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[風切る音を立てて][飛来した物体]
[火の点いた薪が]
[其の手を打ち]
[掌から黒い塊が弾かれ落ちる]
[ハッと][驚きに打たれ]
[其れでも脚に手を走らせ][短刀を抜き放ち]
メイ…さ………
[声が、かすれる。涙がまた溢れて、頬を伝う。]
[それは、健気に神父様の敵を討とうとした、金髪の少女の死が哀しかったのか。
己と年端の変わらぬ少女の死が、己の死と重なったせいなのか。
それとも――仲が良かった少女と青年が傷つけ合わなかった事への安堵なのか。
わからぬままに、魂を削りゆく。]
ハーヴェイさんが、メイさんを選ぶなら……血を残してと願うコーネリアスさんの願いは叶い、同時に彼は永遠に彼女を手に入れること叶わず。
ギルバートさんを選ぶなら……血は(多分)絶え、メイさんはコーネリアスさんの手の届く所へと。
――どちらにしても、哀しいのは何故だろう。
そして…ギルバートさんは……?
あぁ、ボクが…ボクの死を見せてしまった事が、お兄さんを変えてしまった…のか…なぁ……。
ごめんなさい…ごめんなさい……。
記憶を失っていたのは…思い出したくなかったから…なんだよね…?
[人為らぬ速度で襲い掛かって来た影に]
[尚も抵抗し、][脚で蹴り付け]
[爪で掻き毟り或いは抉ろうと][手を]
[…然し、][其処迄、だった。]
[──圧し掛かった女の脚を両膝で押さえ付け]
[左手で][女の手首を][骨も砕けそうな力で握り締めて]
[黄金に煌く眸][細い月の形に歪んだ唇に]
[微かな嗤いを浮かべた]
[ 普段の彼ならば気付けただろう。旋律が何時の間にか途切れていた事も、彼女の気配が近付いて来ていた事も。然し人の意識は眼前に、獣の意識は男へと向けていた彼が“其れ”を知った時には全てが遅い。
闇色の双眸が月を宿し掛け、夜の獣が覚醒めようとした瞬間、銀の煌めきは碧の少女の手中に収められ、一驚を喫した彼の瞳から月光が消え理性の光が過る。]
な、……メイ!?
[ 少女の名を呼ぶも、寂寂とした薄紫の双瞳の巫女は留まらずに彼を傷付けた者を狙う。妙に淡々とした、其れでいて何処か稚い子供の如き声が彼の耳を突いた。]
馬鹿、何をして……!!
[ ――何をして? 其れは己に向けられるべき科白だ。“賭けに勝った”以上、其れはもう己が身を獣へと変え、全てを喰らうと決めたのだから。詰まりは碧の少女をも殺すと云う事。彼女が如何しようが、彼には何一つとして関係無い。
其の迷いが彼を其処から動けなくさせていた。其れは幾度目かの事。嗚呼、然うだ、彼女が絡むと何時も斯うだったと今更ながらに思う。]
[ 今此の時になって、漸くハーヴェイは悟る。
護りたかった者の存在を。護るべき者の存在を。
――そして現在も過去も、其れを壊したのは己だと云う事を。
嗚呼。
自らの手で何も為さなかったのは、彼自身ではないか。
唯、己が欲望の儘に踊っていたに過ぎない。
何と滑稽なのだろう、舞台上の道化師は。]
[涙で霞む視界が、ゆらり、揺れて。
目に入るは、お下げの少女を押さえ込む、茶色の髪の青年の姿。]
…ネリー…さ…ん……
おにぃ…さ……
[控えめながらも優しく庇ってくれた、お下げの少女。
変わってしまった――変えてしまった…?――茶色の髪の青年。]
[あぁ、いっそ全て涙になって流れてしまえと、*嘆く。*]
──包帯を取りに行けば好かったのに。ネリー。
[獣の嗤い]
[睨み付ける女の][激しい瞳を][覗き込み]
[嘲笑い][揶揄する様に][囁く]
然うすれば、少なくとも、今此処で、こんな風に死なずに済んだ。
[然し続いた言葉には、]
[あえかに哀惜の色が滲んでは居なかっただろうか?]
