな事言われたのって、いつくらい振りだ?
[基本的に人当たりは良いほうで。
それは関係を潤滑にする為の手段と割り切っていたから、自分が優しいとは思えずに。
それに惹かれて来る物も居たけれど、此方に深入りする気は無く、故に…冷たいと言われる事には慣れているのだけれど]
でもきっと、そのうち……だろうな。
[いつか立ち去る身、きっと今回も深入りはしないだろう、と。
だけど、ローズの微笑みに混じるわずかな影はなぜか胸に残って]
…旅人に好かれても、迷惑だろう?
[自問自答]
[ 戻って来たネリーから毛布を受け取りはしたものの、男の夜着にも染みが広がったのを見れば替えをと頼む。侍女に呼ばれた彼女は若干慌してながらも、其れに頷き再び去っていった。]
……取り敢えず脱いだ方が好いですかね。
[ 濡れた自らの指を舐めれば仄かな甘み。呟く様に云ってから男を見遣れば覗く白の包帯に目を細めた。]
[いつまでも眠っても居られない、と身支度を整え、部屋を出る。
ホールで忙しそうな使用人の女性と行き合う。
また何かあったのか、と問えば、返る言葉は意外なもの]
晩餐会…?
また随分と酔狂な…いや、旨いもんが食えるんなら歓迎だけど。
きっと足止めを食ってる連中への気遣いもあるんだろうしね。
[楽しみにしてる、と付け加えて広間に向かおうと。
すると今度は向こうから声が掛かる]
…え?あの人が起きて来たって?それで…?
[ハーヴェイとネリーが運んでいったと聞いて、一瞬大丈夫だったかと心配にはなったけれど]
あぁ、そうなんだ。
じゃ、今は広間に?わかった。
[目覚めた、というのなら少しは話が聞けるだろうか?と思いながら広間へと向かう]
―→広間―
あの方、ですか?
[彼の行き倒れの方かと問い。]
…打ちつけたとか擦りむいたようには見えませんでしたが。
夜盗にでも襲われたのでしょうかね?
―広間―
[広間に入れば、件の男性とハーヴェイが向き合うのが見えて、できるだけ怪我人を刺激しないようにと声を掛ける]
よう、気が付いたんだな?
[よく見れば男の着衣は濡れていて、そこにあるカップを見て状況を把握する。
そしてハーヴェイに事の次第を訊ねようと]
何か話したかい?この人…
[その場の様子に相変わらず、とは思ったものの問いかけ、少し赤いその手を見る]
火傷…?
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