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[わらう狐の、真意は定かならず]
――……異端、
[一瞬、翳りを帯びる眼。
ゆっくりとまばたいて、いろを消す。
手は、口許を覆った]
彼を邪魔に思うということは、彼を知る者。
私を邪魔に思うということは、私の力を知る者。
一番に該当するのは鷹の目だけれど、
彼がそうならば、わざわざ訊ねに来る必要はない。
偽装としても、人目の薄い場所では効果が――……
[そして世帯主やその幼馴染には知らせておらず、
疑った先にあったのは、不可解な男の存在だった。
音にして零していた思考は、後に続いた狐の言葉に止まる]
……、…………意外。
[先程から、意外に感じてばかりだと、己でも思った]
[逆さまの顔には鼻を鳴らし、無言のまま小屋に手をかける。
起こさぬ様にそっと覗き込むと、子犬は尻尾を後ろ足の間に挟み込んでいた。酷く怯えている様子に眉を顰める。
しゃがみこみ手招きながら、振り向いて後ろを見た。]
……どんな悪戯したらこんなに怯えるんだ。
叱ると怒るは違うはずだがな。
[カレンとオーフェンが似た話をしていたとも知らず、呟く。]
鷹目殿ならば、まァそうせずとも、お前を封印させてしまうのもたやすかろうな。
[誰を疑っているのか、狐はまだわからずに、一つの思考を潰す。
しかしぽつりと落とされた言葉に、わらった。]
おや、何が意外やら。
―回想―
[ラスの具合の悪そうな様子に家まで送っていくべきかとも考えたが、徒歩では却って疲れさせるだけだろうとも思い。
気にはかけつつ、家路を辿った]
…見舞いにでも、行くべきかね。
[久し振りの自室の寝具の上、眠りに落ちる前に思いついたのはそんなこと]
/*
なお、纏わりついて離れないのは骨だけでなく飼い主が懐いているからだと思う。
匂いが染み付いているせいかもしれないが。肉とか肉とか肉とか。
えぇと、まぁ、色々…
[もごもごと口の中で、言い訳する子供のように口を尖らせていたが、そのまま玄関で意識を失うかのように眠ってしまった。
脱力した体はぐったりと、背にも汗が滲んでいる。]
キャンキャン!
[主が眠ったのを見てか、疾風は小屋からそっと出て来てスティーヴの足元へと纏わり着いた。]
[手を彼女の頭に伸ばした。
子どもにするように。]
ここにはそれで罵るものはない。
――もっと酷い異端がいるからな
[わらった。]
……確かに。
[潰された可能性。
己が疑われていた事は理解している。
余所者だという事実と、翼の件のみを長に伝えていたならば]
いえ。貴方が、そう口にすること、かな。
[短くも長くも感じられる時間眠りにつき、少し体が回復した。立ち上がり、施療院の先生に処方された薬を飲む。家を出ていつものように墓標に祈りを捧げると、ふらふらと森の中へ向かう]
エリィさんは、ジョエルさんと縁の深い人……が、堕天尸かも、って言ってた。
……でも、アヤメさんは、エリィさんを封じられないように護った、から、違う……あいつ……鷹の、目?……も、違った。後は……
まさか、ラス……さん……違う、よね?
[その考えを打ち消すように、小刻みに頭を横に振る。以前ラスに触れられた髪がひょこひょこ揺れた]
[きょとり、またたく。
先日の事もあってか、
退がりはせず、
その手を遮ることもなく。
ただ、わからないと、小さく声を零した]
……確か、このへん……?
[何かを探すように視線を動かし、森の中を歩く。やがて目的物である、地面に散らばる薄金の羽を見つけ、その上空へと視線を送る]
ラスさん、いない……や
[それを心のどこかで望んでいた。ほっと安堵の息を吐く。そのまましばらく時を過ごし、やがて森を後に*するだろう*]
……全ては、
退屈を凌いで、愉しい事を求めるため?
[問いたかったことは、
恐らく、異なっていたけれど。
金糸雀色の瞳が狐の金の眼を見つめ、揺らぐ]
[答えはほぼ返る事なく、体から力が抜けた様子が見えた。
失神に近いその姿に渋面を浮かべ、大股で歩み寄った。
家の中を覗くが物音は何もない。]
……失礼する。
疾風、ラスの部屋は何処だ?
[起きている者はいない様子に一言断り、細い体を抱え上げる。
流石に部屋までは知らず、足元の子犬に問いかけてみた。]
[狐がわらう]
否定はしない。
が、そうだな――
ひとつだけ、はっきりしているのは。
[揺らいだ目を見る。]
俺は、嘘はついていないのさ
…クゥ。
[犬は、降られた言葉には再び怯えるように体を丸めるが、主が眠っているからか、とたとたと4つ足を交互に動かして狭い家の奥の部屋へと先導する。
布団と小さな机、畳まれた服が入った籠だけが置かれたその長身には明らかに小さな部屋の扉の前でピタと止まり、自身は入らずにスティーヴを見上げ]
アン!
