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大丈夫。
頼み込んでしまえばイヤと言えない方ですからね、アーヴァインさんは。
それに、酒盛りは大勢の方が楽しいに決まっていますよ。ねえ?
[酒の飲めるお年頃の面々を見回しつつ、にまっと笑う。]
[ また一人の人物――ぼやけたランプの灯に照らされる長い銀の髪が特徴的だ――が入って来たのを見れば、椅子に座った儘ながらに顔を其方に向けて会釈する。]
今晩和。
[ 手に巻かれた包帯の白を認めれば僅かに眉を寄せるも、青髪の男の名乗りを聞けば再び笑みを浮かべて、]
ナサニエルさん、ですね。宜しくお願いします。
そんな事は……無いと、思いますよ。
様々なものが在りますから、御滞在になられるなら貴方も読んでみては。
/中/
分かる人には分かる仕様だよなぁ、俺。
誰が入ってんだか知らないけど。
…トビーがシェイさんっぽいのは気のせいか?
[紅い実に軽く唇を寄せ、そっと歯を立てる。
甘酸っぱい仄かな香りが立ち、その香りにふさわしい瑞々しさが口腔に広がっていく。]
やはり、良いものですね。…旬のものにはかないませんが。
[ついつい苺に夢中になっていたものの。
やって来たコーネリアスに気づいてきょとん、とし]
て、あれ?
[一瞬、名前が出てこないものの、印象的な髪の色はすぐに記憶の中から見つける事ができて]
もしかして……コーネリアスさん?
[首をやや傾げつつ、小さな声で呼びかけてみた]
……まあ確かに、飲める歳ではありますが。
[ 酒は百薬の長とは言えども、普段飲む環境に無い彼にとっては些か刺激物に近い。両手を組んで膝の上に乗せつ、困惑を含んだ曖昧な表情をルーサーに返す。]
余り、長くは御付き合い出来ないと思いますよ。
ええ、そりゃもう。
ヴィンテージ物のワインがわんさかありましたし、
ワイン以外のお酒も保存状態は良好ですから。
きっと、貴方好みのお酒も見つかると思いますよ。
[盛り上がる酒盛りの話を、自分は関係ないなー、と聞き流しつつ]
……仕事?
[ふと耳に入った言葉に、不思議そうにナサニエルを見て]
旅しながらできる仕事って、どんなのがあるの?
[酒をとの牧師の声に、適当にワインとチーズでも見繕うよう、使用人にいいつけたところで…名を呼ぶ鈴の音のような声に振り向く。]
…おや、君は……?
[僅かにその面影に見覚えはあるも、名までは思い出せず。]
[名前が出てこないらしいコーネリアスの様子に、苦笑して]
あー、やっぱり忘れられてるかなぁ。
メイ。メイ=エアハート。
ずーっと前、ばーちゃんに連れて来られた頃に会ったくらいだから、覚えてないかなあ。
[あの頃はばーちゃんの後ろから出なかったしね、と。
思い出してくす、と笑み]
[メイの問いかけに少し真顔になって]
あ、俺、一応物書きやってんの。
主に旅行記とかね。
旅の思い出とかいろいろ書いて、新聞や雑誌に売り込んでる所。
あんま売れないけどね。
俺が旅してんのって、完全に趣味だし。
ふうん……旅行記、かぁ。
[ナサニエルの返答に、何やら考え込むような素振りを見せて]
そっかあ、そういうのもあるんだね。
一応、趣味と仕事が一緒になってるんだ。
……ちょっと、大変そうだけどー。
[売れてない、という言葉に、くすくすと楽しげに笑みをもらし]
ええ、其れはもう……仕事、ですか?
[ ナサニエルの言葉に頷こうとして、聞えた単語に黒の瞳を緩やかに瞬かせる。次いだメイとの遣り取りに納得いったように嗚呼、と声を零す。売れないとの台詞には口許に軽く握った手を当てつメイ同様に薄く笑みを浮かべた。]
成る程。
生まれてから村の外に出た事が無い身としては、羨ましい限りですが。
[ 落とされた呟きには言葉通り羨望の色が滲む。]
うん、そう。
[思い出されて嬉しかったのか、ほっとしたように笑んで、一つ頷く。祖母の事を問われると、その笑みはやや苦笑めいたものに]
ばーちゃんは、元気だけど……足が悪くなってきちゃっててね。橋、渡って来るのが難しくなっちゃったんだ。
[だから、自分が代理でその手作りのパンや菓子を届けに来ているのだと。
そう、説明した直後に、ふわ、と小さく欠伸。眠そうだ]
大変だけど、楽しい……かぁ。
ボクも、外に出てみたいけど……多分、ダメだしなぁ。
[それから、ナサニエルの言葉に独り言めいて呟いて。
一瞬浮かんだ陰りを振り払うように二、三度首を振って]
……さて、と。眠くなって来たし……ボク、先に休むね。
それじゃ、お休みなさい。飲みすぎ、注意だよー?
[冗談めかした口調で言ってから。場にいる面々にぺこり、とお辞儀をして*足早に客室へと*]
[ハーヴェイの呟きに混じる物を読み取って]
村から出た事がないのか?
