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迷子だったの…?危ないよ、そんな。
帰れなくなったら、倒れてしまう。
[狼がとは言わない。
手を取られる、その仕草に頬が自然と綻んだ。
きゅ。と、昔したみたいに幼馴染の手を握る]
それじゃ早く行こうか。明るいうちに。
あまり遅くなったら、今度は二人で迷子になっちゃう。
[少し冗談めかして唇の端をあげる。
どうにか笑顔の形にはなっただろう。そうあるといいと思った]
[頷く仕草ににこりと笑みを返し]
もちろん。
キリルといっしょに草を摘むの久しぶりだし、ね。
[ともに歩きながら、握り返してくる幼馴染の手の暖かさににこにこと微笑む]
帰れなくなったらどうしようとは思ったけど……
でもほら、こうやってキリルに会えたし。
[だから問題ないといわんばかり。
明るいうちに、といわれてうんと頷き]
二人で迷子になったら大変だ。
早くすませちゃおう。
[キリルの顔に笑みらしきものが浮かべば安心したように瞳を和ませた。
そして良い香りのする草のところに行って[13]本ほど草を摘むのだった]
[イヴァンは少なくとも今、彼が人狼でない事は確かだから、
知ったらどうするのだろう、と想像する。
頬染めて、嬉しそうにする、恋人といる時の彼を思い出す。
ぼんやりと窓の外を見る。
篝火の下で語るユーリーとマクシーム。
視界の中、自分よりずっと逞しいシルエットが動く]
…――イヴァンじゃない人で試せばいい。
[聞こえた囁きに揺れを感じたから、
人に順位をつければいい。と。
告げる囁きの温度は、自分でも引く程にひどく冷たかった]
[考えるのを休んだら。本能のままに動いたら───
目の前に、幼馴染の髪がふわふわと揺れている。
ああ。こんな風に、二人きりにはなってはいけないのに]
言う……、
[言えるのかな、と零すのには僅かに戸惑いの色。
万が一イヴァンが其れを知って、キリルに恐れを抱いたら。
そうして告発でもしたら――
自身が告げた可能性と、別の可能性の狭間。
でも、と言いかけて、言葉は飲んだ]
キリルが…したいようにすればいい。
[それでもその不安は告げる事無く]
うん、良かった。
[ほんの少し、ぼうっとした。
森の奥を見つめた目を引き戻して、幼馴染に向ける]
…もう。いつもとは限らないんだよ。
だから気をつけなきゃダメ。
[明るい声に向ける叱責は、本気ではない。
小言めいた口調はいつも軽く交わされる程度のものだ。
明るい笑顔に困ったと言わんばかりに肩を竦めて、
そのいつもの空気に、今度はもう少しくすりと笑った]
ん。このくらいでいいかな。
料理に使うなら……あ、そうだ。
今朝、カチューシャに教えて貰った通りにパンを焼いてね。
兄貴が少し、驚いた顔をしていた。
[必要ないのにこそりと声を低く落とす。
目配せして、また少し笑った]
イヴァンじゃない人で、試す…。
[冷たい響きの言葉を反芻する。
それに引くということはなかった。
そも言い出したのは自分、喉噛み切ると言ったのも自分。
体の奥からざわりと、知らず目覚めてきているものがある]
誰が──…、いいと思う?
人狼になっても良さそうで、
[躊躇うではなく言葉を切る。
期待に、微かに喉が鳴った]
…なれなくても良さそうな人がいいね。
はぁい。
次はちゃんと気をつける。
[どこかぼうっとした様子には首を傾げたけれど。
軽く向けられる小言には素直に頷いておいた。
一人で森の中をうろうろするのは怖かったからでもある]
うん、ありがとー。
レイスさんが? 驚いた顔見てみたいかも……
[声を低めて告げるキリルの言葉にきょとりと瞬き。
くすくすと笑い返しながら、いつもの調子に戻ってきていることに安堵もして]
キリルがもっと上手になったらレイスさんもっと驚くね。
……、ん。
まだもう少し、…考えてみる。
[すぐに言うとはいわずに、頷いた。
告発より拒絶を恐れる心は、
ほんの少し危惧とは違えど根は同じこと]
ロランも危険に晒したくは、ないし。
[選ぶといった言葉のまま、自然と思考は浮かんでくる]
ん。それで宜しい。
[いつものように、偉ぶって冗談めかす口調。
笑って、微かに首を傾げると髪に差した小花も木漏れ日に揺れた]
兄貴の表情も、慣れれば読めるよ。
あ…ほら。薬草の見分け方と一緒。
[酷い言いようだが、声には親しみが篭もっている。
ただ、最後の言葉にはふと、草に触れる指の動きが止まった]
もっと上手に…なればね。
[視線をその指先に落とす]
…お腹が、減ってて。
喰いでがありそうなひとが…いい。
[視界の中、映る男が、ふたり。
ユーリーの鍛えられた体と、マクシームのぽっちゃりした体。
血肉へと思考を向ければ、舌舐めずりしそうになり
思わず、喉を鳴らして誤魔化してから]
俺の危険は心配しなくていいよ。
[唸るようにして、最後の言葉に返す]
あ、かわいい。
[いつものようなやり取りがおかしくてくすくす笑う。
キリルの髪を飾る小花が燦めいて、ようやくそれに気づき。
思ったまま、小さく呟いた]
レイスさん、薬草と一緒くたにされてる……
そっかあ、慣れるぐらい話しかけにいかないとだね。
[ひとくくりに扱われた様子におかしそうに笑った。
視線を落としたキリルの様子に瞳を瞬かせて]
――キリル?
