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[彼女が描くのは、大きな鳥。
長い曲線は、大きな翼
端に消える直線は、小さなくちばし。
言われればそうも見えなくもないけれど
なかなか見ただけでそうと判るのは、難しいだろう。]
[描きながら、隣の子供の絵を見て
何を描いているのか聞いたり、
それについて話したり絵に線を増やしたりして]
絵を描くのって、素敵ね。
たのしいわ、たのしいわ。
[本当に愉しそうに、笑う。
それから彼女は手を肩から大きく振って
描いた絵は、沢山の縦横無尽の線。
それは他の人からは何の絵かは判らないのだけれど、
彼女はとても満足げに、わらった。]
(憧れと恋心ってやっぱり違うじゃん?
オトせんせーに恋心とか、持ってるってきいたけど、私はどーなんだろーな?
絵師様に、恋心とか持ってるってことになるのかなー?
わかんないや。
お話したこともないし、当然だよね。)
(私がいちばん好きなのは、海の中。
私がいちばんわかるのは、ユリアンの空への気持ち。
同志だから当然だし。
でもそれも、恋じゃないよね。ぜんぜん違うよ、多分。
だってそれしか考えられないっていうなら、私は海の向こう側のことしか考えられない。
ふわふわと空を飛んでいけるのも、きっととっても良いことだけど。
そうしたら、あの向こう側も見れるのかな。)
─食堂外─
んあ、リディじゃん。よっす。
[食堂に入ろうとしたところで同志リディに遭遇。
進捗具合を聞かれて、あー、と頬を掻きつつ、]
ちょっとばかし壁にぶち当たっちまってるんだよなぁ。
理論は間違っていねぇはずだから、あとは熱した空気を逃がさねぇようにすればいいんだが。
あー、そっちも失敗かぁ。
そっちもどれだけの空気を逃がさずに持っていけるかが問題だよな。
普通の綿毛草の布じゃ目が粗すぎて上手くいかねぇし。かといって代替のモノと言っても量が確保できねぇし。
くっそ、足りないモノばっかで、ストレスたまるぜ。
[がしがしと頭を掻き毟る。]
……っと、わりぃ。思わず愚痴っちまった。
ともあれ、まだまだ先は長そうだが、俺は諦める気は更々ねぇ。
だから、お前も諦めずに頑張れよ。
俺に出来ることあるなら手伝ってやるし、遠慮なく言えよな。
[そう言って、互いの拳をごっつんこ。
去り際のスープのお勧めには、応と手を挙げて返し、食堂へと*入っていった*。]
―アトリエ―
……っ!
[は、と転寝から目を覚ます。
痛み止めを飲んだ後、引き込まれた眠りは夢に破られて]
……重いんだよ、なぁ。
[起き上がり、右の肩越しに振り返るよに背へと視線を向ける。
背の右肩近く。そこには蒼い三日月が座す。十歳の時に『昇った』、蒼の『月』]
……ま、言っても仕方ないがな。
[小さく呟いて、立ち上がる。
身体はだいぶ楽になっていたから、幾つか作業をしておこう、と思って。
スケッチブックを片付け、画材の残りを確かめる]
ん……採取に行った方がいいか。
[小さく呟いて、採取用の道具を詰めた鞄を手に取り、肩にかける。
逃げるな、と言われた記憶には、蓋をした。
それはもう、厳重に]
あ、でも崩れてる場所もあるんだったな。
ルート、変えるか……。
[呟きながら、アトリエを出る。
いつもはちゃんとしまっておく二本の絵筆。
代々の『絵師』が手にしてきたそれを収めた細工物の箱を、作業机に置いたままにしている事には、*気づかぬままに*]
― 図書館 ―
[書庫の片隅のデスクに戻り、今日の日誌をつけていたところへ、薬師の声がかかって、立ち上がった]
・・・と。
