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[ローズの言葉に苦笑して軽く首を振って]
君にそんな酷い事はできないよ。
君を望んでも…望んでいれば尚更傷付けたくはないから。
俺は優しくない…臆病なだけだよ。
…嫌われたくないだけなんだ、君に。
―一階・廊下―
[部屋の前で服の皺を軽く整え、広間への道を歩む。大分人が集まっているのが遠目に伺え――というより、何故か広間の扉の前に、のようだったが。
階上から微かに声が聞こえた気がして、そういえばあの緑の髪の少年は大丈夫なのだろうかなどと思い、見上げた]
-回想/広間〜ヘンリエッタ私室-
[赤に捕われた少女の耳に、他者の言葉は届いていたのだろうか。
ただぼんやりと、目の前で交わされる言葉を、感情を見ていた。
昨夜から一時に色々なことがあり過ぎて、何を受け入れ何を拒否すれば良いのか分からない。
全てを受け入れるには、少女の心は幼過ぎた。混乱したまま、自分の部屋に戻り寝台に身を投げ出す。
眠りだけがただ、ここから逃げ出す手段であったから。]
なんでもないって……。
[とてもそうは見えないのだけれど。
しかし、追求を遮るようなルーサーの笑顔に、う、と言葉につまり]
よくわかんないけど……入らない方がいい、ってコト、なんだね。
[それでも何となく、察しはついているから。
こう呟くに止めておく]
[圧力さえ感じる笑顔には、子供でよかったと思いながら]
あら、神父様…
苺も採っていらっしゃったのですね…。
これはジャムか何かに?
[鈴なりの声で問い掛けを――]
[自分の立て続けの問い]
[少年の精一杯の返答に]
[一心に耳を傾けていたが]
たおれ、ていた……
[肌蹴た夜着より覗く][体中に巻かれた包帯]
[幾らか解けたそれに手を遣り]
[考え込む仕草]
[が、][少年の「村」と言う言葉に]
村……?
村…何処、の……
何かあった…?
[懸命に何か思い出そうと]
[ 吊り橋効果。思い出されたのは、其の様な言葉。
人間というのは、危機的状況でも愛欲に溺れられるものらしい。
三大欲求を財、名誉、愛欲と同族が云っていたのは、強ち間違いでも無い様子だ、等と他人事――彼が獣ならば、正に言葉通りか――のように思う。]
[噛み締められるよに呟かれる名に、小さく頷く。
そうして、続けられる問いには、一瞬意味が判らずに、]
しにん…?
[しにん=死人。一拍置いて、ようやく意味が繋がって。]
……っ…!
ぁ……あの、ひとは……アーヴァイン、さん…この館の、主…です。
[すぅと青年に負けぬほど、顔色をなくして。
――それでも答えたのは、何故、だろうか。]
-ヘンリエッタ私室-
[どれくらいの時が立ったのだろうか。
自分の叫びで目が覚めた。首に、肩に全身にまとわり着く汗が気持ち悪い。]
目が覚めても、大して変わらないわね……。
[寝てる間に目に滲んだ涙を手のひらで拭い、濡れた布巾で体の汗を拭う。
夢見は決して良くなかったのに、不思議と心は落ち着きを取り戻していた。
朝からずっと遠かった体の感覚が濡れた布巾の感触と共に戻っていく。]
これが、現実。
[少女は、鏡に映る自身を見て呟いた。]
[ メイの言葉には然う云う事、とやけに神妙な顔付きで頷くも、何時までも此処に居ては躰が冷えてしまうかと腕を組んで眉を顰める。真剣に悩むべき事は他にも在る筈なのだが。
と、ルーサーへと目を遣れば或る意味では夢見る乙女の如き表情。……牧師から神父――異端審問官へと変わっても、根本的な部分は変化していないようだ。]
……其処まで想われれば、苺も幸せでしょうね……。
[ 声に呆れの色が含まれていたのは否めない。]
なに、か……
……………………
!!!!!