[そっと案じるように名を呼んだ]
…ん。ボクも少し、……減ったな。
[森の向こう、木々の陰を透かし見れば狼の姿の見える気がする。
彼らも腹を空かせているだろう。
そう思う、瞳は同胞を思って和む]
そうはいかない。
[低く返る声に、頑固に返す。
どうやらここは、人であろうと人狼だろうと変わらなかった]
…もし、本当に「人狼」が伝染るなら…
マクシームで試しても、いいかも。
上手く伝染せたら、カチューシャに伝染せそうだから。
[眇めた視線は、マクシームで止まる。
窓から斜めに入る、橙色の光。
もう、うっすらと月はその顔を空に出し始めている気がする。
力が満ちる、予感がするから]
あ、これ?
…イライダ姉さんに貰ったんだ。
気に入ったなら、カチューシャもつけてみる?
丁度、二本つけて貰ったから。
[言って、自分の髪に指を添える。
嫌がられなければそのまま、幼馴染の髪に差すつもりで]
………あ。
今のは兄貴にナイショね。気にしないとは思うけど。
[カチューシャに指摘されて気がついた。
しー。と、人差し指を口の前で立てるのだけど]
……いや。大丈夫。
ちょっとね。
こんな風に、カチューシャに料理を習って、
兄貴に腕を披露して。
そんな風に、これからもずっといたいなと思っただけ。
[案ずる様子に、笑顔をみせて何でもないと首を振った]
…ああ。
カチューシャに伝染せるなら、いいね。
[目の前の優しい幼馴染を目に映しながら囁く。
もしも彼女も人狼になったなら。
こんな風に綱渡りをするかのように、二人でいることもない。
…きっと楽しいことだろう]
───…それに、
[その先は言わない。多分思うところは同じこと]
[カチューシャに伝染せそう、なのに
カチューシャに手をだそう、と言わなかったのは。
イヴァンの代わりに、と言ったのと同じ理由]
イライダさんの見立てかあ。
通りでキリルに良く似あってると思った。
え、いいの? でもあたしには似合わないんじゃないかなあ。
[白い色の花飾りは、艶やかで濃い色をした髪のキリルだからこそ映えて。
きっとこの色素の薄い、ふわふわとした髪では埋もれてしまってよくわからなくなるだろう。
嫌がったわけじゃないから、キリルが髪飾りを一つ、差し込んでくれるのはそのままに、どうかなと首をかしげた]
うん、内緒だね。
気にしないふうに見えて気にするかもしれないよ。
[くすくすと笑いながらからかい。
もっとも妹のいう事なのだから多分気にしないのだろうと認識した]
そ?
そだね、うん。
皆でこれからも仲良く過ごしたいね。
[大丈夫といわれてそれ以上問いかけず。
笑顔を浮かべての言葉には素直に返した**]
…――、
[きっぱりと告げられる続きに、柳眉を顰める。
反論はしないけれど、やはり、困った気配は届くだろう]
――………おなか、減ったな……
[空腹を通り越して、飢餓を感じる。
そっとお腹を押さえると、虫が鳴いた]
…皆が寝静まってから、かな。
[月が昇るにつれ、思いだしてくる。
どうやって狼を呼んだのか。
どうやって肉を食いちぎったのか。
きっと満たされるのだろうと思う心と腹に
ぞくりと 背筋に何かが走り小さく身を捩った]
[レイスが薬携えて訪れてくれれば、家の鍵は開けっぱなし。
声も聞こえるだろうから、そちらへ向かう事になる。
擦りむいた傷に薬草宛がわれれば痛みに少し顔顰め、
告げる礼は彼に届くだろう。
笑わぬ男を見上げる顔は、少しばかり眉を下げる]
今日も、お祭りみたいになってる。
手伝わなくて、いいの?
[マクシームとユーリーが篝火を焚いている様子を指して、
ミハイルを―レイスが居れば彼も―振りかえった。
それから、此処に来てやっと、何も無いとは言ったが
お茶のひとつも出していないと気がついたけれど。
今更な気がして、黙っておいた]
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