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─広場─
ちょっと、考え事をしてたんですよぉ。
大丈夫、朝ご飯はちゃんと食べました。
朝を抜くと、一日大変ですからねぇ。
[笑う少女に、こちらも笑って返す。
敬語を使われない事は、気にしてはいなかった。
むしろ、使われる方が疲れる、というのは、親しい者なら周知の事で]
朝から元気に、どちらへお出かけですかぁ?
[ちょいと失敬した林檎をデザートに食後のお茶を飲む頃には、薄茶猫も窓の外からミルクに浮いたクリームのお裾分けに興味を移した。スプーンで猫用の皿にすくってやり、婆は振り子時計の針を見て腰を上げる]
そろそろ詰め物の準備もしないとねェ。
ツィムトや、わたしゃしばらくキッチンに篭るから好きにおし。
[「ミ゛ャー」と満腹でおっくうそうに鳴いた飼い猫を置いて、皿を片付け林檎を刻み出す。ナッツや干し葡萄、昨日ブレンドしておいた香辛料を混ぜ合わせる音が、楽しげに響き出した。
それに暫く耳を傾けた後、薄茶猫は開いた窓から外へ滑り出た]
─診療所の箒─
[実は、倒れた後の事は考えていなかったりする箒である。
というか、大抵の者は倒れて見せれば目の錯覚、と思って通り過ぎるし、それ以前に、いつもならもっと早く気付ける訳で。
ひそかに、守護箒失格、とか考えて凹んでいるかも知れない。
だからという訳でもないのだろうけど、つつかれてもまだ普通の箒のフリ。
というか、主以外には言葉が通じないわけで。
聞かれても困る、というのが本音かも]
んん、別におれは怖がらないんだけどな。
妖精さん?
[つんつんつんつん]
……まあいいや。
とりあえず探しにいこう。
場所しってたらちょっと向きを変えてくれるだけでもいいんだけどな。
無理かな?
[朝食は用意されていたシチューで済ませていたから、大した食事は青年には必要ないのだけれど、木の実の収穫はまた別らしく。
進んでいく途中で、聞こえる歌声。
その先を追って見つけるのは籠を抱えた小さな姿]
……おや、泥棒猫。
今日は栗泥棒か。
んみゃ?!
[泥棒猫と呼んだのは、昨日、準天敵に認定したばかりの青年だった。思わず、身構えたのは、個人的には不可抗力]
泥棒じゃない、よ!ヨハナに頼まれたんだから!
[妖精さん? という言葉に、箒、唐突にぴょい、と起き上がった。
それから、全力否定するように、ふるふるふるふる竿を振ってみたり。
妖精じゃないよ! アーティファクトだよ! と主張しているのだが、普通に考えても通じない、と気付いたのはしばらくしてから。
そして、気付いた途端、脱力したように、またぱったりと倒れた。
竿の先は、一応広場の方を向いていたりする]
うんうん。朝ご飯は大事だもんね!
お姉ちゃん小さいから一杯食べた方がいいよ。
[少なくとも自分よりは背の高い相手に向かい、そう言うと手にした籠を軽く持ち上げた。]
ウェーバーさんちにお使い。
母さんが、持ってけって。
違うなら、身構えなくたっていいだろうに。
[別の意味で構えられているのだと、気付いていないわけではなく]
……さっきのもお前か、妖精の環の近くにいたの?
[念の為、というように訊ねて、上から下までをじっと見る]
……妖精じゃないんだ?
んん、まあ良くわかんないからいいや。
[真顔で呟いた。]
ん、わかった。あっち?だね?
ありがとうね、箒さん。
助かったよ。
またね。
[散々、村から菓子をくすねておいて、今更泥棒じゃないも無いものだが、本人、全く悪びれる様子はない]
お前は、悪人面だから!
