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[診療所にたどり着く。
その前に倒れているのは、2人の男性。
ひとりは、さっきまで一緒に居たひと。
あとひとりは、獣の毛に覆われた人間―その顔は、あまりに慣れ親しんだひとの顔]
…だって、自分でも言ってたし、アイツ。
[その時の話は笑い話になるようなものでは無かったが、アーベル自身そう称していたのは事実で]
診察所、行くんだ。
…俺らはどうする?
[後半の問いはイレーネへと向けられた]
ですよね。そうします。
[ユリアンに、こくこく、と頷いてみせて。
イレーネの肩を抱く彼に、ああやっぱり二人はそうなんだな、と思う。
この人狼騒ぎの中でもイレーネに変わりない態度を示すユリアンに、少しだけ微笑んだ。
二人が人狼とは関係のない人間なら良いのに、と願わずにはいられない。]
ありがとうございます。
じゃ、行きましょう、エーリッヒ様。
[視線をエーリッヒへと戻すと、診療所へと歩き出す。]
( 私が弱かっただけです―― )
[別の一部が赤の聲に反応を示す。
僅かに思考が広がった。心配するような気配を伴う]
[ティルの呟きに顔が強張る。慌てて自分でも周囲の匂いを気にしてみるが、自分の身体に染み付いたアルコールと煙草の匂いしか感じられず]
ほんっと、つかえねーな俺は…。
[嘆いている間にティルは診療所へと走っていってしまい。嫌な予感が膨らみあがり、慌ててティルの後を追う]
待てよ。待ってたら。
[診療所の前まで来て。やっと自分の鼻にも血の匂いが届く。もっともその事に気づく前に惨状が網膜に焼き付けられるわけなのだが]
…ティル。こっちこい。
それ以上見ない方がいい。うん。
[ティルがそれ以上、その惨状を見ないで済むように手を伸ばして抱き寄せようとする]
[自分でも、というユリアンの言葉に浮かぶのは苦笑]
ああ。
俺も、薬出してもらった方がいいかも知れんし。
[ユーディットに軽い口調で返しつつ、診療所の方へ。
常と変わらぬ様子を装いつつも、内心には一抹の不安があるのは否めなかった]
――ああああ!!
[裏路地。陽が出ているうちも薄暗いそこから、辺り一帯に響くような叫び声が響き渡った。壁に身体を預け、半ば仰向ける体勢になっていた...が、上半身を跳ね起こす。見開かれた目、肌には汗を滲ませながら、左右を見回し]
[ユリアンに肩を抱かれれば、少しずつだが握っていた手の力は抜けていく。]
ん…どう、しよう。
[問われて少し言い澱むのは、手に力を込めすぎたせいか。]
あ、そうだ。『視た』事言わないと駄目なんだっけ…。
向こうにお医者先生いるなら、ついでに伝えにいこうかな。
エウ…
[何時もはこの世界で猛り狂う主は今は淡々と。
逆に自分の方が、悲しみで荒れ狂っていた。
内に在る狂える一族の血が、激しく身を責めたてる。
それを表に出さないよう、必至で耐えた。
低い呻きをあげて、震えながら蹲り。]
…報復、を。
[エウリノの声に続くが、口にした言葉は弱弱しかった。]
[ユーディットに微笑まれた理由は理解しておらず。
僅か首を傾げた状態でユーディットとエーリッヒが診療所へ向かう姿を見やった]
…ああ。
そう言えば、俺以外には言ってないんだっけ?
