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[左手に隠れる紺色の髪が、端から白銀へと変わっていく。
口元は尖り、瞳は吊り上がり。
ぱさりと落ちたバンダナの下からは獣の耳が顔を覗かせた]
だから。
俺は貴様らを喰らう。
安寧を奪った貴様らに、全てに対し、復讐してやる…!
[白銀は髪に留まらず、顔や腕、ついには全身を覆い。
翳していた左手を外すと、そこに居たのは白銀の半人半獣の姿]
[自分の名前を呼ぶ声に、そちらを向いて、軽く手を上げて挨拶をする。
近づいて見えたイレーネの様子は、表情も、声も、いつもと変わらない穏やかさ。
けれど、何か不安がよぎる……イレーネが狂える人とは知らないが、ユリアンとは仲がよかったと知っていたから。
できるだけ、普段と変わらない表情を作り、近づいていく。わずかながら、緊張していた面持ちが現れていたかもしれない]
[白猫は青年と女性を、交互に見やる。
眸は白金というよりも、透明に近かった]
人間は、弱い。
そんなものだよ。
[近づくさまを、身動きせず、眺める]
そう?
嫌いじゃないけどね、ああいうのは。
でも。
……馬鹿だね。
[赤き世界に落とされた言葉と気配。
獣化により飛びかける理性がそれに反応する。
僅かに残った理性は、ゲイトの頬を撫で、その場に留まった]
[ピクリ、と背が跳ねた。
強い、あまりにも強い意思を伴った声]
エウリ、ノ。
[呟き、ゆらりと歩き出す。
声のした方へ。今度は自らの足をつかうように]
[咆哮を聞き目を閉じる。どこか別な世界を感じ取るように。
目の前の出来事から意識を離す事はしなかったが、傍に近づいてきたティルには少しだけ気を向けた。]
こんばんは。
危ないのに、こんな所まで来て。
[語る言葉は穏やかで。いつものそれと変わりが無い。]
ティルは私が怖くないの?
私はユリアンに、人狼様に仕える僕なのに。
[緊張しながらも近づく意識に、そう問いかける。]
[全て飛んで行ってしまうかと思っていたのに。
頬を撫でられる気配に泣きそうになった。
まだここにいる、居てくれる。
それがとても嬉しかった。]
弱くても、強くなりたかったの。
まぁ……生きるのに必要なぐらいには強くなれたから、
良かったかな。
[ゆっくりと歩を進め]
うーん、私じゃあれが限界だったんだけどな。
[少しだけふくれっつらになり。
ふ、と扉の外を振り返る。]
……始まった。
[目を眇め、去り行く白を見送り、歩を踏み出す]
そうじゃなくて。
……お前まで、
死ぬ事無かった、って言ってんの。
[ユーディットが振り返った瞬間、
すれ違いざま、ぽん、と頭を叩いた]
[述べられる言葉。
それを、緑の瞳は静かに、受け止めて]
……それが、どうしたって?
だから、自分は悪くない、正しいと。
そう、言いたい訳か? ……は。
[口元、掠める笑みはどこか冷たく]
馬鹿ばかしい。
いくら理屈をごねても、正義なんてもんはどこにもない。
お前たちにも、俺たちにも。
死にたくないものは、生きるための術を講じる。
互いにそれをやった結果がこれ……それだけだ。
……俺は。
お前らの、悲劇の主人公ごっこに付き合う気はねぇ!
[鋭い、宣言。
直後に翳される、左手の銀の短剣。
瞳に、表情にあるのは、成すべき事を成さんとする覚悟のみ。
情に流される事なく、毅然として。
流血に終わりを告げるために]
Die Flamme, die ich Leben und Feuer hole.
Ich helfe ihm und wohne in mir!
[唱えられる言葉に応じて立ち上る、焔の気。
それを纏い、白銀の姿へと踏み込む。
同時に、その勢いを乗せた突きを繰り出して]
[足取りは遅い。
振り払いきれていない悔悟を象徴するかのように]
[それでも一歩ずつ前へと進む。
咆哮が響いた方へ。村外れの丘へ]
(復讐を!全てに復讐を!全ては主の望むまま!)