[しかもそれ、理由になってません]
妖精の輪?今日は近づいてないよ、危ないもの。
[小さいから、という言葉はちょっとずき、ときたかも知れない。
昔から、小柄な身体には軽いコンプレックスもあったりするので。
とはいえ、相手に悪気がないのはわかるので、色々は押さえた。頑張って]
……そうですねぇ。
でも、小さいから、中々一度に食べられないのですよぉ。
[なんか苦しいな、と思いつつ、こんな言葉を返してみたり]
ヨハナの御婆様の所にお使いですかぁ。
[そういえば、お菓子はどうなかったのかな、とか。
ちょっと気になったかも知れない]
あ、いた。
ミリィちゃん、薬ちょうだい。
雑貨屋の人からの依頼です。
[見つけた姿に駆け寄った。]
あ、リディちゃんだ。
おはよう。
今日は林檎の食べられるね。
[にこにこ笑顔。]
[ボールの中で混ぜ合わされた林檎達は、皺だらけの手で力強く押されてしんなりと馴染んでいく。
手を拭いてオーブンに薪を入れて温め、天辺の上にバター入れた器を置いてゆっくりと溶かす。その間に十分休ませた生地を透けるほど伸ばして溶かしバターを塗り、馴染んだ林檎を端に置いて幾重にも巻いた。
生地と中身がなくなるまでそれを何度も繰り返し、出来上がった何本かをオーブンに入れてようやく婆は息をついた]
ふゥ、さすがに重労働だねェ。
美味しく焼けるといいだがなァ。
[火の具合を見ながら、使い終わった道具を片付けていく]
はっはっは。
そういう事を言うのはこの口かね。
[乾いた笑いを発して、籠を抱えていては動きも鈍かろうと、ティルの頬へ手を伸ばす。大人げないこと、この上ない]
ほー、危ないって?
[問いかけながらも抓ろうとするのは止めない]
みぎゃー!いひゃいにゃーーっ!!
[籠を抱えたままでは、うまく逃げられず、あっさりと抓られ、じたじたばたばた]
妖精の輪より、お前の方があぶにゃいにゃーーっ!!
[懲りない]
……はぁい?
[唐突な呼びかけに、きょとり、としつつそちらを振り返る]
ええと、お薬ですかぁ?
雑貨屋さん……何のお薬でしょ?
[いきなり薬と言われても困るわけで、首を傾げながら問いかけた]
[その頃、昨夜の縄張り荒らしのずんぐりむっくりを探して巡回中だった猫は、森のどこかから聞こえてきた声に四つ足を止めた。
ぴんと耳を立てて話を盗み聞きする。
と言っても、人間の言葉はなんとなくわかるといった程度なので悪人面とかが何かまでは判らない。が、なんとなく同じ言葉を誰かから言われた記憶があったので、うろんげな目付きで茂みから頭を覗かせて声の主達を見上げた。
一応「ミ゛ァゥ゛(よぉ)」と鳴いたのは飼い主の知り合いの森番青年への挨拶と、(元)泥棒猫への牽制もかねている]
[最後の一磨きを終え、ぐ、と伸びをした。
光に透かして、満足気に頷く。
魔力を含む石は、光の加減により微妙に色を変化させる。
ふと時計を見。
もし自分がいない間に依頼主が来たなら、品を渡しておいて欲しい旨を親に告げ。
店から表の通りへと出て行く]
うん。昨日お茶をごちそうになったから、そのお礼。
[相手の押さえた表情に気づくよりも早く、新たにかけられた声に反応し振り向く。
手にした卵が心配になりそうな勢いで手を振った。]
アーベルさんもおはよう!
林檎のって何!?
[食べ物の話題に素早く反応して目を輝かせる。]
ええとね、確か、風邪薬。
っていうか、ええと、確か熱を下げるやつと、あとは咳を止めるやつ。
ほしいんだって。
だから、あとで届けるから、あとで下さい。
急ぎって言ってなかったよ。
はいはい。
[ぱっと手を離して、頭をぽんぽん、と叩いた。
こちらもこちらで、悪びれた様子はさっぱりとない]
妖精の環の危なさはどんなのなわけ?
ん、林檎のは、林檎のおかし?
名前なんだっけ。
エーリ君が作ってってヨハナおばあちゃんにおねだりしたんだって。
[本人が聞いたら怒りそうな言い回しで告げた。]
いっぱい、とりたての林檎を昨日あげたから、おばあちゃんの手ですごく美味しいお菓子になると思うよ。
リディちゃんの分も、ちゃんとあるかもね。
たくさん作れるくらいだったみたいだから。
うみゅう…
[頭をぽんぽんされて恨めしそうな目で青年を見上げる、聞こえて来た薄茶猫の笑い声にも、ぷう、と膨れて]
教えない、よ!
