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[投げ捨てるように女を床へと降ろし、爪についた紅を舐め取る]
…ま、一人で逝くよりは良いかもな?
仲の良い姉と妹、あの世でも寂しかないぜ?
[既に聞こえていない姉妹へと言葉を投げかける。
その声は愉しげなもの。
ロストに「喰らっておけよ」と促した後、小さく哂いを漏らした]
ああ──もう一人兄弟がいたっけか、こいつらには。
そのうち、送ってやんねぇとなぁ。
あんな捻くれた弟を遺すのは、姉として忍びないだろうしよ。
[低い哂いはさも愉しそうで。
ゲイトから訊ねかけられると、悦に入ったような声で]
ああ……やはりこの味は最高だ。
ゲイト、お前にも味わわせてやりたいよ。
ただいま――
ノーラ姉、エルザ姉?
[村が閉ざされてからというもの、以前の騒がしさは鳴りを潜めたと思っていたが、今日は一際、静かだった。客足がないからだろうか、姉二人の姿は、厨房にも店内にも見当たらない。
訝りながら、従業員用の部屋の在る方向へと歩を進める。
気付いていた筈だった。
昨日も感じた、見えない気配に。
そして、食事ともアルコールともまるで違う臭いに。
一室の、扉を開く]
似てるって。
それは、向こうが嫌がるような気がするけれど?
[口調はどこまでも軽く。
右手の爪弾きにはやがて、ゆっくりとだが左手も添えられ、旋律が織り成される。
思案の呟きと、考え込む様子。
それに、ふ、と笑みを掠めさせ]
……俺が、覚えている限り。
嘘をつかれた事は、ないはずだから。
……と、いうのは論拠としては大分甘いが。
今、俺の目に見える要素では、アーベルの方が信は置ける、という所かな。
音楽家 エーリッヒが「時間を進める」を選択しました。
く…。
[腕を引きぬく時に触れていたのはその手首だった。
星型の蒼い痣。今は働かないものであったけれど、確かに「祝福されたもの」の印。
その心臓は人狼には一際甘く。
その血は人が啜るにはあまりにも苦い、毒]
ああ、失礼を、しました。
力ある者の血筋、だったのですね…。
[その痣をエウリノに示して見せながら。
堪えきれずに口の中に残っていた肉を吐いた]
――…あぁ、 そうか。
[一瞬ばかり、目を見開いた。
けれど、取り乱す様子はなかった。
それどころか、噎せ返るような臭いに眉を顰め、中に入り窓を開く。傍目には、異様過ぎる程、冷静な様子で。
未だ、床を濡らす色は乾き切っておらず、浅い水溜りに踏み込む感触があり、滴が微かに跳ねては、衣服を染めた。
吹き込む風に、カーテンが翻る。
月光に照らされる室内。先ほどまでは薄暗くて見え難かった光景が、よく見えた。
横たわる女の姿が、
大地を思わせる茶色の髪が、
緩やかに広がるウェーブの青が、
在るべきものを失くした身体が、
無残にも刻まれた傷跡が。
生は、其処に無い]
[こんな時でも腹は減るもので。
向かうのはやはり宿屋の方向。
途中自警団に捕まろうが常の雰囲気でどこ吹く風。
長い問答の後、諦めた自警団から解放され、ようやく宿屋へと辿り着く]
…たく、何回言えば分かるんだ、っつの。
[自警団へ悪態をつきながら、宿屋の扉を開けた。
嫌に静まり返ってる様子に首を傾げる]
…アーベルさん。
[もう一人の兄弟、には、僕にしては珍しく、不快な感情を露にした。
が、楽しそうにするエウリノにすぐに声の調子は戻り。]
そっか。よかった。
…うん。でも私が食べても、きっと二人が感じるのと同じようには味わえないからなぁ。
[悦入るヒトへ、すまなそうに答える。]
[広場に差し掛かったところで、ふと空を見上げた]
能力者の血脈、か。
[その昔、追い求めたもの。
人狼に対抗できる力。すなわち人狼を下すことのできる力]
…今はもう、欲しくも無い…。
[ミリィの家へと向かう足が止まる。
口の中の苦さに、僅か眉を寄せた]
嫌がっても、事実は事実ですからね。
[首を振って、くすりと笑う。
流れるピアノの音に、耳を傾ける。目を閉じる。]
……綺麗な音。
[世界がこれぐらい綺麗だったら良いのに、と思った。]
……ああ、昔から知ってる者同士なら。
そうですね。
いえ、ひとつのヒントにはなるんじゃないでしょうか。
……じゃあ、イレーネさんの方が怪しい?
