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─ 玄関前 ─
[広間に向かう前に、ふと思いついて外へと出た。
足を向けるのは氷の堤に砕かれた橋の方]
……あ。
[風に乗って、人の声が届く。
どうやら、復旧作業は始まっているらしい]
…………でも、まだ、かかりそう…………だなぁ。
[外への道はいつ開くのか。
そして、それまで自分は生きていられるのか。
考えても詮無いとは思うけれど、ふと、そんな事が過る]
……なー、モリオン。
[小さな声で、抱えた猫へと呼びかける]
ライヒアルトさんとユリさんが陽のひかりで、あの人は月のひかりだった。
……もし、まだ終わってないとしたら、あと、二人。
でも、演奏家さんって、なんかこう……おおかみっぽくないんだよなぁ。
[言われなければ、意識を彼に向ける事はなかった。
極論すれば、黙っていれば逃げきる事だってできたはずだ。
なのに、わざわざ自分に意識を向けさせた──その意味は、どこにあるのか、それはわからないけれど]
でも、あのひとが、違うとしたら。
[転がり出るのは、単純消去法。
無意識、唇をまた噛んで]
……って。
[先ほど切った部分が痛んで、顔を顰めた。
黒猫が、呆れたようににぃぃ、と鳴く]
るっさいよ、もう。
[その響きにむぅ、となりながらも、黒猫を離す事はない。
抱えている温もりは数少ない縁と感じているから]
……もどろか。
[切れ切れの声に耳を傾けながら、踵を返し、今度こそ向かうのは、広間]
─ 広間 ─
[広間に入り、最初に感じたのは空気の温かさ。
それにほっとしながら中を見回して]
……ライヒアルトさん、は?
[そこに欠けている姿に気付いて、誰にともなく問いを投げかける。
答えを聞くのが何となく怖くて、黒猫を抱える腕に力が入った。*]
―広間―
[話の途中、ユリアンが用意したという料理>>79を運んでくるのをじっと見て]
俺も町に居るときは自炊だけど、こんな風にちゃんとした物は作れないよ。
[と素直に感想を述べておいた。自分の料理については謙遜ではなく事実である。
そうして、先の質問に「わからない」と返すと、明らかに落胆したのが見て取れた>>85]
いや、人狼がいなくなれば終わるよ。
残っていたら…そうなるかもしれないけど。
[それは事実だから、落胆を覚悟でそう告げる]
ユリアンにも出来る事はあるよ。例えば、エーファを励ますとかね。
[気休めにしかならないだろう言葉は、それでも男の視点では間違いなく彼にしか出来ないことだった]
[暫くして、イヴァンが広間に顔を出すのを見て>>83、少しだけ安堵する]
お帰り。
[短い言葉には短く返す。
やがて、エーファも広間に顔を出すなら、全員がここに集まる形になるのだろう。
エーファが誰を見て誰を見ていないのかは知らないが、自分とイヴァンはまだだろうと思う。
さて、どうしたものかと思いながら、残ったお茶を口に運んだ。**]
[迎えた朝は、日の射さぬ曇り空。
自分と彼を繋ぐ聲はまだ聞こえない。
ようやく飢えを満たせた所だし、深く眠っているのだろう]
……日が差さないと、本当に真っ白。
[足元の雪を指で掬えば、伝わる冷たさに小さく笑う。
どれだけそうしていただろう、何時の間にか耳に届くその>>23>>24歌声に顔を上げ]
…………祈りの歌、ね。
[少年らしい微かな声が紡ぐその歌に、一度瞼を下ろした後。
再度開いた瞳に、おそらく向けられるだろう想いを受け止める覚悟を宿して声の聞こえる方へと足を向けた]
…おはよう、エーファ。
[歌声が途切れた所で声をかけると、気付いていなかったらしい少年が振り向いた。
>>25黒猫が鳴くその声と、投げられた言葉に、やっぱり見つかったのかと微か目を閉じて]
そう……………馬鹿、ね。
貴方も、
───…私も。
[瞼があがったその瞳に銀の煌きを映しながらも、穏やかな微笑みを浮かべて声を返す]
[エーファを馬鹿だと思うのは、一人で背負おうとしている事。
自分を馬鹿だと思うのは、エーファ一人に背負わせてしまう事]
(生の手助けを志している子に、生を奪わせてしまうなんて。
我ながら、酷い女だわ)
[だから、女は抵抗しなかった。
少しでも、彼が躊躇うことのないように。
罪悪感を、抱かせないように]
[食事中のイヴァンに小声で、]
昨日もだけど、その前も、……ありがとう。
[わからないという顔を返されると、]
倒れて、ずいぶん迷惑をかけたみたいなので…。
[申し訳なさそうに言い添える。]*
─ 広間 ─
[投げかけた問いに、ユリアンは目を伏せて小さく首を振る。>>92
その仕種に微か、身を震わせた直後に、端的な答え>>93が返された]
……ぇ。
[それに対して上がったのは、掠れた声。
かくん、と力が抜けて、その場に座り込んだ]
…………また?
