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[ふらつきそうなイレーネの身体を支えて。
宿屋に残る者達には一応の会釈をしてから、扉を出た。
イレーネの状態を気にしつつ、歩くペースを合わせながら、娼館へと送り届ける]
…女将さんに言って、今日は客取らずに休ませて貰え。
[心境を案じ、そのまま休むようにとイレーネに提案する]
『ロスト』
[長い沈黙の後、ポツリとその名を口にした。
意識するよりも先に表に出た真名。
その瞬間、抗っていた一線を越えたことを自覚した]
ああ、こういうものですか。
では以降私のことは、ロスト、と。
宜しくお願い致しますよ、エウリノ。
[何かを諦めたようにそう答えて。
イレーネにも「よろしく」と囁きながら、疲れたような彼の気配は*遠退いていった*]
/*
…返事が遅くてすみません。
こちらこそお付き合いいただいてありがとうございます。
イレーネもご無理はなさいませんように?
勿論エウリノもですけれど。
それでは今宵はこれにて。
中身共々、本当に宜しくお願い致します。
…そうさせてもらう。でも…。
[言いかけると、どうしたといった様子で尋ねられ。
緩く首を振り、少し諦めたような風に。]
たぶん、もし女将さんに話が伝わってるなら…心配ないと思う。
人狼、かもしれない私に、お客さんなんて…
[おそらくつかない。
その懸念は正しかったようで。戻ると女将が渋い顔で出迎えてくれた。]
ユリアン、ありがとう。また…。
[そう小さく手を振り、娼館の中へと消えていった。]
[如何に人からの転変とは言え、人狼へと『生まれ』変わったことになるのだから、オトフリートにも真名があるのは道理で。
長考の後にオトフリートの口から漏れ出た名に、に、と口端が小さく上がった]
ロスト、だな。
真名が出るということは、我が同胞である証拠。
あの時の怪我が原因だとしたら、俺はアンタの親みたいなもんなのかな?
[遠のくオトフリートの気配にそう返したが、返答は期待していない。
オトフリートへ対する軽い口調はどこまでも続いていた]
[客は割り当てられない。
この状況では確かにそうか、と心中で思う]
……ん。
とにかく、ゆっくり休んで。
それじゃ。
[娼館へと消えるイレーネを見送って。
姿が見えなくなってからその場を後にした]
うん。
だから、ユリアン…じゃ、ないね。
エウリノ…様は、どうか自由で。
[一瞬、様を着けるか悩んだが、一応つけてみた。
そうしてオトフリートが真名を名乗るのを聞いてから。]
父から継いだ名は『ゲイト』。
[短く、告げた。]
[娼館を後にしてから、一度宿屋へと戻って。
当初の目的であった晩飯の調達をする。
こんな時でも腹は減りっぱなし。
尚且つ工房では技師が待っているために]
…さんきゅ、それじゃこれ代金。
[晩飯代を払い、包まれた料理を手に宿屋を後にする。
戻る途中、様々な視線を感じたが、極力気にしないようにして、足早に工房へと向かう]
……飯、置いとく。
[工房に入るなりそう告げて。
技師がユリアンの姿を見て顔を顰めた。
話が来たのだろう、と考えると、何を言うでもなく工房を出ようとする]
「…どこへ行く。
明日も仕事はあるんだぞ」
……分かったよ。
[それはここに居ても良いと言う言葉。
日常のやり取りでもあったそれが向けられたことは、ユリアンにとってとてもありがたいことでも*あった*]
/*
名前ようやく(ぁ)
はい、まだ先長いですしね。
お休みなさいロスト様。
こっちもそろそろ流石に集束予定モード。
エウリノ様もお疲れ様ですよ。
[渋い顔で出迎えた女将に、やはり今日から暫く客を取るのは止めるよう告げられた。
今のままじゃ、どのみち客なんて付きそうにないしねとも言われ、溜息に、申し訳なさそうに頷くと、くしゃりと頭を撫でられた。]
「アンタもアンタの親父も母さんも知ってるけど。
少なくとも私は、人狼だなんて思ってないから安心おし。」
[その言葉に少しだけ泣きそうになりながら。
頷いて、大人しく自室へと戻った。
その手には無意識に、胸の小瓶が*握られていた。*]
…敬称は要らない。