二人も行くみたいだし、着いて行くか。
[頷いて、肩に手を回したまま、イレーネを支えるようにして歩き始める]
[惨状を目の前にして、しばらく、時がとまったように、立ち尽くしていた。
ハインリヒに抱き寄せられれば、やっと我に返る]
おっちゃん…
[そのままぎゅうっとしがみつく]
オト先生…アーベル兄ちゃん…
いやだ…やだ、よぅ。こんなのって、いやだ…やだ、やだ…
[嗚咽で言葉が詰まっていく。瞳からは、大粒の涙がぽろりぽろりと零れ落ちていった]
オト…せん…せい…アー…ベル…にい…ちゃん……
[後はもう言葉にならずに、ただ嗚咽を漏らすのみ]
[傍に落ちていたノートなどの束を拾いながら、ゆら、と立ち上がり裏路地を出る。その時「うるせえぞ!」という怒鳴り声と窓を乱暴に開ける音が聞こえて、虚ろな瞳はそちらを向いた。
家の窓から顔を覗かせた怒鳴り声の主は叫び声をあげた人物を確認すると、しまった、というような顔をして開けた窓を素早く閉め。再びの静寂]
……。
[暫くの間、ただ立ち尽くしていたが。そのうちに人通りの少ない村を歩き、そこへ、「変容」が起きた場所へと、向かい始め]
私の治療がそんなに不安ですか?
[冗談ぽくにらんでみせて、診療所に向かう。
近づけば、人影が見えた。
風に乗って流れてくるのは子供の泣き声と、
朱い匂い。]
いや、そういう訳じゃないんだけどね。
[返す言葉は、こちらも冗談めいて。
診療所に近づき、捉えた気配に、表情が変わる]
……これ……は。
[感じたそれは、数日前にも接したもの]
[弱弱しい言葉に、唇が小さく弧を描く]
そう、報復しなければ。
ロストに手を下した者を。
我らの邪魔をする者を。
この惨劇の舞台を用意した者を。
全ての者に血の粛清を!
この地を紅き雫で染め上げるのだ!
[静かだった声は徐々に高らかに張り上げられ。
漂う気配は享楽を愉しむものとなる。
狩る対象による抵抗。
それに対し昂ぶらぬはずが無かった]
あれは……ティル?
それに、ハインリヒさん。
何やってるんでしょう、あんなところで。
[胸の奥が、ざわめく。
匂いが、確かに、告げている。
それを無視するように、
厭な予感が途端に沸き起こってくるのを抑えるように、
ゆっくりと、歩く。
しかしそれは、徐々に、人影の傍の地面に何かが確認できるにつれ、堪らなくなり、
駆け出す。]
[ユリアンに肩を抱かれたまま(途中で平気だと言っても放してはもらえなかった)先立った二人の後を少し離れてついて行く。
二人の様子がおかしいと、気づいたのは診療所少し手前あたり。
誰かの泣き声が耳に届いた。
微かに感じる匂いは、明方近くに感じたものに似ている様な気がした。]
[抱き寄せてはみたものの。いざ抱きつかれて泣かれるとどうしていいものかわからずに]
大丈夫…。大丈夫だ。
[そんな言葉を繰り返し頭を撫でてやるしか思いつかず。とりあえずここから離れた方が良いことだけは間違いなく]
う、うし。とにかく人を呼んでこようぜ。
二人をこのままにもしとけねーしな。な?
[ティルの手をひいて「歩けるか?」と顔を覗き込んだ]
あちらは、先生に用事がある、とか言ってたけど……。
[疑問の声への答え。
それはユーディットまで届いたか。
唐突に駆け出したその後を追い、自分も足を速める。
腕が痛むのは、傷のためか、それとも、他に理由があるのか。
そんな事を考えつつ]
[そのままエーリッヒ達の後を着いて行き。
前方の二人の異変に気付く]
……どうした?
[声をかけ、直後に漂う匂い。
思わず空いた手で口元を押さえ、眉根を寄せた。
嗚咽の声も聞こえてくる。
僅かにイレーネの肩に触れる手に力が籠り、微かに震えた]
[闇、
目蓋を上げても、何も見えなかった。
否、見えたものは、それだけだった。
眼を開いている筈なのに、何も映らない。
先程までの感覚は遠く、今は、酷く希薄になっている]
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