[一声あげた。]
[朝、目覚め、身支度を整える。屋敷の中を歩み、厨房から適当な果物をくすねていく。それを見るものがあれど気にはしない。咎められることは無いのだから。
厨房を出れば、始まるささめき声。自身に愚痴かと耳を澄ませれば話はそれに留まらず]
……アイツ、身内にまで疑われだしたか。
当然と言えば、当然だろうけど。
[溜息を吐き、外へと出る。]
[震える羽根には手を伸ばさずに、ゆるり頭をやさしくなでて]
他には。
さて、あると思いたければあると思えばいい。
ないと思いたければ――そうすればいい
[わらった]
嘘は。
それを信じるかどうかも、お前が決めれば良いさ。
[村の中もまた、多くの噂が飛び交うようになっていて、昨日の広場で起きた事も風に乗り、耳に届く。
赤髪の少年が封印された事、銀の異形の翼の少女が力持つものと名乗り出たこと]
…ああ、これは……広場に居なかったのは正解、かな。
[自身の身にその情報が入ったと、主に知られれば動かざるを得なくなるかも知れず。
重い顔のまま、周囲に立つ人間にラスの家を尋ね、示されたその家の敷居を跨ぐ]
……そんなに怯えるな。後で言っておいてやる。
[体を丸める様子に呟き、小さな四足の進む方へ付いて行く。
扉のひとつに止まる姿を褒めてやり、中へ入った。
小さく質素な部屋を見回し、起こさぬ様に布団に下ろす。]
……このままだと布団が湿気るな。
着替えさせる方がいいか。
[服の籠があるのに気付き、躊躇いつつも手を伸ばす。]
[目の前の玄関は、何故か不用意にも開け放たれていて首を傾げる]
お?ノックをしたら美人だと言う妹さんが出てきてくれるなんて夢のパターンはあっさりと崩れたなぁ。
[軽口を紡ぎ、カツリ、靴音を立て玄関の内へと入る]
おじゃ……
[言いかけた声は、犬の鳴き声に機を失い]
ワウ!
[疾風はスティーヴの足元に纏わりつつ、その足元を前足でテシテシと叩いては玄関に向けて吠える、を繰り返す。
スティーヴが玄関へと向かうまで、それは続けられる。]
……私には人の心は視えない。
思いたいように思うしかないものかな。
真実は、あって、ないもの。
[独り言のような、ことば。
手を邪険にすることなく、眼を細め、
ちいさく吐息を零した]
私には、信じることは、難しい。
信じても、それは、とてもか細い糸だから。
/*
…カルロスが部屋を覗いたらスティーヴがラスの服脱がそうとしてるとか
何そのギャグ!!!
…とか思ったなんていえません。
赤で言おうかと思ったなんてそんな
*/
疾風、静かにしろ。起きるぞ。
[懸命に侵入者を知らせる子犬に低く命令し、ラスに布団を掛けて玄関へ出る。
そこにあった意外な顔に、片眉を上げた。]
……驚いたな。どうした、何か用か。
そういうものだろう。
誰の目にもあきらかな真実もない。
お前はお前のしたいようにすればいい。
[手を離す。]
あァ、そうだ
お前は、世界のことわりとは、何だと思う?
[犬の泣き声が止むのと共に、聞こえてくる足音。
呼び鈴代わりの便利さに軽く感心していれば、出てきたのは明らかに、そこの家人ではなく]
いや、まあ…こっちも驚いてるんだけど。
何かって、一応お見舞いのつもりでね。昨日、少し具合悪そうなトコに、更に負担かけたから…果物の一つでも差し入れようかと。
[果物籠を持ち上げ、示す]
そっちは、どうしたの?
クゥ!
[言われた事が分かるのか、疾風は大人しく嬉しそうにスティーヴの後をついて歩く。
カルロスの姿を見ると、クゥ?と高い声を出して首を傾けた。]
[首を傾げる疾風を見れば、膝を折り、視線を下げる]
お前、ここんちのか?賢そうで何よりだ。
育ての親の躾が良いのかね?
[小さいものの扱いが得手そうなラスを思い出し、頷く。
数日前に、犬の賢さに関する話で不機嫌になっていた事を思い出せば、非常に複雑な表情を浮かべたかもしれないが]
……そうか。
負担をかけたなら当然だな。部屋にでも置いてやれ。
[カルロスの示す籠を見、頷いた。出所など知らない。]
俺は睡眠不足で倒れた馬鹿を寝かせていただけだ。
………どいつもこいつも。
[低く呟き、カルロスを見る。]
流石にね…普段だったら女の子の見舞い以外は行かないんだが。
まあ、俺にだって、罪悪感の一つくらいはあるのさ。
部屋に…って、断り無く上がっていいもんなの?
[既に玄関に入っているのは、置いておき]
そもそも、ラス本人は――…って、そう言うことか。
一応聞きたいこともあったんだが、止めとくか。…全く、虚がもう普通の人間にも影響しだしてるなんてことは無いんだよな?
[ひとりごちるように呟き。スティーヴの視線に気づけば、静かに見返した]
…何?この村にそういったバカと強情張りが多いのは非常に同意したいところだけど。
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