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--一階・廊下--
[ユリアン達よりは先に下りたのか、気づかないまま。]
[階下へ降りれば、温かな匂いがしたのでそちらの方へ。]
[一人テーブルで食事をしていたハインリヒの姿を見かけたので、そちらの方へと近づく。]
ハインリヒさん。こんばんは。
……昨日は、ありがとうございました。
[そうしてぺこりと頭を下げた。]
……ん。
[暖炉の火のおかげで、やはり、広間は暖かかった。
ほう、と息を吐く。外にいるときよりはマシだが、手は冷えていた。
人工とは言え、灯りがある分、階段よりは見えやすい。窓辺ならもう少し見えるだろうかと近づこうとして]
間違えるって、なにを。
[背後から聞こえた言葉。疑問を含んだ声を返す]
ああ、ラインの嬢ちゃんおはよ。
兄さんもネ。
[こちらに意識は向けていないが。][赤い世界に確実に居ると分かっている風にも軽く声をかけて。]
[小さな意識がそちらへ走ろうともがいたが。][よしよしと宥めるように抱いて遮った。]
[白の上に着地する。
危なげない動きには、隙らしきものは全くなく。
日々の暮らしで鍛えられ、運動神経は元々発達しているが。
それが、更に鋭さを増しているようにも見えるか]
……ふうっ……。
あーあ……何にもなく、駆け回るなら。
ここら、いい場所なんだがな。
[零れ落ちる呟きは、愚痴めいて。
奇妙に日常的なそれは、やはり異質だろうか。
ふう、と一つ息を吐き、ゆっくりと周囲を見回すと、そう、遠くない所に灯りが見えた。
よくよく見たなら、雪の上にはそちらへと伸びる、足跡も]
……誰か……いる?
[小さく呟いて。そちらへと、歩みを進める。
先行するように、カラスが飛び立った]
……早くない。
[探すものの気配を捉えたからか。
蒼の風は、ぽつり、と呟きを零す。
それでも、そちらへ意識を向けきろうとはしない、けれど]
[止めていた足を再び動かし、広間の方へ]
[ユリアンを追う、というわけでもなく]
さて。
何を、でしょうね。
取り返しの付かないことか、
それとも、他の何かでしょうかね。
[小さく笑って]
[くんと匂いをかいだ]
いいにおいです。
[ユリアン達に気付く前に、ブリジットに声をかけられて、男は振り向いた]
ああ、いや。俺は何もしてねえよ。
[正確には、何も出来なかったのだが]
嬢ちゃん、腹減ってないか?食欲はないかもだが、ちっとでも食えたら食っといたほうがいいぜ。
[後のことは勝手にやってしまうわけにもいかないだろう。
裏口の近くにスコップを立てかけて、もたれ。
熱くなった体をしばし、冷気にあてて冷ますが]
む?
[上から何か落ちてくるような音が聞こえ咄嗟にいつでも木箱から武器を取り出せるように手をつける]
違いねぇデスナ。
[けらけら笑い。][小さな意識は、「じゃぁ、おそよー!」と足をぱたぱたさせながらもヴィントに声をかける。][それを宥めるようにしながら。]
そうそ、こないだのアレの続きデスけど。
鳥さんのワッカ、ヒビ入れたのは猩の旦那デスよ。
[猩が居ないと知って、明るい声はさらりと言った。]
[そしてその場に留まり。][意識はこちらも外の世界を覗く。]
[静寂の中、羽音が響く。
ゆるりと振り返れば小さな鳴声]
…かあくん、だっけ?
[たしかノーラがそう呼んでいた]
どうしたの、こんなところに。
[小さく微笑む。
掲げたランプの向こう、近付いてくる人影にはまだ気付かずに]
[窓際のソファに腰を下ろす。
やはり、雲に阻まれてひかりは遠い。
また、見え方が変わった気がする。視界に残る赤は、炎だろうか、消し切れなかった血痕だろうか。それとも、焼きついて離れない、朱い花の色か]
……よく、わからないですけれど。
目と関係ないことのように、聞こえますよ。
[それは「理解している」答えだった。
けれど、「理解していない」振りをした]
[別の話し声が聞こえて、視線を動かす。
男と少女。その色を認めて、目を伏せた]
[小さき意識の返答に、蒼の風は微かに笑うような気配を零す。
しかし、陽気なコエのコトバに、険しさは増して]
……え?
それじゃ……母さんの守り石が割れたのは……。
[自分の覚醒は。
銀の手による部分も大きかったのかと。
……微かな苛立ちは、容易く届くだろう]
[届いた声は、ブリジットとハインリヒのものか]
[であるならばこの香りは、かれらが作ったのだろう]
そうですね。
関係ないといいことです
[小さく笑う]
気をつけて、ユリアン君。
…さて。
ところで、食事は摂りましたか?
いえ、探しに来てもらいましたし…。
[視線は下を向くも。][首は緩く横を振る。]
ええと…。
[食事の事を問われれば、少し間が空いた。][食欲は確かに無い。]
[ほぼ丸一日経ったのに、自然と湧いてこないそれは、やはり昨日の惨劇の為か。]
[それでも、行為を無駄にしたくなかったのと。][食べなければ、たしかに身はもたない事を頭が理解していた為。]
それじゃ、頂きます。少しだけ…。
[言って、気配の感じた方を振り返る。][ソファにユリアンの姿を見止めて、こんばんはと小さく声をかけた。]
[彼の視力云々は、まだ気づいていない。]
[かあくん、という呼びかけに、カラスはクァ? と鳴いて首を傾げ。
違うよ、といわんばかりにカァ、と鳴く]
……というか、かあくん、とか一体なに……。
[一方の相棒も声を聞きつけて。
呆れた口調でこんな呟きを漏らす]
……何してんの、こんなとこで、一人で?
[光の環と薄闇の境界で歩みを止めて。
静かな口調で、問いかける]
言っていることが、滅茶苦茶だと。
[右足をソファの上に引き上げて、組んだ手を、膝の辺りに軽く引くように添える。届かないひかりを見る代わりに、その上に顎を乗せて、炎へと向いた]
……まだ、ですが。
[小さな、少女の声。
それがこちらに向いていると知って、顔を上げないまま、挨拶を返した]
まあ、そんくらいはな。
[首を振る少女に、男は笑みを見せる]
それじゃ、今…
[言いかけて、ブリジットの視線を追い、ユリアンとクレメンスの姿に気付く]
よう、お前さん達もどうだい、リゾット。あったまるぜ。
…アーベル、さん。
[首を傾げるカラスと一緒になって首を傾げていれば。
サクリという足音はごく近くで響いた]
え、だって。
ノーラさんがそう呼んでいたから。
[呆れられれば困ったようにそう答えて]
何、してたんだろうね。
[どこか儚い笑みを浮かべて]
何、すればいいんだろうね…。
[ユリアンの答えを聞いて、くすりと笑った]
それじゃあ、ご馳走になりませんかね。
ところでめちゃくちゃですか。そうでもないと思うんですけど?
…前も言ったと思いますケド。
兄さんの覚醒は、遅かれ早かれ近いうちに出てましたからネ?
[もっと十分な守りであれば。][この赤い世界に彼が顔を出す事すら無かっただろう。]
ここで一気に目ぇ覚めるのと、兄さんの親父さんの傍で自然に目覚めるのと。
どっちが良かったデスかぃ?
[苛立つ風を、抱いた幼子へ向けたのと同じような声色で宥める。]
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