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「ハジマル、ハジメル。
サァ始メヨゥ、我ラノ宴ヲ」
[桜の童女に合わせるかのようにコエが言う]
「期待シティルゾ。
我ガ宿主ヨ──」
[愉しげな哂い声。
ココロを蝕み行く]
[リィーーーン。リィーーーン。]
[頭に響く鈴の音。昼過ぎに桜の木を見に行ってから、その音はひっきりなしに鳴り、徐々にその強さを増していっていた。]
…………本当に鬱陶しい。
「いのちのめぐり」
何が始まる、という疑問の声。
それに、童女は歌うよに言葉を返す。
「ちからある子ら。
集い来たれり。
力の流れをただすため。
気脈の行く末定めるため」
[童女の語る言葉、何か心の中でざわつく思いが沸き起こった]
う、うん…。
[千恵の言葉に返すのは生返事、しばし呆然としてからはっとしたように幼馴染のことを思い出す]
伽矢くんはどこかな?
[周囲に視線を巡らす、自分達が抜けてでてきた野次馬達の方に視線を向けるとそこに見知った幼馴染の姿を見つけることができた]
千恵ちゃん、ほら伽矢くんのところにいこ。
─中央公園─
[ふるり、と頭を振る]
……やっぱ、訳わからん。
[以前、これと同じ光景を見た時も、結局最後まで何が何だかわからないままだった、と思い返し。
それからふと、ある事に思い至る]
ちょっと、待てよ。
……同じ、て、事は。
[過ぎるのは、嫌な予感]
―中央広場―
……。
[待つ間、視線は広場のある方角を見ていた。
瑶子の声がし一つ瞬いて、首を横に向ける]
……あ、あー。
本当は喫茶店に行く筈だったんだけど、店休日なの忘れててさ。
しょうがねーから、広場にでも戻るかなって……
[話しながら再び広場の方角を見る。
額を軽く押さえた]
[疑問に言葉が返って来たことに、僅か驚く表情になる]
力の流れを、ただす…?
…んだよ、それ。
意味わっかんねぇ……。
[オレは眉根を寄せて、右手に込める力を増やした。
蓬色のマフラーに皺が増える]
はあい。
[桜にも『おうか』にも、興味はたっぷりあるが。
それより大事ないとこの名前を瑞穂に言われると、意識はそっちに向かう。]
かやにいちゃ。
[瑞穂の手を取ったまま、てててと伽矢に近づいて、足元にとびつく。
どこかいらいらしている様子に、きょとんとしながら下から見上げ。]
かやにいちゃ、どうしたの?
……ふむ。
[振り返り、何歩か歩いてみたが、その歩みはすぐに止まり、腕を伸ばす。
その手に感じるのは、壁。
無色透明。向こう側の風景は見えるが、動くもの姿は見えない]
まー、そうだろうなあ。
少なくとも、私は抜け出れないよね。
この壁が、行きは入れて帰りは出れない構造なのか、網目がまだでかくて力を持った人間が出入りできなくなっているのか、それとも、もう誰も出入り出来なくなっているのか。それはわかんないんだけど。
最も。
やんなきゃ行けないことがあるから、出て行くわけにはいかないんだけど。
それでも、自由に出入りできないってのは気が滅入るなあ。
うっかりだね。
[今日の所業は棚に上げて史人を評した]
そう、なら一緒に行こうかな。
時間余ったし。
[額を押さえるのにはまた首を傾げて。
けれど一緒にと言いながらもう歩き出していた]
― 回想・中央公園 ―
[史さんの曖昧な笑みは、『ハズレ』と暗に告げていた。
しばらくありきたりな会話を交わし、公園を出る彼を会釈で見送った。
子供達もどこかに移動している。
あの三人でおかしな事をする心配はなくって、
私は中断された読書を再開した]
[雑誌をめくりながら、話のタネになりそうな所には印を付けていく。
鈴の音のような微かな音には気づきもしなかった]
意味わっかんねぇ…。
けどまぁ、邪魔するんじゃねぇなら放っておくか。
[他へ届くと知らぬまま、頭の中で考える]
にしても……腹減ったな。
[従妹に飛びつかれても、受け止める余裕が無かった。
足への衝撃で、ようやくそれに気付く]
あ、ああ、千恵。
…ちょっと、気分が悪い、だけ。
―コンビニ前―
なんだろーな。
瑶にそれ言われると妙に悔しいんだけど。
[冗談のように言いながら浮かべた笑みはやはり苦笑めいていた]
……あー、そう。
[一緒にという言葉を特に拒むでもなく、やや遅れて歩き出す。
先に歩き出していたのを止める素振りもない]
[そうして不機嫌マックスで歩いていると、道の向こうに見知った顔を発見。]
あれは……神楽?
