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[瞳を開けば新緑の欠片、まだ見える。
足もちゃんと地面についている。]
アーベル…――
[連れて行くという声。
その主の姿は消えゆくままに。]
[頬を擽る風に髪を耳にかけて]
風が吹く時…
貴方を思い出すわ。
[黒百合の少女から眼を離せないで。
巻き上がる風に亜麻色は揺れ、いばらの冠が編みあがる。
蒼い風は
金の少女の髪を、
誇り高き者の黄金を、
星を詠む者の黒髪を、
天鵞絨の眸の青年の髪を
寄り添う女性の金色を
石と化した写真家の頬を撫で
行く先を指し示す]
[ ――黒百合の少女は頚を横に振る。
それを確かめた、ブリジットは
ふ、っ と
風に髪を揺らし 花びらが舞い散るように
その場に斃れこむと
白い花を胸元に咲かせて
*眼を閉じた*]
……お前が、何のために作られたのかは、知らんが。
[語りかけながら、端末に触れる。
プログラム的な操作は、石と化した少女の方が得意だろうに、と思いながら]
……とめさせてもらう。
先へ、進むために。
……とまった時間を、進めるために……。
[手を動かしてゆく。
知る限りを駆使しての、強制終了操作。
いくつかの抵抗を抜けて。
要求されたパスワードに、しばし、思い悩み。
打ち込む単語は、思いつきの導いたもの。
『Rosa multiflora』]
『旅立つ者に───清浄なる茨の王《ピューリトゥーイ》の祝福を』
[ひとつ][ふたつ]
[ほんのりと輝いて消えていく][幻想種達]
『失われた片方の翼』
[緩やかになった上昇気流に乗って]
『今は、安息の場所へ飛び立つための───翼であり風』
[───わらって]
『ありがとう』
[風は消える*]
写眞家 アーベルが「時間を進める」を選択しました。
[連れて行く、という声。寂しいと思った]
アーベルさんのこと、忘れない。
カ、インさんのことも。
[足はノーラのほうへ。たどり着くと、その身体を支えた]
[風が示す道筋を見た。]
カインが
アーベルを、
連れて行けるのなら、良い。
[随分と重くなった足は、示された道へと一歩進む。
──吹き抜ける風に、黄金の髪が乱れた。]
[不意にカインを見つめ、口の中でだけ、言った。
アーベルとカインの事も忘れないから、と。
カインが消えればライヒアルトの手を見てにこにこしている。]
[ “ありがとう”
そう聞こえたのは、 きっと
幻聴でも、 まぼろしでも なかった。
いばらは咲く。――咲いて、舞い散る。
身体が重い。
重いけれど、でも。
――薄く開いた霞がかった眼に 滲んだのは涙]
[研究所最深部に眠るのは、接続ケーブルの茨に囚われたひとつの石像。
静かに点滅する計器類は、一つ二つ消灯して、
そして訪れるは永遠の静寂。]
[胸に白い花を咲かせて倒れたブリジットの身体を抱え上げる。
ベアトリーチェとノーラが、寄り添いながら前に進む姿を横目に、随分と遅くなった足取りで、ライヒアルト達が居る方へと──。]
令嬢 ブリジットは、写眞家 アーベル を投票先に選びました。
[打ち込んだのは、野茨を示す、学名。
直後、感じたのは、風の流れ]
……ん。
[いろを失わぬ天鵞絨は、消えゆくものたちを捉える。
じゃあな、と。
小さな呟きを、心の奥に、落とした]
『私が"薬"のせいで死んだから』
[鎮痛薬と渡された薬]
[白い粉末]
[どんどん薬を飲むペースが上がって]
[痩せ細って]
[病気の進行も止まらなくて]
[モデルが出来なくなって]
[廃人と同じになって]
[そんな自分をさらすのが嫌で]
[飛び降りて石になった]
[薬に対する猜疑心の理由]
[横たわる石像]
『助けてあげられなくて───ごめんね』
[そこにある魂にそっと手を伸ばす]
[小さな白い羽]
『でも』
『私を忘れないでいてくれてありがとう』
[再度、向き直るのはモニター。
パスワードは、受け入れられていた。
終了の是非を問う、表示。
選ぶのは──終わりを、ねむりを、導く選択肢。
流れてゆく文字の連なり──それは、やがて、消えて。
銀なるものは。
その動きを、止めた]
……止まった。か。
[空白を経て、零れたのは、小さな呟き]
笑ってるのね。よかった。
よかった、のかな。
[涙がこぼれる。又いなくなってしまったと、思い]
ノーラさん、もう少しで、きっと治るから。
エーリッヒさんも、笑ってるかな。
私も…あんな風に 笑えるかしら。
[かしら?
自問自答。
違う。
そう、前を向いて歩いて
風を感じて走って]
…違うわ。
笑うの。
笑いたいから、…笑うの。
[身体が浮いた感覚があった。
ぼんやりと、眼を開く。呼びかける声があった。]
……―― 、 ―ッ…、…
[頷き返そうとして咳き込み押さえる手のひらに
花びらと棘が落ちた。それがおさまれば、
手を握り締め小さく頷いて]
…… ――大事 ないの よ
[はたり、と 落ちる。
落ちる、落ちる 落ちる涙。
深く俯けば亜麻色の髪に隠れて見えないだろう。
眼を閉じて、流れるに任せる。
声を殺して、
しずかに。
静かに。]
[カインと名乗ったアーベルだったものが、風に運ばれ消えていく。
その顔に浮かぶは笑み。]
…………それが君の選択か。
[『死は解放』……そうカインは確かに言った。
死は安寧……それはきっと彼にとって真実なのだろう。
だがしかし、それを見ていた彼女の表情は晴れない。]
……本当にそれが正解なのかな?
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