名は違うけど、いつものように呼んでくれ。
[名と敬称の間に間が空いたことに気付き、そう頼んで。
短く告げられた僕としての名を聞くと]
ゲイト……それがイレーネの真名に相当する名か。
[確かめるように反芻した]
何かあったらいつでも呼べよ。
直ぐに飛んでくからな。
[イレーネ──ゲイトに向けられた言葉には、今後はどこに居ても会話出来ると言う喜びが*乗っていたか*]
[伝え聞いた人狼様だからと思い丁寧な口調ではいたが、ユリアン…エウリノをどこか遠くに感じてしまっていたので。
敬称はいらないと言われ、嬉しそうな気配が伝わっただろうか。]
うん。ずっと、父さんも、父さんの父さんも、ゲイトだったって。
だから私も。
[そう告げた。]
[去り逝くロストの気配にも、深く一礼を返した。]
あ…うん。
…ありがとう。
[告げられた言葉に嬉しそうに。]
エウリノが、人狼様で。…よかった。
[そうしてお休みなさいと囁いて、自身もゆっくりこの赤い世界から消えていった。
手には黒い宝石と、小瓶が一緒に*握られたまま。*]
[座り込み、目を伏せたままで周囲でのやり取りを聞く。
いつになく凛とした態度のユーディットに、困惑がない、とは言わぬものの]
……真理、か。
[彼女の語る言葉の意味は、理解はできたから、小さくこんな呟きを漏らしていた]
それにしても。
[反面、内心に渦巻くのは複雑な感情]
……なんだって、今更。
[必要ないと、そう、思っていたものが必要とされるのだろうか、と。
過ぎるのは、そんな思い]
……何れにせよ、ここで座り込んでても、仕方ない、か。
[一つ、また一つと減っていく気配に小さく呟く。
ゆっくりと上げられた瞳に、先の陰りは見えず。
帰宅を促すユーディットの言葉に、そちらを振り返って一つ、頷いた]
あのねぇ。
保身のためにお手伝いさんを締め出すほど、俺は小心者じゃないんだけど?
[信用できなければ、という言葉に返すのは、いつもと変わらぬ表情と、冗談めかした言葉。
それから、やや険しい表情を自衛団長に向け、宿を出て帰途につく。
道中、向けられる視線は気にした様子もなく。
それでも、自宅に帰り着くとすぐ、もう休むから、と告げて自室に向かった]
……はあ……っとに。
[自室に戻るなり、口をつくのは愚痴めいた言葉。
灯りは点けずにベッドに寝転び、しばし、睨むように天井を見上げる]
……人狼、か。
[小さく呟きつつ、左手を上へと翳し。
しばし見つめた後、ため息と共に腕を下ろして*目を閉じた*]
−回想/昨晩・宿兼酒場にて−
[扉の先にあったのは普段の喧騒ではなく、不安と不信のない交ぜになった空気。皆の視線が老齢の自衛団長に注がれているのを認めつつ、カウンターの内に入り、女将へと買い物袋を差し出した]
はい、エルザ姉。
これ、頼まれてた奴。
[何時もの小言が返ってくるかと思いきや、上の姉は、声をかけられて初めて気がついた様子で――上げた顔は蒼褪め、瞳には怯えが過る。袋はきちんと受け取りきれず、女の手から滑り落ちかけた]
っ、と……、どうしたのさ。
[今度は確りと持たせ、視線をずらす。いつも柔らかな笑みを湛えている下の姉もまた、色を失って見えた。
大きく息を吐き出したエルザが、声の震えを抑え宿の女将として、簡潔な事実――人狼の存在と、容疑者の名を告げ、団長の話を聞くよう促した]
[各人の、叫び、憤り、恐怖、或いは好奇。
それぞれを表情も変えず青の双瞳に映していたが、収束へと向かったところで、組んでいた腕を解き、瓶とカップを乗せた銀盤を手に、ギュンターの元に向かった]
うちを話し合いに使うのは構わないけど、
落ちる売上の責任は取ってくれるんですかね。
[言いつつ、グラスを置き、琥珀色の液体を並々と注ぐ。
渋い顔を見せる老人に、口端を釣り上げた]
俺が仕入れた奴じゃない。
毒なんざ入ってないよ。入れても仕方がない。
[もう一つグラスに注いで飲んでみせると、ギュンターも口にはしたものの、すぐさま眉間の皺を深めた。辛口をと所望する彼に別の酒を用意しながら、疑問を投げる]
俺はともかく、なんで、ノーラ姉まで。
血筋で疑ってるんにしちゃ、エルザ姉は除外だしね。
どういう基準なわけ?