[その肝心の神楽はぺたぺたとパントマイムのような動き。
その様子を歩み寄りながら、ジィッと目を細めて見ていたが、]
…………何してるんだ、神楽?
[可哀想なものを見る目をして声をかけた。]
― 少し前 ―
[空が夕暮れの赤みを帯びた頃だった。
帰宅しようと雑誌を袋に戻していると、
一陣、公園を強い風が吹き抜けていった。
バタバタと捲れる雑誌を押さえるのに、私はやっきになった]
『……さくら、さくら……』
[遠く彼方から、女児らしき歌声が響く。
何故か声を出すのがはばかられるような気がして、
随分綺麗な声、との感想は心の中に留まった]
伽矢くん、大丈夫?
[童女のいっていた言葉を反復し、いらだつ様子の幼馴染。
かける声は遠慮がちに童女の声が聞こえる]
くらうもの?揃った?
[不安をあおる言葉、それとともに何か別の何かが自分の中でざわめく]
伽矢くん、無理しないでね。
あれなら家にくる?千恵ちゃんも一緒に。
[伽矢の家にはまた帰りづらいだろうからの提案。
千恵をあまり夜遅くまで外に連れ歩くのはという思いもあった。]
桜の下のやり取りを、童女はしばし、楽しげに見つめ。
それから、ひょい、と立ち上がる。
挙動にあわせて、鳴る、鈴。
「ちからのたまゆら。
おもいのひびき。
かなでられるは。
いかなるねいろ?」
吟ずるような言葉を残し、童女はふわり、桜色の内へと*消えてゆく*。
──喰いたい。
[目の前で足にひっつく従妹に、そんな衝動を覚える]
──いや、ダメだ。
千恵だけは、ダメだ。
[僅かに残る理性がそれを否定する。
鬩ぎ合う二つの感情に、オレはますます気分を悪くする]
んお?
[かけられた声に気づき、振り向くとそこには見事な白い人間がいた]
おお。せったんじゃん。
いやね。そのね。壁がね。
……んー。せったんも壁を触れるのかなあ。
やってみると、せったんも分かると思うんだけど。
まあ、何も無かったら、アホな子が一人いたんだということで終わっておくといいと思うよ。
ほれほれ。ちょっと腕伸ばしてみ。
[言いながら、今まで自分がパントマイムのようなことを繰り返していた場所を指差す]
―中央公園入口―
だって事実だよ。
[感情を出すのは苦手だが言うことは言う。
史人のネタも、笑わないのに「面白かった」「イマイチかな」と評してしまうようなところがあった。
先に歩いてしまうのもよくあること。
けれどそうして公園に近づけば、嫌でも異変が見えてくる]
桜…?
[風に乗って届く花弁。そこで足が止まった]
「…………疎マシイカ。」
…………えっ!?