[あっち向いてぷん!]
お茶会でも、あったのですかぁ?
[リディの言葉に、首を傾げ。
勢い良く振り回される籠に、人事ながらすこーしだけ中身を心配した]
風邪薬……解熱剤と、咳止めですか。
急ぎでない、という事は、常備薬としての処方かしら。
それでも、一応、見には行った方がよさそうですねぇ……ブルーメのリボンの事もありますし。
[箒が落ち込んでいるなんて夢にも思わず、最後にぽつりとこんな呟き]
[オーブンから漂うのは甘い林檎とパイに似た香ばしい小麦とバターの香り。
焼き立てを大きなミトンを嵌めて天板ごと取出し、熱々の焼き立てシュトゥルーデルを切り分けていく]
よォし、いい感じに火が通ったねェ。
後は味だが…ぁちっち!
[一番端を口に放り込み、またもや目を白黒させた。猫舌の熱いもの好きはこの年だからもう治らない]
林檎のお菓子……焼き林檎かな、パイかな。
タルトもいいな。
エーリヒさんもお菓子が好きなんだ………。
[頭の中では青年の語るままのエーリッヒ像が出来上がっている。]
それは是非とも行かなければ。
ちょうどお使いに行くとこなんです。
雑貨屋さん自身は風邪っぽくなかったけどね。
もしかしたら隠れて風邪なのかもしれない。
[少し悩むように雑貨屋を見た。]
常備薬ってことじゃないのかな。
よくわかんない。
ほしいっていうから、お遣いに来たんだよ。
ほら、物々交換ってやつ?
ブルーメのリボン?
ミリィちゃん、新しいリボンつけるの?
[よくわからずに、きょとんとしている。]
また独りでうろうろしてるのな、お前。
[届けたのはやはり無意味だったか、とは思いつつ、警戒心を見せる薄茶の猫に対して呟き]
……なら、直接実験してみたら分かるかねえ。
[あっち向いた隙に、今度はティルの首根っこを掴みにかかる。
ツィムトにとっては昨日の自分を思い出させる動きだろう]
うみゃみゃ!
[実験という言葉に悪寒を感じて、掴もうとする手から擦り抜ける]
だめにゃー!あそこに近づくと、どこに飛ばされるか分からないにゃーっ!
[思わず薄茶猫の後ろに隠れてみたり]
[ちょうど良く漂い始めた甘い林檎とバターの匂いにはっと顔を引き締める。
早く行って自分の分を確保せねば。]
じゃ、あたし行ってきます。
お姉ちゃん、アーベルさん、またね!
[勢い良く片手を上げると張り切って駆け出した。]
[暴れて踏み潰される心配がなくなると薄茶猫は大胆にもティルの足元に来て匂いを嗅いでから見上げた。膨れた頬にも無頓着だ]
「ゥ゛ナァーゥ゛(昨夜、ミルクを飲んだのはお前じゃねえな)」
[昨日ティルへと踊りかかった猫は当然、少年が出した尻尾を見ていた訳で、妖精なら姿を変えて飲みに来たのかもと考えたらしい。
それからエーリッヒの方に視線を移し、説明してやら無いとまた抓られるぜと言う風ににやぁりとティルを見た]
ミルクは飲んでないにゃ?
[薄茶猫の声には、律儀に答えるあたり、猫同士の礼儀ということらしい]
だって、説明にゃんてできないし…
ですねぇ、御師匠様がいらっしゃらない状態で、体調を崩す人が増えると、ちょっと大変なのです。
[リディの呟きに、こちらも小さく呟き]
あ、はい、また後で。
[駆け出すその背を見送った]
物々交換でお使いなのですかぁ。
あ、リボンをつけるのは、ボクじゃないのですよ。
[リボンの話題には困ったように。
まさか、箒が動くところを目撃されていたとは思っていないから、どう説明したものかと悩んでみたり]
へえ。なるほど?
崖崩れやら森の違和感とやらとも関係あるのかね。
[隠れられていない少年を見下ろしつつ試すように問いを重ねた]
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