[いっちゃったの、と。
声には出さないけれど、その言葉は頭の中をぐるりと回る。
黒猫が案ずるように鳴くのが、どこか遠い。
しっかりしなきゃ、と思いながらも、どこかがふつり、と切れてしまったような感覚に囚われ、動けなくなっていた。*]
[>>26その銀の刃は、女の胸にたやすく突き刺さった。
足元に広がる白、紅を散らしたその上に倒れ伏し]
(あやまらなくて、いい)
[薄れ行く意識の中、>>27届いた声に微か、微笑む。
少年が謝る必要は無い。
彼は間違いなく敵を討ったのだし]
(私だって、謝るつもりはないもの)
[女にとっても、生きる為、死なせない為に彼の祖父を殺したことを悔やんではいないから]
(…私は、小父様が朱花だと知らなくても。
小父様を殺すって、決めていたもの)
[女の命を奪った少年が、少しでも罪の意識を持たぬ様に。
もう発せない声では届かぬと知りながら、命尽きるまで独白を続けた*]
[そして、目覚めた彼の聲が女に届く。
すでに命が尽き果てて、返すことはできなくなっていたけれど]
──……ごめんね、イヴァン。
私、貴方を置いて、死んでしまったの。
[死にたくない、死なせたくない。
そう思っていたのはきっと、お互いに同じだったはずだから。
伝わる聲に、彼を悲しませてしまうだろう未来を見て眉を落とした*]
─ 広間 ─
[頭の中がぐるぐるする感覚は、祖父の死を目の当たりにした時と近いもの。
元引きこもり少年は、本当の意味で他者に心を許す事が滅多にない。
その彼が信を向ける、というのは実は相当な事で。
それだけに──失った反動は、大きくて]
…………。
[ユリアンが椅子を引いて、座るように促す。>>97
出されたお茶の香りが少しだけ気を静めてくれたけれど、漣は消えなくて]
……わかん、ない。
けど。
いるなら、さがさなきゃ。
[探してみつけて。
その先にあるものを思うと、どこかが軋むような心地がした]
……ライヒアルトさん、部屋、なんだよ、ね。
ちょっと……行って、くる。
すぐ、戻ってくる、から。
お茶、このまま、冷ましとい、て。
[途切れがちにそう告げた、直後にだっと走り出す。
立ち上がった時の弾みで離された黒猫が、慌てたようにその後を追いかけた。**]
……そろそろ、限界じゃねーのかな。
[それを齎したのは自分だけれど、今回ばかりは分かっていてやったわけではなくて。
様々なことが絡み合った結果と言える]
後を追わせるのも手、かね。
[一方的な考え方だが、それも救いの一つのはずだ]
[失われた女の意識は、すぐに浮上する。
一体何故と思い目を周囲に向ければ、雲越しの弱い日の下に広がる真白の上に咲いた大輪の朱花と。
その中心に横たわる自身の姿を見止めて、息を飲んだ後]
………そういう、こと。
[死しても、この『場』から離れることは出来ないのか、と。
現状を理解して、緩く息を吐き出した]
[祈りは届くだろうか。
物心ついた時から日課としてあったそれ。
死者となりしその朝も、それを行う。
閉ざされたこの『場』に
生きる者の無事を祈り、
普段と同じように過ごすのは、
そんな生き方しか知らなかったから。
静寂に包まれ紅く染まる部屋で
祈りのかたちをたもつまま修道士は目を伏せる。**]
[聲を共にしていた彼がこの場に駆けつけたのは、程無く。
けれど、それより早く姿を見せたのは、>>56オトフリートで]
…ううん。
謝るのは、私の方。
[だって、護るというその言葉を、私は信じられなかった。
信じて良いのか、どうしていいのかわからなくて、彼に問うことすら出来ないままで]
……護るって言ってくれたのに、お礼も言わなくて。
ごめんなさい、オトフリート。
……それと。
護るって言ってくれて、ありがとう。
[自分の傍ら、跪いて優しく触れてくれるその指先を見つめながら謝罪と礼を紡いだ後]
──…私の分まで、イヴァンのこと、護ってくれる?