[内を流れる血が叫ぶ。
それを、静かに受け止める。
今はただ流れる水のように、目の前の出来事を受け入れるだけ。]
だったら誰が殺されても仕方ないのに。
[ぽつりと呟く言葉は内に留めた。
それは、こちら側にも当てはまる故に。
そう仕方ないのだ、相容れぬ者同士がそこに在るのだから、仕方ないのだから―
それなのに、悔しくて仕方ない。]
わ。
[びっくりした、と頭を押さえ。
すれ違いそうになるアーベルを追いかけるように歩きだす。]
そりゃ、私だって死のうと思ってたわけじゃないんだけど……
……頼りにしてた探偵は消えちゃうし。
[馬鹿はあんたでしょ、と言い返す。]
< なぁ。
白猫の足はさして早いわけでもない。
けれど、追いつくには、そうかからず。
影の周囲を、くるりと巡る >
俺は、いいの。
元々、如何でも良かったし。
[己の命に価値など、見出していなかった。
けれど。
ユーディットは見ず、歩みを止めることもなく]
……全く、意味がない。
[呟いた。
相打ちを狙わずとも、良かった筈だった。
中途半端だと称する人狼を生かして、苦しむさまを見ても。
――そうしなかったのは]
―――。
[風が吹いた。
村の様子を眺めている女性の髪が、勢いよくなびく。
それは、ミリィ。
いや。姿かたちはよく似ていたが、雰囲気が違う。表情が違う―――何より、翼が生えていた。
そもそも、死者であるミリィならば、気候により、髪がなびいたりするのはあまりありえないことであった。
感情のこもってない目で、村を、人を、空を、ずっと眺めている。
―――その口がゆっくりと開いた]
【―――終わり。
何を持って終わりとするのか。
それは、人により、変わる答えだ。
だが、事件は終わる。終わりに近づいている。
……報告の時も、近い】
< 差し出された手を見詰め、
次いで、その先にある、影の姿を見る。
以前と違って、その眸は、何も映しはしなかった。
すり、身を摺り寄せる >
[完全なる転変。
それにより理性は吹き飛ぶはずだった。
しかし何故か、目の前の男が言う言葉が耳へと入ってくる]
常ニ 迫害 ヲ 受ケテ キタ 我ラ ノ 気持チ ナゾ 貴様ニハ 判ル マイ!
安寧 ヲ 願ッテモ ソレヲ 許サレヌ 我ラ ノ 気持チ ナゾ!
[僅かに残る理性が、獣の口から言葉を紡ぐ。
突き出された銀を避けようと、体勢を低くし、向かい来る相手の顔目掛け、下から爪を繰り出した。
避けようとした銀はその肩口を切り裂くように掠め、白銀が紅に染まる。
隻眼であるために遠近感が狂った]
…ありがとう。
[瞳の色を薄れさせ呟いて。
摺り寄る白猫をそっと腕に抱き上げた]
今、行きます。
[確かめるように口にして。
それまでよりも僅か確りとした歩調で歩き出す。
程なくすれば見えてくるのは、銀と焔。
それを見守る少年と少女]
【なあ、ミリエッタ=ヘーベルクイン。
これが貴様の望んだ未来か。
こんなことのために、貴様は命を、魂を、全てを使って、あの絵を描き上げたというのか。
後世の人は、貴様を夢想家と呼ぶだろう。
出来るはずのない事を望んだ愚か者だと罵るだろう。
それで、満足なのか?
ミリエッタ=ヘーベルクインよ】
[ゆったりとした独り言。
近くにミリィの姿は無い。だが、それでも、近くにミリィがいるように、語りかける様に、「彼女」は呟き続けた]
如何でもよくない!!
[強い口調で反駁する。]
少なくとも、私は如何でもよくなかった!
アーベルに生きてて欲しかったのに!
[聞こえてくる。遠い世界で繰り広げられる争いの音]
[咆哮に続いては、エーリッヒの叫ぶ声。
2人の会話は遠くてはっきりとは聞こえないけど。とても悲しい音に聞こえた。
そちらの様子から目はそむけずに、イレーネの声を聞く。
『人狼様』『僕』
その言葉を聴けば、寝物語に聞いた話を思い出す。狼の話にはしばしば現れる、狼に仕える狂い人がいることを]
…そっか…
[大きく息を吐いて、少しだけイレーネの方を向いた。続いてきた問いには]
怖くないかっていわれたら、嘘になるかもしれないけどさ…
[申し訳なさそうに頭をかいて、言葉を続ける]
でも、イレーネ姉ちゃんは、イレーネ姉ちゃんだろ。
あそこにいる狼だって、ユリアン兄ちゃんだし。オト先生だって…
[再び、丘の方を向く]
狂い人だから怖い、とは思わないよ。
< 白猫は抵抗の素振りを見せず、
抱き上げられる侭になる。
ふと、眼差しが何処かを向く。
手の主とは異なる方向に。
その眸に、「彼女」の姿は、映りはしなかったが >
[主の声に微か驚く。完全に変転してしまえば理性は消えてしまうとそう教えてくれたのに。
何故喋れるのか――その原因に気づいてギクリと身を強張らせた。
そうだ原因は―――自分だ。
僅か別な所にいる意識に気を向ける。]
[ふ、と目の前から姿が消え、手には浅い手応えが伝わる。
避けられた、と認識した直後に、下から繰り出された爪が迫る。
態勢は崩れていたが、軌道の僅かなブレもあってか爪は頬を裂くに留まり。
舌打ちと共に、後ろへと飛びずさる]
……ああ、わからんね。
護る力があるが故に。
誰かが死ぬ度、責められ続け、終いには異端と貶められる。
そんな、俺たち一族の苦労を、お前らが理解できんのと、同じようにな!
