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―昨晩/裏庭→台所―
[「――囁きを――」
そんな声が聞こえた気がして、台所の勝手口から広間を覗く。
窓の前に誰か、立っている。
黒色、闇夜のワンピースをまとう、銀髪の女性。
冷たく青白い月光に浮かび上がる、そのあまりの美しさに、彼ははっと息を呑む。
彼女の瞳が金色な事に、彼は気付いたのだろうか。
窓が波打った事も、気付いたのだろうか。
全てが彼にはまるで演劇の、俳優の為の舞台演出に見えた。
暫し、魅入られる。]
信じたい。
…違うと言って。
信じたかった。
…あなたじゃないと。
でも怖かった。
…疑った。
確かめようかと。
…あたし自身の能力で。
あたしは、揺らいでしまった。
今なら言えるのに。
あなたにならば、命をあげると。
あたしを殺めたのが、あなただとしてもかまわなかった。
[ミハエルの驚く顔][絶叫][涙]
あなたでは、なかったの?
…あなたじゃないのね。あなたは、人間なのね?
[安堵してはじめて気がついた]
[その疑いが己をどれほど深く侵食していたのかを]
…あ、ああ…。
[あたしを抱くミハエル]
[抱きしめたいのに]
[腕は空しくすり抜ける]
あたし、なんて、ことを。
[赤の滲みた、白い包帯。
赤の滲みた、白いシュミーズ。
花の詰まった籠を手に、ぺたりぺたぺた裸足で歩く。
白く変わったプレートの、下へと手向ける色とりどり。
手にした籠から、花びらはらり。]
―昨晩/台所―
[だが突然、空気がびりと震えたような気がして。
彼の目は確かな光を取りもどす。
波打った硝子は静かに微笑む女性を、そしてそれから歪んだ獣を映し出した。]
―in my room(A)―
[眠りの中から身を起こし、...は窓の外を見る。
裏庭の惨劇を思い出す。
――その瞳が輝くような黄金に、きらめいたのは誰が知ろう。]
[同時に起こっていることを知ることが出来るのは、もはや肉体を持たぬが故か]
[イレーネの声]
[硝子が歪む。形を成す]
[ああ、キレイ]
シスター。
…ナターリエ。彼女が。
――昨晩――
[躊躇うオトフリートに]
そうか…、イレーネの事は今は君に任せるよ。
[王様が今から動きだす。 ごしょうばんにあずかろうと少し思ったけれど]
[瞬きのうちに青く変わりて、
その瞳は消えうせる。
...自身に自覚はなく、ただ立ち上がり着替えに手をのばす。]
[――悲鳴]
そっか。
[ふわり微笑む。春風のように。]
…やさしいおおかみさん、ありがとう。
えるえるをおこしてくれたんだ。
いちばんいやなもの、みなくてすんだね。
…人狼。
[今までは、哀れんできた]
[神の手駒と。同じ生け贄に過ぎないと]
神の僕にして、神の、手駒。
[今更、いまさら、湧き上がる感情の名前]
[少女の声に、ゆっくりと振り向く]
[抱きしめていたエルザをそっと寝かせるように下ろして]
……お前か。
[暗く暗く光る瞳]
[そこから流れる一筋の紅]
[ゆっくりと腰から剣を引き抜く]
見つけた・・・やっと、・・・やっと会えるのね・・・
[掠れるような、ほんとうに小さな声。
やがて狼のかたちをしたものは溶けて。
屋敷の窓は全て元の硝子窓になる。
窓から腕を放して、くるりと振り向いた。
エントランスホールへ、ゆっくりと歩む。
一瞬視界にオフリートが入る位置だったが、気に留めることなく歩を進める。
視線は遙か遠くへ――。
金色の瞳は、オトフリートに見えただろうか]
…ベアトリーチェ。
あなたに話がしたかったわ。
あたしは、いやなものを見ることなどなんでもない。
あたしは、目覚めも安息も望まない。
あたしは、やっと取り返した声を、歌を手放したくなかった。
はじめて見つけた、歌よりも大切なものと引き離されたくなかった!!
[憎い][何故、笑う][あなたにあたしの何が分かる]
[憎い][憎い][憎い][憎い]
[アーベルの気配を感じてか、低く呟く]
…あたしは、笑えない。
あたしがこの場所で望むものは、ただ…。
[そこで、言葉が止まる]
[少女の声は...に届いていない]
[きちんと聞けば彼女が手を下したわけで無いことは明らかであったのだが]
[今の...には届かない]
死は平等? 死は安息?
ならば。
全てに等しく!
[少女へと飛び掛る。銀が唸る]
[望みは、破滅]
[そう答えようと思っていた]
[神も人狼も、みんな]
[焼かれ焦がれて失せればいい]
[でも]
望みは…。
[わずかに、理性が戻る]
――昨晩――
[ナターリエから聞かされれば]
手当てと食事をありがとう、ナターリエ。
オトフリート…新鮮な血肉がまた手に入ったよ。
[少し空腹は感じたが、狼は食べられる時に沢山食べておくんだって。]
あ…。
[剣を振るうミハエル]
[その剣がベアトリーチェを貫けばこの胸は癒える?]
[全身が、震える]
あたしは。
[汚れてしまう]
[血に、汚れてしまう]
ミハエル。ミハエル、だめ。
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