[ ハーヴェイの両眼が見開かれ、そして緩やかに瞬かれれば其れは長い前髪に一時隠るる。
金糸の少女の胸から溢れるは消えゆく生命の焔の色。甘い芳香は渇いた獣の欲望を呼び起こす。彼方には男に組み敷かれ呻く護り手の少女。焔は潰えておらねど其れも“未だ”に過ぎない。
……ハ、
[ 歪む口許から零れるのは わらいごえ 。]
[最早耐え切れない、][と云った風情で]
[迸る赫い泉に口を付け]
[一滴も余さず飲み干そうと][貪り続ける]
[黄金の眸は蕩け][陶然と][赫の齎す快楽に揺蕩う]
[ ――緋色の雨が降り注ぐ。
緩やかに卓上に歩み寄った彼が手にしたのは、全てを見詰めていた真白の花。己が血で真紅に染まりし手を其れへと伸ばし、細き花弁に薄い口唇で触れる。
細めた眼に映るのは嘗て人であった者と人成らざる者。死者と生者、彼岸に往きし者と此岸に残りし者。
白の花を其の狭間へと放れば其の色も香りも染まりゆく。其れは手向け花か命を摘み採った証しか、真意を知る者は無い。]
[何時の間にかぐったりと][力を失った女の身体を抱き抱え]
[首に接吻を降らせる様に][忙しなく角度を変え何度も]
[犬歯で創を咬み拡げ][舌を尖らせ其処に]
[ぴちゃ][ぴちゃ][と]
[濡れた音が]
[静まり返った室内に虚しく響く。]
[激しい憎悪の中、ぽつりと浮かび上がる悲哀にも似た]
……逃げ…
[それは唇から零れたか、零れたように思っただけか]
[緋の闇に沈んで行く彼女が知る故はない]
[ネリー][血に染んだ侍女服を纏った女性が]
[生まれたばかりの獣に抱かれ]
[息絶える迄の刹那]
[庇護していた少女を][霞みゆく眸で見詰め]
[弱々しく震える唇で][何か告げようとしていたのを]
[終に彼が知る事は無い。]
……悲しいことだわ
[意識の浮かぶことはあぁ…
わたしの意識はその光景をみている。]
もう戻れないのだわ……
わたしもあなたも
[わたしとは違う、
それでも異端である者。]
生きている限り
戻れなかったのだわ
[まるで夢の中のように少し遠い光景。
あぁそれもそうだ、わたしは彼の腕の中にいるはずなのだから]
流れ者 ギルバートが「時間を進める」を選択しました
[不思議な感覚だった。
わたしは夢の中で現実をみる。
悲しいこと。
彼らをわたしは止めることができず
わたしは彼らの狂気を見るしかできず]
/中/
何も言わなかったのにぎりぎりまで抵抗&睨み付けさせてくれて嬉しい中の人。
ギルサンクス也。愛してる(マテ
或いは年相応に泣きじゃくっても良かったのだけどね。生きながら喰われたらの話。
殺してあげられれば良かった……
[あぁわたしだけでよかったのに
かなしむ人はみたくなかった。
優しい子たちが、そうしてしまうのを見たくなかった]
[ゆらり
張りつめていた空気が揺れる
切り裂く銀は
しかし少女には荷が勝ちすぎたか
其れを掠めるだけで]
[撃たれた青年は
わずかに血を流し
ナイフを取り落とすも不可思議な笑みを浮かべ]
…あぁ、あいつが
[腕に抱いた女性の命を喰らったのは
紛れもなく彼なのだと
確信せざるを得ない
獣の…]
[また新たに空気が動く
霊視の巫女…その彼女が落ちた刃を
しかし其れは獣には向けられず
彼を撃った少女の命を奪う]
…あぁ、信じた物を守るために。
[其れが間違いであると誰が責められるだろうか?]
[ 歯車は何処から狂い始めたのか、或いは最初から狂っていたのか。広間は生命の証と揺れる焔とで緋く彩られ、其処に在るのは狂気の宴。人間には毒、獣には美酒を思わせる、噎せ返る程の甘い馨り。
護り手の少女の視線の先には、恐怖にか足を竦ませ震える幼子が。然し其の声を聴き留めたのは巫女だけであったろうか。
何時の間にかカーテンの向こうからは零れる月の光。少女へと緩やかに向けられる黒の視線も叉其の色を宿す。]
……武器庫では、どうも?
[ 柔らかに紡がれた科白に、少女は其の意味を理解したろうか。]
壊れたものは戻らない……
[わたしはそれでも
あわれみは覚えられずに]
あなたたちはしあわせで、
しあわせを求めて
だからそれしか…………
[*わたしはただ、ゆめのかなしみの中に涙をこぼす*]
[そしてまた新たに空気は動く]
[動いたのは男の命を奪った彼
緑の髪の少女に襲いかかり
押し倒し
何か囁いた後で
手にした刃でその首を掻き切り
目覚めた獣は血を啜る
その刃の正体を知り
自嘲]
[赤く赫い闇]
[身も心も魂すらも委ね切り]
[今も緩やかに][記憶と心を上書きしていく]
[嘗て愛し裏切った]
[獣の記憶][獣の心]
[其れを一身に受け取って]
[最早躊躇する事無く]
[溶けて蕩けて][一つに]
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