「疎マシイカ? 汝ヲ好奇ノ目デ見ルにんげんガ。」
「妬マシイカ? 汝ヲ縛ル肉体ノ制約ガ。」
そ……れ、は。
「汝ガ望ムノデアレバ、我ハ汝ニ力ヲ与エヨウ。」
「ソノ肉ノ鎖カラ汝ノ身体ヲ解キ放ッテヤロウ。」
俺、は……………ああ、そうだ。もうたくさんだ。
こんな、太陽に焼かれる体はもうたくさんだ。
おい、コエ。お前が悪魔か何かは知らない。
いや…………そうか。お前が桜の怪異の一因か。
だが、そんなことはもうどうだっていい。毒を喰らわば皿まで、だ。
いいぜ、のってやるよ。もう好奇の目は飽き飽きだ。
[そう言うと同時、そのコエはにたりと笑みを浮かべる。
ぞくり、背骨に氷柱を突っ込まれるような感覚が走った。]
「イイダロウ。ココニ契約ハナサレタ。我ハ、汝ニ力ヲ与エヨウ。」
─中央公園─
[吟ずるような言葉を残して消える童女。
は、と零れ落ちるのは、ため息]
……なんだかねぇ……。
[吐き捨てるように呟いて。
それから、視線は童女が消えた辺りを睨む紅の女性へと向く]
……なあ、あんた。
あんたもアレ知ってるって言うか……。
あれに会うのも、こういう状況も。
初めて、ってわけじゃ、ないんだろ?
伽矢くんがそう言うなら…。
[返す言葉にもまだ心配げな様子で千恵の手を引きながらベンチに一緒に向かう]
そういえば百華さんどこだろう?
[ベンチに向かいながら当初の目的の人物の姿を探す]
[問いかけに、向けられるのは鋭さを残した──けれど、どことなく問うような視線。
それに、軽く肩を竦めて]
いや、なんていうか。
桜に近づくなって警告してたり、さっきの様子といい。
事情知ってるとしか思えんし。
……少なくとも、ここにいる中では一番事情、詳しいと思うんだけど。
俺も、仕事で色々調べたのと……あと。
『実体験』で、多少は知ってるが。
詳しい事は、ほとんどわからないんで、ね。
だいじょうぶ?
[伽矢を引っ張っていこうにも、そんな力も背もあるはずなく。
近くをちょろちょろ、瑞穂の手を握りながら心配そうに。
うさぎもちょろっと揺れている。
瑞穂に言われ、はっとして。
百華の姿を探してきょとりと。]
ももおばちゃ、帰っちゃったかなぁ…。
[途中桜が目に止まる。
童女はどこかに消えていた。]
あれ。おうか。いなくなっちゃった。
[残念そうに呟いた。]
[軽く頭を押さえていたが、せったんという呼ばれ方にじろりと目を向け、]
……せったんと呼ぶなと言ってるだろうが。
俺もお前も、もうそんな呼び合いする歳じゃねぇんだし。
…………って壁? んなもん、どこにも……
[首をかしげつつ、そう言って手を伸ばし、]
……なん、だと。ってか、何だよコレ。
[手に感じるのは確かに壁。向こうは見えるのに押してもびくともしない。]
― 少し前 ―
[響く歌に聞き入っていると、僅か、背筋に寒気が走った。
風邪でも引いたのかと、羽織っていた上着の前を閉じた。
そして、私は目を擦った。
こんな季節に桜が。桜の花が咲いている。
そして桜の枝の上には、一人の少女]
危ないじゃない、そんなとこ……!
[ベンチから立ち上がると、少女の傍――桜の傍へ*駆け寄った*]
[ベンチへ辿り着くと、背凭れに体重を預け座り込む。
その状態で一度深呼吸をした]
……始まる、か……。
[小さな呟きは二人に届いただろうか。
母親や童女の話題が聞こえると、背凭れから身体を起こした]
…お袋、仕事のために戻ったかなぁ…。
[碌に周囲を確認していなかったが、そんなことをオレは呟いた]
― →中央広場入口―
さいですか。
[軽く肩を竦めた。
面白いなら笑って頂きたいと常日頃思っているのはさて置き。
やはりその足は広場の前まで来て止まった]
……。
[軽く目は見開かれるが、驚きの言葉はなく。
満開の桜を瞳に映した]
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