[異端なるもの。最初はその意は自身も知らず。
思わぬ形で目の当たりにして以来、決めていた。
何も愛すまい、何も懐に入れまい、と。
情に囚われる事なきように]
っ、エウリノ。私。
[ここから離れるべきか逡巡する。
が、自分からは、暖かな温もりから離れない。失う事を恐れて。]
エウリノ、邪魔なら、命じて。
向こうに行ってるから…。
ゲイト。
そう、貴女はエウリノの心を守ってあげて下さい。
[それは願い。むしろ祈り]
……?
[腕の中の白猫が「何処か」を見た。
つられるように、視線が動く]
[現の世界。
手を出せない場所で、争いは続く。
終わらせるために。
新たなる始まりを齎すために]
生きる意味も、見出せないのに――?
[立ち止まり、顔を向ける。
薄い笑み。違いの眼は、冷たい]
俺は。
楽しんでいたよ?
起こる、争いを。
人が醜い心を露にする様を。
人と獣の合間を移ろう者が、牙を剥く様を。
[真実と虚実の入り混じった言葉]
……そんなのに、生きていて欲しかった?
……。
[視線を感じて、ゆらりと視線を動かす。
そこにいたのは、死者達。
この村の呪縛により、何処にも行くことの出来ない死者達だった]
【―――なるほど。
終わり。やはり、終わりは近いか。
呪縛は、薄らいできている。
さもなくば、我が、ただの彷徨う死者に認識されるようなこともなかろうて。
光。闇。
さて、行き先はどちらに】
[切り裂かれた肩口から銀の毒が回る。
くらりと視界が揺れたが、ふるりと頭を振り吹き飛ばす]
何ヲ 言ッテモ 平行線。
ヤハリ 貴様ラトハ 相容レン ナ!
[飛び退る相手を追撃するかのように、低い体勢のまま地を蹴り。
風の如き速さで肉薄す。
懐に飛び込んだと思い、爪を心臓目掛け振り抜く。
その距離は、ほんの少しだけ、足りない]
生きる意味なんて、私にも判らない。
そんなのきっと本当は誰にも判らない。
だけど、私はアーベルと一緒に居たかったの。
それじゃ駄目なの?
[冷たい眼にはたじろがず。
優しい表情で返す。]
もし貴方が本当に争いを楽しんでたなら、
私に力のことなんて教えなかったでしょう。
一人で狼のところに向かおうとなんてしなかったでしょう。
捻くれアーベル。
勿論。大切な人には生きてて欲しかったに決まってる。
[ゲイトに寄り添った理性は傍から離れようとしない]
──…嫌だ…傍に、居てくれ…──
[それはまるで駄々をこねる子供のようで。
死期を悟ったからこそ、その傍から離れたくないと思った結果だった]
そう。それは、間違ってないと思うよ。人間なら。
[怖いけど、怖くないと、そう言いながら頭を書き、普段とあまり変わらない表情を見せる少年ティルに微笑む。
向ける笑みは相変わらず透明に澄んだそれだったが。]
…私、ね。
ずっと待ってたの。人狼様を。
父さんは私を慈しんでくれたけど、代わりに母さんからは憎まれた。父さんの愛を独り占めしたからって。
…当然だよね。父さんは血を継ぐ者を求めて、母さんを愛してはいなかった。
でも父さんは私を愛してたわけじゃない。
父さんが心から、愛していたのは人狼様だけ。
[今なら分かる、父もその人生の全てを、まだ見ぬ敬愛する人に捧げたのだ。]
私達の一族は、血を持ってその力を為す。
人狼様の為に、血を、力を、受け継ぐ者を作らなきゃいけない。
だから父さんは母さんを利用した。
そして私が生まれて、10になるまでにその口伝の全てを伝えて死んでいった。
[何故、ティルに自分の全てを語るのかは、分からない。
ただ伝えておきたかった。目の前の主が、相対する人に思いのたけを叫ぶのと同じように。]
後に残った私は、母さんに売られた。
村の人からは疎まれた。
だからずっと、待ってたの。
全てを捧げると、そう伝えられていた人狼様を。
[目の前の人と、そして失った人。
どちらも敬愛した。出会えたことは幸運だった。
でも。]
ねぇ、ティル。
私達は、人と違う人は、幸せにはなれないのかな?
こんなに普通に話せるのに。
みんな、私を憎むの。ユリアンを嫌うの。
狼だから、親が居ないから、娼館に売られたから、ただ普通の人と違うってだけで。
私達は、ただ静かに暮らしてたかっただけなのに…。
[まだ幼い少年に、問いかける言葉ではないかもしれない。
答えは、期待してはいなかった。
それでも、口にした。]
【ミリィ。ミリエッタ=ヘーベルクインは此処にはいない。
何処にでもいて、何処にもいない。
あれは、そういう存在になった。
それが対価。
主の力を借りた対価。
故に、貴様らには、二度と認識は出来ぬ】
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