[問いに対しての答えは芳しくないものだったが、元より期待してはおらず。
グラスを傾けるギュンターを見下ろして、眼を細める]
……人狼、ねえ。
俺が自分の目で見たもの以外信じないって、
ギュンター爺なら知ってると思ったけど。
[半ば独り言のような台詞にも反応はない。
先に出した白ワインを再び注ぎ、一気に呻った。
喉を過ぎていく葡萄酒は絡みつくような甘さで、底に秘められた酸味は一種の毒のよう]
――、は。
[濡れた唇を手の甲で拭う]
ま。俺は俺のやり方で、やらせて貰うから。
[気負いのない口調で言って、傍を離れた。
思い思いに動く他の人々には声をかけず、カウンターまで戻る]
ノーラ姉、身体に障るよ。
この分じゃ仕事もないだろうし。早く帰って、休んで。
なんなら送ってくし、こっちに泊まってもいいから。
[矢継ぎ早に言って、一先ず口内を洗い流そうと、奥に引っ込んだ。
透明なコップを満たしながら、片手で、頬にかかる髪を掻きあげる。
ランプの灯りを受け、普段は隠れた耳許のピアスが、*白金に煌いた*]
…そうね、ありがとうアーベル。
[なんとか笑みを返そうとしたけれど、
ちゃんと笑えているかは分からない。]
あ、アナタ…
[迎えに来た夫に駆け寄り、思わずこぼれ落ちそうな涙を、彼の胸へと埋めようとして…]
…アナタ。
[肩を抱こうとした手が迷うように止まるのが分かって、胸が痛い。]
…わたしは違うわ。
信じて…。
[帰り道、手を繋いでも、心の距離はひどく遠い。*]
―診療所―
[物理的にも頭を冷やそうと奥の洗面台で顔を洗う]
人は弱い。
だが同時に人は強い。
だからこんな手段を取れてしまう。
…この手で殺せというんですかね。
[深い溜息が零れる]
――喉が渇く。
[どれだけ顔を洗っても、内に燻る炎は消えない。
掬った水を飲み下しても、一度覚えた渇きは消えない]
[手に掬った水を飲む。
緊張からくる喉の渇きを抑えて冷静に事態を受け止めようとする]
ミリィ。
[11人のことを考え、あの時宿には居なかった少女のことを思う。
命を繋いでくれた恩人。大切な相手]
…大丈夫だとは思いますが。
[彼女には家族がいる。
だが名前を挙げられたのは彼女一人だ。
どうしても気になる]
[二つのオパールを握ったままぼんやりとソコに佇む。]
ロスト様、あの。
[渇きを訴える声を聞き、遠慮がちに。]
渇いてしかたない時は、私を食べて下さいね。
そのために、私たちは人のままだから。
[真に人狼の力になりたければ、エウリノがしたように、僕を人ならざる者へと変えてしまえばいいのにそれをしない。理由の一つはこのためだと伝えられていた。]
[工房に入れてもらってからは、自室へと向かい]
……ねむ……。
[ばたりとベッドに倒れ込む。
ギュンターに告げられた事を聞いている間は睡魔なんてどこかへ吹っ飛んでしまって。
戻ってきて少し緊張が解けると再び瞼が重くなってきた。
徹夜していたこともあって、そのまま昏々と眠り続ける]
――ッ!