[出し抜けに]
[激しい恐怖が][顔を覆い尽くす]
[全身が震え][脂汗が額を伝う]
牧師 ルーサーは、書生 ハーヴェイ を投票先に選びました。
[少女は摘み立ての苺の用途にうっとりするルーサーに苦笑を漏らしながらその姿を見つめて――]
そのまま食べても…加工しても良いのなら、どう食すか更に迷っちゃいますね…
優しいわ。
…わたしにはあなたを嫌うなんて、ないわ。
あなたが居てくれたから、今、こうやって、話していられるんだわ。
…わたしの仕事を知っても、そばにいてくれて。
どうしてわたしが、あなたを嫌う理由なんてあるの?
そんなの、ないわ。
あなたがわたしを嫌うことはあっても。
[最後の言葉は否定されそうだから、
わたしは音が聞こえたのを良いことに、席を立って扉へ向かう。]
どうかしたの?
入ってくればいいのに
……問題は、ここだと寒いってコトくらい、かな。
[神妙な顔つきで頷くハーヴェイの言葉に、一つため息を。
ルーサーの夢見る表情は、気にしない事にした。
言っても始まらない気がしたから]
[青年の、身体に巻かれた包帯に手を遣る仕草や、”村”という言葉への、よく判らなさ気な反応に、微かに心が緩む。]
『あぁ。この人はきっと、村から来たんじゃない。』
えぇと、山のふもとの…ボクの住んでる、小さな村です。
[眉を寄せて記憶を辿ろうとするのを邪魔せぬように、息を潜めて。]
なに、か。あった、む、らで。
おも、いだせ、ない。
こわい、こわい、こわい…………
[自分の身体を抱き締め][真円に眸を見開き]
[鏡に映るのは乱れた赤毛に取り囲まれた不機嫌そうな顔。幼く、不安に怯えた娘。これが、自分だ。
威厳も、勇気もなにもなく、ちっぽけな。
ヘンリエッタは唇を噛み締めると、鏡の中の自分を睨み付けた。
しばらくの後、一つうなずいて無理矢理に笑みを作る。
乱れた髪を結び直そうと、鏡台の上においたはずの櫛を探そうとしたヘンリエッタの目に、何か見慣れないものが映った。]
[嫌う事はない…その言葉がとても嬉しくて。
どう答えようかと考えている間にローズが席を立つのを目で追って。
ドアの外に人の気配を感じて、あ、と思わず頭を掻く]
…良いから入って来いよ。
そんな所じゃ風邪引くぜー?
[照れ隠しからか、少し大きな声で外の面々を呼ぶ]
……まあ、確かに。
[ 同じ事に気付いた様子で溜息を零して云うメイを見遣ると粗同時、扉の内側から聞える女の声。つい視線は揺れて周囲の面々を見回す。]
御気付きになられていたようで。
[ 終わりの言葉はルーサーへと向けたものだが、意識は帰って来ているか否か。]
[全身を震わせるその姿に、手を伸ばして、触れて。支えようと]
「なにかあった」
「むらで」
「こわい」
……むらがっ!?
村がどうしたんですかっ? 何があったんですっ!?
[単語が、形を成して繋がって。
支えようとしたはずの手は、なけなしの力で青年を揺さぶろうと、]
[傍らに駆け寄った少年に]
[一瞬][ぎくり][身体が仰け反ったが]
……だいじょ、ぶ。
こわ、いの、は。
[長い息を吐き][何とか其の侭留まった。]
何だかな。
[ 溜息混じり――“此方”では息等していないのだから、其れも妙な話だが――に呟かれるのは、牧師に向けたのとは叉異なる呆れ聲。]
[最初、ごみかと思った。
乾いて萎びた小さく丸い何か。
ごみ箱に捨てようと手をのばし、その触感に違和感を覚える。
思わずじっと確認すれば、白に縁取られた中心はどこか見覚えのある色で。]
あ………ああああああああ!!
[それが何かを理解した時、手の中の物を放り出すと、少女は悲鳴をあげて部屋を飛び出した。]
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