[どうか、と切なる想いを届かぬ声で願った]
[そうしている内、>>48駆けつけたイヴァンがエーファに問いかけるのを皮切りに交わされる言葉を聞いて。
>>57泣くのを堪えるように強く唇を噛む少年を、眉を下げて見つめる。
そんな心を痛める必要なんかない。
そう言った所で伝わる訳は無いし、エーファが他者の命を奪って心を痛めない訳が無いことも分かっているのだが]
私たち…私は、生きる為に、死なせない為にしたことを悔やんではいない。
[悔やむのはただ一つ、少年一人に自分の命を背負わせてしまったことだけ]
貴方は、そんなもの。
抱えなくて、良いのに。
[届かなくても、紡ぐ言葉は止められなかった]
[その間にも、オトフリートは自分の骸の傍に跪いたまま。
>>58部屋まで連れて行くという声にそちらを向けば、彼の腕に抱えられた自分を見つめる]
……男の人に抱き上げてもらったの、初めてね。
[命を失くした後でもそんなことを思うなんて、と何だか可笑しく思えて顔を歪めた]
[そうして、部屋へと向かうオトフリートについていこうとした所で。
エーファとの会話はまだ続く中、>>66イヴァンがオトフリートに向けた願いに動きを止めた]
…そういえば。
お願いって言ってたのに、そんな余裕もなかったわね。
[忘れないでいてくれたイヴァンと。
>>74了を返してくれたオトフリート双方への感謝に溢れそうになった何かを、目を伏せることでやり過ごした]
[そのまま屋敷の中へと入るオトフリートを見送り、未だ会話を続けるイヴァンとエーファを見つめる。
強く噛み過ぎたのだろう、>>68少年の唇から流れる赤に目を瞠る。
けれどそれ以上に目を見開かせたのは、見極めたという二人の名]
…私を見つけるより前に、居る人はほとんど判別していたのね。
[恐らく明日にはイヴァンを見つける可能性も高いだろうとは、きっと二人ともに思っているだろう。
>>68>>71屋敷の中へと戻り行く二人の背を見送った後、女もその後に続いた]
─ 二階・客室 ─
[屋敷に戻った女が向かったのは、自分の骸が運ばれただろう部屋。
もう既にオトフリートは居ないだろうと思っていたが、>>60彼はまだそこに居て。
今まさに抱えていた女を床に降ろしている所だった]
…もしかして、部屋、探してくれてたのかしら。
[そういえば自分も、他の人の部屋は把握していなかったから。
オトフリートもそうだったのだろうと、余計な手間を取らせてしまったことを申し訳なく思いながら傍らに近付いて]
…そうね。
出来るなら、誰も殺したく、なかったから。
[語り掛ける声に返すのは、穏やかな響き。
為したことに後悔はない。
けれど、出来るなら為したくはなかったのも本心だった]
……でも。
できれば、貴方の音をちゃんと聴けないままで、死にたくなかったわ。
[彼自身は知らないままだっただろうけれど。
女が絵を描く切っ掛けは、まぎれもなく彼のバイオリンで。
その音を、今一度聴いて絵を描けたらどれ程幸福だっただろう]
[子供の頃、初めて彼の奏でるバイオリンの音を聴いたのは偶然だったけれど。
まるで降りしきる雪の様な彩が、目の前に広がった様に思えた。
その彩を自分でも奏でてみたくて楽器を習ってみたけれど、上手く行かなくて。
ならば視覚で再現しようと絵筆を持ってみたら、少しだけ近付けるものが描けて、嬉しかった。
それが、私が絵を描き始めた最初の一歩]
…貴方の彩に近づくことが、私の最初の目標だった。
[何時の間にか、この屋敷から見える景色がそれにとって代わっていたけれど。
根底はずっと、彼の彩への憧れがあったのだろうと思うから]
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