[ゲイトの囁きは燻る熱を煽る]
…はは。
仲間である貴女を食べたいとは思いませんよ、ゲイト。
それに許されるとも思いませんから。
そちらにいらっしゃる…先達に。
[エウリノに向けた意識は複雑なもの。
流石に『親』とは呼びたくなかった]
[深く眠りについていたためか。
ロストの呟きとゲイトの進言は耳に入ることは無く。
それは二人にとって幸運だと言えるだろうか]
[ゲイトの言葉を聞いたなら、必ずそれを止めようと殺気を漂わせるだろうから]
―――昨夜―――
[アーベルにオトフリートのことを茶化されて、気持ちを落ち着かせるのには、結構な時間が必要だった。
気づけば、夜の帳が訪れ始め、辺りを暗く染めていた]
……お腹すいたな。
うむ。気分転換はこれぐらいで充分じゃろ。わはは。
[オトフリートのことを振り払うように、わざと明るい口調で呟いて、家に戻った]
―――え?
[家に、灯りはついていなかった]
[エウリノから即座の反応が無かったことに胸を撫で下ろす。
一瞬とはいえ誘惑を感じなかったわけではない。
それはきっとエウリノの怒りを呼び起こしただろうから。
何よりも、自分がそうした感覚を強く覚えるようになっていることを、まだ直視したくなかったから]
な、何よ、もー。
二人でどっかに遊びに行ったのかしら?
可愛い愛娘置いて、何さらしてんじゃ、こんちくしょー。
[家の扉を開けて、居間へと。
そこには、すっかり冷めたご飯と、一枚の手紙]
ん?こんなの残すの珍しいな。
どしたんだろ。
[なんとなく、胸がざわざわする。
不安が、どんどんと増大する。
だが、それを見ずにはいられない。
ミリィは意を決して、その母の字で書かれた手紙を読んだ]
[―――曰く、手紙の中身を要約すると、自衛団の連中が家に来て、人狼と呼ばれるものが現れ、村の閉鎖をした。
そして、その人狼の容疑者の一人が自分であること。他にも知った名前が連なっていることが書かれていた。
そして、最後に―――]
『……自衛団の人達は、私達をこの家から離れたところへ隔離するように言ったわ。
何故なら、貴方が容疑者であるということは、その血筋である私達も、その可能性はある。
父さんは、最後まで抵抗して怒ってた。
そんな危険な存在が本当にいるならば、可愛い一人娘を一人にしておけるかって。
だけど、それも、自衛団が私達を隔離する理由の一つだったらしいわ。
もしも、貴方だけが人狼で、私達が人間だったとしても、私達はきっと貴方をかくまうから……ですって。
―――当たり前じゃない!娘を、容疑者だと疑われ、違ったとしても人狼というものの手の届く場所に置いておくなんて、出来るわけないわ!
自衛団はそんな私達を、無理矢理に連れ去った。私達は最後まで抵抗したけど、何も出来なかった。今は、父さんとも隔離された場所で、この手紙を貴方に書いているわ。
ミリエッタ。貴方を守ることを出来なかった私達を恨むなら恨みなさい。怒るなら怒りなさい。
その感情を忘れずに、私達にどんな報復をしようかということを糧に、最後まで生き抜きなさい。
どんな形であれ、またもう一度貴方と再会できる日を待っているわ。
ミリエッタ。体には充分気をつけてね。
―――愛してるわ』
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