まぁ、人それぞれだから何も言えないけどさ。
[普通に暮らしていればそれはよくあることなのだけど]
俺は家出同然で飛び出してきてるからなー。
今更帰っても何言われるか……。
[ 苺をまた一つ摘んで、運ばれて来た紅茶に手を付ける。此れも菜園で採れたものから造ったか、ハーブティー――恐らくはカモミールか何だろうの甘い香りが鼻腔を擽った。目を伏せて一息ついた後に顔を上げて、]
其方の銀髪の方は、メイと御知り合いで?
村の方……では無さそうですが。
[メイとの会話が聞えたか、コーネリアスと呼ばれていた男に問い掛ける。]
嗚呼。他人に訊ねる前に、先ずは自分が名乗るべきでした。
ハーヴェイ=ローウェル、と申します。
私は、かれこれ30年程前くらいですね。
村にやってきたのは。
そういえば、あの頃は色々ありましたっけねえ……
[どこか、遠い所を見つめている]
……あ。
[しばらく物思いに耽っていたが、ふと我に返る。]
私はラプサンスーチョンをお願いします。
一日に一度はあの匂いを嗅がないと落ち着かないものですから。
[すかさず、その場にいた給仕にリクエスト。]
お休み。……まあ、注意しとく。
[ 呟かれた言葉と翳りは彼には見えず、何時もと変わらぬ調子で見送ればナサニエルへと視線を戻し、浮かべる表情は微笑から苦笑へと変わる。]
出る機会が、無いもので。大体は村の内に居て賄える事ばかりですし、ね。
以前は町の学校に通いたいと考えてもいましたが。
[ 続いた台詞にはカップを持ち上げようとした手が止まり、]
……家出同然?
反対でもされ……ああ、踏み込んだ話になりますね。申し訳無い。
…いろいろ、ね。
ほんといろいろあるみたいだな、牧師さんは。
[ルーサーの呟きにふと思った事を呟く。
次いで口にされた紅茶の名前に少し驚いて]
…随分変わったのが好みなんだな。
[とだけ。
自分はアッサムをミルクティーで、と頼んで]
[ 町の学校に通いたい。
其の願いは母が亡くなった今――否、母一人子一人の時から、到底叶わぬ夢だったのだが。日々の生活すら儘成らぬ事も多いというのに、そんな贅沢等云える筈も無かったのだ。だから斯うして偶に本を読みに来るのが、娯楽の少ない彼にとって唯一の楽しみと云えた。]
ええ、癖の強い紅茶なので苦手な方は多いようですね。
[出されたティーカップを受け取り、一口飲む。
煙のような、薬のようなきつい香り。]
[苦笑するハーヴェイに少し悪い事を言ったかと思い]
ここで賄えるって言うんなら、無理はすることはないわな。
故郷って言うのは良いもんなんだって言うし。
[ハーヴェイが何かを言いよどむのに気付いて]
あ、いや、構わないぜ?困る事でもないし。
反対も何も、誰にも言わないで出て来ちまったからなー。
ま、心配すんのはホームのシスターくらいだろうけどな。
[つまりは親無し。
だけどそれはわざわざ言う事でもなく、苦笑して]
俺は気ままな暮らしが性にあってるって事だな、うん。
[ 牧師の紡いだ名には彼も些か驚いたか、]
……東洋の紅茶でしたか? 其れも、茶が発祥した地の。
珍しい物も在るんですね。
[流石はアーヴァインかと思いながら、ハーブティーを啜る。ルーサーの飲む其れとは打って変わり、林檎に似た和やかな香り。]
確かに癖は強いよな…。
しかし本当に何でもあるんだな、ここ。
[運ばれてきたミルクティーを飲みながら、今度は錦上添花でも頼んでみようかと不穏な笑み]
/中/
『錦上添花』
…中国の工芸茶の一つ。
お湯を注ぐと中から菊の花が浮かび上がります。
ルピシアで8個2800円……今はもっと安くなったかな?
手作りだから高いんだよねー。
アーヴァインさんは、食べる物と飲む物には人一倍こだわる方でね。
産みたての卵を食べる為に鶏小屋も作った、なんて話も聞いたような気がします。
[ストレートのラプサンスーチョンを、さも美味しそうに啜り。]
[懐かしげにメイと言葉を交わし、部屋へと戻るのを見送る。
書生の声に小さく笑みを返す。]
…お忘れで?
まぁ、無理もないでしょうかね。かなり暫くぶりですし。
故郷……、ですか。
[ 視線は一度、窓の外へと逸れる。天に浮かぶ月は地に光を齎すも、見える景色は矢張り薄闇に包まれ遠く迄は見えはしない。そして黒曜石の双眸を持つ青年を照らすのは月では無く室内のランプの光。其の横顔が何を思うかは読み取れはしなかっただろうが、緩やかにナサニエルへと目を戻せば顔に浮かぶのは薄い笑み。]
俺は、余計な事も訊いてしまう事が多くて。
誰にも何も、ですか。随分と思い切った事をなさるんですね。
[ ホーム、という単語が意味する事に気付きはしたものの其れに敢えて触れる事も無く、半分程に迄減った白いカップを卓上に置く。]
現在の生活が在っているのならば、其れで宜しいのでは。
へぇ…産みたての卵の為に、ねぇ。
そこまで拘ってれば、食いモンで病気になるとかってのは無さそうだな。
むしろ健康に良いって感じだし。
[普段の生活が不健康そのものな自分には考え付かない事だと思い、自嘲気味に笑う]
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