[薬師の姿が見える前に、噛んでいた蜜蝋を紙に包んでくずかごに捨てる。彼女には匂いで混ぜ込まれたキノコの少々危ない成分が勘付かれてしまいそうだったから、自分用にいれていたキノコ茶を一口啜って、口の中も洗っておいた]
ああ、調合用の本か。少し待ってくれ。
[所望された本を記憶から検索して二冊ばかり書架から取り出す]
これとこれが参考になるだろう。そちらの写しは、俺が直そう。読んでいる間に仕上げておく。
[渡した二冊と引き換えに、文字の薄れた一冊を受け取り、絵師の事を問われると]
子供を避けて転んだらしい。湿布は貼ったが、全治三日といったところかな。
[あっさりと暴露した]
食事も相変わらずろくに食ってないようだ。一度苦い栄養剤でも処方してやってくれ。
[さらにダメ押し]
[薬師が読書室へ本を持ち出した後、預かった本の薄れたページを別の紙に丁寧に書き写して、差し替えていく。薄れている方の紙は、後で再利用するためにストックした]
[やがて読書室の薬師に修復した写しを渡すために書庫を出て、教え子が残した壮大な誇大妄想を聞かされ、眉間に皺を寄せるのは、もう少し後のこと**]
―自宅―
[エルザを招き。しばしの会話(といっても喋ってるのは主に両親やエルザだったが)の後]
お、帰るのか。また来たい時や何かあれば来いよ。…だろ?親父
[といえば、「うむ」と頷き。母は母でおみやげをエルザに持たしたりなどしていて]
じゃ、またな。結構すぐ会うかも知れねえけど
[何せこの町意外にないしなぁ。と思いつつエルザを軽く手を振って見送った]
― 図書館/読書室 ―
あ っと。
しまったな、時間をかけすぎたか。
[頁を繰る手を止め、顔を上げる。
入って来たばかりの時には賑わいを見せていた室内から
人の気配は幾分失せて、調査は予定の項目を大幅に越えていた。
集中する性質のため、噂話に気付かなかったのは恐らく幸運。
卓上にばらける、幾枚も書き連ねた紙を纏めていく]
それにしても、全く。
原因が原因とは言え……
一度で懲りれば私も苦労はせんのだがなぁ。
[愚痴の内容が誰に向いているかは明白だった。
ずり落ちかけた眼鏡を上げ、代わりに溜息を落とす。
しょっちゅうぶつける割には奇跡的にレンズは無事だった。
度が合わないのはその代償かもしれないが]
[本を返して立ち去っていく人々を見送りながら、薬師の愚痴を耳に止め、僅かに口の端を上げる]
薬師殿は苦労性だな。
[つぶやきは独り言に近く、本人に聞こえたかどうかは分からない]
いかん。
歳を取ると独り言が多くなるな……
いや、私はまだ歳じゃない……
[勝手にどつぼにはまりつつ、
開いたままの本を閉じようと手を伸ばす。
そこには薬のイメージとは縁遠いような、
水晶花との呼び名を持つ花が描かれていた。
その澄んだ紫は、染料にも用いる事が出来ると聞いた事がある。
もっとも、描かれたそれに色はなかった]
先人は偉大だな。
[また独り言。
それに重なるように、別の声が微か届いた]
[のんびり、特に宛もなく……というか、一応、目的地は決まっているのだが。
急ぐ必要もないので、のんびり、のんびりと歩いて行く。
痛みが残っているのは、一応、否定するつもりはない。らしい]
……お。
[不意に歩みが止まったのは、壁になされた様々な落書きが目に入ったから。
自分も昔やったなぁ、と。
ふと過ぎったのは、そんな感慨めいた思い]
好きで苦労しているわけではないぞ。
[紙束は卓上に置いたまま、
閉じた本を手にして声の主の元に向かう]
ああ、そうだ。
治療はお前がしたんだろう?
そちらの薬は足りているかな。
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