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[紅蛇の、そこだけは闇のような眼が何処かへと向く。
誰かいる、と、囁く声。
笑いは鎮まり、蒼氷は闇色の向く先を見やる]
……あれは。
[緋の只中、常磐が*微かに見えた*]
……御同輩同士は、逝きて留まる場所まで同じ、か。
[夜であった]
[廊下に出た男は、窓の外の月を見、目を細める]
ああ、……ネリーだったか
こんな時間に一人か?
[足音、そちらを振り向いた男は、昂った精神を瞬時に鎮めた]
[否、それは隠しただけ]
終焉の使者がいるというのに
それとも
[月灯りが窓から射し込み、ネリーの体を照らし出す]
お前がそれなのか?
[その答えなど、どうでも良いことではあった]
[男は距離を詰める]
誰がやったのか
誰が終焉を齎すのか
わからないままに殺すしかないというのも悪趣味だが――何にせよ誰かを殺さなければいずれ己も終焉に導かれるわけだ
こんな時間、一人で出歩いているんだ
死も覚悟の上だろう?
――いや、お前が"終焉の獣"か?
[抵抗されても、男の力は強い]
[この女が使者――人狼なのかどうか、殺すときには考えなかった]
[右掌で口を抑え、左手は右腕へと触れる]
[黒を破いて現れた銀は、月を弾いて横へと伸び、壁に押し付けたネリーが震えるようだった]
[イザベラを例の部屋に案内した後、彼女とはその場で別れた。少女は一人廊下を歩む。辺りは暗く、既に月が空に輝いていた。廊下の壁に据え付けられた燭台の炎が辺りを薄暗く照らす。その明かりだけを頼りに歩を進め、そしてピタリと足を止めた]
……緋色の中の、白。
[透き通るような凛とした声。少女の右目だけが滅紫へと変じた]
そう、そう言うこと。
私に解るのはこれだけなのね。
[独り言にも似た言葉ははっきりと、辺りにも響いた]
村長の娘 シャーロットが「時間を進める」を選択しました
白は希望。
紅は破滅。
紅を淘汰すれば白――希望が残り、破滅の回避となる。
されど白は染まり易くもあり、紅によって塗り替えられる。
総てが紅に染まりしは破滅――終焉へと繋がる。
[いつしか足は再び動き、口からは訥々と言葉が紡がれる。やがて、緋色が広がった廊下に少女は足を踏み入れた]
緋色の中の白。
残念、ハズレみたいね。
[緋色の中に佇む男をよそに、緋色に没した緑に滅紫と紅紫の瞳を向ける。夢幻の白き華が少女の右目に映っていた]
……お前が犯人であるなら良いがな
[息絶えた体、瞳へと手を伸ばし、まぶたを閉じさせる]
[部屋からは少し離れた、階段の上]
[命の緋は、ネリーの喉を染め、男の手の刃を染めていた]
確かめる術を持つ者もいるんだったか
だが、ここに置いておくわけにもいかな――
[と、届く声]
[そちらを振り向き、男はシャーロットをじっと見た]
なるほど、お前が見分ける者か
それは悪い知らせだな
[見下ろした死体に、それ以上男は何も語らない]
そうね、悪い報せ。
[ぴちゃり、と靴が緋色を踏む。そのまま緑の少女へと近付き、再度確かめるように緑の少女の顔を覗き込んだ]
信じるかどうかは貴方次第だけれど。
[顔を上げ、今度はクインジーに視線を向ける。滅紫と紅紫の瞳がクインジーを見つめた]
……やっぱり死んだ人しか見えないわ。
死ななきゃ解らないなんて。
[僅かに眉根が寄った]
今のところそう言い出したのはお前だけなら、信じないという選択肢は無いな
これがそうであった可能性も否定できないが――
目の色が、違うな
[二つの色をかわるがわる眺め、黒紅を細める]
わかるだけ良いだろう
正体が何だかわからない方が、後味が悪い
こんな時間に逢引か?
おまけに修羅場とはやるねえ、色男。
[廊下の暗がりから唐突に声を投げる。ベルトの後ろに差した包丁の柄に手を置き、月明かりの中へ一歩踏み出す]
それとも、獣の晩餐か?
シンプルね、貴方。
[くす、と瞳を細め小さく笑った。瞳が違うと聞くと、きょとんとした表情になる]
あら、そんな変化が起きてるのね。
副作用みたいなものかしら。
…そうね、解らないままよりは良いのかも知れない。
けれど、生きているうちに解れば余計な犠牲を出さずに済むだろうから。
女一人で出歩いているのがいたからな
終焉の使者とやらかと思い、始末した
[近付く声に向け、振り返り口にする]
それだけだ
残念ながら――切り口をみればわかるだろう?
[首に一筋走る痕]
[持ち上げたなら、首が反れ、緋の滴る肉を露にする]
なるほど、そりゃ仕方ねえな。
[警戒を緩めず一定の距離をとり、晒される傷口を注視する]
ああ、確かに番人とは違うな。
獣が道具を使わんとは言い切れねえが晩餐じゃないのはわかった。
パーツもまだ揃ってるしなあ?
[廊下を染める緋の量が減っているかまではわからないが、番人とは格段に違うと頷いてみせる]
[どこか暢気とも言える声に視線を向ける]
これが逢い引きと見えるなら、貴方の脳は酒浸りでおめでたくなってるんでしょうね。
[皮肉を含んだ言葉、それは無精髭の男へと投げかけられた。それからクインジーの言葉に補足するように]
残念ながら、ネリーは終焉の使者ではなかったけれど。
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