[問い返す。]
[見せられた痣に、片眉を上げて]
…なるほどね。
あの姉弟の中でこいつだけ容疑者に上がらなかったのは、そう言う理由か。
けど力ある者は俺らにとって馳走でもある。
……何故お前は受け付けない。
[肉を吐き出すロストを見つめる。
その瞳は訝しげに細められていた]
変容に。
変容が、
重ね…… 聞、えた。……る。
ああ、――嗚呼!
――赤いモザイク!
[身体を丸めるように座り込んだまま。押さえられるのはいつしか両耳になり。指先から始まった震えが徐々に全身へ伝わっていく。声も少しずつ高さを増し、最後には叫び声となって]
さあ。
…自衛団長殿が食べでありすぎたせいですかね?
[嗤う唇は小刻みに震える]
よろしければ、こちらも貴方が、エウリノ。
渇きは十分に癒させていただきましたから。
[恭しげに示してみせるその瞳の色は、暗さを薄れさせ。
僅かに掠れる聲は言葉を裏切っていたか]
今にアイツも喰らってやる。
放っておいては危険だ。
あれは何かを知っている。
[それは本能的なもの。
不快な感情を見せるゲイトに対し、優しく包み込むような気配を向けた]
…そうだったな。
こんなに美味いものを共有出来ないとは、残念だ。
……そういう問題なのかと。
[はあ、と。零れるのはため息一つ。
鍵盤の上、織り成されるのは穏やかな旋律。
風と空を思わせるような]
ま、ある意味では腐れ縁だけどね。
……怪しい、というか。
信じるための要素が、足りん。
行動に整合性はあるが、何か……見え難いとでも、いえばいいか。
俺が、あの子の事をよく知らないのを差し引いても、ね。
馬鹿だな。
[嘲りを帯びた笑みは、何に対してか。
先ずは青い髪の女の傍に膝を突いた。
口煩くて御節介で勝気で、それでいて心配性な姉の首筋は掻き切られて、顔までもが真っ赤だった。左の掌で、袖で拭い取り、目蓋を閉じさせた。
そして、己の腹部に手を添える横たわる女の傍らに。それはまるで、喪くした子を求めるが如く。
優しい姉だった。人の醜い部分など、持ち合わせていないかのようで――だから。
待ち望んでいた子は世を見ることはなく、彼女の微笑を見ることもない。
頬を撫ぜる。
それから、彼女の左手を取った。薬指には、誓いの輪。
其処にそっと、口接けを落とす]
……ごめんね?
[嘆く事もなく。ただ。口唇は微かに、弧を描いた]
[理解していた。
狙われる可能性を。
知りながら、見殺しにした。
哀しみの感情は、湧いて来なかった。
惜しい、と思う心は存在したけれど。
――ただ、それだけ]
…あんな老いて干からびた爺のどこに喰いでがあると言うんだ。
[吐き捨て、己へ食を譲ろうとするのを聞いて、そちらへと近付く]
──……あまり我慢をすると、後がきついぞ?
[瞳を鋭くしたまま、囁くように言い。
譲られた血肉を己の胃へと収めた]
大丈夫ですか…?
[急に毒を飲んだような、そんな雰囲気を醸す主人に、心配そうに尋ねながら。]
人間から転身されたばかりだからでしょうか。
[人狼の事は人狼にというべきか、分からない理由を問うように。
エウリノと交互に見やった。]
……くッ、
[息が漏れる]
あ、はは、は、は、は、はははは――
[途切れ途切れに、それでも、笑いが込み上げた。
彼方此方は血に濡れて、酷い状態だと思った。他者が見れば如何思うだろうか。そんなことも考えはしたけれど、如何でも良かった。
嗚呼、可笑しい。
次第に呼吸が出来なくなり、噎せた。
それで漸く涙が滲むだなんて、笑い話でしかない]
…言われずとも。
[囁きに囁き返し、鋭い視線からは目を逸らす。
ゲイトへは、大丈夫というように薄い笑みの気配を向けて。
実際は酩酊感と悪寒が入り混じり、実に不快だった]
……向こうも任せきりというわけにはいきません。
私はお先に失礼させていただきますよ。
[灰色に染まった腕を戻しながら、窓へと向かう。
裏は土の地面。跡の残りにくい場所を本能的に辿りながら、診療所へと駆けて行った]
……爺は問題なく喰えたのに、今頃拒否反応か?
ふん……無くは無いか。
もしくは──何か他の要因があるのか。
[ゲイトの問いに少し考え言葉を紡ぐ]
なんにせよ、もう戻れはしない。
喰らわねば渇きが増す一方。
渇きを抑え過ごすことは、並大抵のことではない。
この俺とて…この村に来てから全く喰らわなかったわけでは無いからな。
[先に戻ると言うロストを見やりながら、ぽつりと漏らした]
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