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御伽噺は、御伽噺に過ぎないのだからね。
そうは思わないかい、ヨハンくん。
非常識と思えることは、大抵、人の妄想から出来ている。
無事じゃないよ。
青いのと気付けと…野菜パンもかな。
おなかの中でぐるぐる、悪いものに変わっちゃった。
[ふよふよ、くるくる。二人の周りを巡る。
ヒルダが戯れても髪の一筋も揺らせやしない。]
…黒い森にいたせいかな。
今までヴェルナせんせのお薬で、こんなの聞いたことない。
ヒルダの情報網にかからないなんて、ないもん。
そりゃ、御伽噺は御伽噺かもしなんいっすけど!
俺も、弟寝かしつけるのに、使ってましたし……。
でも、あいつ、あのランタンは大事にしてたし。
いくら気を引くためとはいえ、壊すとか……。
服の切れ端みたいなのも、散らばってて。
……やっぱ、なんか、おかしいっすよ。
……ふむ。
まあ、何にせよ、だ。
今、これ以上、あの場に踏み込むのは、
それこそ森に喰われに行くようなものだ。
あの森も広い。そして、夜の闇は深い。
ひとまず、今は、ヒルダを連れて行くのが先だ。
君一人で支えて行けるかね?
私はこの通り、灯りが邪魔だ。
美味しくなくなるんですか?
残念…。
[視線を落とすも]
あ…。
そう、ですね。この配分で食べてたら。
もう、一週間も持ちません、ね。
…え?
は、はい…っ!
私も、神父様と…。
[其の声は歓喜と。別の色が混ざり]
…すみません、声を荒げてしまって。
ええ、見ない方が、良いです。
[そこにあったのは綺麗に半分欠けた、ヒトの形をしたもの。
これ以上人目に晒されぬよう、一度診療所の扉を閉める。
自分を落ち着かせるためか、マルガレーテを落ち着かせるためか。
彼女の頭を優しく撫でた]
……そう、っすね。
夜に踏み込むのは、止めた方が、いいかも知れない……。
[少しだけ、森を振り返って。
それから、村長に向き直って]
ああ、支えるのは大丈夫っすよ。
力仕事は、慣れてますから。
ずっと見ていたら、また食べたくなってしまいますから──。
[続く呟きは紅い世界に零れ落ちた]
食事は新鮮なうちに済ませなければ、ね。
ふふ、折角仲間となったのですから。
このまま置き去りにして餓死させてしまうのは忍びないですし。
では、食事が出来なくなったら共にここを出ましょう。
二人なら、食べるモノも得やすい。
[歓喜の混じる返事に瞳を細め。
優しくその頭を撫でてやった]
[くぅ。
小さなお腹の音。
見てしまったから、お腹が空いてしまった]
新鮮なウチ…ナマモノ、だから…?
はい、食べ物が、無くなったら。
一緒に…
[その呟きは紅に染まる。
微かに頬に宿る色と同じように]
いいえ、私も直ぐに扉を閉めれば良かったことですので…。
謝らないで下さい。
…けれど、どうしましょうか…。
ヒルダさんもそうですが、ヴェルナー先生がこのようなことになるなんて…。
ヨハンさん達も、大丈夫でしょうか。
[灯りを翳す。ゆら、ゆら、ゆら。診療所から漏れる光と混ざる]
……ああ、
そこにいるのは、メルセデスくんかね?
どうしたのかね、入り口で突っ立って――
[聞こえた小さな音には変わらぬ微笑みを]
そう、ナマモノだから。
やはり新鮮な物の方が美味しいのですよ。
[少女から漂う僅かな香りが食欲を掻き立てる。
今残りの食事を腹に収めてはいけないと自制しつつも。
先程舐めた余韻を探るように舌が自分の唇をなぞった]
[扉の外から話し声]
なんだ。
またマリオン辺りが悪戯しに来ているんじゃないだろうね。
危ないから来るなと何度言えば……おや?
[腕に力を入れなおし、村長に続いて診療所へと歩いてゆき]
あれ、神父様……入り口に突っ立って、どしたんですか?
マルガレーテも。
ヴェルナー先生、いないんすか?
[軽く腹をおさえているのは、音を抑えるためか]
新鮮な内に…食べる。
[口元を隠すのは唇を舐めるためか]
そっか…食べるときに、――しないと…。
/*
むう。
アナは大丈夫っすかねぇ。
まあ、三人票が揃ってりゃ、俺吊りは確実だから、いざとなったらぽみゅってもいいんだけど。
せんせ、せんせ!
いてるのいてないのっ。
それにヒルダの身体どうしちゃったのかな。
薬のせいでぐるぐるしちゃったよ。
せーんせ、責任とってどーにかしてよっ!
[勢い余って扉を叩こうとして、すり抜けた。]
[言い淀み。
意を決すると、少し長く息を吐く]
……何者かに、襲われた、ようで。
その、亡くなられて、いました……。
[ちらりと、視線が診療所の扉へと向かう]
今、お腹が鳴ってしまうと気付かれてしまうかも知れませんね…。
気を付けなければ。
[自分も腹を空かせたままであるため、自分に言い聞かせるように口にする]
そうそう、次は、ヨハンさんにしませんか?
先程よりは、柔らかくて食べやすいと思うのですよ。
うわっとっと!
せんせ、いたならいたって返事…
せんせも、なの?
あのさ。これってやっぱり…魂なのかな。
[半分になったものを見、それからヴェルナーを見た。]
[頭をかく仕草を見て、そーっと手を伸ばす。]
魂が抜けるお薬があるなら、元に戻るお薬ないの?
…あってもすり抜けるんじゃ飲めないかな。
……第一発見者は?
いいや、ひとまず、村の者に知らせよう。
こんな小さな村とは言え、自衛団と呼べるものはある。
いいかい、勝手に、動かしたりしてはいけない。
ヒルダの事は君達に任せた。
何なら、私の家を使っても構わない。
ドロテアに言えば場所の用意はすぐさま出来るはずだ。
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